能登半島徹底探索の旅（二日目・夜）～暗闇に浮かびあがる小木袖キリコは色彩豊かで女性的。しかし、御船神社への石段を押し上がる場面が最後のクライマックス。引き手と押し手がもみくちゃになる熱い熱いお祭りです～

2017/09/16 - 2017/09/16

小木袖キリコ祭りは、9月の第3土日。近くに宿をとって、夜中まで見物しました。日が暮れてから、海岸沿いに並ぶ9基の袖キリコがゆらゆらと水面に揺れる。小木港の先に花火が上がってちょっと休憩が終わると、フィナーレは神社に向かう急な石段をキリコが登って行くシーン。綱で引っ張り上げる一団とキリコを押し上げる一団が、息を合わせて。
チャッチャカチャ～　ヨッコショー、ヨッコショー。チャッチャカチャ～　ヨッコショー、ヨッコショー。皆さん汗だくになって、頑張ります。それでも、一段、一段上がってはまた少し後ずさりしたりしたり。見ているこっちも、ずいぶん、力が入りました。

エリア 九十九湾・穴水(石川)

珠洲の観光を早めに切り上げて、能登町小木地区にやってきました。小木港の海岸端でさっそく袖キリコに遭遇です。

8番キリコの西町町内会。
図は、三方ヶ原の戦い。真ん中には采配を振るう武田信玄。上洛を阻む家康と織田の援軍を一蹴したのですが、信玄を大きく描くことで家康など物の数ではないという表現。ただ、これが信玄を頂点に固く結束する武田軍の絶頂期だったかもしれません。

しかし、祭りはまだまだ。
これは近くにあったうわみ花月堂というパン屋さん。きりこ祭りの期間中で、あてにしていた食堂がどこも休みだったので、晩飯はここでパンを買って済ませました。

ただ、田舎のパン屋さんかと思ったら、店内は明るいし垢抜けもしていてちょっとびっくり。悪くないパン屋さんです。

港から見える夕焼け。それでも、まだ時間があるようなので、いったん宿に戻ります。

宿は、能登漁火ユースホステル。場所的には、小木袖キリコの見物にはほぼ最適でしょう。
祭りのメイン会場の小木港や御船神社までは歩いて20分くらい。祭りは深夜0時を過ぎるまであるので、やはりここは便利。ほかにも小木袖キリコ見物で利用した人がポツポツいて、皆さん堪能できたようでした。
女主人は落ち着いた対応。町の宿泊費補助の手続とかお世話になりました。朝食もうまかったです。

再び、小木港へ。
袖キリコに灯がともって、ぐっと雰囲気が出てますね。

2番キリコの三ツ矢町内会。
図は、千代川の一騎打ち。秀吉の九州討伐軍の加藤清正とこれを迎え撃つ島津勢の先鋒、新納武蔵守忠元が戦ったもの。戦いの大勢はもう決していたのですが、一矢報いんとする武蔵守の仕掛けた戦い。清正が勝ちますが、武蔵守の武勇を讃え、落馬した武蔵守の命を援けた行いが清正の男を上げることとなりました。

6番キリコは、庄崎。
紫のハスの花の咲く池をバックに優雅に舞う二人の女性。あでやかな図です。

袖キリコに人が何人も乗っていますが、つまり、これはしっかりした山車なんですね。

向日から3番キリコ、高瀬がやってきます。

続々やってきて、これから小木港に集結します。

動きとしては、ゆっくりしたもの。前に行ったり、後ろに下がったり。

お互いにぶつかるくらい近づきますが、お互いに挨拶しているような感じ。あくまで穏やかな動きです。

その後、今度は市街の方に向かって行きます。

袖キリコは昼間も狭い路地に入って行ったのですが、夜になってまた改めてそれをやるんですね。

袖キリコを家々にご披露して、祭りの始まりを知らせるということでしょうか。

7番キリコは、高濱若連。
図は、どこかの花街でしょうか。

肩口、白い足を半分出して、女性の魅力いっぱいに怪しく若旦那を見返す女性。今宵も二人の駆け引きが始まる予感です。

袖キリコは行ったり来たり。

アリさんとアリさんがこっつんこ。

あっち行ってチョンチョン。

こっち来てチョン。
まあ、そんな感じですね。

一般的な能登のキリコは、電柱のように空に高くそびえる形。建っているだけで雄々しいのですが、この袖キリコは特異で女性的。このようなゆっくりした動きになっているのも、それがふさわしいからのような気がします。

8番キリコがやってきて、

例の三方ヶ原の戦い。灯がともって、また華やかな印象に変わっています。

5番キリコの下浜町内会。
図は、六歌仙。　

僧正遍昭、在原業平、文屋康秀、喜撰法師、小野小町、大伴黒主の才能を認められた面々が色彩豊かに描かれます。

キリコは表と裏の二面があって、これはもう一つの面。火付け盗賊改めの鬼平です。こうして見上げて見ると迫力が増しますね。

これも静かに去って行って、

3番キリコの高瀬は、竜虎の図ですね。

桜田門外の変は、10番キリコ。
今でいうテロなんでしょうが、徳川幕府のトップがあっさり討ち取られることで幕府の権威は地に落ちる。実質的に幕藩体制の終焉の始まりとなった事件です。

下濱二四町の表面は、水滸伝。
梁山泊第三十位の好漢で、南宋の武将・張順が敵をやっつけています。

木曽義仲 四天王 ヘビ退治。今井兼平、樋口兼光、根井光親、楯親忠というのが四天王ですが、ここでは、今井四朗、樋口二郎となっています。しかし、どっちにしても、あまり知られていないようには思います。

再び、2番キリコの加藤清正、千代川大勇戦の図。暗くなって、これもあでやかさが増しています。

12番キリコの桃太郎の図は、自分の体より大きな鯉を捕まえて、決して離そうとはしない。

困ったなあという鯉の目に対して、口にくわえた短刀が離してなるかという必死のチャレンジをうまく表現しています。

少し違う動きが出てきたような。。

11番キリコの東町町内会。伊勢海老に鶏の組み合わせ。鮮やかな色合いでおめでたさも感じますが、まあ、言ってみれば豪華な食材といったところ。おいしくいただいた方がいいようなテーマです。

エイサ、エイサ。

先を急いでいるようですが、

さてさて。

6番キリコの庄崎もやってきました。

例の二人遊女。

基本は緑と青の二色でまとめているので、余計、遊女のあでやかさが強調されるような。配色の妙も感じます。

港の岸壁に沿って、キリコが並んでいきます。

なるほど、集合時間に合わせて、それぞれ慌てて戻ってきたんですね。

いったん、落ち着いたところで、改めて、図を確認していきましょうか。
10番キリコの桜田門外の変に

こちらは、8番キリコの西町町内会。図は、花野嵯峨猫魔稿（はなのさがねこまたぞうし）

直島大領直繁が盲目の高山検校と囲碁で勝負を争い検校を殺害したので、検校の飼猫が後室嵯峨の方に化けて夜ごとに直繁を苦しめる。しかし、忠臣伊東壮太が嵯峨の方の正体を見破り、これを撃退するというお話。

検校を殺害した直繁が助かるのはちょっと納得いかない気もしなくはないですが、ここでは忠臣伊東壮太の武勇がテーマです。

7番キリコの高濱若連。花街の図。

またまた、6番キリコの二人遊女。

勧進帳の図は、3番キリコの高瀬です。

2番キリコの三ツ矢の木曽義仲四天皇のヘビ退治。

1番キリコ新町町内会の家康大仁村難戦之図。

大坂夏の陣で、幸村が家康を追い詰める場面を描きます。
既に豊臣方の敗色は濃厚。しかし、茶臼山に陣取った幸村は、満を持して乾坤一擲、徳川家康の本陣をめがけ決死の突撃を行う。家康は激しい攻撃を受けて、実はこの時、討ち取られたという説まであるくらい。堺には、討ち取られた家康の墓というのがあって、以前、拝見したことがあります。

1番キリコの表面。これはどこかのお姫様でしょうが、物語の方は不明です。

と、ここで花火が始まりました。

ドーン、ドーン。

花火とキリコを合わせて撮りたかったんですが、明るさが全然違うので、これが限界。まあ、そこは仕方ありません。以前、下北半島の花火大会で、ねぶたとのコラボがありましたが、それをちらり思い出しました。

バーン、

ババババ。

バーン、バーン。

最後に大玉があがって終了です。
しかし、花火って、こういうイベントの時は始まりの合図的な位置付け。ここにきてからの花火って、ちょっと違和感もあるんですけどねえ。

ただ、引き手の皆さんも花火を眺めて、ちょっと一息にはなったでしょう。
10番キリコの水滸伝。

8番キリコの三方ヶ原。

7番キリコの高濱若連の裏面は、太閤記の一節、本能寺。明智勢の攻撃を防戦する偉丈夫はたぶん森蘭丸。歌舞伎者の奇抜な衣装が注目ですね。

6番キリコ庄崎の裏面は、鐘馗（しょうき）さん。人間に取りつく疫病神を追い払ってくれる強い味方です。

5番キリコの下浜町町内会の鬼平。

3番キリコ高瀬の竜虎図。
ところで、これらの図は、一見してわかる通り素人の手によるもの。青森のねぶたとかだとほとんど専業のプロの手によるものなので、まあ、それは出来が違います。しかし、段々目が慣れてくると、これはこれでまたいい味わい。絵の奥にあるテーマに思いを寄せて楽しめば、なんの問題もありません。

さて、また動きが出てきたようです。

後半のクライマックス、御船神社への押し上げに向かうんですが、

その前に、もう一つの市街の方にもキリコのお披露目をするようで、

キリコは一斉に移動を始めます。

キリコに乗った男衆。もう裸になって、気持ちを高めています。

私は、ここで移動するキリコをいったん見送って、

御船神社の方に先回りします。
これがキリコが押し上がる坂。というか、石段ですね。

石段に木材が噛ませてあって、少しなだらかになってはいますが、ごつごつはまだかなり残っていて、あのキリコが登るに難路であることは間違いない。

さて、どうなるんでしょうかね。
私は、この坂を見下ろすちょうどいい場所が確保できて、準備万端。ワクワクしながらキリコを待ちかまえます。　

いよいよ、やって来ましたよ～
キリコにかけた綱を大勢で引っ張っています。

チャッチャカチャ～　ヨッコショー、ヨッコショー。

チャッチャカチャ～　ヨッコショー、ヨッコショー。

坂はガタガタなので、一気に引き上げることはできない。

一段一段引っ張り上げるのに、
このちょっと変わった掛け声のリズムが、ちょうどその力加減にあっているような。キリコが動いてはまた止まる。ここからだとその動きがよく見えます。

一番キリコの頭が近づいてきました。　

おー、

おおー。

キリコの中にも集団がいて、これは丸太を持って押し上げる役割。

引っ張る方と

押す方が力を合わせて、キリコが徐々に上がってくる。すごい、すごい。

しかし、中はもみくちゃ。

チャッチャカチャ～　　

ヨッコショー、　

ヨッコショー。　

チャッチャカチャ～　

ヨッコショー、

ヨッコショー。

で、もみくちゃ集団をよく見ると

女性も混じっているし、あれれ～

危ないようにも見えるんですが、

大丈夫ですかあ。

ただ、ここは漁師町なんで、

男も女も力を合わせる。それって当たり前でしょっていう感じでしょうか。

ところで、坂はカーブしているので、まっすぐには引っ張れない。ちょっと斜めになるので力が効率よく伝わらないのはちょっともどかしいですね。

つまり、むやみに引っ張るだけだと余計斜めになって力が加わらない。そこをコントロールするのも大事なんです。
チャッチャカチャ～のリズムには、その加減もうまく入ってますね。

これは高瀬のチーム。

ゆっくり、ゆっくりですが、

一段一段、着実に上がって行きます。

チャッチャカチャ～　

ヨッコショー、

ヨッコショー。　

みんなが疲れてきて勢いが弱くなると、誰ということなく、最初のかけ声をかける。それにまた全員が応えて、勢いが復活するという繰り返し。
なかなか熱いじゃないですか。女性的な祭りのイメージで始まりましたが、これは熱いお祭りです。

キリコの上では、太鼓も叩いて、一団の力を鼓舞しています。

その並びには子供たち。揺れるキリコの上で、こちらはおとなしく座ってます。

今度は、5番キリコの下浜町です。

チャッチャカチャ～　

ヨッコショー、

ヨッコショー。

能登半島には、キリコの祭りがあちこちにあるんですが、

宇出津のあばれ祭りなんかとともに、小木の袖キリコも屈指の人気を誇ります。なるほど、それはこういうことだったんですね。

それにしても、熱い、熱い。

漁師町のパワーが全開です。

さて、下浜町。なんとか坂を上りきって、やれやれです。

今度は、どこでしょうか。

お、6番の庄崎です。

チャッチャカチャ～　

ヨッコショー、

ヨッコショー。

チャッチャカチャ～　

ヨッコショー、

ヨッコショー。
ぶっとい柱の中で、威勢のいい女性が雄たけびを上げてますね。がんばれー。こちらも力が入ります。

チャッチャカチャ～　

ヨッコショー、

ヨッコショー。

こちらもちょっときついのが続いて苦戦してますが、

また気持ちを整えて、力を込める。

チャッチャカチャ～　

ヨッコショー、ヨッコショー。

太鼓も加勢して、　

これもなんとか上がりきりました。ふうー
さて、気が付くともうすっかり12時を回っています。明日もあるし、ここまで確認できたので、ここらで退散した方がいいでしょう。

いや、期待以上にいい祭り。十分、楽しませてもらいました。ありがとうございました。