観光地としてのモスクワ・ペテルブルグ

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1998/10/01 - 1998/10/05

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　モスクワ大学近くの雀が丘から市街を見渡してみた。見覚えのある市街は3年前も今もほとんど変わっていないかのように見えたが、よく思い出してみると、丘の左手にあった壊れかけた教会は今はきれいに修繕されているし、温水プールがあった場所に巨大な完成間近の教会が建築中である。「私の記憶にあるロシアを見ることはできなかったなあ。」というのが10月に3年ぶりに訪れたモスクワの感想である。

　今までの長期滞在の留学や駐在と違って、今回はモスクワとペテルブルグを3泊5日で回るロシアツアーに参加し、グループの一員として成田からアエロフロート直行便でペテルブルクに飛んだ。以前はロシア製のイリューシン機を使用していたが、現在ではエアバス機（A310）を使っていることもあり、アエロフロートの乗り心地はぐっとよくなった。にこやかなロシア人乗務員のサービスも上々で、あっと言う間に懐かしいロシアに到着した。

　実際見たモスクワ・ペテルブルクは3年前よりも一段と整備され、観光都市に向けてまっしぐらという雰囲気だった。ペテルブルクでは、古い街並みの外観を残したまま、建物の中に美しく改装された新しい店や事務所が入っており、見たところヨーロッパの1都市という貫禄が漂っている。モスクワでは特にロシア正教の寺院の復興が目立った。巨大な温水プールだった場所に再建された救世主キリスト教会（かつてスターリンが政教分離をうたって爆破し、跡地がプールになっていた）では「これはモスクワの新しい観光名所になるだろう。」との予感。

それから、モスクワ中心部マネージ広場辺りの変わり様。地下鉄「アホートヌイ・リャド」駅に地下街ができたのは去年のことだ。ブランドショップの人った地下街とこぎれいな食堂。あの暗いイメージのロシアではなく、ヨーロッパ諸国の地下街を見ているようだった。

　ペテルブルグのスパース・ナ・クラヴィ聖堂の修復が完成し、美しい姿を見せていた。スパース・ナ・クラヴィ教会は10年以上修理中で、1991年にペテルブルクを訪れて以来、工事の足場の組まれていない姿を見たのは初めてのことだった。また、エカテリーナ宮殿の展示室の数が増え、「琥珀の間」の琥珀で覆われている壁面が少しずつ広がっていることに感動した。エカテリーナ宮殿の内部はどんどん修復されており、目に見える変化に時の流れを感じた。エルミタージュ美術館は、何度見ても感動せずにはいられないが、以前は倉庫の中に眠っていたという、第二次世界大戦時にドイツから持ち帰ったルノワールやゴッホの絵が特に目を惹いた。

　モスクワ・ペテルブルクそれぞれの街では土産物屋もまわった。ロシアのおみやげ（毛皮の帽子や街の名前の入ったTシャツ、琥珀のネックレス等）が美しくレイアウトされていて、そこではドル建てで外国人旅行者が現地通貨に両替しなくてもおみやげが購入できるようになっている。ウオッカや紅茶のサービスやキャビアの試食は当たり前で、ロシアの観光地化が進んでいることを見せつけていた。

　今回はモスクワ・ペテルブルクの観光地をあらかた回ったにもかかわらず、かつての私が体験したロシアを感じ取ることができなかった。美しく修復されたモスクワとペテルブルクの街や百貨店や地下街にあふれる商品。西洋化の進んでいる、これが現在のロシアなのだろうが、今も健在なはずの特有の「ロシアのロシア臭さ」を感じることはできなかった。観光バスでの団体行動では、市民の利用する地下鉄やバスに乗ることもないし、どんな食料品が売られているのか、モスクワ市民はどんな暮らしをしているのか、伺い知ることもない。

それは当然のことではあるのだが、いわゆるロシア観光ツアーなるものに初めて参加した私はとしては、すこしがっかりした。もちろんそんなものを旅行会社はわざわざ見せる必要もないし、普通の日本人観光客はそれを見てもうんざりするだけなのだけれど。

　快適な観光地に変化しつつあるモスクワ・ペテルブルクではあった。しかし、可能ならば自分の足で歩いて、本当のロシアの姿を肌で感じ取れるような旅をすれば、ロシア旅行の満足度はかなりグレードアップするだろう。