2015　富山・石川の旅　1/5　五箇山　菅沼集落　（１日目）

2015/08/01 - 2015/08/02

異常な猛暑の中、８月１日から２日にかけて富山と石川を訪れました。

旅の行程
８月１日　五箇山：菅沼集落、相倉集落、上梨集落
８月２日　白山市白峰、加賀市加賀東谷

岐阜県との県境に位置する富山県南砺市の五箇山は、険しい山地によって砺波平野から遮られ、かつては陸の孤島と呼ばれた日本有数の豪雪地帯で、江戸時代には加賀藩の流刑地として使われたほどの人里離れた、山深い集落です。

冬には屋根を覆わんばかりに雪が降り積もり、人々は白銀に埋もれた生活を余儀なくされる、そんな集落を世に知らしめたのは、豪雪地帯の過酷な環境の下、養蚕を生業として生き抜くための生活の知恵から生まれた、巨大な合掌造り家屋です。

家族総出で養蚕を行っていたが故に、３階建てから５階建ての巨大な建物にならざるを得なかった合掌造り家屋の特徴は、何と云っても６０度にもなる急勾配の茅葺屋根で、雪を滑り落として屋根にかかる雪の荷重を軽減する効果に加え、釘やかすがいなどの金物は一切使わず、荒縄だけで家屋全体の柱や梁を固定し、雪の荷重がかかっても家屋全体がたわむことで荷重を分散してくれる柔軟性にあります。

このため、合掌造り集落には巨大な合掌造り家屋を守り育む、「結（ゆい）」と呼ばれる伝統的な相互扶助の文化が根付いており、急勾配の茅葺屋根の葺き替えも、この「結」によって住民総出で行われます。

３世代にわたる複数世帯の大家族が一つ屋根の下で暮らす合掌造り家屋は、通常、１階部分は居住空間、２階以上は寝室もしくは養蚕の作業場として利用されており、養蚕の作業場に風が通りやすいようにと、集落内の家屋の妻側はこぞって同じ方向を向いて建てられています。

また、五箇山の人里離れた土地柄に目をつけた加賀藩は、養蚕から派生する二次産業として、鉄砲に使用する黒色火薬の原料である塩硝の生産を奨励したことから、集落内の家々では、合掌造り家屋の内部で密かに塩硝を生産し加賀藩に献上していました。

塩硝作りは、先ず蚕の糞と山で採れる様々な干し草を混ぜ合わせ、囲炉裏の下に掘った穴に埋め、囲炉裏の熱で５年程度発酵させます。

こうしてできた塩硝土を水でろ過した後、さらに煮詰めて精製した塩硝を加賀藩の火薬製造工場に運び込み、そこで黒色火薬へと加工されていきました。

最も多くの合掌造り家屋が存在した明治時代末期には、五箇山に加え、五箇山とともに合掌造り集落として名高い岐阜県の白川郷とを合わせると、１８５０棟もの合掌造り家屋が建ち並んでいましたが、昭和の高度経済成長期を迎えると、合掌造り家屋は次々と失われてしまいます。

３５０棟以上の合掌造り家屋が建っていたと云われる、９つの集落を一気に飲み込んだ昭和３６年の御母衣ダムの完成や、より便利な生活環境を求めて集団離村により合掌造り家屋を廃棄する集落の発生等により、昭和４２年には１５４棟にまで激減してしまい、現在、まとまった形で合掌造り集落の景観を見ることができるのは、五箇山の菅沼集落及び相倉集落、白川郷の荻町の３ケ所だけとなってしまいました。


山懐を大きく蛇行しながら流れる庄川が作り出した扇状の土地に、五箇山の合掌造り集落の一つ、菅沼集落がひっそりとたたずんでいます。

菅沼集落に現存する合掌造り家屋がわずか９棟のみとはいえ、緑濃い山並みと、その懐に抱かれて流れる庄川に見守られた合掌造り家屋が織りなす景観は、何にもまして雄大な美しさをたたえており、その存在感は見る者の心を虜にしてやみません。

エリア 五箇山周辺(富山)

• 同行者: 一人旅
• 交通手段: 自家用車 徒歩
• 旅行の手配内容: 個別手配

行程の関係で、先ずやって来たのは菅沼集落です。

国道１５６号線から集落の方へ下りた・・・

このお店の近くの駐車場に車を止めて散策を始めます。

明治５年には１４軒あった菅沼集落の合掌造り家屋も、今は９棟のみになっています。

小さな池に面するこの合掌造り家屋は・・・

黒色火薬の原料として加賀藩が生産を奨励した、塩硝作りに関する資料を展示している「塩硝の館」です。

館内では、原材料採取〜塩硝作り〜出荷までの工程が分かりやすく紹介されています。

菜園に植えられたキュウリが、収穫を待っています。

手前の合掌造り家屋の玄関には・・・

破風のある下屋が架けられています。

道端の草の間から、半夏生が顔を覗かせています。

水田の向こうに見えるのは、集落で最も古い合掌造り家屋を改修した「五箇山民俗館」です。

館内には、いにしえの暮らしぶりをありのままに伝える、貴重な生活用具や資料が展示されています。

１階には塩硝作りにまつわる資料、２階には養蚕に関する用具類が展示されています。

「五箇山民俗館」の裏側です。

正面側の下屋は茅葺でしたが、裏側は金属板葺になっています。

「五箇山民俗館」の前にある郵便ポスト。

しっとりとした菅沼集落のたたずまい。

こちらの下屋は瓦葺です。

緑濃い山並みを背景にした合掌造り家屋は、雄大な美しさを見せています。

この光景は、見る者の心を鷲づかみにして離しません。

そんな集落内では今・・・

ムクゲの花が咲き誇っています。

合掌造り家屋は茅葺の大屋根が架けられているので、２階以上の部屋の採光や通風は妻面の障子窓だけが頼りです。

まだまだ魅力的な家並みが続いているので、先へ進みます。

このお土産物屋さんの脇に集落の外部へ通じる道路があるので、外から集落を見てみましょう。

集落の外へ出てきました。

水田のそばに、かわいい合掌造りの作業小屋が並んでいます。

合掌造り家屋の素晴らしさは、規模の大小にかかわらないようです・・・。

なお、人が歩いている後ろに丸いトンネルの出入口が見えていますが、このトンネルは後ほど出てくるエレベーター乗場へ通じています。

稲はかなり成長していますが、稲穂はまだ形成されていません。

外側から見ると、生の生活の姿が垣間見えてきます。

集落内へ戻って来ました。

見えているのは「五箇山民俗館」の辺りです。

この花の前では合掌造り家屋は添え物です。

歴史的にも貴重な合掌造り家屋を火災から守ろうと、菅沼集落には２４基の放水銃が設置されています。

このお宅の庭先にあるステンレス製の箱がそれです。

このように燃えやすい茅葺屋根ですから、放水銃の操作方法の習熟や放水銃からきちっと水が出ることを確認するのが重要で、毎年１１月には地元住民と消防団などが参加して一斉に試験放水が行われます。

放水銃を備えた茅葺屋根の集落は全国的に見られ、試験放水の状況がテレビニュースで放送されますが、今度は実際に放水しているところを見てみたいものです。

この合掌造り家屋は４階建てのようです。

こちら側の４階には窓は無いんですが、空間としては有りそうです。　

庭先に鬼ゆりが咲いていました。

先ほどの、４階建ての合掌造り家屋の縁側に並べられたお土産物の数々が、直射日光で変色しないようにと、ヨシズが立てかけてあります。

ちなみにこれは、民謡の宝庫と呼ばれる五箇山の代表的な民謡で、日本最古の「こきりこ節」の舞で使われる「ささら」という楽器です。

「こきりこ節」に合わせて、踊り手がこれを鳴らしながら舞い踊ります。

大きな屋根面が見えているのは「塩硝の館」です。

茅葺屋根を連ねる合掌造り家屋群。

これは、甍の波じゃなく、茅葺屋根の波ですね・・・。

右手に見えているステンレス製の箱が放水銃です。

さて、集落から国道１５６号線の展望広場駐車場へはエレベーターが付けられているそうなので、エレベーターへ乗りに行きます。

　エレベーター乗場へ通じているトンネルの出入口辺りから振り返って見た光景です。

エレベーターで展望広場駐車場へ上ってきました。

ここからは、国道１５６号線を歩きながら、高台からの景観を見てみます。

菅沼集落は、まさに山懐に抱かれたと云う表現がピッタリな景観を見せています。

合掌造り家屋が９戸のみの、小じんまりまとまった中にも・・・

とても雄大さが感じられる良い景観です。

手前に建っている先ほどの４階建ての合掌造り家屋は、こちら側の４階妻側には障子窓がついているのが見えています。

手前が「塩硝の館」で、左奥が「五箇山民俗館」です。

このアングルから見ると、棟の様子がよく判ります。

木立の間から見た合掌造り家屋。

手前に見える駐車場が、私が車を停めた所です。

国道１５６号線からの眺望はこれくらいにして、そろそろ集落へ下ります。

集落の外れの国道１５６号線に、加越能バスが運行する、高岡市内から五箇山と白川郷の合掌造り集落を結ぶ観光用路線バスのバス停がありました。

ちなみに、このバスは毎日５往復運行されており、高岡から五箇山間を約１時間で結んでいます。

国道１５６号線から集落へ下りる途中で、ねむの木の花を見かけました。

個人的な話で恐縮ですが、ねむの木で思い起こすのは、歌手や俳優として活躍された宮城まり子さんが創設された、肢体不自由児のための「ねむの木学園」です。

脳性麻痺の子供の役を演じたことがきっかけで、法律に基づく制度がなく、肢体不自由児に教育や生活の場が与えられていないことを知り「ねむの木学園」の創設を決心したそうです。

では、昼食を採りに上梨集落へ向かいます。

上梨集落にあるこのお蕎麦屋さんで、お蕎麦とともに、固いことで有名な五箇山豆腐のお刺身をいただきました。

お豆腐と云えば、通常は冷奴なんですが、一切れずつお箸で挟んで食べる、まさにお刺身状のお豆腐を、珍しさも手伝って大変美味しくいただきました。