1996/10/28 - 1996/10/28
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JIC旅行センターさん
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この秋ほどペテルブルグで「キノコ」が大流行した年は今までなかっただろう。郊外電車の車両やディスコの壁にはキノコの絵の落書が必ず見つかる。80年代のグラスノスチや禁酒政策が、今ごろになってキノコの大流行に発展しようとは、ゴルバチョフも予想できなかったに違いない。注目を集めているキノコの名前はプシロツィビディ。サイズはエノキダケぐらい。色は白っぽい茶色。生で食べてよし、乾燥させてよし、粉末にしてお湯で溶いて飲んでもよし。通称「麻薬キノコ」。強い毒素を含むこのキノコを食べると、文字どおり「いい気持ち」になれるのだ。
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麻薬キノコは昔からあった。魔術師による病気治療や、民間療法の一環として使用されていたが、一般の人が知る機会はほとんどなかった。いわゆる毒キノコだと見做され、見過ごされていた。ゴルバチ日フの禁酒政策とその後のアルコール製造の国家独占の解禁は、品質の保証がない怪しげなウオッカに手を出すか、手に入りやすくなった麻薬に走るかの二者択一を迫る結果となった。しかしロシアは裕福ではなかった。麻薬は高すぎた。
ちょうどその頃、グラスノスチによってヨーロッパの麻薬事情が大量に流れ込み、またアメリカの神秘家、妖術家のカルロス・カスタネードの「特殊現実性」をはじめとする、ソビエト政権下では決して出版されなかったような書籍がごく普通の人々の間に出回るようになった。ここに来て初めてロシア人は「メスカリン・サボテン」を食べ始め、キノコを麻薬として使用し始めたのだ。
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こうして5年ほど前から少しつつ採取され始めた麻薬キノコ。1本1000-3000ルーブル(0.2-0.5ドル)で取り引きされている。他の麻薬に比べて格段に安い。現在のペテルブルグでの麻薬相場は、(売買が友人知人関係の間でない場合)、コカイン1g約300ドル、ヘロイン1g約100ドル、メタドン(合成ヘロイン)20ドル、ハシシ1g15ドル。最も広く普及し、ごく普通の学生が吸っている姿もちっとも珍しくなくなったマリファナで1?2ドルといったところ。キノコは売買しても逮捕の対象にならないし、電車に乗って郊外に行けば草地に生えているこのキノコ、誰でもたやすく手に入れられることからブームとなったようだ。
週末、森へ通常のキノコ狩りに行くおじいさんおばあさんに混じって、普通じゃないキノコを採りに野原へ向かう若者グループが郊外電車に乗り合わせていたこの秋、「きのこピザ」をおくクラブやディスコも現れた。もちろん特別注文だ。メニューにはない。しかし、やはり毒キノコだけあって、一度に150?200個ぐらいも食べると中毒を起こす。控えめに食べても、アルコールを同時に服用すると「いくら飲んでも平気」状態になったり、攻撃的になったりする。
グラスノスチによって思わぬ情報が大衆に伝わってしまった結果、それまで身近にあったものが、ペレストロイカ以降ほかの用途で使われ始めた例は他にもある。前述のメスカリン・サボテンもその一例。このサボテンはロシアには生えていないが、20ドルぐらいで種が売られている。メキシコのサボテンを北の最果てペテルブルグまで運ぶと、着くまでにそのパワーが失われると信じる人もいて、現地で栽培されているようだ。
マオウという植物から抽出されるエフェドリンは、風邪薬として薬局で販売されていた。医師の指導のもとで服用すると「クスリ」だが、度を越して服用すると「ヤク」になり、常用者になると製薬過程で加えられる赤燐の色が手の指に現れ始め、一年後には身の破滅または自殺というお決まりのコースができあがった。エフェドリンはペレストロイカ初期、麻薬指定となり、薬局から姿を消した。
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これだけ注目を集めた麻薬キノコ、生えているのはロシアではヨーロッパ北西部のみで、ウラジオストクの人に「プシロツィビディ」と言っても、何のことやら分からないかもしれない。10月が終わった。麻薬キノコの季節も終わりだ。しかしペテルブルグ。サイケデリック・レボリューションは、まだまだ終わりそうにない。
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