プチェラーマーヤのぼうけん（3）

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1990/09/01 - 1990/09/01

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#留学

JIC旅行センターさん

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　ウラジオストックの3月といえば、凍てついた海が溶け始め、厳しい冬の終わりを感じさせる頃だ。凍った海に穴を開けて、きゅうり魚（わかさぎに似た魚）を釣っていたおじさんたちが、溶け始めた氷の裂け目から落っこちて亡くなったとか、そういう記事が新聞に載る季節。桃の花が咲き乱れる日本の3月とは違って、ロシアではまだまだ寒さが厳しい。けれど、氷が溶け出して流氷となり青い海が現われると、春の訪れを感じる。

　そして4月。森に行けば雪割れ草が見られる季節。いわゆる福寿草と呼ばれる黄色い花のものと、白くて可憐な雪割れ草の2種類がある。木々の間をちょろちょろ動き周るのはリスだ。冬眠から目覚めてお腹を空かせている動物達は、私達の手からクッキーを食べる事もある。白や瑠璃色や茶色の様々な小鳥が春の訪れを喜んでいるように一斉にさえずり始める。

　5月になると、梅や桜が一斉に花を咲かせる。これらの花が咲いて初めて春を感じるのは日本人だけだろうか。半年も続く長い冬の終焉を迎え、私はとてもほっとした。タンポポがありとあらゆる地面にまるで絨毯を敷き詰めたように咲き乱れる。こんなに沢山のタンポポを一度に見たのは初めてだった。

　そんな5月のある日、買い物帰りの路上で私は外人カップルに呼び止められた。英語だった。長らくロシアに住んでいると英語が話せなくなる。うわっ、どうしよう、私はまるでテレビのウィッキーさんに呼び止められた日本人みたいにコチコチだった。それでも一応笑顔でうなずき、話し始めた。一つ単語が出て来ると芋づる式にツルツルと英語が蘇ってきた。話を聞いていると、男性はイギリス人で女性はニュージーランド人だった。二人とも大の旅行好きで、2年前にアフリカで出会ってからの仲だそうだ。今回の3ヶ月間のバカンスではロンドンから地をはってウラジオストックまでやって来たのだそうだ。ホテルも事前に予約せず、その時気分でふらふらとウラジオまでたどり着いたらしい。ロシアをヨーロッパと同じ感覚で旅行しているからすごい。二人の表情は疲れきっていて、食べる所もないとぼやいていたので、私は自宅に招待し、得意なイタリア料理をテーブルに並べると、「久々の西洋の香りだ、スパイスが入っている」と感動していた。見る見る二人の表情が明るくなった。よほど空腹だったのだろう。

　ウラジオから日本経由で中国、インドを旅行する予定らしい。けれど、ウラジオ?新潟間の航空運賃が高すぎて買えないので、港の貨物船を一船ずつまわって日本行きかどうか聞いているそうだ。そんなことが果たして出来るのだろうか？私も心配になってFESCO（極東船舶公社）に問い合わせてみた。たまたま1週間後に出る船があり、船長と契約することができた。それからの1週間、毎日のように彼らは私や私の友人達と一緒に過ごした。彼らは近くの安ホテル（共同シャワー・トイレ）に住んでいたのだ。ロシア人の友達の誕生パーティに一緒に行ったら、乗りのいい彼らはすぐにロシア式パーティに溶け込んだ。ロシア人、ウクライナ人、アメリカ人、ニュージーランド人、イギリス人、そして日本人と、そういうと全員外国人なんだと気付き、「一体誰が外人なんだ」なんていうバカな議論をしたり、とにかく楽しい1週間を過ごした。

　ナホトカでも1週間ほど足留めを食らった彼らだったが、それでもなんとか日本行きの貨物船に乗り、私達もほっとした。それから数日後、ラジオのニュースで「イギリス人とニュージーランド人が日本海海上でロシア沿岸警備隊に捕まった」と放送された。まさかと思ったけれど、やっぱりそれはあの二人だった。ナホトカの拘留所から「海上で捕まえた外人があんたの電話番号を教えてくれたんだけど」と電話があり、私は一生懸命説明し、ロシア人の友人のコネを使ってナホトカの市長に訴えた。実際、ビザも船のチケットも持っていたので何も問題はなかったのだ。それからしばらくして「ナホトカ市長が、罪もない外国人を拘留したと沿岸警備隊を訴えた」とラジオで伝えられた。

　結局、ウラジオとナホトカで3週間足留めを食らい、やっと日本にたどり着いた。飛行機に乗れば何の問題もなかったのに、色んな人がいるもんだと知ったのだった。3週間の滞在費は一体いくらだったんだろう？

（つづく）