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プチェラーマーヤのぼうけん(1)

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1990/09/01 - 1990/09/01

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JIC旅行センター

JIC旅行センターさん

 ロシアに留学したほとんどの人が一生忘れられない楽しい思い出をおみやげに帰国している。留学体験記を聞いていると、「ああ、なるほど、私も同じ思いをした。」とうなづいてしまう。私も今から5年前のちょっと懐かしい思い出話をしてみよう。

 90年の秋は、まだウラジオストックは軍事閉鎖都市だった。どうやってビザがおりたのか今でも不思議だが、、

■180度方向転換

 大学卒業後、秘書として働いていた私は、大学在学中にロシア語を専攻したこと以外、ロシアとは何のつながりもなかった。ほとんど忘れてしまったロシア語、一体何のために大学を卒業したのだろう、これから先、何の専門も持たず生きていくのは、空しいじゃないかと考え始めた。そのころ何かの雑誌で、40歳から中国語を始めて50歳でプロの通訳になったという女性のエッセイを読んだ。なるほど、何歳でも遅いということはないんだ。ええい、思い切って留学してみよう。きっかけは、こんな感じだった。

■決死の上陸

 横浜からナホトカへの航路で12名の留学生は出発。日本列島直撃の強い台風(19号?)に直面、三陸沖で船が動けなくなり、1万トン以上の船がまるで小さな小舟のように無力に感じられた。ベッドからずり落ちないようにしがみついて、死ぬ思いで4日間かけてやっとナホトカにたどり着いた時はすでに予定より1日遅れの真夜中だった。タクシーでウラジオストックに向かった。2、3時間くらいかかったと思う。濃霧の中、くねくねと曲がりくねったがたがた道を猛スピードで車を飛ばす。突然霧の中から対向車が現われハンドルを切る。嵐の船中といい濃霧の中の猛スピードタクシーといい、コンピューターゲームさながらのスリル満点の世界だった。

■天の川に導かれて

 ナホトカとウラジオの中間地点で休憩をとった。何もない草原のようなところで、霧はいつのまにか晴れて、満天の星、天の川が空一面に見えた。宇宙は果てしなく大きい、すごい、と感動。早朝6時頃やっとウラジオ市内に入った。不思議なことにトロリーバスが道路のあちこちに止まっている。どうしたのだろう。そういえば、アパート群も真っ暗、街灯もついていない。真っ暗な市内を走り抜け、やっと目指す大学寮に到着。原因は停電だった。見慣れない建物をろうそくの明かりだけを頼りに歩く。暗闇の向こう側に乳母車が見える。ネコの目が二つ光っている。なんて無気味なところだろう。今度はオカルト映画の世界にやって来てしまった。ろうそくの炎がゆらゆら照らすロシア人の顔はたとえようのないほど恐かった。

■困窮留学生活

 もうひとつのショックは断水だった。はじめの3日間は停電と断水にみまわれた。大変なところに来てしまった、後悔先にたたず。でも、おかげで水や電気のありがたさが身にしみ、その後の辛い物資不足と飢餓の時代も生き延びられたのだと思う。私達12人は最も大変な時代にロシアに来てしまったのだった。価格自由化の前で、店には品物は何もなかった。行列も3時間、4時間はあたりまえ。肉類は前日の夜中から並ばなければ買えなかった。

 ウラジオという孤島に取り残された12人の日本人留学生。ロシア語よりも何よりも、まずは食料を手に入れることから始まった。昼間に街を歩き回り、どの店で何が売っているか調べ、夜にミーティングをして情報を交換しあった。卵の売り出しがあれば、一人は行列に並び、もう一人は寮まで走って皆に卵の売り出しを伝えるのだった。そんな風になんとか暮らしていた。その時は必死だったが、今から考えると一番楽しかった思い出かもしれない。12人がお互いに助け合い、かばい合って頑張った。今時日本ではお目にかかれない美しい青春物語だった。

 その頃は今と違って、全国民が平等に食料不足に苦しんだ。今はお金があれば何でも買えるけれど、当時は品物そのものがなかったのだ。店のショーケースは本当に空っぽだった。時々手に入ったお米は、石ころやゴミがたくさん入っていて、机の上に1カップずつ広げては人差し指でゴミを取リ除いた。野菜くずも大事に大事に使って、食べ物を無駄に捨てるということはしなかった。当たり前のことだが、今の日本で忘れられていることかもしれない。語学留学のつもりがとんだ困窮生活体験留学となってしまった。お陰で、どんなところでも人間は生きて生けるのだという、変な自信がついてしまった。

■心の通訳

 JICからロシア留学する人達は今もたくさんいると聞いているが、皆それぞれに色々な貴重な体験をしているに違いない。語学の上達度は様々だろうけれど、自分の目で見、聞き、触感したロシアは、留学生の人生に大きな影響を与える。どんなに言葉が上手でも、通訳という職業につく人は、心の通訳もできなければならない。共に生活し、共に苦労して、生活習慣や文化を理解して初めて互いの心がわかるのである。

 後に就職した合弁会社では、秘書通訳という肩書きを持っており、言葉の通訳としてはまったく恥ずかしいばかりの未熟者だったが、心の通訳としては一役買ったと自負している。しかし、逆に、ロシア人の味方をしすぎて日本人から嫌われることも多々あった。何が正しくて、何が間違っているのか、日本人とロシア人との板挟みで随分大変な思いをした。社内で陰険な雰囲気が漂うほどいやなことはない。いかに皆が仲良くやるか、それが私の主な仕事だったかもしれない。言い換えれば他に何もしなかったような気もする。日本人とロシア人社員とのいざこざは毎日のようにあった。お互いを理解できるのは私一人だった。両方から意見を聞き、わかりやすく丁寧に生活習慣などを交えて説明した。皆会社の利益を考えて行動しているのに、考え方の違いでよく問題が起った。相手の言葉によく耳を傾け、文化・習慣などを考慮し、何故そんな風に考えるのか、理解するための努力は重要だと思う。

また、口ばかり達者なロシア人社員をどうすれば動かすことができるのかが大きな課題でもあった。ロシア語でうまく説明できなくとも、粘り強く態度で示せばそのうちに分かってもらえるだろうと信じて、マイペースでやっていた。ロシア人が喋っている問に、私はせっせと動きまわり働いた(日本でのごく当たり前の働きぶり程度)ので、それ以来私はプチェラー・マーヤ(“みつばちマーヤ”蜜蜂はよく働く人の代名詞)と呼ばれるようになった。その頃、アニメーションのプチェラー・マーヤ(みつばちマーヤの冒険)がテレビ放映されていた。かつて日本でも同じアニメーションをやっていたので、覚えておられる人も多いだろう。テレビのプチェラー・マーヤがいつも明るく元気に振る舞っているのを見ては励まされたものだ。相変わらずのロシア人達を横目に、文化・習慣の壁は厚かった、苦労のかいもなかったと残念に思っていた。しかし、私の退職パーティーの乾杯の席で「マーヤには本当にたくさんのことを教えられた。」と感謝の言葉を次々と浴びせらせた時は嬉しかった。みんな黙っててもちゃんと見てくれてたんだ、国境には「心」というドアがついているのだと、逆に私は教えられる思いがした。

■留学の意義

 留学生活は午前中が授業、午後はほとんどフリーだった。別に特別な計画があるわけではないのに、いつも時間が足りなかった。先ずは、買い出し等に時間をとられたこと。そして、ロシア人の友人がたくさんできたことだ。午前中の授業を終えて校舎から出ると、ほとんど毎日、友人達が私を待っていた。一緒に食事をしたり、テレビを見たり、宿題を教えあったり。夜の12時頃やっと皆が帰り、それから朝の3時か4時頃まで宿題をする。朝8時半位に必死で起き上がり、大学へ走る。ウィークデーは毎日そんな感じだった。土・日曜はお客に行ったり、ダーチャに行ったり、たいていどこかに出かけていた。または、友人達の襲撃に合っていた。ウラジオに着いてすぐに友達がたくさんできたので、帰国するまで、ずっと超人的なハードスケジュールだった。お陰で、教科書を見て勉強するヒマもなく、先生に「あなたは宿題を忘れるレンチャイカ(怠け者)」との汚名をつけられてしまったが、スラングやロシア人が本当に話している言葉を覚えられたように思う。この時の楽しくハードな経験が、私をまたロシアに連れ戻したのではないだろうか。思い切って留学して、かけがえのない思い出と今の自分を獲得したと思う。失ってしまったことも多いだろうけれど、得たものはもっと多いだろうと確信できる。留学経験のある方、どうでしょうか。皆さんの貴重な体験談をぜひ聞かせて下さい。

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