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様変りのモンゴル―草原の国が呼んでいる

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1996/05/01 - 1996/05/01

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JIC旅行センター

JIC旅行センターさん

 この7年間、毎年のようにモンゴルを訪れている。今年の5月、1年9ケ月ぶりにウランバートルを訪れ、その市場経済の「発展」ぶりに改めて目をみはらされた。

■ロシア人が闊歩した社会主義下のモンゴル

 いまさら言うまでもないことだが、87年に初めてかの地を訪れた時のこの国はまだ「社会主義モンゴル」であった。ウランバートルの風景は、現在のそれとは決定的に異なっていた。ほんの5?6年前まで、町を歩く白人、外国人といえぱロシア人であった。町を走る車のほぼ100%はロシァ製であった。モンゴル人の2人に1人はロシア語が理解できた。外貨、つまりドルやジャパニーズ・エンを人前で見せることはタブーであったし、外貨ショップに入れるのは、外貨をオフィシャルに入手できる外交官や党の高級官僚など、この社会のごく一部のモンゴル人だけであった。無論、日本人など見かけることは観光ゲルや観光バス、一般のモンゴル人が立ち入ることさえ許されなかった外国人ホテルの中でしかなく、また、外国人と実際に接触できるのも通訳やガイドなどごく一部のモンゴル人でしかなかった。「普通のモンゴル人」がドルや円を持っていたら、それはヤミルートで入手したか、ともかく犯罪者としてしか見られなかった。外国人に近づくことさえが、周囲の同国人から白い日で見られたものである。

 周知のように、モンゴルは世界で2番日、アジアでは最初の社会主義国家であった。モンゴル革命自体が社会主義ソビエトの物心両面による援助によって成立したという歴史的経緯を振り返るならば、そしてまた、一方の隣国中国との数世紀にわたる歴史的確執を考慮に入れるならば、モンゴルはソ連との2国関係に自己の外交政策の基本軸を据えざるをえなかった。コメコンという集団互助組織の中で、モンゴルは酪農・牧畜、地下資源開発、羊毛やカシミヤなどの原材料供給基地としての役割しか与えられなかった。それは経済原理によって導かれた方向性ではなく、あくまでも社会主義共同体の利益の名のもとに、モスクワの指示で決定されたひとつの独立国家の方同性なのであった。

 市内の公共交通機関(バス、タクシー、トロリー、航空機など)は全てソ連製か東欧諸国製、衣料、医薬品も同じ、砂糖と醤油はキューバ製、テレビ番組すらもモンゴル国営放送とロシアの2チャンネルだった。庶民の日常生活の隅々まで社会主義共同体諸国内における生産・分配の水平分業が浸透していた。コスト計算に基づく販売価格の決定、需要と供給の相互関係、消費者のニーズなど市場経済の基本パーツはほとんど視界になかった。当然のことながらモンゴルという独立国家に必要な物資の国産化という概念が存在しなかった以上、自国産業の育成などという発想は生まれる素地すらなかったであろう。むしろ、そうした行為は社会主義共同体を内部から破壊する行為として捉えられていたかも知れない。

 かつて、モンゴル人は自転車に乗っていたそうである。ところが、60年代の中ソ論争や文化大革命によって、自転車の中国からの輸入は停止された。自転車がこの草原から姿を消すとともに、こういう理屈がほぼこの社会の常識として語られてきた。「冬に道路は凍結する。冬の長いモンゴルに自転車という乗り物はそもそもなじまない。」理屈は常に現実のあとからついてくる。

■日本企業が大進出-現在のモンゴル

 ロシア人にかわってアメリカ人、ドイツ人をはじめとした欧米人が観光客として、ボランティアとして、またビジネスマンとして登場してきた。「ジーザス・クライスト」とネームの入ったお揃いのTシャツを着た欧米人のグループとは北京からの飛行機の中で一緒だった。町を走る自家用車のすでに半分は、ドイツ、日本、韓国、アメリカ製となっていた。ソ連製、ハンガリー製のバスに替わって、「ニッサン」と「現代(ヒュンダ)」のバスが走っていた。店頭を飾る食料品や衣料品は、中国、韓国、香港、シンガポール製である。バナナなんてどこから持ってきたのだろうか?主食となっているパンはトルコとモンゴルの合弁製品だそうだ。旗を持ったガイドに案内され、白の帽子とカメラやビデオを胸に下げ、やたらとお土産を買い占める例の一群と出会うのはウランバートルの夏の風物詩となってしまった。人々はロシア語にかわって英語や日本語を解するようになった。入国管理官(モンゴルでは団境警備隊員、つまり軍人である)でさえが「コンニチワ」「サヨーナラ」と言う。市内にはヤマハの音楽スクールだってあるし、「花まさ」の焼き肉バイキングだってある。外貨ショップ「札幌」に行けば「ミソ・スープ」や「ワカメ」、「ソバ」だって手に入る。紳士のスポーツ、ゴルフは今や青年実業家の最低限のたしなみだそうだ。幸いなことに(?)庶民の娯楽パチンコは未だ上陸はしていないようだ。某国営放送製作「おしん」はすでに国民的番組となりつつあるし、4年前日本にやってきた大島部屋のモンゴル人力士たちの試合結果は速報で知ることができる。資本の提供者は中国、韓国、日本、アメリカ、ドイツその他へと完全に移行してしまった。日本でさえまだ店頭に並んでいないハリウッド製のアクション娯楽映画が堂々と海賊版でレンタルされている。

■市場経済化は遊牧国家をどう変えるか

 たしかに庶民の消費選択の幅が広がった。社会全体の可能性も広がった。いまではモンゴリアン・ドリームも可能だ。値段の高さと品質の高さがイコールでくくれる社会が登場したのである。しかし、この社会は「貧乏人は飢えざるをえない」剥きだしの初期資本主義社会でもあった。貧富の差は拡大するばかり。ベンツを乗り回す若者の横で、ホームレスの老人がゴミをかき回している。昼間からブラブラしている若者の姿がやたらと多い。こうした段階をへてしか、成熟したあるいは安定した市場社会の建築は不可能なのだろうか。

 以前のようにロシア人に頭を下げなくとも車のガソリンは手に入るし、スイカもコカコーラも手に入る。ロシアやブルガリアのタバコよりアメリカのマルボロのほうがウマイに決まっている。人的パイプやコネクションにかわって金銭貸借が社会の基本ルールとなった。まともになったといえば、それまでかもしれない。これらは、かつて日本も経験し、世界中の国の人々が経験し(あるいは経験しつつある)社会の変化なのだから。

 今年、国会(大フラル)の総選挙が実施され、来年は大統領選挙が行われる。かつての支配政党である「モンゴル人民革命党」の圧倒的優勢が伝えられている。政党間に政策上の大きな違いはない。となれば行政・管理能力にたけたテクノクラートの多い旧支配政党に支持が集まるのも当然だろう。しかし、そうであるがゆえにどこかの国と同様、政治的ニヒリズムが怖いと識者は言う。焦点は土地の私有化だそうだ。都市はまだいい、地方は深刻だ。伝統的な牧畜・遊牧国家に土地の私有化はなじまない。遊牧民には隣りの家の垣根などそもそも存在しないのである。もし、存在すれば遊牧は遊牧でなくなる。これが分水嶺。どういう決定がなされるかによって「遊枚民のふるさと=モンゴル」は歴史から姿を消すかもしれないのである。

 さて、町の風景だ。草原の都市は、変貌しつつある。おさまったとはいえインフレは確実に進んでいる。ここ2?3年のドルレートは安定していて$1=400TG(トグリク)ぐらいだったが、今年はすでに500TGまで落ちた。明るい条件はいくつかある。地下資源の豊富さと、羊毛・カシミヤ、観光産業などがモンゴル経済の支えだ。今年上半期の経済成長率は6?8%といわれている。外資に頼らざるをえない時期は今しばらく続くだろう。日本政府からの「無償援助」も機能しつつあるようだ。

■経済発展の陰で進む環境破壊が心配

 一方で経済的「侵略」を許さない国民世論と意識づくりも大切だ。経済発展は環境破壊と不可分というのが経験律である。環境保護は白然の宝庫モンゴルの生命線である。例のゴルフ場建設も某国のバブル紳士が見果てぬ夢を追ってやってきた結果かもしれない。環境問越が地元新聞で大きく取り上げられ、建設完了は予定していた日にはとてもできそうにないと見受けられた。そりゃそうだろう、建設予定地の近くを首都の水源地トーラ川が流れているのだから。これまた、某建設会社出資のホテルは、自らのホテルの入口まで続く車道を造成しようとして地元住民の反対運動にあった。これも中断したまま、舗装されていない剥きだしのジャリ道だけが残っていた。そりゃそうだ。周辺住民の憩いの樹木を車道のために全て伐採したのだから。どうも、某国の「紳士たち」は金にものを言わせる習慣は身についたが、生活環境を守るという最低限のエチケットは身につかなかったらしい。この意味において、この国の、今は多少ギクシャクしているものの、「政治」と「経済」がうまく機動性と協調性を発揮してくれることを願ってやまない。

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