ロシア学生生活 ОЧЕРК

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●ユーリヤ、ユーリヤ

　国立サンクトペテルブルグ大学に、ジャーナリズム学部というのがある。その学部の一室で、昨年末就職面接試験が行なわれた。行ったのは元国営オスタンキノTV、現在の1チャンネル・OPTのペテルブルグ代表部。採用が決定したのは私の友人リューバと、顔見知りのユーリャの2人。2人とも同じクラスの女の子だが、なぜユーリャだけ顔見知り程度かと言うと、授業にあんまり出てこないからで、なぜ出てないかというと、いわゆる有料学生だからだ。教育は無料で施すのが原則のロシアでは、いつも学校は貧しかった。

しかし現在では入試の募集要綱にも「前・後期各300万ルーブルで有料学生○○名募」と出ている様に、公にお金で学生をひきうけている。有料学生が皆、頭が悪いかといえばそういう訳でもないが、少なくともお金を払っている限り、いくら授業に出なくても、いくら成績が悪くても、退学になる恐れがない。うちのクラスの3人の有料学生は親が金持ちなので授業には出ていないが、企業がスポンサーとなって勉強させてもらっている有料学生の中には、熱心に勉強している人もいる。さて、そんなユーリャが合格した。いつもセンスのいい格好をしているユーリャ。言いたいことは何でも口にするユーリャ。夏にはイタリアでバカンスしたのだと皆に自慢していたユーリャ。むかうところ敵なしだ。

●エレクトラショック

　もう一方の合格者、ひかえめで美人、成績もいいリューバがその仕事から手をひいたと聞いたのは1月に入ってすぐだった。どうして？有名な会社なのに。もったいない！

「実はね、面接官の1人だった“支配人”という人がうちに来たのよ。」

リューバはアパートの一室を借りて暮らしている。

「招待なんてしていないのよ。ある夜突然、住所を頼りにやって来てね、ドアを開けると、すでにベロンベロンに酔っ払った彼が立っていたのよ。シャンペンを片手に“一緒に飲みましょう”って。それからむりやり入ってきて、“採用を取り消されたくないだろう？”って私をベットに押し倒そうとしたの。私、エレクトラ・ショックをとり出して、生まれて初めてスイッチを入れたんだけど、酔っ払いの人にはあまり効果がないって本当だったのね。効かなかったわ。必死て抵抗したから最後にはあきらめて帰ったけど。」

「それ、どこかに訴えた？　それって犯罪だよ。仕事をとり戻さないと。」

「どうして？　もうあそこで働きたいとは思わないもの。彼らは自分達のレベルを自ら露呈したのよ。それに訴えて出るところなんてないわ。ここはアメリカじゃないのよ。」

●強い者勝ち

　個人企業ならともかく、そんな大組織で、たった1人の好色じじいが人事の全権を握っているとは思えなかった。何もしないうちにあきらめてしまったリューバに不満を感じた私は、自分で少しあたってみた結果は、ロシアには好色じじいを罰する法律は何もないと確認できたにすぎなかった。強姦は成り立たなかったし、勤め口をたてに脅かされたことも証人がいないからだ。

　リューバが去った後の空席を狙って、もう1人のクラスメート、クリスチーナが自分から面接に出かけた。そして同じことが起った。面接が行われたオフィスでソファーを指さされ「二者択一」を迫られた彼女は、「考えさせて下さい。」と言って帰って来た。彼女は学生寮に住んでいるので、さすがのじじいも部屋までは来なかったが、返事の遅いクリスチーナに業を煮やし、あのユーリャを通して伝言を伝えてきた。伝言は短かった。「Да　или　нет？（イエスかノーか）」

　クリスチーナは今も頭を抱えている。「じゃ、私、仕事があるから。」と高そうなコートをひるがえして去って行く伝書鳩ユーリャの背中を見送りながら私が口にしたのは「ユーリャは？どうしてユーリャは今も働いてるの？」「そんなこと聞けないわよ。」「それもそうね。」

●世の中って．．．

　TV討論番組“ЕСЛИ（もしも）”のこの前のテーマがちょうど「職場とセクハラ」だった。ロシアにはこの種の法律が整備されていないこと。仮に法律が出来たとしても、ロシア人は法とは別の世界で生きる民族だからムダだ．．．など。ウンウンと頷いてしまう鋭い意見が出ていた。肩をなでられた、おしりをつかまれたと言ってはすぐ裁判沙汰にするようなギスギスした世の中にすることはないとも言っていた。なかなか見ごたえがあった。放送したのは、1チャンネル・OPTだった。