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毎年9月25日、ショスタコーヴィッチの誕生日にサンクトペテルブルクフィルの新シーズンが開幕する。指揮はもちろんシェフのテミルカーノフ、今年12月に75歳の誕生日を迎える現代最高の指揮者のひとりだ。手兵のサンクトペテルブルクフィルとほぼ隔年で来日しており、今年はつい最近、単身来日し読売日本交響楽団を指揮しているのでご存知の方も多いと思う。12月14日の誕生日には毎年バースディコンサートが開催され、ゲルギエフ、ヤンソンス、バシュメット、マツエフら超多忙の、錚々たるメンバーがこの地に集結する事が彼の不動の地位を象徴している。<br /><br />この開幕コンサートに彼はショスタコーヴィッチの交響曲第6番、ストラヴィンスキーの「春の祭典」を選んだ。最初の曲からコントラバス10台を並べ、 総勢100人を超える大編成でいきなり巨大な音量で本領を発揮した。後半の春の祭典はゆったりしたテンポで、むしろメロディーを歌わせる、初めて聴く解釈だ。特にアメリカのオケで聴くこの曲は、荒々しいリズムと刺激的な金管打楽器を強調する演奏が主流であるが、ストラヴィンスキーの母国の、本家本元で聴くこの演奏スタイル、いやテミルカーノフの解釈は意外で新鮮だ。<br /><br />9月30日、このフィルハーモニーでもう一つ意外なコンサートを聴いた。世界各地の主要オーケストラで引っ張りだこのケント・ナガノが、ブルックナーの7番1曲のみのプログラムでサンクトペテルブルクに初登場した。太陽がさんさんと降りそそぐカリフォルニア生まれの日系アメリカ人、というだけでブルックナーが得意なはずがない、という勝手な先入観を持ってしまうが、彼のブルックナーはなかなかいい。以前にミュンヘンフィルで5番を聴いた時にも感じたことであるが、あくまで正当的な解釈で、オルガン的なオケのバランスや揺らぐことのないテンポなど好感を持った。サンクトペテルブルク初登場にこの曲を選んだことにも彼のブルックナーに対する「本気度」を感じた。<br /><br />しかし、以前コントラバスのアルテムさんやチェロのニコライさんは、「このオケでブルックナーを演奏する機会はまだ多くはなく、この作曲家に非常に共感している団員も多くはない」と語っており、初登場の演奏会でブルックナーは少々リスクが伴う。案の定、第1楽章の後半で木管楽器が飛び出してしまい、ナガノが棒の合図で何とか納めたものの、一瞬緊張が走った。このスーパーオーケストラにしてこのようなことが起こりうるのである。演奏会終了後、楽屋で彼とお話しすることができた。非常にスマートで身のこなしも軽い。日系人とはいえ、アメリカ人でこのスリムな体型を維持することは難しいことだろう。周囲の人と流暢な英・独・仏語で話していたが、日本語はあまり話せないと言う。彼はにこやかにブルックナーやワーグナーへの思いと、今後の活動予定などを語ってくれた。これから活躍して欲しい人だ。<br /><br />時間的には前後するが、9月10日のゲルギエフの「ローエングリン」のコンサート上演は特筆に値する。小生にとっては「指輪」4部作、オランダ人、パルシファルに続く7作目である。あらゆるレパートリーに挑戦し続けるゲルギエフにとって、ワーグナーは一つの究極のゴールであるに違いない。彼にとってコンサート上演は、オペラ演奏の質を高めるためのステップなのだろう。この長大な作品を息つく暇なく振り終えた。ただし毎度のことであるが、ロシアの聴衆にはワーグナーの作品は重すぎるようで、3幕になるとかなりの人が帰ってしまう。ゲルギエフにとっては、ドイツやオーストリアで上演する前の実験場なのかもしれない。何れにせよ、我々にとっては安価に上質な演奏が聴けてうれしいかぎりである。<br /><br />長くなるのでこれくらいにしておくが、チェロのミッシャ・マイスキーが前半はブラームスのドッペルコンチェルト(ドミトリエフ指揮、サンクトペテルブルクシンフォニー)、これはいまひとつノリが悪かった。後半はソロの曲で盛り上がった。マリインスキー劇場オケにはクナップという指揮者でベートーヴェン第九という演奏会を聴いたが、特筆することは少ない。2軍とは言わないまでも、このオケは同時に3つの公演を行うこともあるほど多忙だ。演奏に優劣があることは言うまでもない。

開幕したサンクトペテルブルクフィルのテミルカーノフ、ケント・ナガノ、MTのゲルギエフなど

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2013/09/10 - 2013/10/05

815位(同エリア1805件中)

2

16

ハンク

ハンクさん

毎年9月25日、ショスタコーヴィッチの誕生日にサンクトペテルブルクフィルの新シーズンが開幕する。指揮はもちろんシェフのテミルカーノフ、今年12月に75歳の誕生日を迎える現代最高の指揮者のひとりだ。手兵のサンクトペテルブルクフィルとほぼ隔年で来日しており、今年はつい最近、単身来日し読売日本交響楽団を指揮しているのでご存知の方も多いと思う。12月14日の誕生日には毎年バースディコンサートが開催され、ゲルギエフ、ヤンソンス、バシュメット、マツエフら超多忙の、錚々たるメンバーがこの地に集結する事が彼の不動の地位を象徴している。

この開幕コンサートに彼はショスタコーヴィッチの交響曲第6番、ストラヴィンスキーの「春の祭典」を選んだ。最初の曲からコントラバス10台を並べ、 総勢100人を超える大編成でいきなり巨大な音量で本領を発揮した。後半の春の祭典はゆったりしたテンポで、むしろメロディーを歌わせる、初めて聴く解釈だ。特にアメリカのオケで聴くこの曲は、荒々しいリズムと刺激的な金管打楽器を強調する演奏が主流であるが、ストラヴィンスキーの母国の、本家本元で聴くこの演奏スタイル、いやテミルカーノフの解釈は意外で新鮮だ。

9月30日、このフィルハーモニーでもう一つ意外なコンサートを聴いた。世界各地の主要オーケストラで引っ張りだこのケント・ナガノが、ブルックナーの7番1曲のみのプログラムでサンクトペテルブルクに初登場した。太陽がさんさんと降りそそぐカリフォルニア生まれの日系アメリカ人、というだけでブルックナーが得意なはずがない、という勝手な先入観を持ってしまうが、彼のブルックナーはなかなかいい。以前にミュンヘンフィルで5番を聴いた時にも感じたことであるが、あくまで正当的な解釈で、オルガン的なオケのバランスや揺らぐことのないテンポなど好感を持った。サンクトペテルブルク初登場にこの曲を選んだことにも彼のブルックナーに対する「本気度」を感じた。

しかし、以前コントラバスのアルテムさんやチェロのニコライさんは、「このオケでブルックナーを演奏する機会はまだ多くはなく、この作曲家に非常に共感している団員も多くはない」と語っており、初登場の演奏会でブルックナーは少々リスクが伴う。案の定、第1楽章の後半で木管楽器が飛び出してしまい、ナガノが棒の合図で何とか納めたものの、一瞬緊張が走った。このスーパーオーケストラにしてこのようなことが起こりうるのである。演奏会終了後、楽屋で彼とお話しすることができた。非常にスマートで身のこなしも軽い。日系人とはいえ、アメリカ人でこのスリムな体型を維持することは難しいことだろう。周囲の人と流暢な英・独・仏語で話していたが、日本語はあまり話せないと言う。彼はにこやかにブルックナーやワーグナーへの思いと、今後の活動予定などを語ってくれた。これから活躍して欲しい人だ。

時間的には前後するが、9月10日のゲルギエフの「ローエングリン」のコンサート上演は特筆に値する。小生にとっては「指輪」4部作、オランダ人、パルシファルに続く7作目である。あらゆるレパートリーに挑戦し続けるゲルギエフにとって、ワーグナーは一つの究極のゴールであるに違いない。彼にとってコンサート上演は、オペラ演奏の質を高めるためのステップなのだろう。この長大な作品を息つく暇なく振り終えた。ただし毎度のことであるが、ロシアの聴衆にはワーグナーの作品は重すぎるようで、3幕になるとかなりの人が帰ってしまう。ゲルギエフにとっては、ドイツやオーストリアで上演する前の実験場なのかもしれない。何れにせよ、我々にとっては安価に上質な演奏が聴けてうれしいかぎりである。

長くなるのでこれくらいにしておくが、チェロのミッシャ・マイスキーが前半はブラームスのドッペルコンチェルト(ドミトリエフ指揮、サンクトペテルブルクシンフォニー)、これはいまひとつノリが悪かった。後半はソロの曲で盛り上がった。マリインスキー劇場オケにはクナップという指揮者でベートーヴェン第九という演奏会を聴いたが、特筆することは少ない。2軍とは言わないまでも、このオケは同時に3つの公演を行うこともあるほど多忙だ。演奏に優劣があることは言うまでもない。

旅行の満足度
5.0
観光
5.0
ホテル
4.5
グルメ
4.5
ショッピング
4.0
交通
5.0
同行者
友人
一人あたり費用
30万円 - 50万円
交通手段
タクシー 徒歩 飛行機
航空会社
ANA
旅行の手配内容
個別手配

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  • サンクトペテルブルクフィルハーモニーの開幕コンサート、ショスタコーヴィチの交響曲第6番

    サンクトペテルブルクフィルハーモニーの開幕コンサート、ショスタコーヴィチの交響曲第6番

  • 春の祭典演奏後、聴衆に応えるテミルカーノフ

    春の祭典演奏後、聴衆に応えるテミルカーノフ

  • コントラバスは最初から10台がフル出場

    コントラバスは最初から10台がフル出場

  • 美しいフィルハーモニーホール

    美しいフィルハーモニーホール

  • 楽屋でのテミルカーノフ、今年75歳を迎える

    楽屋でのテミルカーノフ、今年75歳を迎える

  • ミッシャ・マイスキーのチェロのソロ

    ミッシャ・マイスキーのチェロのソロ

  • 聴衆に応えるミッシャ・マイスキー<br />

    聴衆に応えるミッシャ・マイスキー

  • マリインスキーコンサートホールのファサード

    マリインスキーコンサートホールのファサード

  • 「ローエングリン」終演後聴衆に応えるゲルギエフ

    「ローエングリン」終演後聴衆に応えるゲルギエフ

  • 容姿の美しいソプラノ

    容姿の美しいソプラノ

  • クヌール指揮マリインスキー劇場管弦楽団のベートーヴェン交響曲第9番

    クヌール指揮マリインスキー劇場管弦楽団のベートーヴェン交響曲第9番

  • クヌール指揮マリインスキー劇場管弦楽団のベートーヴェン交響曲第9番

    クヌール指揮マリインスキー劇場管弦楽団のベートーヴェン交響曲第9番

  • ベートーヴェン交響曲第9番終演後聴衆に応えるソリストたち

    ベートーヴェン交響曲第9番終演後聴衆に応えるソリストたち

  • サンクトペテルブルクフィルハーモニーとケント・ナガノ

    サンクトペテルブルクフィルハーモニーとケント・ナガノ

  • 聴衆に応えるケント・ナガノ

    聴衆に応えるケント・ナガノ

  • 楽屋でケント・ナガノと筆者

    楽屋でケント・ナガノと筆者

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この旅行記へのコメント (2)

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  • さなぁさん 2014/01/05 20:19:08
    遅らばせながら
    ハンクさん こんにちは

    ケント・ナガノのブルックナーですか!彼はチェリビダッケ(私はチェリのブルックナーが大好きです)に師事していた時期もあったりで、さぞかし良いでしょうねぇ。うらやましいです。
    確かにロシアのオケがブルックナーを演奏ということはあまり聞きません。やはりそういうことなんですね。。。

    今月あたりにテミルカーノフ×サンクトペテルブルク交響楽団とがヴィルサラーゼ女史と来日とのことです。チケットはまだあるかしら。。行ってみたくなりました!

    ハンク

    ハンクさん からの返信 2014/01/17 04:17:26
    RE: 遅らばせながら
    さなぁさん、今年もよろしくお願いいたします。ただいまサンクトペテルブルクに出張滞在中で、今日はフィルハーモニーでテミルカーノフの指揮でマーラーの復活シンフォニーを聴いてきました。彼らは明後日から日本ツアーに出かけますが、日本で演奏会には行かれますか?チケットは入手できましたか?また感想をお聞かせください。

    また再来週はゲルギエフがマリインスキーに登場し、ブロンフマンとベートーヴェンのコンチェルトを演奏します。レニングラード解放の1月27日にはレニングラードシンフォニーを演奏しますが、こちらは完売!

    出張中の方が時間が取れるため、厳寒の雪景色を窓から眺めながらヴェトナムの旅行記を書き留めています。共産党独裁の現状には少々失望しましたが、親日国だけに不幸な戦争から立ち直ってもらいたいと願っています。

    それではまた、さなぁさんの旅行記を楽しみにしています。ハンク

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