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<br /> 奈良県というのは、学のないよそ者には、ちょっと分かりづらい県です。<br /><br /> いにしえの、修学旅行の時の記憶が強くて、京都とごっちゃになっているなかで、かろうじて大仏や鹿のイメージ、それに最近は「せんとくん」。<br /><br /> 今回、旅をして気づいたのは、その、京都でも大阪でもないような独特の雰囲気。<br /><br /> 一日で3万歩もあるき回り、思いもよらず長時間ならまち界隈を彷徨してしまったのは、<br /> 京都よりも深い歴史が、高度経済成長という津波から運良く逃れ、<br /> 何気なく古書店で手にした、忘れ去られた古い書物の匂いのように、ふいに、不用心なわたしの心を捕えて、時間の海に飲みこまれてしまったからのような気がしました。

土塀とメジロと梅の花

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2013/01/11 - 2013/01/11

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ちびのぱぱ

ちびのぱぱさん


 奈良県というのは、学のないよそ者には、ちょっと分かりづらい県です。

 いにしえの、修学旅行の時の記憶が強くて、京都とごっちゃになっているなかで、かろうじて大仏や鹿のイメージ、それに最近は「せんとくん」。

 今回、旅をして気づいたのは、その、京都でも大阪でもないような独特の雰囲気。

 一日で3万歩もあるき回り、思いもよらず長時間ならまち界隈を彷徨してしまったのは、
 京都よりも深い歴史が、高度経済成長という津波から運良く逃れ、
 何気なく古書店で手にした、忘れ去られた古い書物の匂いのように、ふいに、不用心なわたしの心を捕えて、時間の海に飲みこまれてしまったからのような気がしました。

同行者
カップル・夫婦
交通手段
JRローカル 徒歩 Peach

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  • <br /> 大仏殿奥の二月堂から、右手の方に下ってゆくと、美しい土塀の続く石畳の道になります。<br /><br /> 奈良公園に、ひっそりとある、蟻塚のような破れ土塀と違い、現役です。


     大仏殿奥の二月堂から、右手の方に下ってゆくと、美しい土塀の続く石畳の道になります。

     奈良公園に、ひっそりとある、蟻塚のような破れ土塀と違い、現役です。

  •  誰かの旅行記で見た写真の景色、こんなとこにあったのかと、しばらく感激していると、<br /><br /> 「へえ〜、かにがいるんだ。」<br /><br /> と、妻がつぶやくのが聞こえます。<br /><br /> 見ると、石畳の脇を流れる小さな水路に、20センチ角ほどの控えめなサインに、水路にサワガニがいること、それをこの辺りの人が大切にしていること、ゆえに、見かけても、そっとしておいてほしいこと、が優しげな文字で記されていました。

     誰かの旅行記で見た写真の景色、こんなとこにあったのかと、しばらく感激していると、

     「へえ〜、かにがいるんだ。」

     と、妻がつぶやくのが聞こえます。

     見ると、石畳の脇を流れる小さな水路に、20センチ角ほどの控えめなサインに、水路にサワガニがいること、それをこの辺りの人が大切にしていること、ゆえに、見かけても、そっとしておいてほしいこと、が優しげな文字で記されていました。

  • <br /> 地味な地鳴きを発しながら、あざやかな鶯色のメジロが、土塀の上の梢にとまったかと思うと、忙しそうに、また去ってゆきました。<br /><br /> 「あっ、メジロ。」<br /><br /> 美しい鳥です。<br /> 花の蜜を吸いに来たのでしょうか。<br /> 今は、山茶花の花くらいしか咲いていないようですが。<br /> この辺りは、梅の里ですから、もう間もなく、満開の梅が花を咲かせることでしょう。<br /> 梅の木には、たくさんのつぼみが付き、気の早いのがたまに綻びかけていました。<br /> たぶんイカルか、もしくはシメではないかと思うのですが、その蕾をついばんでいました。<br /><br /> 北国を逃げるようにして旅に出た身には、なんとうらやましい光景でしょう。


     地味な地鳴きを発しながら、あざやかな鶯色のメジロが、土塀の上の梢にとまったかと思うと、忙しそうに、また去ってゆきました。

     「あっ、メジロ。」

     美しい鳥です。
     花の蜜を吸いに来たのでしょうか。
     今は、山茶花の花くらいしか咲いていないようですが。
     この辺りは、梅の里ですから、もう間もなく、満開の梅が花を咲かせることでしょう。
     梅の木には、たくさんのつぼみが付き、気の早いのがたまに綻びかけていました。
     たぶんイカルか、もしくはシメではないかと思うのですが、その蕾をついばんでいました。

     北国を逃げるようにして旅に出た身には、なんとうらやましい光景でしょう。

  •  餅飯殿(もちいどの)センター街というアーケード街の入り口には、高速餅つきで有名になった餅屋さんがあって、<br /> 店内で巨大な炊飯器が、シュ−シューいって蒸気をあげていたので、もしかしたら、もうしばらくすると、例の高速餅つきをするかも知れないと思いましたが、そのまま通り過ぎました。<br /><br /> 餅飯殿町にあるお餅屋さんとは、いかにもふさわしいですが、聞いた話では、奈良県の南部にある上北山村に昔からある餅のつき方だとか。<br /><br /> 上北山村は、後ほど偶然通りかかりましたが、実に興味深いところでした。<br /><br /> それはさておき、奈良町の細い路地をぐるぐる歩いているうちに、十輪院という寺の前に出ました。

     餅飯殿(もちいどの)センター街というアーケード街の入り口には、高速餅つきで有名になった餅屋さんがあって、
     店内で巨大な炊飯器が、シュ−シューいって蒸気をあげていたので、もしかしたら、もうしばらくすると、例の高速餅つきをするかも知れないと思いましたが、そのまま通り過ぎました。

     餅飯殿町にあるお餅屋さんとは、いかにもふさわしいですが、聞いた話では、奈良県の南部にある上北山村に昔からある餅のつき方だとか。

     上北山村は、後ほど偶然通りかかりましたが、実に興味深いところでした。

     それはさておき、奈良町の細い路地をぐるぐる歩いているうちに、十輪院という寺の前に出ました。

  • <br /> 「十輪院の本堂は、単層寄せ棟の、手の上にでも乗りそうなかわいらしい建物である。しかし、じっと見ていると、だんだん大きく、やがて威圧するように見えてくる。やはり時代というものの魔力であろうか。」<br /><br /> 松本清張が、奈良を紹介した本の中で言っていた言葉です。<br /> 清張は、その他にも、この寺にまつわるおもしろい話を紹介していますが、弘法大師の師である朝野魚養(あさのなかい)が魚に養われた逸話が出色です。


     「十輪院の本堂は、単層寄せ棟の、手の上にでも乗りそうなかわいらしい建物である。しかし、じっと見ていると、だんだん大きく、やがて威圧するように見えてくる。やはり時代というものの魔力であろうか。」

     松本清張が、奈良を紹介した本の中で言っていた言葉です。
     清張は、その他にも、この寺にまつわるおもしろい話を紹介していますが、弘法大師の師である朝野魚養(あさのなかい)が魚に養われた逸話が出色です。

  •  本堂は、鎌倉時代の建物で、当時のやんごとなき人々の住居を彷彿とさせる国宝です。<br /><br /> かのブルーノ タウトも絶賛したとか。

     本堂は、鎌倉時代の建物で、当時のやんごとなき人々の住居を彷彿とさせる国宝です。

     かのブルーノ タウトも絶賛したとか。

  • <br /> がらんは、けして広くはない境内にひしめき合っている風。


     がらんは、けして広くはない境内にひしめき合っている風。

  • <br /> 古き良き時代の町屋があります。


     古き良き時代の町屋があります。

  •  その界隈を、さらにあてどなく彷徨いました。

     その界隈を、さらにあてどなく彷徨いました。

  • <br /> 細い、迷路のような道を、あてもなく歩いているうちに、「ならまち 格子の家」に出ました。


     細い、迷路のような道を、あてもなく歩いているうちに、「ならまち 格子の家」に出ました。

  • <br /> 人の気配はなく、そっと覗くと、<br /><br /> 「どうぞ、おはいりください。」<br /><br /> という女性の声が、どこからとも無く聞こえてきます。<br /> よく見ると、切符売り場のような狭い受付があって、その中に若い女性がいたのです。<br /><br /> その声に励まされるように、ひんやりとした玄関に足を踏み入れて、財布を取り出すと、<br /><br /> 「入場無料になっています。どうぞ、ご自由にご覧ください。」<br /><br /> と、言われたのでした。


     人の気配はなく、そっと覗くと、

     「どうぞ、おはいりください。」

     という女性の声が、どこからとも無く聞こえてきます。
     よく見ると、切符売り場のような狭い受付があって、その中に若い女性がいたのです。

     その声に励まされるように、ひんやりとした玄関に足を踏み入れて、財布を取り出すと、

     「入場無料になっています。どうぞ、ご自由にご覧ください。」

     と、言われたのでした。

  • <br /> あがりかまちの石の上には、すでに、二足のサンダルのような靴が乱雑に乗っていて、先客がいることを知りました。<br /><br /> それを避けるように、私たちも靴を脱いで、冷たい畳の上にあがりました。<br /><br /> こういう長年月を経た家どくとくの、不思議な、懐かしいようなニオイが漂っております。


     あがりかまちの石の上には、すでに、二足のサンダルのような靴が乱雑に乗っていて、先客がいることを知りました。

     それを避けるように、私たちも靴を脱いで、冷たい畳の上にあがりました。

     こういう長年月を経た家どくとくの、不思議な、懐かしいようなニオイが漂っております。

  • <br /> 「ガタン」と後ろで音がして、振り向くと、くだんの受付の女性が、何かの用を足すために、外に出て行くところでした。


     「ガタン」と後ろで音がして、振り向くと、くだんの受付の女性が、何かの用を足すために、外に出て行くところでした。

  • <br /> 先客は、外国人の女性二人連れで、私たちと入れ違うように出て行ってしまいました。


     先客は、外国人の女性二人連れで、私たちと入れ違うように出て行ってしまいました。

  • <br /> もはや、この家には、私たち夫婦の二人しか、いないようです。


     もはや、この家には、私たち夫婦の二人しか、いないようです。

  • <br /> 誰もいなくなった「格子の家」<br /><br /><br />


     誰もいなくなった「格子の家」


  • <br /> しんとした部屋は、かえって誰かの息づかいが聞こえてきそうです。


     しんとした部屋は、かえって誰かの息づかいが聞こえてきそうです。

  • <br /> 妻と二人で、たわむれに、サントリーのお茶、伊右衛門のコマーシャルを演じてみました。<br /><br /> どこからともなく、久石譲のOriental Windが聞こえてきそうな……


     妻と二人で、たわむれに、サントリーのお茶、伊右衛門のコマーシャルを演じてみました。

     どこからともなく、久石譲のOriental Windが聞こえてきそうな……

  • <br /> 玄関に戻って靴を履き、外に出ようとすると、いつの間に戻っていたのか、受付から<br /><br /> 「ご来場ありがとうございました。」<br /><br /> と、声がします。<br /> なぜかこの女性、気配がしないんです。<br /> 二度とも、小心なわたしを飛び上がらせるほど驚かせたとは、当の本人は夢にも思っていないだろうな。<br /><br /> 「いえいえ、こちらこそ、けっこうなものを見せていただきました。」<br /><br /> ふだんは、ここでいろいろ無駄話をするのですが、すっかり毒気を抜かれて、すごすごと「格子の家」を後にしました。


     玄関に戻って靴を履き、外に出ようとすると、いつの間に戻っていたのか、受付から

     「ご来場ありがとうございました。」

     と、声がします。
     なぜかこの女性、気配がしないんです。
     二度とも、小心なわたしを飛び上がらせるほど驚かせたとは、当の本人は夢にも思っていないだろうな。

     「いえいえ、こちらこそ、けっこうなものを見せていただきました。」

     ふだんは、ここでいろいろ無駄話をするのですが、すっかり毒気を抜かれて、すごすごと「格子の家」を後にしました。

  • <br /> 目の前に、りっぱな煙突が見えたのでそちらの方に行ってみると、お風呂屋さんがありました。<br /><br /> すっかり体が冷えて、お風呂をいただいてゆこうかと、本気で考えてしまうのでした。


     目の前に、りっぱな煙突が見えたのでそちらの方に行ってみると、お風呂屋さんがありました。

     すっかり体が冷えて、お風呂をいただいてゆこうかと、本気で考えてしまうのでした。

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この旅行記へのコメント (2)

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  • nakamasananiwaさん 2013/02/01 11:52:40
    な、なつかし〜〜♪

    郡山の工場通ってたとき、あまりにも遅刻、休みが多いのを見かねて社長からなかば強制的に、もちいどの商店街を抜けたとこにある古びた寮に放り込まれ、しばらく暮らしたことがあります。

    ヤマザキパンのおねーさん、元気かなぁ? 狭いカウンタで啜るクラムチャウダが旨かった。

    ちびのぱぱ

    ちびのぱぱさん からの返信 2013/02/01 20:27:26
    RE: ♪
     もちいどの商店街、狭くてごちゃごちゃしていて、いいですね。
     真ん中あたりに大きなスーパーがあって、そこで買ったお総菜を昼食代わりにしました。
     商店街をぬけた辺りもウロウロしましたが、nakamasaさんがおっしゃるような雰囲気の、生活感あふれる町並みでした。
     きっと、あまり変わっていないんだと思います。
     ジャカルタ訪問の延長戦で、行ってみちゃったらいかがでしょう。

     あと、ジャワ島の列車の旅、良さそうですね。

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