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近代の美術工芸の中でも、特に好きな作家がルネ・ラリック。<br />彼の作品数は膨大で世界各地に散らばるため、その全貌をこの目で確かめることなど不可能です。日本にも多くの作品があり、箱根の専門美術館は全国的にも有名。<br />ただ、晩年のラリックが精魂込めて挑んだ壮大な教会装飾に関しては未だ日本でも知名度が低く、こればかりは現地に赴かずして見届けることはできません。そこで昨秋辺りから、ここに焦点を絞った旅を考えるようになりました。<br /><br />まずは、英仏海峡に浮かぶ英国王室直轄のジャージー島を目指します。そう、あのジャージー牛で知られるところ。<br />英国、とは言っても地理的にはフランスのノルマンディー/ブルターニュに近く、自治権も強い特殊な存在。<br /><br />首都は島の南側にあるSt.Helier(セント・ヘリアー)。<br />ロンドンから飛行機で1時間弱ですが、今回はパリから車で向かったので、とにかく遠かった。CDGから無休憩でかなり飛ばして、約4時間。ちょうど東京~京都の距離です。<br /><br />ギリギリで島に向かう港町のSt.Maloに到着。<br />ここは未だ中世の雰囲気が漂う要塞のような街で、興味そそられますがゆっくりそぞろ歩く余裕なんてありません。予約してあったフェリーに何とか間に合い、約90分でジャージー島に到着。フランスとは時差が1時間あるので、時計上では30分足らずです。車載運賃がとても高いので、クルマはターミナルに置いて乗船です。ジャージー島到着後すぐにタクシーを拾いSt.Helierの港から東側にあるエレガントなホテル、Longueville Manorで荷物だけ下ろしてそのまま西側の丘にひっそり佇むSt.Matthew&#39;s Glass Church(聖マタイ教会)へ。ここが遙々この島までやってきた目的地です。<br /><br />教会の外観はいたってシンプルなアール・デコ様式のすっきりしたものですが、これぞラリック!な2体の女神像が迎えてくれる扉を開けて中に入ると、壁の照明やその先のアトリウム(前庭)やネイヴ(身廊)そして最奥のサンクチュアリー(祭壇)までが視界に収まり、圧巻の光景が広がります。<br /><br />1932年、トレント郷婦人が亡き夫を偲ぶため、ラリックに教会の改装を依頼。約2年の歳月を経て、地元の建築家A.B.グレイソンらと協力して壮大なインテリア・デザインを実現させたのでした。完成時、ラリックは74歳。すでに円熟の極みにあったラリック晩年の、これは記念碑的な作品と言えるものです。<br /><br />何が素晴らしいって、単品ではなく教会内部が統一されたコンセプトで完成されていること。ラリック自身長年の夢を実現させた、自身自慢の装飾なのです。高さ4mはあろうかという内部からの照明が施された象徴的な十字架含め、すべてに「百合の花」があしらわれた綿密な設計プラン。ちなみに百合は、純潔と清心を表す聖母マリアの象徴です。<br />次回ご紹介予定のフランス・ノルマンディーの教会「ノートルダム・ド・フィデリテ修道会礼拝堂」の内部装飾でも、随所に見ることができます。<br /><br />ガラスという素材の特質を、その効果を知り尽くしたラリックの、まさに本領発揮。<br />彼が生涯の晩年に手がけた教会は他に4カ所残っていますが、ここはその最後の作品。ガラスの透明感ゆえの清冽な潔さ、反射と屈折の変化は悩みと迷いを代弁し、その先には本質は何も変わらないという一筋の光へと誘う道標。そんな人生の縮図を、美しい小宇宙にまとめ上げているように感じました。

ルネ・ラリックを巡る旅~その1

10いいね!

2012/12/21 - 2012/12/22

142位(同エリア349件中)

2

18

とっしぃ

とっしぃさん

近代の美術工芸の中でも、特に好きな作家がルネ・ラリック。
彼の作品数は膨大で世界各地に散らばるため、その全貌をこの目で確かめることなど不可能です。日本にも多くの作品があり、箱根の専門美術館は全国的にも有名。
ただ、晩年のラリックが精魂込めて挑んだ壮大な教会装飾に関しては未だ日本でも知名度が低く、こればかりは現地に赴かずして見届けることはできません。そこで昨秋辺りから、ここに焦点を絞った旅を考えるようになりました。

まずは、英仏海峡に浮かぶ英国王室直轄のジャージー島を目指します。そう、あのジャージー牛で知られるところ。
英国、とは言っても地理的にはフランスのノルマンディー/ブルターニュに近く、自治権も強い特殊な存在。

首都は島の南側にあるSt.Helier(セント・ヘリアー)。
ロンドンから飛行機で1時間弱ですが、今回はパリから車で向かったので、とにかく遠かった。CDGから無休憩でかなり飛ばして、約4時間。ちょうど東京~京都の距離です。

ギリギリで島に向かう港町のSt.Maloに到着。
ここは未だ中世の雰囲気が漂う要塞のような街で、興味そそられますがゆっくりそぞろ歩く余裕なんてありません。予約してあったフェリーに何とか間に合い、約90分でジャージー島に到着。フランスとは時差が1時間あるので、時計上では30分足らずです。車載運賃がとても高いので、クルマはターミナルに置いて乗船です。ジャージー島到着後すぐにタクシーを拾いSt.Helierの港から東側にあるエレガントなホテル、Longueville Manorで荷物だけ下ろしてそのまま西側の丘にひっそり佇むSt.Matthew's Glass Church(聖マタイ教会)へ。ここが遙々この島までやってきた目的地です。

教会の外観はいたってシンプルなアール・デコ様式のすっきりしたものですが、これぞラリック!な2体の女神像が迎えてくれる扉を開けて中に入ると、壁の照明やその先のアトリウム(前庭)やネイヴ(身廊)そして最奥のサンクチュアリー(祭壇)までが視界に収まり、圧巻の光景が広がります。

1932年、トレント郷婦人が亡き夫を偲ぶため、ラリックに教会の改装を依頼。約2年の歳月を経て、地元の建築家A.B.グレイソンらと協力して壮大なインテリア・デザインを実現させたのでした。完成時、ラリックは74歳。すでに円熟の極みにあったラリック晩年の、これは記念碑的な作品と言えるものです。

何が素晴らしいって、単品ではなく教会内部が統一されたコンセプトで完成されていること。ラリック自身長年の夢を実現させた、自身自慢の装飾なのです。高さ4mはあろうかという内部からの照明が施された象徴的な十字架含め、すべてに「百合の花」があしらわれた綿密な設計プラン。ちなみに百合は、純潔と清心を表す聖母マリアの象徴です。
次回ご紹介予定のフランス・ノルマンディーの教会「ノートルダム・ド・フィデリテ修道会礼拝堂」の内部装飾でも、随所に見ることができます。

ガラスという素材の特質を、その効果を知り尽くしたラリックの、まさに本領発揮。
彼が生涯の晩年に手がけた教会は他に4カ所残っていますが、ここはその最後の作品。ガラスの透明感ゆえの清冽な潔さ、反射と屈折の変化は悩みと迷いを代弁し、その先には本質は何も変わらないという一筋の光へと誘う道標。そんな人生の縮図を、美しい小宇宙にまとめ上げているように感じました。

旅行の満足度
5.0
観光
4.0
ホテル
5.0
グルメ
4.0
ショッピング
2.0
交通
1.5
同行者
一人旅
一人あたり費用
25万円 - 30万円
交通手段
タクシー
航空会社
JAL
旅行の手配内容
個別手配
  • St.Matthew&#39;s Glass Church - 聖マタイ教会<br />正面から見た教会の全体像。外観は、意外にもスッキリしています。

    St.Matthew's Glass Church - 聖マタイ教会
    正面から見た教会の全体像。外観は、意外にもスッキリしています。

  • 入口ドアを飾る「これぞLalique !」な女神。<br />彼の特徴でもある穏やかで優しい表情は、心和みます。

    入口ドアを飾る「これぞLalique !」な女神。
    彼の特徴でもある穏やかで優しい表情は、心和みます。

  • 玄関ホール壁面のランプ。

    玄関ホール壁面のランプ。

  • これも玄関ホール内のウォールランプ。

    これも玄関ホール内のウォールランプ。

  • サンクチュアリ(祭壇)のシンボリックな意匠。

    サンクチュアリ(祭壇)のシンボリックな意匠。

  • 内部に照明は仕込まれた、ラリック独創の十字架。<br />デザインは、「百合の花」。<br />百合は清廉純真を表す、聖母マリアの象徴です。

    内部に照明は仕込まれた、ラリック独創の十字架。
    デザインは、「百合の花」。
    百合は清廉純真を表す、聖母マリアの象徴です。

  • バラージ(障壁)の静謐な美。<br />ガラスの特質を「教会」という神聖なる空間の中で、最大限に発揮しています。

    バラージ(障壁)の静謐な美。
    ガラスの特質を「教会」という神聖なる空間の中で、最大限に発揮しています。

  • これはラリック作の「洗礼台」。<br />クリスマス直前の飾り付け前だったため殺風景ですが、通常はここに花が飾られます。

    これはラリック作の「洗礼台」。
    クリスマス直前の飾り付け前だったため殺風景ですが、通常はここに花が飾られます。

  • ガラスへの刻印ゆえ見にくいですが、上記洗礼台の根元にはルネの署名がありました。

    ガラスへの刻印ゆえ見にくいですが、上記洗礼台の根元にはルネの署名がありました。

  • 2階から見渡す教会内の全体像。清々しさに満ちています。

    2階から見渡す教会内の全体像。清々しさに満ちています。

  • 祭壇左側のトランセプト(袖廊)を飾る天使4体。<br />玄関ドア同様、どこまでも穏やかで優しい表情です。

    祭壇左側のトランセプト(袖廊)を飾る天使4体。
    玄関ドア同様、どこまでも穏やかで優しい表情です。

  • トランセプトを仕切る背の低いバラージ。<br />これも百合の花があしらわれています。

    トランセプトを仕切る背の低いバラージ。
    これも百合の花があしらわれています。

  • こちらは背の高いバラージ。<br />高さ、およそ2.5mほど。<br />透過する柔らかな光が、陰影を深めます。

    こちらは背の高いバラージ。
    高さ、およそ2.5mほど。
    透過する柔らかな光が、陰影を深めます。

  • 百合の枝!かなりのup画像ですが、十分耐えています。さすがはルネ。

    百合の枝!かなりのup画像ですが、十分耐えています。さすがはルネ。

  • 背の低いバラージ。角度を変えて。

    背の低いバラージ。角度を変えて。

  • 教会壁面の採光窓は、極めてシンプルなストライプのガラス窓。<br />面積が大きいので、曇り空でも採光は十分です。

    教会壁面の採光窓は、極めてシンプルなストライプのガラス窓。
    面積が大きいので、曇り空でも採光は十分です。

  • ホールの壁に埋め込まれたアクセント。

    ホールの壁に埋め込まれたアクセント。

  • 教会正面入口。<br />海岸からなだらかに続く、斜面の中程に位置します。<br />1934年に完成した、ラリック74歳時の記念碑的教会装飾。<br /><br />ドアには2体の大きな女神がはめ込まれていて、優しく迎えてくれます。

    教会正面入口。
    海岸からなだらかに続く、斜面の中程に位置します。
    1934年に完成した、ラリック74歳時の記念碑的教会装飾。

    ドアには2体の大きな女神がはめ込まれていて、優しく迎えてくれます。

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この旅行記へのコメント (2)

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  • マリアンヌさん 2014/09/22 12:52:36
    素晴らしい!
    とっしいさんへ。

    ジャージー島にこんな素敵な教会があるのですね。
    茫漠とラリックは好みだなという感じでしたので
    とても勉強になります。
    庭園博物館くらいしか大きなものは、見たことがありません。

    そしてパリ市内にも教会、あるのですね。
    2つともいつしか訪れてみたいです♪

    恥ずかしながらミューラー工房とドーム工房のランプを
    家で使用しています。
    中途半端なアンティーク好きです。

    これからもよろしくお願いします。
    マリアンヌ

    とっしぃ

    とっしぃさん からの返信 2014/09/23 15:45:00
    RE: 素晴らしい!
    マリアンヌさん

    今日は墓参のあといろいろ立て込んでいて、キチッとご返事できません。
    改めてカキコしますので、少々お時間を。

    それにしてもミューラーにドーム!
    素晴らしいですね。是非、拝見してみたいです。

    私は、個人的に一番気に入っているのがチェコのMoser(モーゼル・グラス)です。ワイングラスとタンブラーは、宝物です。地震、怖い。

    Jerseyはアメリカだとマイアミやシアトルのような、英国人がリタイア後に住みたい島なのだそうです。温暖で、花とフルーツが豊かで、丘から望む海の景色に癒されるのだそうです。私は、たった1泊でそそくさと引き上げてしまい、地元の方に呆れられました。

    Laliqueほど、創業者亡き後つまらなく変貌した会社も珍しいですね。
    庭園美術館。ウチからも近く、一番のお気に入り。
    来春のリニューアル・オープンを心待ちにしています。
    箱根は、いらしたことございませんか?

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