2012/12/22 - 2012/12/22
37位(同エリア181件中)
とっしぃさん
1931年、ルネ・ラリックが着手した教会装飾の、これは見事な完成形です。これまでヨーロッパ各国の教会や礼拝堂を見てきましたが、ここまで清心、純真な面持ちになれたのは初めてでした。
教会としての礎は1831年にまで遡りますが、修道会100周年を記念して当初はガラス製の十字架製作をラリックに依頼したのでした。けれどその費用が相当なものになるだろうと予想した当時の修道会は、会長名義でラリック社に対し「経費全額免除」を依頼したのです。
美術宝飾家~ガラス工芸家として天賦の才のみならず、経営者としての実力さえ存分に発揮していたこの頃のラリックは、広大にして神聖なる空間を自身の発想で描いてみたいとの想いからこんな条件を提案しました。
『十字架だけではなく、内部全体のデザインをお任せ願いたい。費用は、材料費の実費だけご負担ください。これは修道会のための、例外的な優遇です。ゆえに私が構想したすべてについて、これを変更しないという権利を保障願いたい』と申し出て、修道会はこの条件を飲んだのでした。
自分がデザインした十字架が完成後に気に入らなければ粉砕して、プロジェクトそのものを他に譲って自分は撤退する…とまで強弁したルネ・ラリック。2年の製作期間中も微に入り細にわたって徹底したこだわりを見せたと言います。自らの創作と作品に絶対の自信を持っていたラリックにとって、妥協という文字はなかったのでしょう。
自身は敬虔な信者ではなかったらしく、修道会もその点を危惧したそうですが、ここが完成して3年後の1936年に自らの作品の中で初めての聖体拝領を受けたことは修道会にとって何よりの安堵だったことでしょう。
天候、時期、太陽の動き…そうした自然事象の変化によって刻一刻と色や輝きを変えていくルネの作品群。
初期の宝飾作品に顕著な精緻さよりも、潔さを感じる空間造形がそこにあります。その背後には綿密な計算とそれまでに蓄えた膨大な経験、そして独創のアイディアが溢れているはずですが、ともすれば見受けられるカトリックの過剰装飾的威圧感など全くなく、異文化で育った者にも清らかな優しさで包んでくれる独自の雰囲気をたたえて。
ここへ向かう道中何度も目にした → Mont-Saint-Michel という標識を敢えて無視するように通り過ぎて訪ねた価値は、予想を遙かに超えていました。
- 旅行の満足度
- 5.0
- 観光
- 5.0
- 同行者
- 一人旅
- 一人あたり費用
- 25万円 - 30万円
- 交通手段
- レンタカー
- 航空会社
- JAL
- 旅行の手配内容
- 個別手配
-
礼拝堂全景。ただ、ひたすらに清く美しい。
-
こればかりは現地に足を運ばないと…
ルネ渾身の十字架。
正面はフラットで、彫り込みの造形は裏面から。
なぜなら、この十字架は常に背面から光を受けるため、刻一刻、光の強さや角度によってその立体感が変わるからです。
時折感じる薄紫の光輪は、40年の歳月にわたる紫外線の影響から。
現在では完璧な防御策がとられていて、これ以上の影響はないとか。
ルネは、そこまで計算していたのでしょうか? -
祭壇前に吊されたガラスのランプ。
百合の意匠が清楚な雰囲気を高めています。
これもラリックらしい、華美ではなく静謐で上品なセンスを感じます。 -
おそらく、もともとあったブロンズの十字架。
80年前に、ラリックが修道会の依頼を受けて上記ガラス製の十字架に置き換えました。
背後の障壁も、美しい。 -
祭壇の前に対で置かれた縦長のランプグローブ。
4面それぞれに一本の百合の花が描かれます。
潔く、そして確かな存在感。ルネの教会装飾に共通する意匠です。 -
ここは、かなりアクセス悪し・・(笑)
それが逆にモン・サン・ミシェルのような大観光客でごった返すことなく、たおやかなるひとときを過ごせる理由かも知れません。
もちろん周辺に土産物屋など、一切ありません。
年老いたシスターが、微笑を浮かべて静かに案内してくれます。
もちろん、英語は通じません(>_<) -
礼拝堂へは、こうして中庭を抜けて。
左に写る老シスターが案内してくれました。
外観からは、内部の壮麗なガラス装飾など窺い知れません。 -
百合の造形部分。
こうしてみても破綻なく、美へのこだわりは揺るぎません。 -
こうした「小物」にも手抜かりなく、細部の造りまで完璧。
司祭が歳時に手に持つ十字架ですね。 -
たまたま同時に開催されていたノルマンディー地方の伝統工芸、レースと刺繍展のポスター。これがまたオドロキの作品群でしたので、2点写真をupします。これを目当てにやってきたご婦人たちが、ルネのガラス装飾に圧倒されていました!
この分野、まるで知識もなく、どうしたらこんなにも美麗な作品ができるのか、摩訶不思議です。 -
ただひとこと、精緻!
-
オトコには、踏み込めない世界です。
この旅行記のタグ
利用規約に違反している投稿は、報告する事ができます。
この旅行記へのコメント (2)
-
- mistralさん 2013/02/05 20:21:47
- 初めまして。
- とっしぃさん
ラリックの教会を巡る旅、拝見いたしました。
素敵ですね〜
背後からの光を計算して創るなんて・・・
ガラスと、それを置くべき場所と
充分に考慮したうえでのことでしょうね。
モン・サン・ミッシェルの案内標示をも無視して
車を飛ばした甲斐がありましたね。
私もガラス工芸は大好きです。
でも、まだまだ
ラリックの教会巡りまでは余力がありません。
せめてとっしぃさんのブログで
楽しませていただきますね。
今後とも素敵な旅行記を!
期待しております。
- とっしぃさん からの返信 2013/02/05 23:21:30
- RE: 初めまして。
- mistralさん
初めまして。
素敵なHNですね!
ちょうどこの時期にふさわしいです。
南仏の村巡りを思い出します。
お褒めのコメントを頂戴し、ありがとうございます。
そして、ご投票にも感謝致します。
ガラスは、人類が創作したものの中で一番好きなもの。
大昔、New York5番街で「Steuben Glass」(店の奥に展示されていた芸術的作品群)を見て以来、魅せられてしまいました。
そのSteubenも会社閉鎖。
その後、チェコグラス、特にMoser(モーゼル)を知ってまたまた魅了されました。GalleやDaum(ナンシー派)、Baccaratも素晴らしいけれど、やはりLalique(注:Reneに限る・笑)の少し控えめな優美はたまらなく好きです。
一方、ベネチアン・グラス(箱根ガラスの森美術館に沢山ありますね)は大胆な色使いに惹かれます。
Laliqueなら日本のコレクションは凄いです。
箱根に限らず、飛騨や長浜にもオドロキの展示があります。
残念なのは、これもお気に入りだった湘南江の島の「香水瓶美術館」が昨年閉館になってしまったこと。あの素敵なラリックの香水瓶たちは、今どこに隠れているのでしょう。
次回はサン・ニケーズ教会か、パリの中のラリックか、どちらかをupします。ご期待に添えるか、甚だ疑問ですが。。。
コメントを投稿する前に
十分に確認の上、ご投稿ください。 コメントの内容は攻撃的ではなく、相手の気持ちに寄り添ったものになっていますか?
サイト共通ガイドライン(利用上のお願い)報道機関・マスメディアの方へ 画像提供などに関するお問い合わせは、専用のお問い合わせフォームからお願いいたします。
とっしぃさんの関連旅行記
旅の計画・記録
マイルに交換できるフォートラベルポイントが貯まる
フォートラベルポイントって?
2
12