2012/06/03 - 2012/06/08
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JIC旅行センターさん
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■あらゆる人々が歩く信仰の道
トリニティ修道院を出てほどなく広い道路からはずれ、細い田舎道に入る。木造の家屋がまばらに点在する村の中を縫うように、曲がりくねった赤茶色の地道が続いている。1時間も歩いただろうか。大人5人のリュドミラ隊は、子連れのジーマ隊よりかなり先に来てしまったようだ。民家の塀の根元に座り込んで小休止。水を飲みながら、ジーマ隊を待つ。
休憩している私たちの前を、次から次へとリュックを背負った人々が通り過ぎていく。キーロフ十字架行進に参加しているのはどんな人たちなのか。あらためてじっくり観察してみる。
小学生くらいの女の子を連れた男性がゆっくりと歩いてくる。女の子はしっかりと父親の手を握っている。
頭をスカーフでおおった女性の集団がいる。皆一様に丸めた敷きマットをリュックにくくりつけている。
緑や茶色の迷彩服に身を包んだ若者たちが軽快な足どりで追い越していく。聖書の一節か、ときどき何やら交代で暗唱している。歌を歌っている一団もある。
2〜3歳の幼児を乗せたベビィバギィを押して若い母親が通り過ぎる。子どもは揺られて眠っている。
年配の婦人とその娘が手をつないで歩いてくる。首から小さなイコンをペンダントのように下げている。足元は2人とも素足だ。白い足がまぶしい。
老人が、杖を突いて行く。大きなリュックを担いでいる。ゆるゆる、よろよろと、追い越されながらも歩いていく。
大きな額縁に入ったイコンを胸に掲げて行く女性。太り肉が逞しい。祈りの言葉を朗誦してはときどき頭を上げ下げしながら通り過ぎる。
若者、中年、老人、子供、女性、男性、あらゆる年齢層が入り混じっている。普段はごく普通の市民なのだろう。しかし、ここでは誰もが何かにすがるようにして、敬虔な顔をして歩いているように見える。歩くことによって精神が浄化されるのか、あるいは信仰の力が人の心を清浄にするのか、おそらくその相乗作用だろうが、このキーロフの道は特別な道だと思いながら人々の顔を眺めつづけた。
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■あらかじめ決められている休憩地と休憩時間
キーロフ行進には1時間半から2時間歩くごとに、1?2時間の休憩がプログラムされている。大規模な集団で一定の距離を一定の時間内に一斉に歩くキーロフ行進と、個人または数人程度の小グループで距離も時間もコースも気ままに歩く四国遍路では、比較すること自体に無理があるのだが、私がこれまで経験してきた遍路歩きとは随分違う。
四国では私の場合、歩行距離を稼ぐために、1時間に1回、10?20分程度の小休憩をこまめにはさんで早朝から夕方まで歩いた。長く休むと体が緩んでかえってあとが苦しくなるから、休憩時間はできるだけ短くした方がよいというのがガイドブックの助言だった。歩行時間は朝7時から夕方5時ごろ(夏場は朝5時から)まで10時間(12時間)程度。夕方、宿に着いたらすぐ風呂に入り、夕食を食べて、夜8時か9時には寝てしまう。睡眠をたっぷり取って、ひたすら歩いた。道が整備され、いたる所に自動販売機や食事処があり、休憩や宿泊の場所が確保できる日本だからこそできる歩き方だ。
しかし、キーロフではこのスタイルは通用しない。何よりも人が多すぎるし、途中の村や原野には食事とか休憩の施設はほとんどない。したがって、1日の移動距離とコースから逆算して、休憩地と休憩時間があらかじめ決められているのだ。万単位の大集団の歩行移動を混乱なく進めるためには、こうするしかないだろう。
このキーロフのスタイルを体が理解するのに1日かかった。おかげで初日はテンポが狂って、歩行距離が短く休憩時間が長いにもかかわらず、午後も遅くなると足取りが鈍ってきた。しかも、背負っているリュックは当然のことながら四国遍路よりも相当重く、10kgは軽く超えている(もっともセルゲイ氏のリュックは20kg以上ありそうだが)。前夜の夜行列車での寝不足も手伝って、キーロフ行進初日は予想外に辛いものになった。
■疲れを倍加させる雨中の行進
疲れに拍車をかけたのは雨だった。夕方17:30にこの日3回目の休憩をとった。1時間ほど休憩して再出発するはずだった。道端の草むらにマットを敷き、腰をおろして5分もしないうちに、急に冷たい風が吹き過ぎ、空が暗くなって、大粒の雨が降り出した。あわててマットをしまい、リュックを背負って雨具をつける。雨がバラバラと勢いよく降ってくる。雨合羽を雨水が伝う。皆、リュックを背負ってじっと立ったままだ。行進はまだ始まらない。先頭の十字架とイコンが動き出さないと皆歩けないのだということ、そして先頭は決められた時間にならないと動き出さないということをここで初めて知った。
18:00になってようやく行進の先頭が動き始めた。少し遅れて私たちも草むらから出て歩きだす。雨はシトシトと、その日の宿泊地、ボービノ村に着いてもまだ降り続けた。雨は疲れを倍加させる。雨中の行進が足取りをさらに重くした。しかし、リュドミラさんによれば、この程度の雨はまだ序の口らしい。「明日はもっときついわよ」。彼女は平然と言う。
ボービノ村では、ジーマ氏の友人宅というアパートに宿泊させてもらった。小さな部屋の床に寝袋でごろ寝する。窓の外では、降りしきる雨の中でテントを張る人の姿があちこちに見える。雨露がしのげ、椅子に座って温かい食事ができるだけでもここは「豪華ホテル」だ。こうして、キーロフでの1日目は過ぎていった。
(つづく)
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