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<2日目 6月4日><br /><br /> リュドミラさんの予言は当たった。<br /><br /> 6月4日の朝は午前2時半に起床した。窓の外では野外テントをたたんで出発準備をする人たちがあわただしく動き回っている。前日の夕方から降り始めた雨は夜半にあがったようだが、足元は十分に濡れており、道のあちこちに大きな水たまりができている。これは歩きにくそうだ。はるばる日本から持ってきたゴム長靴を袋から取り出す。<br /><br /> 狭いキッチンで順番に朝食をとり、出発準備を整えてアパートの外に出た。ダニ除けスプレーを互いにかけあい、ジーマ一家が降りてくるのを待つ。大人はまだしも、まだ小さいニキータやイリヤ君には、この早立ちは辛かろう。寝ぼけ眼をこすりながら降りてくる。全員が揃って、ボービノ村を出発した時には4時になっていた。行進先頭の出発時間は3時だが、この時間になってもまだたくさんの人が歩いている。<br /><br /> 村はずれを過ぎるまで、道端の林の下の草むらには、マットを敷いた凹みがあちこち残っている。ボービノは小さな村だ。そこで約3万人が一夜を明かしたのだから、雨の野外で横になった人の方が多かったに違いない。あらためてこの十字架行進の過酷さを思う。

キーロフ十字架行進 泥濘(ぬかるみ)の道(6)

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2012/06/03 - 2012/06/08

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JIC旅行センター

JIC旅行センターさん

<2日目 6月4日>

 リュドミラさんの予言は当たった。

 6月4日の朝は午前2時半に起床した。窓の外では野外テントをたたんで出発準備をする人たちがあわただしく動き回っている。前日の夕方から降り始めた雨は夜半にあがったようだが、足元は十分に濡れており、道のあちこちに大きな水たまりができている。これは歩きにくそうだ。はるばる日本から持ってきたゴム長靴を袋から取り出す。

 狭いキッチンで順番に朝食をとり、出発準備を整えてアパートの外に出た。ダニ除けスプレーを互いにかけあい、ジーマ一家が降りてくるのを待つ。大人はまだしも、まだ小さいニキータやイリヤ君には、この早立ちは辛かろう。寝ぼけ眼をこすりながら降りてくる。全員が揃って、ボービノ村を出発した時には4時になっていた。行進先頭の出発時間は3時だが、この時間になってもまだたくさんの人が歩いている。

 村はずれを過ぎるまで、道端の林の下の草むらには、マットを敷いた凹みがあちこち残っている。ボービノは小さな村だ。そこで約3万人が一夜を明かしたのだから、雨の野外で横になった人の方が多かったに違いない。あらためてこの十字架行進の過酷さを思う。

  • ■泥濘(ぬかるみ)の道<br /><br /> 前日はかなりの部分が簡易舗装の道路だったが、この日は最初からまったくの地道だ。白樺林がまばらに点在する平原のなかの道を、泥濘に足を取られながら、大きな水たまりを避けつつ歩く。夥しい人が次々と歩くので、地道はますます柔らかく、泥だらけになっていく。跳ね上げる泥が靴やズボンを汚す。泥道をさけるために路肩の草を踏む人が増え、路肩がどんどん横に広がっていく。40〜50cmに伸びた細長い草の葉がベッタリと踏みしだかれ、泥水と混じりあって、無残な姿をさらしている。まさに人が歩いた後に道ができる状態だ。この泥濘は、まるで混沌としたロシアそのもののようだ。<br /><br /> ゴム長靴は、足元が濡れなくていいが、シューズに比べるとかなり歩きにくい。少し大きめの長靴を買ってしまったので、足が靴の中で滑ってよけいに歩きにくい。リュドミラさんはと見ると、「長靴は必須」と言っていたはずなのに、ゴム長ではない。くるぶしまで隠れる大きめの野外用シューズを履いている。<br /><br />「ゴム長は歩きにくいから、私はこれにした」。<br /><br /> やられた。セルゲイ氏もジーマ氏もやはり同じようなシューズ姿だ。足元は多少濡れても、歩きやすさはゴム長よりずっと上だ。ゴム長を履いたのは失敗かもしれないと思いつつ、足をひきずるようにして泥濘の道を歩き続けた。

    ■泥濘(ぬかるみ)の道

     前日はかなりの部分が簡易舗装の道路だったが、この日は最初からまったくの地道だ。白樺林がまばらに点在する平原のなかの道を、泥濘に足を取られながら、大きな水たまりを避けつつ歩く。夥しい人が次々と歩くので、地道はますます柔らかく、泥だらけになっていく。跳ね上げる泥が靴やズボンを汚す。泥道をさけるために路肩の草を踏む人が増え、路肩がどんどん横に広がっていく。40〜50cmに伸びた細長い草の葉がベッタリと踏みしだかれ、泥水と混じりあって、無残な姿をさらしている。まさに人が歩いた後に道ができる状態だ。この泥濘は、まるで混沌としたロシアそのもののようだ。

     ゴム長靴は、足元が濡れなくていいが、シューズに比べるとかなり歩きにくい。少し大きめの長靴を買ってしまったので、足が靴の中で滑ってよけいに歩きにくい。リュドミラさんはと見ると、「長靴は必須」と言っていたはずなのに、ゴム長ではない。くるぶしまで隠れる大きめの野外用シューズを履いている。

    「ゴム長は歩きにくいから、私はこれにした」。

     やられた。セルゲイ氏もジーマ氏もやはり同じようなシューズ姿だ。足元は多少濡れても、歩きやすさはゴム長よりずっと上だ。ゴム長を履いたのは失敗かもしれないと思いつつ、足をひきずるようにして泥濘の道を歩き続けた。

  • ■森の中は大渋滞<br /><br /> 途中、30分程度の休憩を一度とり、7時前に大きな森の前に着いた。それまでは好き勝手に横10列くらいに広がって平原の道を歩いていたのだが、森の入口で急に道が狭まり、人だまりができている。<br /><br /> 入口の人だまりから中に踏み込むと、森の道は大渋滞だ。まるでラッシュアワーの新宿駅のホーム状態。2、3歩行っては止まり、また2、3歩行っては止まる、ノロノロ歩きの繰り返し。前も後ろもリュックを背負った人で埋まり、前方の様子がサッパリ見えない。リュドミラさんたちとはぐれないように、何回も位置を確認する。しばらく歩くうちにようやく事情がわかってきた。<br /><br /> 森の中も5〜6列で歩ける程度の道幅なのだが、あちこちに道いっぱいに広がる水たまりができており、そこを通過するときは道の片側か両端を1列か2列にならないと通れないのだ。大きな水たまりにぶつかるたびに立ち止まり、譲り合いつつ、足の踏み場を慎重に探り、道端を迂回していく。それでも泥濘は容赦なく足にまとわりついてくる。スピードがガクンと落ちて渋滞になるわけだ。やっぱり今日はゴム長靴を履いて正解だった。<br /><br /> 中には長靴や裸足で水たまりのなかを勇ましく進んでいく人もいるが、泥濘の深さは半端ではない。泥だらけになりたくなければ、歩調を合わせてゆっくり迂回していくしかない。可哀想なのは、ベビィバギィに子供を乗せて押す人だ。車輪に泥が絡まり、一向に前に進まない。手押し車を二人がかりで抱え上げ、大汗をかきながら運ぶ人もいる。何故こんなに難渋しながら、それでも歩くのか。不思議な気分に襲われるが、自分もその中の1人なのだ。「何故?」と聞かれても答えはすぐには出てこない。出てこないが、しかし、自分も確かに歩いている。<br /><br />■「ママ、カーチャ!」<br /><br /> 森の中でリュドミラさんが小学生くらいの女の子を見つけた。母親とはぐれてしまったらしい。ベソをかきながら歩いている。<br /><br />「名前は?」とリュドミラさん。<br /><br />「カーチャ、…」、か細い小さな声。<br /><br />「ママ、カーチャ!」(カーチャのママはドコ?!)<br /><br /> リュドミラさんが大声で行進の前後に呼びかける。声を聞いた人が「ママ、カーチャ!」と繰り返し、伝言ゲームを始める。しばらくして後ろの方で「私、カーチャの母だけど?」と声がする。しかし、現れたのはかなり年配のおばさん。小学生のカーチャのママではない。カーチャ(エカテリーナ)という名の女の子はいくらでもいる。ロシアではとてもポピュラーな名前なのだ。<br /><br /> カーチャの母親は前を歩いているのか、後ろを歩いているのか、なかなか現れない。手をつなぎ、「大丈夫だよ。きっと見つかるよ」と励ましながら歩き続けるリュドミラさん。突然、カーチャの背中の小さなリュックの中で携帯電話が鳴りだした。母親からの電話に違いない。カーチャが電話を取り出すのに手間取っている間に呼び出し音は途絶えた。落胆するカーチャ。再び鳴りだす。今度は繋がった。リュドミラさんが状況を説明する。やがて前方から目にいっぱい涙をためた大柄の母親が現れて、小さなカーチャの手をしっかりと握りしめた。

    ■森の中は大渋滞

     途中、30分程度の休憩を一度とり、7時前に大きな森の前に着いた。それまでは好き勝手に横10列くらいに広がって平原の道を歩いていたのだが、森の入口で急に道が狭まり、人だまりができている。

     入口の人だまりから中に踏み込むと、森の道は大渋滞だ。まるでラッシュアワーの新宿駅のホーム状態。2、3歩行っては止まり、また2、3歩行っては止まる、ノロノロ歩きの繰り返し。前も後ろもリュックを背負った人で埋まり、前方の様子がサッパリ見えない。リュドミラさんたちとはぐれないように、何回も位置を確認する。しばらく歩くうちにようやく事情がわかってきた。

     森の中も5〜6列で歩ける程度の道幅なのだが、あちこちに道いっぱいに広がる水たまりができており、そこを通過するときは道の片側か両端を1列か2列にならないと通れないのだ。大きな水たまりにぶつかるたびに立ち止まり、譲り合いつつ、足の踏み場を慎重に探り、道端を迂回していく。それでも泥濘は容赦なく足にまとわりついてくる。スピードがガクンと落ちて渋滞になるわけだ。やっぱり今日はゴム長靴を履いて正解だった。

     中には長靴や裸足で水たまりのなかを勇ましく進んでいく人もいるが、泥濘の深さは半端ではない。泥だらけになりたくなければ、歩調を合わせてゆっくり迂回していくしかない。可哀想なのは、ベビィバギィに子供を乗せて押す人だ。車輪に泥が絡まり、一向に前に進まない。手押し車を二人がかりで抱え上げ、大汗をかきながら運ぶ人もいる。何故こんなに難渋しながら、それでも歩くのか。不思議な気分に襲われるが、自分もその中の1人なのだ。「何故?」と聞かれても答えはすぐには出てこない。出てこないが、しかし、自分も確かに歩いている。

    ■「ママ、カーチャ!」

     森の中でリュドミラさんが小学生くらいの女の子を見つけた。母親とはぐれてしまったらしい。ベソをかきながら歩いている。

    「名前は?」とリュドミラさん。

    「カーチャ、…」、か細い小さな声。

    「ママ、カーチャ!」(カーチャのママはドコ?!)

     リュドミラさんが大声で行進の前後に呼びかける。声を聞いた人が「ママ、カーチャ!」と繰り返し、伝言ゲームを始める。しばらくして後ろの方で「私、カーチャの母だけど?」と声がする。しかし、現れたのはかなり年配のおばさん。小学生のカーチャのママではない。カーチャ(エカテリーナ)という名の女の子はいくらでもいる。ロシアではとてもポピュラーな名前なのだ。

     カーチャの母親は前を歩いているのか、後ろを歩いているのか、なかなか現れない。手をつなぎ、「大丈夫だよ。きっと見つかるよ」と励ましながら歩き続けるリュドミラさん。突然、カーチャの背中の小さなリュックの中で携帯電話が鳴りだした。母親からの電話に違いない。カーチャが電話を取り出すのに手間取っている間に呼び出し音は途絶えた。落胆するカーチャ。再び鳴りだす。今度は繋がった。リュドミラさんが状況を説明する。やがて前方から目にいっぱい涙をためた大柄の母親が現れて、小さなカーチャの手をしっかりと握りしめた。

  • ■野外トイレ<br /><br /> 森の中を通り抜けるのに1時間半かかった。距離にすれば4キロ程度だろうが、感覚としてはその倍くらい歩いた気分だ。森を抜け出た先の草原でこの日2回目の休憩をとる。マットを敷き、倒れこむようにして横になる。30分ほど横になり、甘い物を口に入れてようやく人心地がついた。<br /><br /> 元気になるともよおしてきた。草をかき分け、白樺の林に向かう。自然と男性が分け入る方角と、女性が分け入る方角は反対方向になっている。木陰で放尿をすませてあたりを見渡すと、林の中のあちこちに白いものが散らばっているのが目に入ってきた。それは夥しいティッシュの山。そう、森の中はウンコだらけだったのだ。人間も動物の一種なのだから食べなければ生きられない。食べれば当然、排泄物が出る。当たり前の話だと納得しつつも、白樺林から早々に退散した。<br /><br /> 天気が回復し、雲間から太陽が顔を出した。ジーマ氏にこのあとの道の様子を尋ねる。もう水たまりはあまりないとのこと。ゴム長靴をしまい、シューズに履き替える。慣れぬゴム長で無理して歩いたので左足に豆ができたようだ。かなり痛む。まだ今日の行程は三分の一も歩いていない。<br /><br />(つづく)<br />

    ■野外トイレ

     森の中を通り抜けるのに1時間半かかった。距離にすれば4キロ程度だろうが、感覚としてはその倍くらい歩いた気分だ。森を抜け出た先の草原でこの日2回目の休憩をとる。マットを敷き、倒れこむようにして横になる。30分ほど横になり、甘い物を口に入れてようやく人心地がついた。

     元気になるともよおしてきた。草をかき分け、白樺の林に向かう。自然と男性が分け入る方角と、女性が分け入る方角は反対方向になっている。木陰で放尿をすませてあたりを見渡すと、林の中のあちこちに白いものが散らばっているのが目に入ってきた。それは夥しいティッシュの山。そう、森の中はウンコだらけだったのだ。人間も動物の一種なのだから食べなければ生きられない。食べれば当然、排泄物が出る。当たり前の話だと納得しつつも、白樺林から早々に退散した。

     天気が回復し、雲間から太陽が顔を出した。ジーマ氏にこのあとの道の様子を尋ねる。もう水たまりはあまりないとのこと。ゴム長靴をしまい、シューズに履き替える。慣れぬゴム長で無理して歩いたので左足に豆ができたようだ。かなり痛む。まだ今日の行程は三分の一も歩いていない。

    (つづく)

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