2011/05/20 - 2011/05/21
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鯨の味噌汁さん
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ギリシャ5日め。
アテネを脱出し、メテオラの「奇岩・修道院群」を見物することに首脳会談(2人)で決定し、宿を出る。
まずはメテオラに隣接する町、カランバカを、はるばる、目指さなくてはいけない。
ラリッサの鉄道駅で直通列車を探し当て、8時21分、乗り込む。4時間半の予定だ。6両編成のうち、前3両がカランバカまで行く。
- 旅行の満足度
- 5.0
- 観光
- 4.5
- ホテル
- 3.5
- 交通
- 3.0
- 同行者
- カップル・夫婦
- 一人あたり費用
- 15万円 - 20万円
- 交通手段
- 鉄道 高速・路線バス タクシー 徒歩
- 旅行の手配内容
- 個別手配
-
途中、列車はバルナッソス山の中腹を、あえぎあえぎ越えていく。
古い古い山塊が続く。狭い単線区間。列車のスピードが極端に落ちる。
やがて峠を越え、列車は何本かのトンネルを抜け、中部平原に降りててく。山すそを撒きながら、高度を徐々に下げる。
平原の駅では、停車するごとに、お客さんの数が減ってくる。
メテオラを目指す観光客ばかりかと思いきや、意外と地元民が利用しているらしい。
停車する駅の中には「駅」というよりも、「停車場」という表現がふさわしい場所もある。
終点の手前にトリカラという、ちょっとおいしそうな名前の町があり、そこでお客さんのほとんどが降りていった。
残ったのは何人かの個人旅行者と、ワシらふたりである。 -
そのトリカラから、バックパッカーの東洋人が乗り込んできた。
麦ワラ帽に半そでシャツ。手には2リットルのミネラルウォーター。
日焼けが目立つ。白髪の細身、60歳くらい。
一見、リタイアした日本人に見えた。
しかし、しかしだ。
ツアーでもないこんなディープな列車に、途中のトリカラから、個人旅行の日本人が乗り込んでくるなんて、あるんだろうか。
いぶかしく思いつつ、近寄って訊ねてみる。
「日本人の方ですか」
相手はぎょっとしてワシを見る。
「えっ。日本人なんですか!」
ワシは海外では、たいてい、日本人に見られない。満州族か朝鮮族。
「日本人ですよ。アテネからです」
「はぁ〜。久しぶりの日本語ですわ」
聞いてみると、トルコから陸路ギリシャに入ったばかりの、個人旅行者だった。
日本を出て2週間たつという。
ワシと配偶者を交互に見て、
「夫婦でご旅行ですか、いいですねぇ、うらやましい」
「いえまぁ、二人ともツトメ持ちなんで、現地5泊です。なんちゃって個人旅行っす」
アタマをかきかき言う。
こういうハードボイルドな旅をしている人から見たら、ワシらなんてママゴトみたいに見えるんだろうな。
「私はずっと独身でして。今は海外3ヶ月、国内3ヶ月って感じで旅してるんです。貧乏バックパッカーです」
いやいやそんなこと聞いてない聞いてない。
「トルコだったら一日3000円で旅行できます。ギリシャは高いです。節約しても6000円とか掛かるんです」
そりゃ仕方ない、ユーロ圏だもの。それに近年インフレが加速してるし。
「私、ぜんぜん英語できないんです。だから苦労してますっ」
それならワシだって出来ないぞ。自慢じゃないが高校時代の英語の成績は「1.2.1.2.げんきなこうしん」だ。
…とおもいつつも、鯨はちょっとだけ警戒した。
初対面で自分のことを赤裸々にしゃべる人間には、ホンのたまにであるが、注意すべき人種が混じっていることがあるから。 -
やがて、平原の向こう、車窓の右側に巨岩の群れが現れる。
「メテオラ!」
ぱらぱらと車内にのこっていた観光客が、歓声を上げて車窓をのぞく。
群馬の妙義山ににた山塊が、平野の終わりにそびえていた。
ほどなく、終点・カランバカに列車は到着した。
オジサンは「3ヶ月海外」のわりには小さな荷物を背負い、ワシたちに言った。
「ありがとうございました。10日ぶりに日本人と会えました」
サワヤカに手を振り、去っていった。
いっしょに宿を取ろうとも、メテオラに三人で行こうとも、言わなかった。
後姿を見送りながら、ワシは呆然とつぶやく。
「しまった。いいヒトだった」
「…何いってるの」
配偶者が不審そうにいう。
「いきなり独身です、貧乏旅行してます、なんて言うから、警戒した。
親しくなる前に、プライベートをしゃべるのは怪しいナ、と」
「違うわよ。聞かれるのがイヤだから、独身ですって最初に宣言したのよ」
あ、そうか。
「貧乏旅行してますっていうのも、割り切ってるから言えるのよ」
ふむふむ。
「オカネはあるけど、こういう旅が好きだからしてます、なんていう人に比べたら、よほど潔いじゃない」
なるほど。キミはときどきだが、ものすごく良いことを言うナ。
ちょっと反省する鯨であった。
しかし、しかし。
ひょっとして、オジサンは、ワシらのことを夫婦旅行とは思わず、
「会社の上司と部下・不倫・絶望・ギリシャ逃亡の旅」
なんかに、見えていたのかもしれない。
だから、近づいてこなかったのかもしれないナ。 -
さて、メテオラである。
奇岩の上に、6つの修道院があやうげに乗っかっている、世界遺産の地だ。
カランバカの街から歩いて、その6つを回ると丸一日のコースになる。
が、列車が遅れに遅れ、宿に落ち着いたのが午後2時過ぎ。
われわれは翌朝の9時には、バスでアテネに向かわなくてはいけない。
やむなく、カランバカから一番奥の大メテオロメン修道院まで、タクシーを使うことにした。
そこから山道を下り、歩いてカランバカに戻ってくることにする。
運転手は、たくましい両腕にイレズミがあり、なおかつ毛深いお兄ちゃんだった。
ひそかに「毛蟹」と命名する。
陽気で、実に分かりやすい英語をしゃべる。
「メニメニ・ジャパニーズ・カミング」
うんうん。それくらいならワシでもわかるぞ。
「全部歩くと、ベリ・ハードある。私、ガイドするある」
毛蟹は、抜け目なく営業してくる。
「ハ、ハウマッチ?」
気弱に訊ねる。
毛蟹、両腕を大きく振りながら説明する。
オーバーアクションだ。カーブの多い道なのに、両手を離して熱弁をふるう。
「イフ・ユー・ホープ、1時間20ユーロ。2時間40ユーロ。50ユーロでオールデイ・オッケー、メテオラのすべてが、あなたのものある」
確かにこの坂道を全部歩くのは、ちとツライかもしれん。暑いし。ワシはややデブだ。
が、配偶者のほうを見ると、その顔に
「歩きたい。ぜひぜひ、歩きたい」
と、チカラいっぱい書いてある。
彼女は見た目と違い、地を這うような旅がお好みなのである。フルマラソンを完走するオンナなのである。
うむむ、と鯨は運転手さんに向き直って言う。
「ロングドライブ、ノーサンキュー。ジャストオンリー、ジス・ドライブ」
恐るべし、これが観光地では通用する。浦和駅前の英会話教室の講師はショックのあまり悶絶するであろう。
「おお。ベリーベリー残念ある。今からだと、最後の修道院、タイムオーバーあるよ」
「すまぬが、ウィア・モースト・プア・ツーリスト・イン・ジャパンである」
力強く宣言すると、毛蟹は「モースト・プア・ツーリスト」に反応し、ウケつつも、ガッカリしている。
が、そこはプロなので、
「ノープロブレムある」
なんて言いつつ、大メテオロン修道院の入口で二人を降ろしてくれた。
毛蟹は、どうやらいいヤツなのであった。 -
この日は金曜日で、六つの修道院のうち二つが定休日。(⇒土日は全部開く)
そのせいか、世界遺産とゆうよりは、お客さんがぱらぱらの鄙びた観光地、といった風情であった。
最初の修道院は、ちょっとした歴史博物館も兼ねていた。
イコンに埋まった本堂を出ると「ギリシャの苦難の歴史」といった展示館へ。
ギリシャは、ヨーロッパの南西のはしっこ。中東にもアフリカにも近い。ややこしいところに国がある。
だから、常に殺し合いが身近にあった。民族で殺し合い、宗教で殺し合い、飢えで殺し合った。
海で殺し合い、島で殺し合い、丘でも谷でも殺し合った。
占領され、ときに皆殺しにされ、ときに奴隷にされた。
まこと、散々な歴史である。民族自体が、滅んでいても不思議ではない。
四方が海で「昼寝してても大丈夫」だった日本とえらい違いである。
だからギリシャ正教の修道士たちは、戦乱と迫害を逃れて、この地に修道院を作ったらしい。
最盛期には修道院が21あったというから、比叡山みたいな感じだったと思われる。
が、今はそのうちの6つしか活動していない。いわば日本で言う「限界集落」みたいなものだ。
ほうっておけば、なくなってしまう類のものだったろう。
それが世界遺産に指定されて、
「え。あんなオバケ屋敷が、観光になるのか」
とゆう感じで、おっつけ観光に力を入れている、という図に見えた。 -
舗装された日陰のない道を、テクテク歩く。平日で人は少ない。
ツアーのバスが何台かわれわれを追い抜いていく。クルマも追い抜いていく。
ゆっくりと日がかたむく。
そして風景もまた、ゆっくりと変わる。
歩くヤツだけに見える風景が、確かにある。
遠くに見えるローソクの先端に、それぞれ建物がちょこんと乗っかっている。
オイ待て、ちょっと待て。
そこにそんなモノを載せられるわけないだろう、どうやって載せたんだ、説明しろ説明、などと突っ込みながら歩く。
「スター・ウォーズ」や「アバター」に、こんな風景があったかもしれない。
何メートルか歩くごとに、たちどまり、振り返る。
「クルマにしなくてよかったね」
遠くを見ながら、配偶者がいう。 -
やがて三つ目のアギア・トリアダ修道院にたどりつく。
入り口に差し掛かったところで、時計が4時55分をさした。
この修道院は5時の閉館だ。
そして、この先にある最後のアギオス・エテファノス修道院は午後6時の閉館。
坂道を下りてきた観光客が、われわれに、腕時計を指差して
「ハリアップ」
なんていって笑う。
いいのいいの。間に合わなければ、引き返せばいいだけの話だ。
とぼとぼ、ふたりで階段をのぼっていく。
ぐるりとローソクを回って、入り口にたどりつき、院内にようやく入れた。 -
ここの高台からは、カランバカの街が一望できる。
一休みして、建物の内部の見学は断念。
出口へ歩くと、カギを持った修道士が、ふたりのあとをゆっくりとついてきた。
つまり、われわれはその日の最後の入場者であったらしい。 -
坂道を折りきったところで、カランバカへ通じる道しるべを見つけた。
草深い歩道だが、車道を歩くよりはよほど速いだろう。
奇岩を振り返り振り返り、宿へ帰っていったのである。
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この旅行記へのコメント (2)
-
- mistralさん 2014/06/13 15:06:22
- お久しぶりです。
- 鯨の味噌汁さん
mistralです。
たくさんのご投票をありがとうございました。
今年はどこかで楽しい旅をされたかしら?と思い
訪問させていただきました。
まだのようでしたね〜
ご計画中でしょうか?
ロードス島からギリシャの旅行記、拝見しました。
コメントの楽しさに相変わらず、一人クスクスと
してました。
マルタ旅行の際、ロードスか、マルタかと迷いました。
ロードス島もとても惹かれるところです。
mistral
- 鯨の味噌汁さん からの返信 2014/06/20 12:55:13
- RE: お久しぶりです。
- mistralさま、
こんにちは、ご訪問ありがとうございます。
旅行、全然行けてません。今年は国内に「張り付き」です。
行けたとしても12月かなぁ。
ヨイですねモロッコ。実は行きたい土地の一つなんです。
思わず読み入ってしまいました。ああうらやましい。
トルコ航空かカタール航空で、1回乗換で行けるんですね。案外料金も安い・・・ビジネスクラスは無理ですが。
確かに、完全フリーじゃなくて、現地でガイドさんをお願いした方がよさそうですね。
うーむ、迷うなー。。。計画しちゃおうかなー。
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