トンブクトゥ旅行記(ブログ) 一覧に戻る
 だまされたせいで飲みに行かないから、ホテルで過ごすしかない。部屋で持ってきたラジオでFMをかける。音楽が好きだ。物思いに耽っていると、「どうせ考え事するなら星空を見ながらが、いいな。ここには屋上テラスがあるみたいだし」そう思って部屋を出て、階段を上がった。でも、何処を探しても屋上に行く階段が見つからない。仕方ないので、別棟のロビーまで行き、店番?をしている少年に、屋上に行きたい旨を伝えようとした。一向に伝わらない。彼に階段を上らせて、屋上を指差し「でも階段が無いんだ何処?」と言うと、やっと「あぁ」と言って、もう一度ロビーに戻り、一つ鍵を選んだ。2階の中央に、大きな扉があった。どうやら、そこから屋上にいけるらしい。重い威厳のあるその扉に鍵を差し込んで、がちゃがちゃやっていると、扉の向こうから太い声がする。少年は細い悲鳴を上げて、背筋がピシっと伸びる。私と顔を見合わせたかと思うと、彼は走り出した。「えー置いていかないでよー」と私も彼の後に続く。階段を駆け下り、建物から少し離れたところで振り返り、追っ手が無いか確認した。彼がギュっと私の手を握った。それから彼はロビーに戻り、肩で息をしながらセキュリティーマンに経緯を興奮して説明する。セキュリティーマンも「よし分かった一緒に行こう」とロビーの鍵を閉め、扉に向かった。ホテルの従業員らしき2人組みが、外から帰ってきた。彼らもついて来てくれて5人で、扉を開けようとする。そして、開いた。パンツ一丁のおっさんが出てきて、「なんだ、こんな時間に」と迷惑そうに目を擦る。「彼女が屋上に行きたがっている」とセキュリティーが説明すると「明日にしてくれ」と一喝。扉の向こうは広い部屋で、マットレスが沢山置いてある。その奥に、階段が見えた。多分オーナーは私とこのおっさんがここに泊まるのを避けるために、ドミは満室だと言ったのだろう。みんなが私を見ている。<br />「もちろん、明日でいいです。ごめんなさい」<br />おずおずと応えた。おっさんはドアを閉め、また眠りに就いたようだった。ホテルの従業員らしき人の名は、モハメド。彼が、<br />「これからお茶を入れるから、飲んでいきなよ。屋上じゃなくても、十分星は見れるさ」<br />と誘ってくれる。ソファーに腰掛け、夜空を眺めた。<br />「今夜は君が音楽を演奏して」<br />小さい箱に長さの違う金属の鍵盤がついた楽器を渡された。鍵盤をはねると、透き通った音がする。美しい音色だった。モハメドは町のバーで、音楽を演奏してきたそうだ。観光客が多い夜は、演奏のために呼び出される。何十人ものフランス人に、音楽を提供してきた帰りらしい。もう一人の彼は、ジャンベを演奏するらしい。彼は英語が上手だ。観光客と喋るうちに、覚えたそうだ。警戒して、ガイドじゃないのかと聞くと、「僕はミュージシャンだ。ガイドをする必要はない」と言う。<br />「こうやって、日本の人と喋るのは初めてで嬉しい」<br />日本人は、いつも団体で行動して誰も近付かない。昨日も何十人も来ていたけれど、飛行機で朝来てラクダに乗って、夕方には帰っていたそうだ。<br /> チャコールに火をつけるところから始めたので、ゆっくりと時間が流れる。お湯が沸くまでの間、彼は楽器をとると演奏を始めた。それはそれは美しい音楽だった。この小さい楽器から、様々な音色が発せられる。時に複雑に、時にシンプルに。うっとりしてしまった。彼は本当に私を気に入ってくれて、「君のために今度はこの曲を演奏するね」と演奏し続ける。お父さんから受け継いだ、演奏技術。マリには大切な宝物がちゃんと引き継がれている。<br />「ラクダを20頭、君の家族にあげるから、僕と結婚しよう」<br />聞きなれた「結婚しようも」今夜は特別に思えた。雰囲気が良すぎて、危うくそのプロポーズ受けそうになる。もし、本当に結婚するなら、この星空と音楽さえあれば私は何も要らないだろう。周りには、何人もの酔っ払いが集まっていたが、楽しい夜だった。人が来る度に、さっきの出来事をモハメドが面白おかしく話す。扉の向こうから、巨人の声がするなんて本当に砂漠の物語みたいだ。「星がみたかったんだよね」とモハメドが説明してくれる。タラバンは夜、星を目印に移動する。星空が羅針盤になる。マリ北部から、TOMBOUCTOUまで物資をラクダに乗せ、長い道のりを超えるのだ。彼らには彼らの名付けた星座がある。星の名前、星座の名前は覚えられなかったけれど、どれも美しい響きを持っていた。今夜、今も、星を頼りに砂漠のどこかで人々が移動していることを思うと、胸が熱かった。<br /> そろそろ寝るわ、と席を立つと、明日絶対出発前には住所を交換しようと言う。もちろんだ。冷えたがシャワーを浴びた。日中砂まみれだったから。中庭で歯磨きをしていると、メスのカブトムシみたいな昆虫に咬まれた。彼女をビーサンで踏んでいたので。立て付けが悪いので、いざ内側から鍵を閉めようとすると閉まらない。走って、また誰かを探しに外に出た。もう誰も居ない。セキュリティーの人が出てきてくれて、戸を閉めてくれる。布団に入って寝ようとすると、さっき咬まれた虫、毒持ちじゃないだろうかと、落ち着かなくなる。砂漠の虫のことなんて知らないから不安になる。何だか頭が重い気もしてきた。「明日の朝、死んでしまって起きれなかったらどうしよう」と考えてまた外に出た。中庭にへばりついて、虫を探していると、ホテルで野宿している男が共同トイレに向かうため出てきた。何故か一緒に探してくれる。地元の人っぽいので、「死なない?死なないよね?」と確認すると、死なないらしいので、部屋に戻った。目を瞑ると、今夜の出来事を頭の中で何度も反芻した。今までで一番、ロマンチックな夜だったかもしれない。来るところまで来た。小さい頃、自分が砂漠の町で眠るなんて思っていなかっただろう。中学校の地図帳に、蛍光ペンでラインを引いたサハラ砂漠今いる。大人になったら、こんなことまで出来てしまうのだ。ついに、明日はサハラが見られる。軽い興奮の中眠りにつく。冷めやらぬ高揚感とは逆に、毛布が無くて寒くて何度も起きた。

月の砂漠の夜[3.5日目]トンブクトゥ

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2008/02/07 - 2008/02/14

12位(同エリア18件中)

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美野里さん

 だまされたせいで飲みに行かないから、ホテルで過ごすしかない。部屋で持ってきたラジオでFMをかける。音楽が好きだ。物思いに耽っていると、「どうせ考え事するなら星空を見ながらが、いいな。ここには屋上テラスがあるみたいだし」そう思って部屋を出て、階段を上がった。でも、何処を探しても屋上に行く階段が見つからない。仕方ないので、別棟のロビーまで行き、店番?をしている少年に、屋上に行きたい旨を伝えようとした。一向に伝わらない。彼に階段を上らせて、屋上を指差し「でも階段が無いんだ何処?」と言うと、やっと「あぁ」と言って、もう一度ロビーに戻り、一つ鍵を選んだ。2階の中央に、大きな扉があった。どうやら、そこから屋上にいけるらしい。重い威厳のあるその扉に鍵を差し込んで、がちゃがちゃやっていると、扉の向こうから太い声がする。少年は細い悲鳴を上げて、背筋がピシっと伸びる。私と顔を見合わせたかと思うと、彼は走り出した。「えー置いていかないでよー」と私も彼の後に続く。階段を駆け下り、建物から少し離れたところで振り返り、追っ手が無いか確認した。彼がギュっと私の手を握った。それから彼はロビーに戻り、肩で息をしながらセキュリティーマンに経緯を興奮して説明する。セキュリティーマンも「よし分かった一緒に行こう」とロビーの鍵を閉め、扉に向かった。ホテルの従業員らしき2人組みが、外から帰ってきた。彼らもついて来てくれて5人で、扉を開けようとする。そして、開いた。パンツ一丁のおっさんが出てきて、「なんだ、こんな時間に」と迷惑そうに目を擦る。「彼女が屋上に行きたがっている」とセキュリティーが説明すると「明日にしてくれ」と一喝。扉の向こうは広い部屋で、マットレスが沢山置いてある。その奥に、階段が見えた。多分オーナーは私とこのおっさんがここに泊まるのを避けるために、ドミは満室だと言ったのだろう。みんなが私を見ている。
「もちろん、明日でいいです。ごめんなさい」
おずおずと応えた。おっさんはドアを閉め、また眠りに就いたようだった。ホテルの従業員らしき人の名は、モハメド。彼が、
「これからお茶を入れるから、飲んでいきなよ。屋上じゃなくても、十分星は見れるさ」
と誘ってくれる。ソファーに腰掛け、夜空を眺めた。
「今夜は君が音楽を演奏して」
小さい箱に長さの違う金属の鍵盤がついた楽器を渡された。鍵盤をはねると、透き通った音がする。美しい音色だった。モハメドは町のバーで、音楽を演奏してきたそうだ。観光客が多い夜は、演奏のために呼び出される。何十人ものフランス人に、音楽を提供してきた帰りらしい。もう一人の彼は、ジャンベを演奏するらしい。彼は英語が上手だ。観光客と喋るうちに、覚えたそうだ。警戒して、ガイドじゃないのかと聞くと、「僕はミュージシャンだ。ガイドをする必要はない」と言う。
「こうやって、日本の人と喋るのは初めてで嬉しい」
日本人は、いつも団体で行動して誰も近付かない。昨日も何十人も来ていたけれど、飛行機で朝来てラクダに乗って、夕方には帰っていたそうだ。
 チャコールに火をつけるところから始めたので、ゆっくりと時間が流れる。お湯が沸くまでの間、彼は楽器をとると演奏を始めた。それはそれは美しい音楽だった。この小さい楽器から、様々な音色が発せられる。時に複雑に、時にシンプルに。うっとりしてしまった。彼は本当に私を気に入ってくれて、「君のために今度はこの曲を演奏するね」と演奏し続ける。お父さんから受け継いだ、演奏技術。マリには大切な宝物がちゃんと引き継がれている。
「ラクダを20頭、君の家族にあげるから、僕と結婚しよう」
聞きなれた「結婚しようも」今夜は特別に思えた。雰囲気が良すぎて、危うくそのプロポーズ受けそうになる。もし、本当に結婚するなら、この星空と音楽さえあれば私は何も要らないだろう。周りには、何人もの酔っ払いが集まっていたが、楽しい夜だった。人が来る度に、さっきの出来事をモハメドが面白おかしく話す。扉の向こうから、巨人の声がするなんて本当に砂漠の物語みたいだ。「星がみたかったんだよね」とモハメドが説明してくれる。タラバンは夜、星を目印に移動する。星空が羅針盤になる。マリ北部から、TOMBOUCTOUまで物資をラクダに乗せ、長い道のりを超えるのだ。彼らには彼らの名付けた星座がある。星の名前、星座の名前は覚えられなかったけれど、どれも美しい響きを持っていた。今夜、今も、星を頼りに砂漠のどこかで人々が移動していることを思うと、胸が熱かった。
 そろそろ寝るわ、と席を立つと、明日絶対出発前には住所を交換しようと言う。もちろんだ。冷えたがシャワーを浴びた。日中砂まみれだったから。中庭で歯磨きをしていると、メスのカブトムシみたいな昆虫に咬まれた。彼女をビーサンで踏んでいたので。立て付けが悪いので、いざ内側から鍵を閉めようとすると閉まらない。走って、また誰かを探しに外に出た。もう誰も居ない。セキュリティーの人が出てきてくれて、戸を閉めてくれる。布団に入って寝ようとすると、さっき咬まれた虫、毒持ちじゃないだろうかと、落ち着かなくなる。砂漠の虫のことなんて知らないから不安になる。何だか頭が重い気もしてきた。「明日の朝、死んでしまって起きれなかったらどうしよう」と考えてまた外に出た。中庭にへばりついて、虫を探していると、ホテルで野宿している男が共同トイレに向かうため出てきた。何故か一緒に探してくれる。地元の人っぽいので、「死なない?死なないよね?」と確認すると、死なないらしいので、部屋に戻った。目を瞑ると、今夜の出来事を頭の中で何度も反芻した。今までで一番、ロマンチックな夜だったかもしれない。来るところまで来た。小さい頃、自分が砂漠の町で眠るなんて思っていなかっただろう。中学校の地図帳に、蛍光ペンでラインを引いたサハラ砂漠今いる。大人になったら、こんなことまで出来てしまうのだ。ついに、明日はサハラが見られる。軽い興奮の中眠りにつく。冷めやらぬ高揚感とは逆に、毛布が無くて寒くて何度も起きた。

同行者
一人旅
一人あたり費用
5万円 - 10万円
交通手段
高速・路線バス タクシー

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