2006/08/09 - 2006/08/09
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night-train298さん
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8月9日(水)Lugo 30.6km
いよいよ今日はルーゴだ。
サンティアゴまでの道のりで、最後の大きな街だった。
そして、ウシとマリアにとって、最後の一日となる。
二人はこの日の終わりにビルバオまでバスで向かい、そこから飛行機でドイツに帰るのであった。
10日間一緒に歩いた彼女たちとは、サンティアゴを前にしてお別れの時がきてしまった。
途中でみんなとはぐれてしまい、ロベルトから電話をもらった。
私の方が先に歩いてきているようだったので、待っていることにした。
野原にシートを敷き座った。
そこへアギーたちのグループが通りがかった。
次にやって来たのはミンケだった。
ミンケは背が高いオランダ美人。
「一緒に休んでいいかしら?」
昨日のレストランで食事をした時に、隣に座ったため、馴染みになったのだった。
彼女は去年「フランスの道」を歩き、巡礼宿でのボランティアもしたことがあると言う。
考古学の仕事を長年してきて、南米に居たため、スペイン語がかなり達者であった。
そんな彼女もこの『道』には少々幻滅ぎみだったらしい。
「『フランスの道』と違ってこの道にはパワーはないわ。みんなは歩きながらおしゃべりしているばかり。歌を歌いはじめると、私の知らない曲だから、なんか寂しくなっちゃうのよね。実はもう帰ることにしたの。おそらく今日か明日で・・・・・・。次にやりたいこともみつかったの。今までの仕事とは全く違うマッサージの仕事がしたいの。人を癒してあげることに喜びを感じ始めたのでね。」
私が感じていることと全く同じであった。衝撃的であったのは、もう帰ってしまうことを決意していること。
そこへおりしも合唱をしながら歩くスペイン勢がやってきた。
個人的には歌を歌うのはむしろ歓迎だった。音のない世界でスペインの歌を聞くのはそれも巡礼の一部だった。
でも、彼らは一人で歩くことがあるのであろうか。
たった一人で道に迷いながら不安な気持ちを抱え、そこで考えたりする機会があるのだろうか?!
全ての巡礼者には当てはまらないが、前半出会ったバカンス気分の巡礼者たち、後半から加わった仲間と『楽しく歩こう会』のような人たち。
彼女と辿ってきた道は似ていた。
ミンケが言った。
「巡礼宿でボランティアをしたのだけど、やってみてこれは違うと思ったわ。巡礼者と受け入れ側では似て非なるものなの。」
私もすでに10日間の巡礼宿でのボランティアを経験していた。
今の時点で言えることは、彼女と同じ意見であった。ただ、私の居たアルベルゲは、普通のものとは違う特殊なものだったから、その部分では学ぶべきことがあった。しかし巡礼宿で働いたからと言って、巡礼者と同じ気持ちには慣れなかった。むしろ無作法な巡礼者たちに対し、幻滅することがあった。
ミンケとの大きな違いは、私はまだこの『道』に望みをかけていることだった。
最後まで歩かなければ答えは出ないと思っていた。
本当は頭の中では疑問だらけなのに。彼女のような潔さは持っていなかった。
お互いに、話し易い言葉で語り合える相手を見つけ、心が少し軽くなった。
ミンケは立ち上がると
「ありがとう、話が出来て良かったわ。」
そう言い握手を求めて笑顔で先を歩き始めた。
やっと仲間たちの姿が見えて来た。
ロベルトが心配してしばらく一緒に歩いてくれた。
今、ミンケと話したことがきっかけとなって、ここ数日大人しくしていたが、ロベルトに八つ当たりをはじめた。
かわいそうに、ロベルトの役目は悲惨だった。
私は沸々と湧いてきた疑問と心の内をぶつけた。
私にはまだロベルトのことがわかっていなかった。彼はいつもいい人すぎる。
八つ当たりをロベルトにするのは、言葉の問題(英語で話せる)と、彼が受け止めてくれる包容力を持ち合わせているからであった。
もしかしたら、彼に対する不満ではなく、クールで表面を繕うタイプのウシやビンゲンに心を開けなかったからかもしれない。
「何で貴方たちはいつもツルんで歩くの?それじゃあ一人で山を彷徨っている人の気持ちなんかわかるわけないわよ。今回の巡礼は最低だわ。ロベルトは一人になって自分について考えることとかあるの?巡礼ってそういうものでしょ。この道の長さは、私にとっては充分じゃないわ。」
歩くのを止めようとは思ったことはないが、頭の中でぼんやりと、もうスペインに来るのもこれが最後になるかもしれないなどど考えてしまうのだった。
ロベルトは以前にも言った言葉を繰り返す。
「後で歩いて良かったと思うよ。」
そう言いながら、
「僕も一人で歩くこともあるんだよ。今は人とどうつき合えばいいかだんだん分かってきたけど、以前は悩んだ時期もあったんだ。そんな時、70歳の知り合いのところへ行き『孤独』とどうつき合って生きていくかを教えてもらったんだ。」
おそらく私の心の中では、いまだに La Costa への道を選べば良かったのではないかと後悔の念が残っているのだ。
こんなに引きずったことはない。何故にこんなにそのことが頭から離れないのだろうか。
たかが『道』じゃないか。
ロベルトに付いてきたのは自分なのに、未だにモヤモヤしているのだった。
しかし、普段はこんな風に吐き出してしまえば忘れてすっきりするのである。
もっと大人っぽい方法で解決するべきかもしれないが、ロベルトは特別な存在だった。
やはり彼は私の前世のお父さんに違いない。
話が一段落すると、マリアが隣にきて話し始めた。
「私はいつも一人で歩いているの。最初の一週間はウシと二人きりで歩いておしゃべりばかりして、それは楽しかったけれど。そのうちウシには追いつけなくなって一人になって。最初はすごく寂しかったのだけど、今はそれを楽しんでいるのよ。こんな時間て普段の生活では絶対に持てないものだから。」
結局みんな一人なのだ。
今日はウシとマリアはルーゴに着いて、一緒に食事をしてからお別れということになっていた。
よし、二人のために歌をプレゼントしよう。
私はipodを聴きながら、ノートに歌詞を書き出した。
それは今まで一緒に歩き、その存在だけで励まされた彼女たちへのお礼だった。
そのうちラウラが遅れ出し、一緒に歩きはじめた。
ラウラはお人好しの典型的なスペイン人女性だ。
明るい女性だけど、今回の巡礼には彼女にとって意味のあるものだった。
「巡礼の目的は『脱皮』なの。終わったら蝶のように羽ばたくのよ。」
先月別れたばかりのボーイフレンドのルーベンの話をしてくれた。
今回の巡礼は、彼を忘れるためと、新しい人生へ向けての出発だった。
彼女は五人兄弟の賑やかな家庭に育った。いつも全員が人の話を聞かずに喋りまくっているような食卓に慣れていたのに、北部出身で落ち着いたルーベンとの生活は全く違っていた。
二人きりで静かな食卓。目を輝かせながら、
「全く違う世界だったわ。」
ルーベンは絵本の絵を描く。それは初めてアルベルゲで一緒になった時、野いちごのオルッホと共に、彼が見せてくれたものだった。
ラウラは文を書く。ニュースのスクリプトなどを書く仕事をしている。
「二人のアーティストは一緒に暮らせないのよ。今でもルーベンがすごく好きなんだけど。」
ルーゴまでの道は長かった。
大きな街へ入るのも苦労がある。
郊外の町が続くからである。
この郊外の町は例によって味もそっけもない町だった。
今年はガリシアの山火事が一段とひどかったけれど、このあたりもだいぶ燃えていた。
町に近いのだから、大惨事になりかねない。
燃えた後の匂い、黒こげの木や草をみるのは辛い。
ラウラがずっとそばで歌を歌ってくれる。
ラウラのお父さんが歌が大好きで、よく歌ってくれたと言う。
その曲は、古い歌から新しいものまで。ノリノリの曲には振り付けも付く。
また、姪のために作った童話も聞かせてくれた。
臨場感たっぷりで、台詞も上手。こんなおばちゃんがいたら、さぞかし楽しいだろう。
内容は、お姫様にまつわるお話だった。
また、歌の中にはアフリカの歌があった。
歌詞の意味は彼女にもわからない。
それでも雰囲気は相当アフリカ風だ。
一節ごとに私も一緒に歌わさせられることになった。
「ルーゴはどこだ〜い?」
二人で喘ぎながら歩く。
やっとルーゴの城門に入ることが出来た。
大きな街で、アルベルゲをみつけるのは例外に漏れず難しかった。
私たちは城壁の中を歩き回った。
大きな広場には、まるで傘を広げたような木が何本もある。
「ラウラ、その真ん中に立って、ステッキを立てて!」
そうやって写真を写すとまるで傘をさしているように見えた。
アルベルゲを探しながらも
「すごいねぇ〜」
建物に感心しながら歩く。
途中で、カテドラルの中も見学をする。
この中に居る人が、その場所を知っていると聞いたからだ。
その人を探しながらも、立派な内部の装飾に目を奪われながら、一周をしたが、お目当ての人物には巡り会わず、入り口にいた人に聞いて、また歩き出す。
その後も何度も人に聞いて、やっとアルベルゲを探し当てた。
みんなも相当時間がかかったようで、ほぼ同時刻に到着したようだった。
ここのアルベルゲも立派だ。三日前にガリシアに入ってから、アルベルゲが快適になった。
去年の道でもそうだった。
ガリシアでは巡礼路に相当予算を使っているらしかった。
部屋には今や20人近くに膨れ上がった仲間たちがいた。
マリアとウシはバスのチケットを買いに出て行った。
二人はもうここには泊まらない。
続けたくても事情で続けられない人、「道」に愛想をつかし、帰って行く人、それぞれだった。
二人も戻って一緒に最後のディナーに向かった。
私たち6人の他に、ミンケとフェルナンドも加わった。
食事が終わると、あらかじめロベルトに頼んでおいたアナウンスをしてもらう。
「今から日本の歌を、ウシとマリアにプレゼントします」
急にドキドキしてきた。
出だしをどうしよう。
「じゃあ、みんなで肩を左右にゆっくり揺らして。」
そのリズムに乗せて歌い始めると、マリアが立って泣き出した。
ウシもいつものクールさとは違い、目が赤くなっている。
歌が終わると歌詞の意味をミンケに通訳してもらい、伝えた。
誰からともなく拍手が巻き起こった。
一度アルベルゲに戻って二人の荷物を取りに行く。
今日はマリアの荷物を最後に背負ってあげよう。
巨大なリュックを背負うと、体がのけぞった。
なっ、なんだ!これぇ!!!!!
こんな重いものを持ってずっと歩いていたの?
一度背負うと言ってしまった手前、バス・ステーションまで倒れそうになりながらも辿り着いた。
バス・ステーションで全員で写真を撮る。
今度は試しにウシの荷物を背負ってみたくなった。
ウシは恥ずかしがって
「やめて〜!」
と言うのをおかまいなしに背負ってみると、一瞬でよろけてしまう。
ありえないよぉ〜。マリアのより重い。
ロベルトもウシの荷物を背負ってみる。
彼でもよろけている。
みんなで大笑い。
でも、バスが入ってくると、二人の目からは涙が。
別れを惜しみ、バスが出ていくまで見送った。
アルベルゲに戻ると、新しい仲間が全員集まって、タコを食べに行こうと言う。
こちらはかなり賑やかだった。
ユリアから
「日本語で私の名前を書いて〜」
と声がかかった。
あっちこっちからも同じことを頼まれる。
その度に
「う〜ん・・・・・・」
時間を稼ぎながら、その人のイメージに合った漢字を探すのは結構楽しかった。
ビンゲンから、ここからサンティアゴまでの道のりを、ガイドブックとは違う道を通ろうと提案された。
この案に八割がたの巡礼者が賛同した。
なぜその道を選ぶかと言うと、一つには、道中の景色が良く、la Costa の路上にあるモナステレオが素晴らしいから。
もう一つは少しでも「フランスの道」への合流を遅らすためでもあり、「北の道」とは違うコースを歩きたいから。
「えっ?ビンゲン、それってどういう意味?」
なんとここで初めて聞いたことは、ビンゲンはあの分かれ道でPrimitiboを選んだが、すでにこの道は今年の春に一度歩いていると言う。
「だからオビエドであんなに詳しかったんだ!じゃ、何でもう一度同じ道を歩いているの?」
そう聞く私に、隣に座っているロベルトを見てニコニコしている。
ロベルトは
「僕がPrimitiboを歩いてみたかったんだよ。Primitiboは山が多くて大変だって聞いていたんだけど、きっとその方が自分を強くしてくれると考えたんだ。」
「はぁ〜〜〜〜っ ???????!」
私はてっきりロベルトがビンゲンに付いて来たのだと思っていた。
何で春に歩いたばかりの道を、ロベルトにつき合って歩くのか???
全てはロベルトのせいだったんだー!
みんな彼にくっついて来ちゃったんだー!
ってことは・・・・・、ビンゲンにお金を援助してもらっているんじゃないかと疑惑の目で見ていた私のアイデアは、まるでハズレだった。
そこのところは、私の勝手な推測だったが、ここでロベルトはとうとう100パーセント、シロになった。(!)
ロベルトは実にマメである。
あっち、こっちの女性に天才的に親切。おもしろいことを言ってはみんなを楽しませる。
女性たちは皆、ロベルトが大好きだった。
疑惑の目で見ていたのはきっと、私くらいなものだろう。
好きと言っても、恋愛感情でもなく、尊敬に近い情愛を込めて彼に接する。
不潔な印象はなく、人間としての魅力なのだと思う。
いつかこんな話を聞いたことがある。
「確かに僕には女友達が多いんだ。稀に僕のことを本気で好きになっちゃう人もいるけど、そんな時は、はっきりと『No』と言うんだ。」
すべてのことが証明されたようだった。
私の疑惑の全てが、全く反対であり、ロベルトはやはり『いい人』として疑う余地がなくなってしまった。
あまりにもいい人に出会うと、そんな人が世の中にいるわけがないと思えてしまうのだった。
ロベルトに対する信頼と疑惑の交差は終焉を迎え、こんな素晴らしい人に巡り会えたこの『道』に、感謝するのだった。
アルベルゲへの帰り道、ロベルトからこんな話を聞いた。
「オラヤとユリアは明日からバスに乗ってサンティアゴに行き、そこからフェニステーレまで歩くんだって。」
それは寝耳に水だった。
新しい仲間の中で、オラヤとユリアは一番親しくしていたし、この中では古い方のつきあいになっていた。
明るくて優しくてチャーミングな二人は、私にとても良くしてくれたし、存在そのものが皆を元気にしてくれた。
山道で出会った時は、飴やコーラを分けてくれたり、ベッドさえも分けてくれた。
私のことを『あなたは太陽だ』と言ってくれたけど、とんでもない、本当に二人こそ太陽のような存在だった。
さっき店を出る時オラヤがこう叫んでいた。
「明日の朝、キスをいっぱいするからね!」
そういう意味だったのか。
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