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  やっとロンドンに着いた。空港で次の航空券手配の件でトラブって、5時間も待ちぼうけを喰らってしまった。幸いにも宿は、空港から地下鉄で一本で行ける「キングス・クロス駅」すぐそばのYHAセント・パンクラスという宿を確保していたのでまだ楽だった。<br /><br /> <br /> 相変わらず僕のクシャミは止まらなかった。ロンドンでも僕の苦手な花粉が飛び舞っているようで、むしろ北欧にいた時より悪化しているようだった。一旦、クシャミが始まると発作のように止まらなくなる。このときもドミトリー部屋のなかで連発していると、「ドゥー・ユー・フィー・コールド?」と流暢な英語が投げかけられた。<br /><br /> 顔を上げると、声の主はいかにも日本人顔で、眼鏡を掛けた小柄な若者だった。「大丈夫でふよ」と日本語で僕が答えると、「え?日本人だったんですか?すいません」と驚かれる(後からわかったが彼はこのとき、僕のことを東南アジア系の人だと思っていたらしい)。<br /><br /> 彼の名はS君。介護の研修のため、ロンドンを訪れているという。滞在は2ヶ月の予定で、その間、ロンドンのユースホステルを転々と渡り歩いている。話を聞くと、彼も僕と同じく、いかに物価の高いロンドンを効率的に乗り切るかで頭を悩ませているところだった。<br /><br /> 「それならば一緒に自炊しませんか?二人でシェアすれば安く浮きますよ」<br /><br /> という僕の意見にすぐにS君は賛同してくれた。それから3日間、僕たちはお互いに材料を出し合って、一緒に料理をし、晩飯を共にしたのだった。<br /><br /> 毎晩、彼とは色々な話をした。僕は介護関係については疎いので、懇切丁寧に教えてもらっていた。<br /><br /> ヨーロッパの介護福祉はとても手厚いらしい。国が介護に回せるお金が充分にあるからだ。専門的な施設やそこで働くスタッフたちには充分な資源がある。その分、税金がとても高くなっている。代わり、ボランティアは日本のように発展していない。「専門分野の人がしかるべきことをやるべきで、一般の人はそれに手を出すべきではない。そのために高い税金払っているのだ」という考えが根底にあるのだという。<br /><br /> S君はいろいろと悩んでいるようだった。<br /><br /> 「結局、介護も突き詰めると政治なんですよね。個人がどれだけ頑張っても、大きな仕組みは変えられない」<br /><br /> 日本での介護の仕事は過酷であるという。余暇がない、休暇が少ない、働き詰め。ロンドンは違う。介護する人は、きちっと休息を取った上で介護にあたる。そうでなくては、余裕のある介護を提供することができない。介護される人をきちんと人として扱う点、そして、それ以上に介護する人にも充分なゆとりと、社会的価値を持たせている点に、S君は大いに刺激を受けたのだという。<br /><br /> 「なぜ介護する人が、そんなに余裕を持てるのか?資源のもとを考えると、やはり税金なんです。日本で、もし税金を増やすっていえば、みんな大反対ですよね。こちらとは根本的な考えがまったくもってして違うのです。更に今の日本は年金を削減したり、国が手厚く介護する方向とはまったく逆をいっているのです」<br /><br /> じゃ、どうすればよいと思う?S君に直球を投げてみた。少し悩んだ後、彼はこう答えた。<br /><br /> 「それでも前を向いてやっていくしかないと思います。一人一人が改善の気持ちを持ってやっていけば、徐々に何か少しづつでも変わっていくはずです。何年、何十年、もしかしたら僕が死んでしまうほど時間が掛かるかもしれないけど、そう信じて、僕はコツコツやっていくしかないと思う」<br /><br /> まるで自分に言い聞かせるように、最後ははっきりした口調で僕に宣言した。彼の悩みは彼自身がこうして見つけたのかもしれない。<br /><br /> そして、僕は彼の毅然とした表情を見て、あの映画のハリー・ポッターを思い出した。強大な悪に立ち向かうポッターの姿と意志の強そうな彼の姿が、自然と重なったのだ。そういえば彼の顔は眼鏡といい、小柄な体つきといい、ハリー・ポッターに似ていなくもない。そして、何より僕たちが泊まっているそばのキングス・クロス駅はハリー・ポッターが魔法の国へ旅立っていった駅ではないか。<br /><br /> 日本のハリー・ポッター。彼のように果敢に立ち向かう人間がいれば、日本の介護も明るいのではないだろうか。彼の勇ましい旅は、ここから始まるのである。<br /><br />

介護のハリー・ポッター@ロンドン

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2007/06/11 - 2007/06/11

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フーテンの若さん

フーテンの若さんさん

やっとロンドンに着いた。空港で次の航空券手配の件でトラブって、5時間も待ちぼうけを喰らってしまった。幸いにも宿は、空港から地下鉄で一本で行ける「キングス・クロス駅」すぐそばのYHAセント・パンクラスという宿を確保していたのでまだ楽だった。


 相変わらず僕のクシャミは止まらなかった。ロンドンでも僕の苦手な花粉が飛び舞っているようで、むしろ北欧にいた時より悪化しているようだった。一旦、クシャミが始まると発作のように止まらなくなる。このときもドミトリー部屋のなかで連発していると、「ドゥー・ユー・フィー・コールド?」と流暢な英語が投げかけられた。

 顔を上げると、声の主はいかにも日本人顔で、眼鏡を掛けた小柄な若者だった。「大丈夫でふよ」と日本語で僕が答えると、「え?日本人だったんですか?すいません」と驚かれる(後からわかったが彼はこのとき、僕のことを東南アジア系の人だと思っていたらしい)。

 彼の名はS君。介護の研修のため、ロンドンを訪れているという。滞在は2ヶ月の予定で、その間、ロンドンのユースホステルを転々と渡り歩いている。話を聞くと、彼も僕と同じく、いかに物価の高いロンドンを効率的に乗り切るかで頭を悩ませているところだった。

 「それならば一緒に自炊しませんか?二人でシェアすれば安く浮きますよ」

 という僕の意見にすぐにS君は賛同してくれた。それから3日間、僕たちはお互いに材料を出し合って、一緒に料理をし、晩飯を共にしたのだった。

 毎晩、彼とは色々な話をした。僕は介護関係については疎いので、懇切丁寧に教えてもらっていた。

 ヨーロッパの介護福祉はとても手厚いらしい。国が介護に回せるお金が充分にあるからだ。専門的な施設やそこで働くスタッフたちには充分な資源がある。その分、税金がとても高くなっている。代わり、ボランティアは日本のように発展していない。「専門分野の人がしかるべきことをやるべきで、一般の人はそれに手を出すべきではない。そのために高い税金払っているのだ」という考えが根底にあるのだという。

 S君はいろいろと悩んでいるようだった。

 「結局、介護も突き詰めると政治なんですよね。個人がどれだけ頑張っても、大きな仕組みは変えられない」

 日本での介護の仕事は過酷であるという。余暇がない、休暇が少ない、働き詰め。ロンドンは違う。介護する人は、きちっと休息を取った上で介護にあたる。そうでなくては、余裕のある介護を提供することができない。介護される人をきちんと人として扱う点、そして、それ以上に介護する人にも充分なゆとりと、社会的価値を持たせている点に、S君は大いに刺激を受けたのだという。

 「なぜ介護する人が、そんなに余裕を持てるのか?資源のもとを考えると、やはり税金なんです。日本で、もし税金を増やすっていえば、みんな大反対ですよね。こちらとは根本的な考えがまったくもってして違うのです。更に今の日本は年金を削減したり、国が手厚く介護する方向とはまったく逆をいっているのです」

 じゃ、どうすればよいと思う?S君に直球を投げてみた。少し悩んだ後、彼はこう答えた。

 「それでも前を向いてやっていくしかないと思います。一人一人が改善の気持ちを持ってやっていけば、徐々に何か少しづつでも変わっていくはずです。何年、何十年、もしかしたら僕が死んでしまうほど時間が掛かるかもしれないけど、そう信じて、僕はコツコツやっていくしかないと思う」

 まるで自分に言い聞かせるように、最後ははっきりした口調で僕に宣言した。彼の悩みは彼自身がこうして見つけたのかもしれない。

 そして、僕は彼の毅然とした表情を見て、あの映画のハリー・ポッターを思い出した。強大な悪に立ち向かうポッターの姿と意志の強そうな彼の姿が、自然と重なったのだ。そういえば彼の顔は眼鏡といい、小柄な体つきといい、ハリー・ポッターに似ていなくもない。そして、何より僕たちが泊まっているそばのキングス・クロス駅はハリー・ポッターが魔法の国へ旅立っていった駅ではないか。

 日本のハリー・ポッター。彼のように果敢に立ち向かう人間がいれば、日本の介護も明るいのではないだろうか。彼の勇ましい旅は、ここから始まるのである。

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