珠江デルタ 国境と乗り物の旅 ≪5.マカオ編≫国際“渡し舟”航路

2006/11/06 - 2006/11/08

再び、香港・マカオスタンプラリー(?)に行ってきた。
深港西部通道開通と横琴口岸再開を期待していたのだが、どちらも未だ工事中で残念。
相変わらず“移動”に重点を置いた旅。

国境(厳密に言えば、境界)を越える航路はこのエリアでは珍しくないが、日本人にとってはある意味衝撃的な「国際航路」がある。
新馬路の西端近くにある港と対岸を結ぶ航路だ。
雰囲気は完全に“渡し舟”だが、出入国審査を伴うれっきとした国際航路。
古いガイドブックには「外国人の乗船不可」と書かれているが、最近外国人にも開放されたと聞き、乗ってみた。

写真は中国側の船着場。
マカオ側の港を出発した船が近づいてくるのが見える。

エリア マカオ(マカオ)

• 同行者: 一人旅
• 一人あたり費用: 1万円 - 3万円
• 交通手段: 高速・路線バス 船
• 航空会社: ANA

マカオへは香港の上環にある「港澳碼頭」、九龍公園裏の「中港城」から高速船で行くのが一般的。

深せん市内からマカオに行く場合、香港を経由してもいいが、市内西部の蛇口港から出ている高速船を利用する方法もある。
蛇口港へのバスは何本もあるが、羅湖からだと[204路]、その快速系統である[K204路]がある。
[204路][K204路]は羅湖商業城隣の市内バスターミナルではなく、建設路(シャングリラホテルの西側の道)を北へ5分ほど歩いた右手にある「建設路バスターミナル」から出ている。
「三島中心」という派手なネオンを掲げたビルの1階。
[204路]は運賃4元で所要1時間半ほど。車両は一般路線バスタイプ。
[K204路]は運賃8元で所要1時間弱。車両はリクライニングシート。
余程のケチでない限り、[K204路]を使った方が良い。
たいして変わらないだろうと思って[204路]を使ったが、座席の悪さとスピードの遅さにウンザリした。
写真は蛇口港の旅客ターミナル。
[K204路]は港が終点だが、[204路]はさらに先まで行くので、気を付けていないと降り損ねる。

蛇口港からマカオへ直行する高速船も出ているが、日に3往復のみ。
時間が合わなければ、珠海の九洲港行を利用する。
こちらは日中30分毎と頻発している。
最終便は20時台だったと思う。
運賃は80元。
かなり以前に乗船したときは、経済特区界を跨ぐ航路ということで、乗船時に簡単なIDチェックがあったが、いつの間にかチェックはなくなっていた。

蛇口港から1時間10分で九洲港に到着。
写真は九洲港の旅客ターミナル。
国際線と国内線があり、ここから香港行の高速船も出ている。
九洲港のターミナルでは面白い航路を二つ発見した。

一つは「澳門環島游」。
遊覧船に乗って澳門半島を海から眺める航路だろう。
そういえば、以前マカオ行きの船に乗ったとき、観光客を満載したボロい遊覧船とすれ違ったことがある。
あの船はここから出ていたようだ。
運賃は一番安いもので70元、18:30発の便は108元と表示されていた。
持ち帰ったパンフによると、出発時刻は、日中発の「日游(所要1時間半)」が9:10,10:15,11:40,14:00,15:15、夜景を眺められる「夜游(所要2時間)」が18:30,20:30となっている。
但し、ここは中国なので、ダイヤ変更は日常茶飯事であろう。
機会があれば乗ってみたい。

もう一つは「香港屯門航路」。
屯門は東涌からの船が着く屯門碼頭のことだろう。
屯門碼頭は前日に利用したばかりだが、すぐ軽鐵に乗換えたので、国際ターミナルの存在には気付かなかった。
そもそも屯門から国際航路が出ているなんて知らなかった。
気になったので、帰国後調べてみたら、どうやら11/4に開業したばかりの航路のようだ。
新界西部からマカオへのアクセス改善のため、屯門碼頭を国際化する構想があったらしいのだが、就航直前になってマカオ側との調整がうまくいかず、急遽珠海へ就航した、という複雑な事情があるようだ。
運航は「香港西北航運快線有限公司」という会社。
ダイヤは、屯門発 7:45 10:15　九洲発 9:00 20:45
所要時間は35分らしいが、ちょっと速過ぎないか?
運賃は、屯門発 HK$160、九洲発 RMB145。
時間帯が中途半端なので、使い道は限定されそうだが、国境マニア(?)としては非常に興味深い航路だ。
STAMP MANIAを名乗る者としては、屯門の出入国スタンプが何色なのか(香港のスタンプは出入国地点によって色が違う)も気になる。
いずれ乗船してみたいが、現状でも1日2往復しかないので、定着せずに廃止される可能性もなくはない。

西北航運
http://www.hknwe.hk/

九洲港から市内バスで国境へ向かう。
バス停は旅客ターミナル前の道路を渡った所。
マカオへ渡る国境の「拱北口岸」へ行くには[4路]のバスに乗る。
運賃は2.5元だが、均一運賃のワンマン車なので釣銭は出ない。
拱北まで15分ほど。
珠海のバスを使いこなすのは難しくない。
バス停には、そこを通る全ての系統の全停留所名を表示した案内板がある。
バス停には日本同様に名前が付けられており、そのバス停の名前と次のバス停の名前がそれぞれ「○○」「△路 下一站 □□」と、バスの車内からでも読み取れる大きさの文字で表示されている。

[4路]の終点はイミグレの建物から離れた空地のような場所にあるので、終点の一つ手前で降りた方が良い。
バス停の名前は忘れたが、「4路 下一站 終点」という表示があるので、それを目印に降車する。
拱北のイミグレ前はだだっ広い広場になっており、その地下には巨大地下街が広がっている。

拱北の出国審査はかなり時間がかかる。
審査自体は簡単なものだが、外国人用は1レーンしかないので、行列待ちに時間を要した。
もしかしたら羅湖や皇崗より酷いかもしれない。

中国の出国審査後、徒歩で国境を越えるのだが、そういえば国境線はどこにあるのか?
現在はすぐ先に巨大なマカオイミグレの建物があるが、ずっと以前はかなりの距離を歩かされた記憶がある。
マカオの入国審査を終え、建物を出たところに、昔の国境ゲート跡が記念碑的に残されていた。

イミグレの建物を中国側に寄せることによって捻出した土地の地下に市内バスターミナルが出来ていた。
マカオの市内を網の目のように走る路線バスのターミナルの一つになっているので、どこへでも行くことができる。
マカオ半島内のバスなら2.5パタカ均一。
離島へのバスは料金が異なる。
マカオのバス運賃は「そのバスの終点までの運賃」を乗車時に支払う。
半島内は均一運賃なので何の問題もないが、離島行のバスを半島内で下車すると本来より高い運賃を払うことになるので損だ。
逆に離島発半島行のバスを半島内で利用する場合は、2.5パタカの支払で済む。
日本人には理解しにくいかもしれないが、ある意味合理的。
というのも、これだと降車に時間のかかる運賃後払の整理券方式ではなく、乗降が早い前乗り先払方式を採用できるからだ。
日本とは違って次から次へとバスが来るので、高い料金を払うのが嫌なら次のバスを待てばよい。
長距離客の着席率向上にも役立っているのではないか。

ちなみに香港のバスも同じシステム。
マカオはソーン制運賃なので慣れれば簡単だが、香港は運賃の刻みが複雑なので、旅行者には理解不能。
要するに「終点が近いバス」を選ぶと安く上がる。
オクトパスのシステムを応用すれば完全距離制運賃にもできそうだが、それをしないのはやはり乗客の分散に役立っているからだろうか?

關閘バスターミナルから新馬路(AVENIDA ALMEIDA RIBEIRO)の西端にある「内港」まで20分程かかった。
たいした距離ではないのに意外と時間がかかる。
マカオはとにかく渋滞が酷いので、時間には余裕を持って行動する必要がある。

内港の船着場は、今の香港行フェリーターミナルが出来る前に使われていた場所らしい。
現在は中国本土へ向かう航路のターミナルになっている。
旅客ターミナルは写真の建物の裏手にある。
建物の左下に入口があるのだが、表示は目立たないので漫然と歩いていたら気付かないだろう。
私自身、何度もこの建物の前を通ったことがあるが、ここに船着場があるとは気付かなかった。

ターミナルは、壁際にベンチを置いただけのスペースで、とても国際航路が発着する場所とは思えない。
ローカル線の田舎駅程度の規模だろう。
出入国施設も最小限のもの。

内港から対岸の珠海市湾仔へは、1日十数往復の船便が出ている。
本数は多いが、始発は8時台、終発は16時台なので、日中しか利用できない。
運賃は、片道HK$12、往復だとHK$20。
パタカで払うと、片道MOP12.5、往復MOP21だった。
マカオでは香港ドルがマカオパタカと等価扱いで普通に流通しているが、ここの運賃は香港ドルとマカオパタカを区別している。

この航路は国際航路なので、乗船前に出国審査がある。
貧弱な施設に見えるが、やっている手続きは同じで、ちゃんとパスポートの情報をコンピューターに読み取らせ、出国カードを回収し、スタンプが捺される。
船は「これが国際航路!?」と思うようなオンボロ船。
フェリーなんて洒落た名前より“渡し舟”と呼んだ方が適切だろう。

“渡し舟”の船内はこんな感じ。
キャビンなんてなく、吹きっさらしの甲板に木製のベンチが備え付けられているだけ。
この写真からは信じられないかもしれないが、れっきとした国際航路。

乗客はそれほど多くなかった。
往復とも20人程だったろうか。

機動力のある小型船らしく、定刻になったらさっさと出発した。
次第に遠ざかっていくマカオの景色。
初めて見るマカオの光景だ。

船はわずか5分程で中国側の船着場に到着。
着岸もあっという間だった。

国際航路なので、中国側でも通常の入国審査手続が行われる。
イミグレ付近には取り立てて何もない。
もっとも、マカオ側からはっきり見える位の距離なので、何もないであろうことは分かっていたが。

イミグレ前の道路を左へ100m程歩いた所に小さなバスターミナルがあった。
バス停名は「湾仔」だった。
珠海の地理には詳しくないので、どのあたりへ行くのか分からないが、拱北行の系統もあった。
珠海〜マカオ間の移動は「拱北〜關閘ルート」が実質的に唯一最大の越境ポイントだが、イミグレの混雑とマカオ市内の道路渋滞で意外と時間がかかる。
もし珠海の都心から湾仔までバスで簡単に移動できるなら、この航路は非常に便利であろう。
何しろマカオ側の船着場はセナド広場から徒歩で5分ほどなのだ。
今回は船に乗るだけが目的だったが、機会があれば湾仔〜都心のバス移動も試してみたい。

国境マニア(?)・乗り物マニア以外の旅行者には無意味そうな航路だが、一般の観光客にも利用価値がありそうな点が一つ。
それはイミグレ建物の北隣にある広場での記念撮影。
マカオ半島をバックに記念撮影ができるスポットはここだけだろう。

現在、マカオの中心は香港行のフェリーターミナルからリスボアホテルにかけてのエリアにシフトしつつあるため、湾仔からの眺めはややダイナミックさに欠ける。
やや寂れた感じのする風景だが、これが元々のマカオの姿だろう。

ここの広場、本土の住民がマカオを眺めるために整備したものと思われ、広場中央には五星紅旗が翻っている。
五星紅旗＋国境の海＋マカオの街並み、というのは記念撮影には面白い構図だが、広場正面に当たるマカオの街並みはイマイチ迫力に欠ける。
向かって右側の街並みの方が賑やかだし、マカオの新ランドマークであるマカオタワーも見えるが、イミグレの建物が邪魔で五星紅旗とマカオタワーを1枚の写真に収めるのは難しそうだ。

今では珠海もマカオ並、もしかしたらそれ以上に発展しているが、昔の珠海市民はここからどういう思いでマカオの町並みを眺めていたのだろうか?
すぐ手の届きそうなところに、全く別のイデオロギーで動く文字通りの“別世界”があるなんて、日本人の感覚では理解できない。

わずか30分程の滞在でマカオへ戻る。
わずか5分の航海だが、次第にマカオの街並みが近づいてくる、というのは旅情を感じる。
10年前に初めてマカオを訪問した時は、当然ながら香港からのフェリーだった。
現在ほど半島東岸の開発は進んでいなかったが、それでも超近代的な大都会に到着した、という印象。
その後バスで移動した異国情緒溢れる半島中心部の雰囲気とはギャップがあった。
私は既に手遅れだが、初めてのマカオが湾仔からの船、というのは魅力的かもしれない。