珠江デルタ 国境と乗り物の旅 ≪4.深せん編≫中港陸路国境紀行

2006/11/06 - 2006/11/08

再び、香港・マカオスタンプラリー(?)に行ってきた。
深港西部通道開通と横琴口岸再開を期待していたのだが、どちらも未だ工事中で残念。
相変わらず“移動”に重点を置いた旅。

香港から陸路で深せんに行ってみる。
陸路国境は九廣東鐵の羅湖駅と落馬洲〜皇崗の道路橋がメジャーだが、それ以外に「沙頭角ルート」「文錦渡ルート」がある。実用的かどうかは分からないが、国境マニア(?)には面白い。
現在、元朗〜屯門を結ぶ高速道路から分岐して蛇口地区東側の埋立地に至る道路橋「西部通道」と、九廣東鐵の上水駅から分岐して落馬洲に至る新路線が建設中。

エリア 深セン(中国)

• 同行者: 一人旅
• 一人あたり費用: 1万円 - 3万円
• 交通手段: 鉄道 高速・路線バス 船
• 航空会社: ANA

香港・マカオともに中国に返還されたが、本土と特別行政区の間を行き来するには通常の出入国審査同様の手続きを要する。
普通の外国人旅行者にとって、これは国境以外の何物でもないので、以下、中港澳境界については全て「国境」と表記する。

【沙頭角ルート】

3ヶ所ある自動車用の国境のうち、一番西にあるポイント。
九廣東鐵の粉嶺站から北東に1km程の所にある聯和墟の帝庭軒バスターミナルから、越境バス「沙頭角快線」が出ている。
7時から19時頃まで15分毎に走っている。
バスのチケットはバス乗場で乗車直前に購入。
HK$20でオクトパスも利用可能。

写真は帝庭軒バスターミナル1Fの沙頭角快線乗場。
奥の小屋が切符売場。

バスは沙頭角公路という道を北東に向かって走る。
雰囲気は完全に田舎の道。
20分程走ると検問所があるが、これは「沙頭角禁区」に入るための検問所。
禁区とは、国境に沿って数kmの幅で帯状に設定されているエリアで、禁区内の住民と特別に許可を得た者しか入れない。
粉嶺あたりでは「沙頭角」という行先幕を掲げた一般バスが走っているが、それらのバスの終点は禁区内の集落。
許可の無い者がそのバスに乗ると、この検問所で強制下車させられるらしい。
越境バスは禁区内で停車しないので、検問所はノーチェックで通過する。

写真は沙頭角禁区内の車窓風景。
何の変哲もない新界の田舎町だが、日本人がここの土を踏むのは難しい。

沙頭角の香港側イミグレの建物前でバスを降り、出国審査を済ませて再びバスに。
中国側のイミグレはすぐ先。
バスの終点は中国側イミグレの手前。
香港に戻るには、中国の出国審査を受けた後、バスの切符を購入→乗車、という手順。
ここの越境バスは「沙頭角快線」だけかと思っていたが、「沙巴特快」というバスもあったので、復路はこちらを利用した。
粉嶺経由沙田行のバスで、粉嶺までだと「沙頭角快線」より安いHK$15。
こちらもオクトパス可。
チケットを見るとHK$20の表記を消した跡があるので、対抗値下げだろうか。
粉嶺では、聯和墟近くの沙頭角公路上で降ろされた。

中国の入国審査を受け、建物を出るとそこは深せん市沙頭角地区の市街地。
香港出国・中国入国、またその逆も、手続は非常にスムースだった。
多分中港国境の中で一番楽だろうが、沙頭角に用がある旅行者など限りなくゼロに近いだろうから、実用的ではない。

沙頭角は羅湖から西へバスで30分程の所にある市街地。
羅湖からの道路は途中で長いトンネルを経由する。
そのため、深せん市の他の市街地とは地理的に隔絶されている。
街並みも大都会である羅湖や蛇口に比べて、垢抜けない印象。
観光地としては、沙頭角イミグレから北西に2km程の海岸に、軍事テーマパーク「航母世界(Minsk World)」がある。
旧ソ連の空母ミンスクの実物を改造した資料館がメイン。
前回訪問したときに見に行ったが、まぁこんなもんか、というレベルだった。

もう一つ有名なのが「中英街」。
沙頭角の名前を有名にしているのは、この中英街の存在と言ってもよい。
元々沙頭角の市街地は現在の中港国境を跨いで存在しており、英国が新界を租借した時、何らかの事情で中英街という小さな通り上が国境線になってしまったようだ。
もちろんそんな所に国境があると管理上不都合なので、中英街の周囲のエリアを塀で囲んで外側からの自由な立入を禁じた、ということらしい。
沙頭角のイミグレから中英街入口の検問所に向かって歩いていると、ビルの隙間から鉄条網を張った高い塀が見える。
香港返還前も、塀の内側の住民は、禁区内に限られるものの自由に中国側〜香港側を往来していたとか。
非常に興味をそそられる場所だが、香港側の沙頭角禁区同様、住民以外が立入るには特別な許可が必要らしい。

写真は中英街への検問所。
世界最強パスポートの一つであるJAPAN PASSPORTもここでは無力。

【文錦渡ルート】

羅湖の2km程東にある越境ポイント。
九廣東鐵の上水站東口駅前のビル「上水廣場」1Fのバスターミナルから、越境バス「文錦渡快線」が出ている。
7時から21時頃まで15分毎に走っている。
バスに乗るには、上水站の改札口階に直結する歩道橋を歩き、上水廣場ビルに入る。
そのまま直進すると、頭上に「←文錦渡快線」という案内看板があり、エスカレーターを下りるように促されるが、これは不適切な表示なので従ってはならない。
案内看板を無視して直進するとエレベーターホールに出るが、ここにバスの切符売り場がある。
運賃はHK$20で、オクトパス可。
切符を買ったらエレベーターで1Fに下り、あとは表示に従って歩けばバス乗り場。
バスは大型の観光バス。
上水〜文錦渡を往復するシャトルバスかと思っていたが、到着したバスには既に乗客が乗っていた。
行先表示板によると、このバスは深水[土歩]の「西九龍中心」が始発のようだ。

写真の奥が切符売場のあるエレベーターホール。

バスは「宝運路」という凄い名前の道を走り、15分ほどで香港側イミグレに到着。
利用者はそれほど多くないが、イミグレのキャパシティも小さいので、通関はそれ程スムースとは言えないかもしれない。
出国審査を済ませてバスに戻り、深せん川を渡るとすぐに中国側イミグレ。
バスに乗ってから中国の入国手続を済ませるまで、トータルで20〜30分程か。
香港へ戻るバスの切符売り場は、沙頭角と違って中国出国の前にある。
写真は中国の出国審査場入口の建物だが、入口手前右側に切符売場がある。

ところで、ここで入国審査を受けたあと、人民元への両替がしたかったので、「←中国銀行」の表示に従って両替所を探したのだが、どうもおかしい。
職員用通路としか思えない暗くて狭い通路を、右に左に折れながら歩いていくと、確かに両替所があったのだが、なんとこの両替所、中国の出国審査後のエリアにある。
私は既に中国の入国審査を通過しているのだ。
つまり、本来出国手続きを経なければ入れないエリアにノーチェックで入っていることに!?
ということは、ここでは中国の密出国ができる!?!?
もちろん、中国の出入国管理はそこまでザルではない。
ここで出国審査を受けると、パスポートにスタンプは捺されるが、出国カードはパスポートに挟んで返却される。
で、バスが発車する直前にイミグレ職員がバスに乗り込んできて、出国カードを回収する。
なので、密出国するとこの時点でバレる。

両替といえば、人民元のレートにも驚いた。
計算書を見ると、100円＝6.5054人民元。
重慶マンションで両替したときのレートは、100円＝HK$6.55。
あれ? 人民元の方がレートが悪いぞ!?
まさか中国銀行の出張所がボッタクリをするわけはないし、HK$と人民元のレートが逆転した、というニュースも聞いていない。
おかしいな、と思い、帰国後調べてみた。
これ(↓)によると、11/6のレートは、
http://www.oanda.com/converter/classic
JPY100＝HKD6.59438
JPY100＝CNY6.68146
HK$100＝105人民元位かと思っていたが、人民元の切り上げでいつの間にかHK$100＝101人民元台になっていた。
なるほど、重慶マンションの超好レートを考えれば、最終的な両替レートが逆転していても不思議ではない。

文錦渡口岸は羅湖の繁華街「東門路」の南端あたりにある。
イミグレの敷地を出たところから見た景色はこんな感じ。
左のライトアップされているビル付近が東門路の南端部だと思う。
東門路エリア周辺へ行くには便利ではないかと思う。


※追記※
2007年1月、遂に香港ドルと人民元のレートが逆転しました。
かつての深せんは香港ドル大歓迎で、テーマパークの入場料なども香港ドル建てでしたが、今後は港幣お断りの場所が増えることでしょう。

【落馬洲〜皇崗ルート】

自動車用国境のうち、最も、というか圧倒的に通行量の多いポイント。
朝から晩まで、半端じゃない数の人間がここで国境を越えている。
落馬洲からは国境の橋を渡るためだけのバスが出ているが、他にも香港市街地発中国側イミグレ行のバス路線が多数ある。
中国側のイミグレは「皇崗口岸」という。
イミグレ前は巨大なバスプールになっているが、それ以外には何も無い。
市内バスが数系統出ているが、深せん市の地理が分からないと使いにくい。
旅行者は九廣東鐵を利用して羅湖で国境を越えるのが一番分かりやすいだろう。

落馬洲には九廣鐵路の新駅が完成していた。
上水から分岐する支線の終点駅らしい。
羅湖同様、香港を出国する乗客専用の駅だと思われ、駅舎からは深せん川を渡る巨大な橋が架けられていた。
既に電車の試運転は始まっているらしいので、間もなく利用開始されるだろう。

写真は皇崗口岸バスターミナルを出発する市内バスの一覧表。

【羅湖ルート】

旅行者にとっては一番メジャーなルート。
九廣東鐵で終点の羅湖站まで行き、矢印に従って出入国手続をすれば、深せん站前の広場に出る。
広場の地下には地下鉄も乗入れたので、ますます便利になった。

九廣東鐵の運賃は、羅湖站で下車する場合は高額な加算運賃が適用される。
オクトパス利用の運賃だと、
　尖東〜上水 HK$12.0　九龍塘〜上水 HK$8.5
　尖東〜羅湖 HK$34.8　九龍塘〜羅湖 HK$31.3
物凄い差だ!!
裏技(?)としては、上水站で一旦下車する方法がある。
上水〜羅湖の運賃はHK$18.8なので、この方法だと尖東からHK$30.8、九龍塘からHK$27.3。
但しオクトパスの場合、上水站で出場してから再入場するまでに3分以上の時間を空けなければならないらしい。
また、沙田以北の駅から羅湖へ行く場合は、上水站で途中下車した方が運賃が高くなるので注意。

深せんは何度か訪問したことがあるが、羅湖周辺をウロウロするだけのことが多かった。
地下鉄が出来て便利になったので、深南中路沿いにある「中信城市広場」に行ってみた。
地下鉄だと、科学館站で下車して東へ200m程。
ここは大きなショッピングセンターで、核テナントはジャスコと西武百貨店。
深せんは中国にしては異質な都市だが、それにしても垢抜けた感じのショッピングセンターだった。
羅湖イミグレ前の「羅湖商業城」あたりだと、多少は垢抜けない中国っぽさを感じるが、ここは香港のショッピングセンターと変わらない雰囲気。

西武百貨店は、その名の通り日本のセゾングループにルーツがあるが、現在、資本関係はない模様。
西武百貨店が香港から撤退する際、デパートの営業権と一緒に、香港・中国における「西武百貨店」の商号使用権を香港企業に売却したらしい。
こないだの反日暴動で西武百貨店が襲撃されているニュース映像を見たが、実質的には中国人(香港人?)の企業なので、とんだトバッチリだったであろう。
店内をウロウロしてみたが、日本の西武百貨店っぽさは全く感じない。
雰囲気は完全に香港の高級百貨店だった。

ジャスコの方はれっきとした日本のイオングループ資本。
地階のワンフロアに集約レジ式の食品スーパーと、その他の売場とが同居していた。
最近のイオンSCほどではないが、それなりに売場は広い。
食品売場はだいたい日本と同じ構造だが、鮮魚売場では水槽で生きたままの魚や貝を売っており、面白い。
中国の他都市でも日系スーパーに行ったことがあるが、やはり生鮮食品は地元の習慣に合わせた売り方をしている。

写真は地階に下りていくエスカレーターから。
最近日本のジャスコで目にする「singing AEON」のコピーは中国でも展開している模様。

何と!「火曜市」もグローバルに展開!!
香港・中国ではイオンカードの広告をよく見るが、「お客様感謝デー」もあるのだろうか??

中国人にとってスーパーがどういう位置付けなのかは分からないが、外資系だからといって法外に値段が高いようには思えなかった。
物価の比較はなかなか難しいが、例えばコカコーラの350ml缶は2元だった。
民族資本系のスーパーでも同じ位の値段だったと思う。
惣菜コーナーで見切品の鰻丼6元也を、清涼飲料水コーナーで500mlのオレンジジュース2.5元也を買って食べた。

科学館站前には「購書中心」という巨大書店があった。
海外で巨大書店というのは珍しい。
交通旅游図(観光スポットとバス路線図が描き込まれた市街地図)を探してみたが、省内の都市のものばかりで、他省のものは北京・上海くらいしかなかった。

深せん地下鉄にも乗ってみた。
乗車券は自動券売機で購入した。
機械にもよるかもしれないが、1元硬貨・5元札・10元札が使えた。
ボロボロの10元札を投入してみたが、ちゃんと一度で認識されて驚いた。
釣銭は1元硬貨がジャラジャラ出てきた。

切符は磁気券ではなく最近流行のIC内蔵トークンだった。
香港の$5コイン位の大きさのコイン型プラスチック製チップの内部にICが埋め込まれている。
改札の通り方が磁気券とは違うので、初めてだと戸惑う。
入場するときは、SuicaやオクトパスのようなIC乗車券同様、センサー部にトークンをタッチする。
出場時は、センサーにはタッチせず、トークン回収スリットにトークンを投入する。
IC内蔵トークンは今後海外で新しく出来る地下鉄の主流になると思うので、使い方を覚えておいた方が良いだろう。