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1961年10月2日(月)続<br /><br />スペイン館に人気のない理由は、二つあるようだ。<br />その一つは、規律の厳しさ、窮屈さ。<br /><br />夜12時になると入り口のドアに鍵がかかり、寝ている受付のおじさんを起こさなければ入館できない。<br />日本館では、24時間出入りは自由だった。<br /><br />玄関の受付にはいつも見張りが座っていて、二階より上の居室には、女性の出入りを厳しく拒んでいる。<br />ほかの多くの館では、異性を自分の部屋まで連れて行くことが、見過ごされているようだ。<br /><br />もう一つの人気のない理由は、フランコ独裁政権が、自国の若者のパリにおける行動を、厳しく把握、管理していることだと言われている。<br />そう言えば、スペイン館といっても、スペイン人の影が余り見当たらないように感じる。<br /><br />名前にしても、日本館は「メゾン(家)」だが、スペイン館は「カレッジ(学校)」と名乗っている。<br />外観も、日本館が天守閣をモデルにしているのに比べ、スペイン館は修道院風だ。<br /><br />しかし、良さもたっぷりある。<br />一人部屋のこともあって、行動の自由が拘束されない。<br />館内はひっそり静まりかえっていて、これから思う存分仕事が出来そうだ。<br /><br />日本語を話さずに一日を送ることが出来るのは、私の語学修行にとって恵まれた環境である。<br />ベッドも椅子も板張りで固く、質素だが、修道院と考えれば当然だろう。<br /><br />最初は気になった毎日数時間続くピアノの音も、慣れれば騒音が楽音になった。<br /><br />何より部屋代が毎月80フラン(当時5,700円)という安さは、魅力である。<br />日本館ならば、二人部屋でも120フラン、一人部屋で200フランもするから、月々120フラン(当時8,600円)もの節約は大きい。<br /><br />私のフランス政府からの給費は月当たり750フラン(当時54,000円)だから。<br />それでも日本の月給35,000円に比べれば、高額なのだが。<br /><br />当面貯金をして、旅行の資金を貯めなければならない。<br />目標は一日2ドル貯めて、旅行はどんなに節約しても一日5ドルかかる。<br />二ヶ月間の旅行をするとすれが、五ヶ月の窮乏生活に耐えなければならない。<br /><br />スペイン館の部屋代で節約できるのは、毎月120フラン、すなわち24ドルだから、五日間の旅行経費に相当する。<br /><br /><br /><br />

パリ 473 落ち着いたスペイン館

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1972/10/02 - 1972/10/02

15504位(同エリア16384件中)

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片瀬貴文

片瀬貴文さん

1961年10月2日(月)続

スペイン館に人気のない理由は、二つあるようだ。
その一つは、規律の厳しさ、窮屈さ。

夜12時になると入り口のドアに鍵がかかり、寝ている受付のおじさんを起こさなければ入館できない。
日本館では、24時間出入りは自由だった。

玄関の受付にはいつも見張りが座っていて、二階より上の居室には、女性の出入りを厳しく拒んでいる。
ほかの多くの館では、異性を自分の部屋まで連れて行くことが、見過ごされているようだ。

もう一つの人気のない理由は、フランコ独裁政権が、自国の若者のパリにおける行動を、厳しく把握、管理していることだと言われている。
そう言えば、スペイン館といっても、スペイン人の影が余り見当たらないように感じる。

名前にしても、日本館は「メゾン(家)」だが、スペイン館は「カレッジ(学校)」と名乗っている。
外観も、日本館が天守閣をモデルにしているのに比べ、スペイン館は修道院風だ。

しかし、良さもたっぷりある。
一人部屋のこともあって、行動の自由が拘束されない。
館内はひっそり静まりかえっていて、これから思う存分仕事が出来そうだ。

日本語を話さずに一日を送ることが出来るのは、私の語学修行にとって恵まれた環境である。
ベッドも椅子も板張りで固く、質素だが、修道院と考えれば当然だろう。

最初は気になった毎日数時間続くピアノの音も、慣れれば騒音が楽音になった。

何より部屋代が毎月80フラン(当時5,700円)という安さは、魅力である。
日本館ならば、二人部屋でも120フラン、一人部屋で200フランもするから、月々120フラン(当時8,600円)もの節約は大きい。

私のフランス政府からの給費は月当たり750フラン(当時54,000円)だから。
それでも日本の月給35,000円に比べれば、高額なのだが。

当面貯金をして、旅行の資金を貯めなければならない。
目標は一日2ドル貯めて、旅行はどんなに節約しても一日5ドルかかる。
二ヶ月間の旅行をするとすれが、五ヶ月の窮乏生活に耐えなければならない。

スペイン館の部屋代で節約できるのは、毎月120フラン、すなわち24ドルだから、五日間の旅行経費に相当する。



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