中国・旧満州の旅【５】　日本統治時代を評価する人も潜在する旧満州　瀋陽（旧奉天）

2005/06/01 - 2005/06/07

瀋陽（旧奉天）は遼寧省の省都で東北三省（遼寧、吉林、黒龍江）の中で最大の７２０万人を擁する都市である。この街には漢民族を中心に満州族、回族、朝鮮族、シボ族、モンゴル族など２９の民族が住む。
瀋陽の重要性に注目したのはモンゴル族国家の元（１２７１−１３６８年）で交通、経済、政治の要衝になると考えた。１２９６年に風水の考えから瀋水（運河）の北（陽）の街という意味で瀋陽と名付けたそうだ。清朝建国の祖ヌルハチが１６世紀に清朝の前身、後金の都を瀋陽に移すと街は一気に発展した。１９３２−１９４５年の満州国時代には奉天と呼ばれ日本が建造した瀋陽（奉天）駅、旧大和ホテルなどが現存している。
最近の瀋陽のニュースで日本人の関心を集めたことは、２００５年４月１７日の数千人規模の反日デモと２００２年５月８日の 瀋陽・日本領事館へのハンミちゃん家族のかけこみ事件ではないだろうか。反日問題も北朝鮮問題も日本人にとっては頭が痛い問題なのだが、旧満州には反日だけでなく日本統治時代を評価する人もかなり潜在することが解った。
Ａさんは１９５０年生まれで両親は教師。１９６６年から１９７６年９月毛沢東死去までの文化大革命時代は知識人の両親は紅衛兵による突き上げで辛酸を舐めたそうだ。当時１６歳だったＡさん自身は不本意ながらも機械組み立て工として働きながら、紅衛兵にならざるを得なかった。重要文化財の取り壊しや知識人に自己批判を迫って市中引き回しをする蛮行を、内心では躊躇しながらも集団になればやってしまう集団心理の恐ろしさも語ってくれた。１９８１年の中国共産党中央委員会では犠牲者が２０００万人に及ぶと言われる文革を「指導者が間違って引き起こした内乱」として全面的に否定した。しかし、毛沢東が否定された訳ではないので、蛮行をした紅衛兵も罰されていないし自己批判もしていない。当時のことを発言することはタブーになっているそうで、紅衛兵の中には大金持ち、高級官僚、大學教授などの知識人になった者もいるとのこと。中国共産党が毛沢東を否定できず過去の過ちにふたをしている点に組織基盤の弱さを感じる。
Ａさんは文革終了後、台湾にいる親類に文革の悲惨さと誤りを書面で届けたところ国民党に伝わり、国民党からは情報提供を依頼する手紙が届くようになった。しかし、Ａさんを監視していた中国共産党の検閲で国民党への情報提供が発覚、Ａさんは刑務所で３年間思想改造の教育を受けた。服役中に習得した技術で現在は生計を立てているが、思想は変わっていない。
旧満州は１９１１年の辛亥革命までは漢民族以外の民族が支配し、高句麗、渤海、遼、金、後金、清などの国家を経営してきた。この歴史は旧満州が漢民族中心の現中国とは異質の民族国家であることを物語っている。またＡさんは１９３２−１９４５年の日本統治時代に長春の重化学工業、鞍山の鉄鋼業、撫順の石炭鉱業、満州全土の鉄道業など現在に受け継がれている産業の基盤ができたことは日本のおかげだと評価している。従って、中国共産党の批判は許されないのでオープンに言えないが、もし日本統治が続いていたら満州はもっと豊かになっていただろうと考えている人は５０歳以上の人達の中にかなりいるそうだ。また、Ａさんはこうも言った。もし、台湾と中国が戦争になっても中国国民の多くは中国共産党のために戦わないだろう。なぜなら、汚職で腐敗し貧富の差を大きくした中国共産党を信用していないからだと。将来チベット、雲南省、旧満州などの分離独立を,ある学者、評論家は予測しているが、Ａさんの言葉はそれを裏付けているように思う。また、公の発言は許されないものの日本統治時代を評価している人達がかなり潜在しているとの情報は嬉しい収穫であった。言論統制の中、苦しむ国民の本音を密かに教えてくださったＡさんに感謝する。
（写真は中山公園の毛沢東像）

エリア 瀋陽(中国)

満州国時代に日本が建造した瀋陽（奉天）駅。

満州国時代に日本が建造した旧大和ホテル。

満州国時代に日本が建造した旧大和ホテルの内装。

満州国時代に日本が建造した旧大和ホテルの内装。

満州国時代に日本が建造した旧大和ホテルの内装。

満州国時代に日本が建造した旧大和ホテルにあった日本料理店「甲子園」。

満州国時代に日本が建造した旧大和ホテルにあった日本料理店「甲子園」の従業員。

中山公園の毛沢東像を飾る花壇。

瀋陽の街並み。

瀋陽の街で見つけた吉野家。
並丼が１０．９元（約１５０円）大盛丼が１８．５元（約２５０円）だから値段は日本の半分。お客が少ないのが少し気になった。

瀋陽の街並み。

この旅行記へのコメント （8）

• サリーさん 2007/11/30 16:20:18

  瀋陽。。。

  さすらいおじさんさん、こんにちは〜
  
  瀋陽の観光などを調べてたら、さすらいおじさんの旅行記に辿り着きました。
  興味深く拝見させて頂きました。
  
  実は近々瀋陽に行きます。
  娘が今年の夏に２週間ですが行って来まして、その時にお世話になった方が案内して下さると言うもので・・・（留学中の日本人です）
  
  918歴史博物館にも行こうと思ってますが、館内は日本語は話さないほうが良いと言うのは本当でしょうか？
  それほど危ないのかしら？
  説明書きには日本語表示もあったと娘は言ってますが、不安もありまして。。。
  
  2泊3日なので、あまり時間も無いのですが918歴史博物館以外にお薦めの場所はありますか？
  宜しければ教えて下さいね。
  お願いします。
  
  　　　　　　　　　　サリー
  

  さすらいおじさんさん からの返信 2007/11/30 19:48:23

  RE: 瀋陽。。。

  サリーさん
  
  瀋陽をごらんいただきありがとうございます。
  
  私が旧満州をツアーで回ったときは、反日デモが続き、日本大使館、レストランなどへの投石がされた時期でした。
  
  そんな時期だったので、日本人だと気づかれないよう、日本語で話すことは気を使っていました、ツアー会社の配慮でしょうが、９１８博物館も外を見るだけで中には入れませんでした。
  
  でも今は北京オリンピック前で日本人など、観光客へのマナー教育もされているようなので大丈夫ではないでしょうか。
  
  瀋陽では９１８博物館のほかにも旅行記に少し紹介しましたが、故宮博物院、東陵隆、瀋陽（奉天）駅、旧大和ホテルなど印象に残っています。
  
  どうぞ瀋陽をお楽しみください。
  

• pangziさん 2005/06/12 23:21:04

  はじめまして

  5冊一気に読んでしまいました。一連の文章を読ませて頂いて、瀋陽の歴史を再認識させて頂きました。私も反日がしずまりかけた今年のGWに瀋陽に行っていました。毎度の様に夜の中山広場に行き、毛筆を楽しみました。集まっていた７０歳すぎと思われる老人達も日本人だからといって、嫌な顔はしません。ただ、１度タクシーの運転手に嫌な顔されたのを覚えています。吉野家も昨年７，８，９月に行った時は満員で、２Fの端の方で食べたのを覚えています。GWには上海で襲われた事からか、急遽”中国人、中国心”の大きなポスターが貼られ日本人色を消そうとしていました。それでも周りの目が気になるらしく、アベックが少なくなったと思います。瀋陽北駅にある吉野家は繁盛していました。となりのマックに比べて割り安感があるからでしょうか。今年の８月も瀋陽に行きます。出来れば、長春まで足を延ばしたいものです。

  Denilsonさん からの返信 2005/10/08 22:01:09

  RE: RE: はじめまして

  日本で留学している中国人です。文章を読めさせて頂きました。私も反日デモを反対し、共産党が決してよくないと思いますが、文章の論調に疑問を抱かせざるを得ません。文章によれば、満州はあくまでも論争地域で、日本軍はあくまでも大儀名分で、満州に進出しました。。。感じられます。よって、実際はどうか分かりませんが、もう一度進出してもいいかな。。。感じられます。中国側からいつも教科書やら、謝罪、謝罪と言って、確かに煩くて、もういい加減にしなさいと言いたいところですが、この文章を見て、言えなくなりました。
  教科書やら、謝罪やら、そいうのは政府のスローガンにすぎず、私達中国人は本当に気になるのは、日本人は戦争に関してどう考えるか、というところです。この文章の論調によれば、日本はアジア人民の救世主、アジア人民は日本を感謝すべきだと思われます。もし本当にそう思うなら、私の発言を無視してください。もう交わす言葉ありません。
  そんなところで書き込んで、すみませんでした。
  

  Denilsonさん からの返信 2005/10/08 23:45:40

  RE: RE: RE: はじめまして

  ちなみに、極端に言えば、清の統治者は満族で、なぜ漢族を含める全中国を上手く統治できたかというと、一応、漢族を満族と平等に扱い、漢文化を受け取り、都を北京に遷都し、漢族の文人を大臣という国家No.2の地位まで登用しましたからです。日本を見れば、ひたすら植民地なように扱い、中国人を奴隷にし、殺し、村を略奪し、日本人を移住させ、建設したものは全て日本人のためでした。満州の中国人は利益を得るどころですが、殺されてしまいました。利益を得た中国人と言えば、日本軍に協力して、元チンピラを村長に変身し、同胞を迫害する人たちでした。

  さすらいおじさんさん からの返信 2005/10/09 09:44:31

  RE: RE: RE: はじめまして

  Ｄｅｎｌｉｓｏｎさん
  旧満州の旅行記をお読みいただき、また率直なご意見をありがとうございます。中国の方に拙文お読みいただきご意見をいただけることはとても有難く、嬉しく思います。
  この旅行記は一週間の旧満州旅行で見たこと、中国の人達から聞いたことに基づき自分が感じたことを主観で書いておりますので理解・知識が不十分な点があればお詫びします。
  私の書き方で誤解を招いたようですが、私も第２次世界大戦で親類縁者を亡くした戦争被害者の一人として、いかなる戦争にも反対です。日本の侵略戦争による残虐行為がアジアの人達に多大な苦しみを与えたことは事実であり、２度とこのようなことがあってはなりません。
  私が言いたかったことは、日本の侵略戦争による残虐行為への反省は当然ですが日本の統治時代に行ったことは悪い面だけだったのか、ということです。
  例えば台湾では日本軍隊の残虐行為の批判と同時に電力開発、農業技術指導、教育水準の向上など良い面も率直に評価し、教科書での教育も日本統治時代の悪い面、良い面の両面を事実から客観的に行っていると聞きました。シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシアなど東南アジアの国に訪問したときも日本軍の蛮行は戦争記念館で展示説明し、２度と侵略戦争を許さない姿勢を示すとともに、日本統治中のインフラ整備は戦後の経済発展につながったと一定の評価をしていると思います。
  旧満州旅行では日本軍の蛮行への批判と同時に日本統治中に行った製鉄所建設、炭鉱開発、鉄道整備などのインフラ整備が現在も生きており、経済発展の基盤になっていることを評価しているかたが５０歳以上の方の中におられることを聞いて、日本統治時代の悪い面、良い面の両面を事実から客観的に見ておられるかたがおられることを知って正常な考えだと思いました。
  私からのＤｅｎｌｉｓｏｎさんへの質問ですが、中国では日本統治時代の悪い面だけを教育しているのではないでしょうか？　Ｄｅｎｌｉｓｏｎさんも悪い面の教育しか受けておられないのではないでしょうか？私は中国の教育は少し偏向しているのではないだろうか、と疑問を持っています。　私は侵略は２度と決して許さない強い意志を持ちながら、日本のプラス・マイナス両面を客観的に評価している東南アジア各国や台湾そして中国にもおられる客観的な評価をされる方達の方が正常な考え方だと思っています。私は中国と日本はお互いを正しく、客観的に見ることがお互いの距離を近づける一歩だと思ってます。
  また、私は中国の壮大な歴史・文化・自然に憧れ約１０回中国を訪問し、中国に魅了されている一人であり、それを旅行記にも書いていること、それもご覧頂きたいこと、もあわせて付け加えさせていただきます。
  
  

  Denilsonさん からの返信 2005/10/12 17:44:08

  RE: RE: RE: RE: はじめまして

  ご返事、有難う御座います。しばらくの間、帰国して、旅行したいと思いますので、ネットを探したら、このHPを発見しました。
  さすらいおじさんの質問なんですが、日本のいい面は確かに歴史の教科書に書いてある覚えがありません。つまり、偏向していると思います。これは世界のどこでも共通だと思います。米国の第二次世界大戦の本や映画などを見れば、分かると思います。しかし、日本のいい面は地理の教科書に書いてありますよ。なぜ中国の東北地方は重工業中心で、鉄道は中国の中でも密度が高いか、と中国人に聞けば、皆分かっていますよ。また砂漠退治や、教育事業など、多くの日本人は中国で活躍していることは、皆が感謝の気持ちです。中国のマスコミ、特に共産党機関紙は偏向していると皆が分かっていて、ネットや衛星テレビで情報を収集しますので、騙されることがないと思います。それで、日本や米国は民主主義の国にもかかわらず、マスコミも偏向していることが分かりました。日本は民主国家だと信じ込み、逆にマスコミに騙されやすいではないでしょうか。「１．我らがやっていることは全て正しい、２．我らがやっていることは何か間違ったら、１に参照のこと。」米国人と話したら、そういう感覚が生じてしまいました。なぜなら、自分の国、米国は民主国家だと言いました。民主主義はいい制度ですが、偶像化されるのは危険だと思います。
  
  勿論、日本で生活したら、生活中の日本人はいい人ばかりです。偶にいやな人もいますが、これもどこでも共通だと思います。中国人もいやな人がいっぱいいると思います。ですので、私は「日本人が嫌い、中国人が好き」という言葉を言わず、あくまでも「Aが嫌い、Bが好き」という一人一人に対してです。

  さすらいおじさんさん からの返信 2005/10/12 22:59:54

  RE: RE: RE: RE: RE: はじめまして

  Ｄｅｎｌｉｓｏｎさん
  回答ありがとうございます。中国の方から率直な意見と実情をお教えいただくことに感謝します。
  
  ＞日本のいい面は地理の教科書に書いてありますよ。なぜ中国の東北地方は重工業中心で、鉄道は中国の中でも密度が高いか、と中国人に聞けば、皆分かっていますよ。また砂漠退治や、教育事業など、多くの日本人は中国で活躍していることは、皆が感謝の気持ちです。
  
  中国の地理の教科書に日本を評価した記述があることを初めて知りました。日本の侵略戦争での蛮行だけでなく良い面も客観的に教育されているのは嬉しいことです。
  
  ＞中国のマスコミ、特に共産党機関紙は偏向していると皆が分かっていて、ネットや衛星テレビで情報を収集しますので、騙されることがないと思います。
  
  中国のマスコミの偏向報道を理解されネットや衛星テレビで情報を収集しながら正しい判断をされておられるのは中国が民主化に向かういい傾向だと思います。1989年の天安門広場での民主化運動は中国民主化への正しい流れだと思っていましたが、軍隊が力で抑え込んだことが中国の民主化を遅らせたのではないでしょうか。民主化運動を弾圧されたことへの不満は中国の人達の中に鬱積しているはずで、中国政府は政府への不満の矛先を反日運動に向けているように思えてなりません。しかし、ネットや衛星テレビで情報収集し、正しい判断をされる中国の人達が増えてゆけば、中国の人達が政府に対しても自由な発言、批判ができる国になるだろうと期待します。
  
  ＞それで、日本や米国は民主主義の国にもかかわらず、マスコミも偏向していることが分かりました。日本は民主国家だと信じ込み、逆にマスコミに騙されやすいではないでしょうか。
  
  日本のマスコミが偏向する傾向があり、国民がマスコミに影響されていることは事実だと思います。但し日本では、マスコミにも政府にも自由な発言ができますから、国民が中国の人達のようにいろいろな情報を多方面から入手する努力をし、おかしいと思ったことにはどんどん声を上げてゆかなければならないと思います。最近の日本の傾向で気になるのは日本は世界唯一の原爆被爆国なのに核の恐ろしさを訴える運動が年々縮小し被爆体験が風化してきているように感じることです。一方、戦争を放棄する平和憲法を持ちながら日米安保条約に基き防衛の名目で軍事力を行使することを容認する方向に向かっていると思われることです。１９７０年代までは自衛隊派兵など想像もできなかったことが現在では日本国民は抵抗感がほとんど無くなっています。私は総理大臣の靖国神社参拝の問題より、国民の意識が変化し戦争へのアレルギーが薄れてきているほうが重要課題だと思います。中国政府も靖国問題ばかりにとらわれるのでなく、日本国民の意識の変化を注視し正確な実態を把握するほうが重要ではないかと思います。また、中国・北朝鮮への脅威が無くなれば日本の米国への軍事依存は低減しアジアの緊張も緩和するでしょう。そのためには中国と日本がお互いの良い点をさらに認めて意思疎通を計ることが第一歩ではないでしょうか。民間外交も重要で、Ｄｅｎｌｉｓｏｎさんが感じられた日本の良い点、悪い点を中国の人達に充分伝えていただき中国の人達の多くが日本への正確な理解を深めていただくことを希望します。