2014/05/04 - 2014/05/04
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nakaohidekiさん
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日本中央競馬会(JRA)による競馬レースのうち、G1(ジーワン)レースというのは23回行われる。G1レースというのは最も格式が高く重要なレースのことである。それぞれのG1レースに特色があり、牝馬限定とか、三歳馬のみとか古馬(四歳)以上とかその他の条件が付けられている。しかし、いずれもがその条件の最高レースを指すのは間違いないところである。なかでもクラシックレースと呼ばれているのが、皐月賞、日本ダービー(正式名称は『東京優駿』)、菊花賞である。この三レースに勝った馬を三冠馬と呼んでいる。そんなG?レースを実施順に今年の例で示すと、
2/23 フェベラリーステークス
2/30 高松宮記念
4/13 桜花賞
4/19 中山グランプリ
4/20 皐月賞
5/4 天皇賞(春)
5/11 NHKマイルカップ
5/18 ヴィクトリアマイル
5/25 オークス
6/1 日本ダービー(東京優駿)
6/8 安田記念
6/29 宝塚記念
10/5 スプリンターステークス
10/19 秋華賞
10/26 菊花賞
11/2 天皇賞(秋)
11/14 阪神ジュベナイルフィリーズ
11/16 エリザベス女王杯
11/21 朝日杯フューチュリーステークス
11/23 マイルチャンピオンシップ
11/30 ジャパンカップ
12/20 中山大障害
12/28 有馬記念
となる。
これを見ると、ほとんどのレースが春と秋に集中しているのがわかる。季節の一番いい時期に走らせて最高の結果を生み出そうという考えなのである。このレーシングスケジュールを見て、変に思われることがあるのではないだろうか。上記の日程をよく見ていただきたい。天皇賞というのが春と秋に二回あるのである。他のレースはいずれも一回なのに・・・・・。
ではなぜ、天皇賞だけが二回行われるのであろうか。春は京都競馬場で3200メートル、秋は東京競馬場の2000メールと、場所と距離は違うのですが、なぜ二回なのだろうか。これには日本の国家体制や政治制度と大きくかかわっていたからなのである。
天皇賞の起源をたどると、日本競馬の発祥は明治3年、東京九段の招魂社境内で行われた兵部省競馬に始まるといわれている。日清・日露の戦争により軍馬の育成の重要性が謳われ競馬開催の必要性が叫ばれるようになった。当時の桂太郎内閣は軍馬育成は国策にかなうとして、明治38年、競馬開催を決定し同時に馬券の発売も行うようになった。
このように日本人による本格的な競馬が実施されるようになると(駐留外国人による独自の競馬開催はすでにあった)、この競馬開催の責任者だった加納久宣子爵は明治天皇に賞品の下賜を打診したのである。このとき当時の新聞が「帝室御賞典」と報じ、以後この名称が昭和初期まで続いたのである。当時の競走馬は現在のように中央競馬会に所属するものではなく、全国の競馬場に所属していたため競馬場ごとに「帝室御賞典」が実施されることとなったのである。昭和に入り日本中央競馬会が発足すると、競馬はJRAが実施するものとなったが(管轄は農林水産省)、戦後はいままで全国10か所で行われていた「帝室御賞典」を統一し、名称も「天皇賞」と改称して実施することとなった。「帝室御賞典」の名残から、天皇にちなんで御所のあった京都と、現在住まわれている東京の二か所で行われるようになったのである。また、日本が太平洋戦争に敗北し、GHQが日本国憲法を起草した際に天皇制を排除していたなら天皇賞レースも存在しなかったのである。
さて、そんな歴史を持つ天皇賞だが、5月4日のゴールデンウィーク、僕は天皇賞が行われる京都競馬場へ出かけたのであった。まあ、これが僕のゴールデンウィークの過ごし方である。あまり高尚とはいえないが庶民の楽しみとしてお許しいただきたい。
僕の住む和歌山県日高町からは電車を利用すると、天王寺駅乗り換え京阪淀駅下車となる。以前は淀駅から歩いて行ったのであるが、現在は大勢の競馬ファンが歩くので住民の迷惑を考え京都競馬場の前に駅は移転している。よって駅の改札を出て、すぐにプロムナードが競馬場の二階まで繋がっている。歩く時間が短縮でき有り難い限りである。それにG?レースともなれば10万人もの観客が押し寄せるので、終わった後などは道路は人で埋め尽くされ、車の通行などは不可能な状態になる。
僕が特急くろしおに乗り、京阪淀屋橋から京阪淀駅に着いたのはちょうど正午であった。京都の5レースが始まろうとしていた。早速、競馬新聞を見てみると、同時に東京の5レースも始まろうとしている。僕は同時に2レース分の馬券を買うことにした。ともに一番人気の複勝を1000円ずつである。複勝馬券というのは3着以内に入れば払い戻しできる馬券なのである。考えたのは一番人気の馬ならどう遅くても3着以内には入るだろうということである。
僕の馬券戦術というのは、お気に入りの競馬新聞『競馬エイト』のオッズ予想に基づいて1番人気から買うことなのである。
競馬ファンならパドックで馬を見て、さらに馬場に出てから返し馬で馬の状態をチェックして馬券を買うのが常套手段であるが、僕はそんなことはまったくしない。なぜなら、僕の目はまったく馬を見る目を持たないからである。毛艶とか調子とかまったくわからないからである。とにかく『競馬エイト』のオッズ人気が頼りなのである。一番人気になる馬にはそれなりの理由がある。過去の実績や調子が最高であるから一番人気になるのであって、たとえ1着にならずとも3着以内には入ってくるだろうと、そうなれば複勝馬券は外さないと考えるのである。これでは配当は少ない。しかし、外れる確率は少ないので、僕は大儲けすることより、外れない馬券を買うことにしているのである。そうはいっても競馬は博打なので大きく儲けることにも興味がある。勝負するのは天皇賞で高額配当となる馬券を買うことである。それまでには地道に外れない馬券を買うことになるのである。ところがである。今日はどうも相性は悪いらしい。僕が買った京都5レースと東京5レ?スはいずれも外れてしまった。京都の一番人気、ハンマーグランビアは10着、東京一番人気のキーンソードは6着と、ともに惨敗してしまったのである。嗚呼、悲しいかな!。
なんとかしてこの負けを取り戻さなければならないと熱くなり、京都6レースに大きく賭けてみた。またも一番人気のクリノコマの複勝に3000円を突っ込んでみた。そうするとこれが見事に的中し、2着に入ったのである。ここに複勝の楽しみがあるのである。一気に負けを取り戻し、払い戻しはは5400円となった。今日のプラスは400円である。
まあ、儲けは少ないが、ひと息付けたので遅い目の昼食をとることにした。
競馬場にきたなら僕はいつもうどんを食べることにしている。消化に良くこれは腹にも溜まらず満腹感もまた味わえるからである。
競馬観戦はゴール板前のスタンド席と決めている。
三階スタンド席は僕が競馬場に着く時間になるともう一杯である。レースコースを見渡せる階段に座るか通路に新聞を敷いて座るほかないのであるが、今日は階段に座ることにした。昼食のために席を立ってその階段を登ると館内に入った。三階スタンドのすぐ後ろには『江戸川』という、うどん屋がある。ぼくは店内に入り肉うどんを注文した。
午後のレースに備え力を蓄えるためである。同時に肉うどんを食べながら天皇賞の検討もすることにした。一番人気は武豊騎乗のキズナとなっている。キズナは昨年のダービー馬でもあり仏・凱旋門賞にも挑んだ青鹿毛(黒に鹿毛が混じっている)の駿馬である。競馬新聞を見るとどの記者もグリグリの二重丸を付けている。こんなに人気があれば単勝予想オッズは1.7倍となる。父親は三冠馬のディープインパクト。キズナは前走の産経大阪杯でも圧倒的な強さで勝っている。今も調子は引き続き絶好調となっている。負ける要素は見つからないと競馬記者は書いている。僕もキズナを本命と考えることにした。しかし、この馬を複勝で買っても競馬賭博の面白さはない。今回の天皇賞は四強の争いだ。キズナ以外は、ウインバリアシオン(前走の日経賞1着)、ゴールドシップ(有馬記念3着、前走の阪神大賞典1着)、フェノーメノ(昨年の天皇賞1着)である。この四頭でほぼ決まるだろうといわれているが、キズナの複勝をとってもたいして儲からないので、そこで僕はキズナから、この3頭へかけてのフォーメーション馬券42点と、4頭のボックス馬券60点を買って勝負することにした。肉うどんを食べながらそう決めたのである。
食べ終わると早速天皇賞の馬券を買いに走った。
天皇賞レースの前に8レースと10レースも楽しむことにした。もちろん損しない馬券の複勝である。8レースでは1番人気は配当が少ないので色気を出して2番人気を買った。この日は武豊クンの馬券は絶好調。10レースで武豊クンの乗る馬の複勝に5000円もぶち込んだ。
しかし、間の悪いとはこういうことをいうのだろうか。8レースは武豊騎乗の1番人気が1着、僕が買ったのは2番人気、10レースは武豊騎乗の2番人気は4着と惨敗したのである。まさにチグハグとはこういうことをいうのである。さらに、チグハグはこれだけでは終わらなかった。待ちに待った天皇賞も、絵に描いたようなチグハグに終わってしまったのである。
結果を先に云おう。武豊騎乗のキズナは4着に沈み、僕の馬券は紙屑と化したのであった。1,2着は四強の二頭のフェーノーメノとウインバリアシオン、3着に突っ込んできたのが人気薄のホッコーブレーヴであった。3連単は21万1千百八十円の高配当となった。騎乗後、武豊は次のように語った。首をひねりながら、
「いい感じで走ってくれていたけど、思ったより伸びなかったですね。実はギアがもう一段あるんですけど、出なかったです。残念です」。おいおい、ユタカ君、君を信頼したんだよ!。まったく、もう、ギア全開じゃあないんかよ、トホ・・・・・・。
こうして、僕の天皇賞は涙とともに淀の川の流れに消えたのであった。情けない・・・・・・。
天皇賞については、詩人であり劇作家でもある寺山修司はこんな作品を書いている。昭和時代の競馬であるが、紹介して終わりとしたい。
?生まれてこのかた、競馬など観たことないという友人の塚本邦雄と天皇賞に行くと約束をしたのが夜の九時。まだ朝までに時間があるのので、(中略)一人で街に出ることにした。
行きつけの酒場へ行って片隅に座ると若いバーテンと客がライター賭けをしている。
「このライターを十回続けて蓋をあけるが、十回とも点火するかどうか?」というのである。
自信たっぷりライターをつき出ているのは十八、九のG?刈りのバーテンで、それに賭けているのは古い背広を着た中年の男である。
私はロアルド・ダールの『南から来た男』という小説を思い出した。それはひとりの小男が、賭けだけで生涯を生きてきて、財産全部を賭けつくして一文無しになり、それでも賭けがやめられずに、手の指を一本ずつ賭けて生きているという残酷な小説だが、この中年の「おっさん」にも、それと似たものを感じたのである。(中略)
そのおっさんと大阪の酒場をハシゴしてまわっているうちに夜が白んできた。(中略)
私とおっさんとは賭博についての、相容れない議論をかわしていた。
おっさんはいまいましそうにいった。
「負けるたのしみだって、ギャンブルのたのしみの一つですよ。勝つのが嫌いな男ってのもいるもんだ」
「ところで、どうでしょうね」と私は水を向けた。「天皇賞レースは何が勝つと思いますか?」
すると、おっさんは、しぶい顔をした。「天皇は人間には賞金を出さないが、馬には賞金を出すんだなあ」というのである。
おっさんの「キーストンが逃げ切るでしょう」という予想をきいて、朝の千日前でわかれた。(中略)
さて、塚本邦雄と淀の競馬場へ着いたのは午後の一時ごろであった。(中略)
ただ、彼は生まれてはじめてのレ?スを観て、もっぱら驚いているようであった。メインレースの前座に「平安特別」というのがあるので、
「1レースやってみないか?」というと、
「何もわからんから」などといって尻込みしていたが、ふと、
「平安朝ならばミネノユキ、タケノアラシなどというのが、古今集ムードでいいんじゃないかねえ」という。(中略)
だが、それでもビギナーズラックということもあるからということでつきあったら、何と1着タケノアラシ、2着ミネノコマチとずばり的中して、二,三枚の馬券で四万ちょっとになった。
「ついてるじゃないか」というと彼は、
「気持ちがわるいから、もうやめた」という。
さて、おめあての天皇賞レースのころになると、競馬場の便所はガラガラになった。みんな「ウンを落とすまい」としているのである。観覧席でばったりあった新橋遊吉に、
「きょうは、ぜんぶ関東馬でいただきですよ」というと、彼は、
「そんなバカな」といって、キーストン=ダイコータ説を唱えた。
私の心境はまさに竹越ひろ子の「東京流れ者」であった。遠征馬とか故郷を離れてたたかうものは勝つのがあたりまえだという考えなのである。
だが、大阪っ子たちは私に反論して、キーストン、キーストンといいまくる。(中略)
キーストンはいい馬だがきょうはいらない。「きょうは東京の馬が勝つのだ」といっていた私の予想通り、レースはハクズイコウ=ウメノチカラと関東馬の一,二着になった。配当は十八倍といういいものであった。
「畜生!」と大阪のノミ屋が叫んだ。「こんなインチキなレースがあるかいな。これじゃ、まるで熊沢天皇賞や!」(筆者注:戦後間もなく、南北朝時代の南朝方の子孫にあたると自称した熊沢さんという人がいて、裁判となり大きな社会問題となった)。
その声を背後に聞きながら私は配当金の使いみちを考えていた。ひとつ、新しい靴を買ってやろう! それに、新しい女も・・・・・・・などと思うと私はまったく「天皇万歳!」とでも叫びたくなってきた。ことしは幸先がよい。?
寺山修司著、競馬エッセイ『馬敗れて草原にある』より。
寺山修司は天皇賞を取って”ことしは幸先がよい”、と言っているが、天皇賞を取り損ねた僕はお先マックラである。これからどうしていいものやら、恥ずかしげに肩を落とし、俯きながらひとり淋しく淀の競馬場を後にしたのであった。
- 旅行の満足度
- 4.5
- 観光
- 4.5
- グルメ
- 4.5
- 交通
- 4.5
- 同行者
- 一人旅
- 一人あたり費用
- 3万円 - 5万円
- 交通手段
- JR特急 私鉄 徒歩
- 旅行の手配内容
- 個別手配
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