2007/05/17 - 2007/05/17
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まみさん
外国かぶれの私ですが、日本の伝統芸能の中で、文楽こと人形浄瑠璃は前から気になっていました。
だって、人形芝居でしょ。要するに日本のマリオネット劇ではありませんか。
マリオネットが子供のお遊びではなく、大人の鑑賞に堪えうる伝統芸能である国は、世界のあちこちにあります。
私がそのことを実感したのは、2003年の夏にザルツブルグで見てからです。
また、チェコでは、マリオネット劇は、ハプスブルグ支配時代に虐げられた民族の心が託されたもの、という哀しい歴史を持ちます。
でも今や、観光客にとっては最高のエンタテイメントの1つとなっているので、チェコ旅行した2004年と2005年の夏は、チャンスがあればできるだけ見るようにしました。
なのに日本のマリオネット劇に行かないのは、どうして?
歌舞伎と共通する題材が、とっつきにくかったせいもあります。
その「語り」が、日本語なのにさっぱりわからないだろうというおそれもありました。
しかし、ここ数年、バレエやオペラを中心として劇場通いが趣味となってしまった私。
新しいジャンルに手を広げてみようと、文楽上演について調べてみました。
また、「文楽へ行こう!」といった類の読みやすいノウハウ本を買って読んでみました。
そしてチケット代がバレエやオペラよりはずっと安かったので、一度ためしに行ってみることにしました。
そして今日は実はすでに3回目なのでした。
最初に見たのは国立劇場の今年2007年の2月公演です。
長い演目を通しで上演されることは少ないです。
初めて見に行った2月公演では第一部から第三部まで分かれ、休憩込みで3時間ずつの上演でした。それぞれ別の演目で、10前後ある「段」の中の数段のみ上演されることになっていました。
私は最初に第三部を見に行って、すっかり文楽が気に入ってしまいました。
ちょっと迷いましたが、すぐに翌週の、今度は第二部のチケットを取って、続けて見に行きました。
それには、同時解説イヤホンガイドの威力が大きいです。
あらすじ、作品解説、上演中のその場その場の意味や見どころ、人形についての説明、音楽、道具、文楽の約束事など、タイミングよく、分かりやすく解説してもらえたおかげで、「何がなんだかわけが分からない!」と絶叫したい気持ちにならず、楽しむことができたのです。
そして3回目である本日の5月公演は、「絵本太閤記」の通しです。
これは、明智光秀が本能寺の変で織田信長を討ち死にさせるに至るまでと、その後、後の豊臣秀吉に討たれるまでを下地にした作品で、一日分で1段、全部で13段ある長い作品です(というか、本来の文楽は、みな長いです@)。
これが、午前と午後の部2つに分けて上演されることになりました(ただし途中2日分だけ割愛)。
あいにく両方見るには時間と日程の都合がつかなかったので、「本能寺の段」がある午前公演を見に行くことにしました。
もっとも、あとで調べたら、午後公演に含まれた10段目の「尼ヶ崎の段」が、一番有名で一番出来がよく、人形の配役もバランスがよいため一番上演される代表敵的な段のようです。
まあ、もうチケットを取っちゃった後だもんね。
3回目の今回はこれまでの劇場シリーズの旅行記に新しく加えるために、国立劇場の写真をいろいろ撮ってみました。
ミーハー気分、丸出しで@
ちょっと気恥ずかしかったのですが、「旅は恥のかきすて」ですっ!
───と言いたいところですが、劇場は「旅先」ではないんですよね。
私にとって、「ハレ」に当たるとはいっても、すでに日常の一部なのですから。
国立劇場の公式サイト
http://www.ntj.jac.go.jp/kokuritsu/index.html
※今までアップした国内の劇場シリーズ
東京宝塚劇場(有楽町)
「手にしたばかりのオモチャに夢中:デジカメ持って宝塚劇場へ(その1)」
http://4travel.jp/traveler/traveler-mami/album/10059201/
「手にしたばかりのオモチャに夢中:デジカメ持って宝塚劇場へ(その2)」
http://4travel.jp/traveler/traveler-mami/album/10062015/
宝塚劇場の公式サイト
http://kageki.hankyu.co.jp/
東京文化会館(上野)
「何十回と訪れて、初めてまともに歩いた上野公園その3:もろもろ&最近の上野での過ごし方」
http://4travel.jp/traveler/traveler-mami/album/10065823/
東京文化会館の公式サイト
http://www.t-bunka.jp/
新国立劇場(初台)
「今宵は初台の新国立劇場へ」
http://4travel.jp/traveler/traveler-mami/album/10130385/
新国立劇場の公式サイト
http://www.nntt.jac.go.jp/
新橋演舞場(東銀座)
「今宵は東銀座の新橋演舞場へ」
http://4travel.jp/traveler/traveler-mami/album/10131883/
新橋演舞場の公式サイト
http://www.shochiku.co.jp/play/enbujyo/
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脇の駐車場側から見た国立劇場
座席はS席、8列10番目です。
一般販売が開始されて電話予約したときは、この日の真ん中の列は埋まっていました。
なかなか人気です。
さすが、通しでやるのが14年ぶりというだけのことはあります。
でも、人形を見るのにも、舞台全体を見回すのにも良い席を確保してもらえました。
ちなみにオペレーターが「両サイドならいくつかございますが、どのような席をご希望ですか?」と聞いてきたときに、すかさず「人形がよく見える席」と答えた私。
文楽の鑑賞ポイントはいろいろあるようですが、やは私にとって、まずは何が何でも人形ですもの@
※分かりやすい文楽解説のサイト
財団法人 文楽協会 オフィシャルウェブサイト
http://www.lares.dti.ne.jp/~bunraku/
人形浄瑠璃文楽
http://www.bunraku.or.jp/jbunraku/index.html
文楽への誘い
http://www2.ntj.jac.go.jp/unesco/bunraku/jp/
ちなみに私はすでにノウハウ本を2冊も買ってしまっています@
「豊竹咲甫大夫と文楽へ行こう」(豊竹咲甫・著/旬報社)
「あらすじで読む名作文楽50」(高木秀樹・青木信二著/新潮社ほたるの本)
どちらもカラー写真が多く、初心者を意識して読みやすいです。
前者は、特にイラスト解説が気に入りました。また、太夫本人が書いただけあって、いかに太夫が体力勝負か、どのような心がまえと準備で舞台に向かうか、興味深い裏事情がとてもよく分かりました。
後者は、あらすじの紹介だけでなく、キーポイントを説明するページがあります。人形の写真が実に美しいです。舞台の写真を撮れないので、これでその代わり@ -
国立劇場の正面から
堂々たる建物ですが、なかなか写真に撮りづらいです。
実は2度目のときも、昼の公演だったので、この建物の写真を撮ろうと思ったのです。
でも撮りづらくてあきらめてしまいました。
今日は、自分としてあんまり納得できない写真でも、記録写真と開き直って、撮ってしまいましょう。 -
国立劇場の提灯が連なる正面と観客を運ぶタクシー
開演30分前にならないと劇場に入れません。
なのでゆっくりと写真撮影。
あの提灯の並んでいる様子を写したいのだけれど、難しいです。
正面から撮ってみることにしました。
タクシーがひっきりなしにやって来ます。
大型バスで団体さんもやって来ます。
うん、どうせなら、タクシーも一緒に撮ってしまいましょ@
……と思ったら、なかなかチャンスが到来しなくなってしまうのですよね。皮肉。 -
小劇場の入口
文楽は「小劇場」で行われます。「大劇場」は主に歌舞伎。
文楽は2003年に世界無形遺産に登録されて以来、少しずつ勢いを取り戻しているようです。
イヤホンガイドや字幕といった工夫もなされているからでしょう。
昔の私なら、どちらも邪道だと思ったかもしれません。鑑賞できるだけの知識を身につけてから、ふつうに見るべきだと。
今はそんなヘンな完璧主義は押し付けません。自分にも他人にも。
邪道であろうがなかろうが、まずはどんな形でもきっかけが大事だと思うようようになったからです。
もっとも、字幕は舞台から目を離さなくてはならないので、やっぱり見ないですむに越したことはありません。
人形は、なにげない日常のしぐさからして、人間のような自然な動きに見ごたえがあるのですから。一瞬たりとも舞台から目を離したくないです。
イヤホンガイドも、せっかくの太夫の美声が聞きづらくなります。
でも左の耳にイヤホンを挟み、右の耳から太夫の声に集中する……という芸当も、3回目ともなれば、もう慣れた気がします@
ちなみにこのイヤホンガイドは、英語版もあります。
それは外国人にとっては助かりますね。 -
入口前の長いすと提灯
この提灯がイイんです@
劇場に背を向ける方向から眺めています。
この向きからの提灯の写真は、逆光で一度は失敗しましたが、少し離れて斜めの位置から広くファインダーに入れることで、なんとか撮ることができました@
開演までの待ち時間、これらのイスはぎっしりになります。
いまはもう開場されたので、人はまばらになりました。 -
国立劇場小劇場のロビー
ロビーの写真が一枚くらい欲しいと思い、いまいちな写真ですが、削除せずに残しておきました。
わざとでなくても人に向かってカメラを向けるようなかんじになるので、気が引けて何度も撮り直せませんから。
本日の公演の「絵本太閤記」は、表紙にも書いたとおり、明智光秀が本能寺の変で織田信長を討ち死にさせるに至るまでと、その後、後の豊臣秀吉に討たれるまでを扱った、「時代物」です。
文楽には江戸時代当時より過去を扱った「時代物」と同時代を主題とした「世話物」があります。
いまのところ私が興味を引くのは時代物。世話物というと真っ先に「曽根崎心中」が思い浮かぶので、昼メロっぽい気がしてしまうからかもしれません。
でも分類の定義をきちんと調べてみたら、世話物イコール昼メロではなかったんですね@
「太閤記」と聞いて、当然、豊臣秀吉の方を思い浮かべましたが、どちらかというと文楽では全般的に明智光秀の視点から描かれているようです。
ようです、などと断言できないのは、後半である午後の部は見ていないからです。 -
「ひらかな盛衰記(笹引の段)」(森田曠平・画)の一部
先ほどのロビーの写真の奥にある絵の一部です。
表面のガラスが光ってしまって仕方がなかったので、人形を中心に、思い切って一部だけ撮りました@
人形の後ろに、よくみると人形遣いの顔が見えます。
5月公演が「絵本太閤記」だと知ったとき、すぐさま手持ちの文楽ノウハウ本で、あらすじを調べてみました。
ところが登場人物の名前は知らない人だらけです。
そして、主人公らしき武士は自分の利害ではなくむしろ世のため人のために主君を倒したはずだけど、封建制度の主君への忠義ということからどのような大義を掲げようとも大罪である、と彼の老いたる母親は決して息子を許さず。。。みたいなところがハイライトらしく、「太閤記」ってこういう話だっけ? 何かと勘違いしたかしら?………と、私の頭の中は「???」でした。
まあ、でもとにかく、イヤホンガイドで解説されるから、なんとかなるでしょ、と思ってチケットを取りました。
実際、イヤホンガイドのおかげでよく分かりました。
江戸時代当時に直系子孫がいる場合、実名で芝居に出すのは禁じられていたため、名前が少し変えられていたのです。
字面ではすぐにピンと来なかったのですが、音で聞いたら、すぐに分かりました。
たとえば、織田信長は、「尾田春永(おだ・はるなが)」。
羽柴秀吉は、「真柴久吉(ましば・ひさよし)」。
そして明智光秀は「武智光秀(たけち・みつひで)」
まさにパロディですよね。
イヤホンガイドで耳から聞いたとき、楽しくなってしまいました@ -
お弁当屋さん
今回の午前の部の上演は11時から3時半。
お昼はここで買って食べましょ@
それに休憩時間は2回しかなくて、ちょうど昼頃の休憩は25分だけなのです。
お弁当は、急いでかっこむ必要があるでしょう。
サンドイッチを含め、たしか3種類くらいしかありませんが、なかなか美味しかったですよ。
実は休憩が始まるとすぐにお弁当屋さんの前に行列ができたので、少し空くまで待とうと、隣のおみやげ屋さんの写真を撮ったりしていました。
それからお弁当を買って、いざロビーで食べようとしたら……イスはすべてぎっしり満員!
劇場の外の提灯の下のイスも満員です。
ぐるぐる回りながら、途方に暮れてしまいました。
ひょっとして立って食べなくちゃいけないのかしら!?……と思ったのですが、しばらくするとイスが空いたので、無事に座ってお弁当を食べることができました。
その時点で休憩時間残り15分という表示が出ていました。
急いで食べたので10分くらいで食べ終わりましたけどね。 -
おみやげ屋さん
劇場シリーズの写真集を作るなら、やっぱりおみやげ屋さんの写真は外せません! -
おみやげ屋さんの猫の置物
奥のガラス戸棚の中にありました。
可愛い@ -
おみやげ屋さんのガラスびな
雛人形は、年間通して売られているのでしょうか。 -
おみやげ屋さんの歌舞伎の絵柄の手ぬぐい
歌舞伎はこの小劇場では上演されないはずだと思ったのですが、おみやげ屋さんには、歌舞伎グッズの方が圧倒的に多かったです。
大劇場のおみやげ屋さんと、品揃えが共通しているのかもしれません。 -
おみやげ屋さんのお菓子
お菓子なら洋菓子の方が好きな私ですが、こういうところに来ると、和菓子に惹かれるものです。
雰囲気に流されているんですねっ!
……買いませんでしたけれど。 -
おみやげ屋さんの歌舞伎人形
ですよね?
隈取した文楽人形の「かしら」を見たことがないので。 -
緞帳のデザイン・その1
「琳派草花図」
ロビーに緞帳のミニチュア?の絵が飾られています。
3種類あって、休憩時間に3つとも披露してくれます。 -
緞帳のデザイン・その2
「二重蔓牡丹唐草」
ふだん使われているのはこの緞帳のようです。 -
緞帳のデザイン・その3
「雲取摺箔唐松模様」
これの本物は休憩時間にしかお目にかかったことがないです。
ガラスに光が反射するので、仕方がなく斜めに撮りました。 -
ロビーに飾られた人形の絵
「阿古屋 壇浦兜軍記」(長谷川昇・画)
いったいどんな話なのでしょう。
源平合戦の時代物かしら。
ちなみに文楽の人形は、たとえ江戸時代以前の時代物であっても、衣装は江戸時代のもののままです。
初めて見た文楽が、「妹背山婦女庭訓」という、蘇我入鹿の暗殺、すなわち大和時代の大化の改新を下地にした時代物でした。
なのに人形の格好がどうみても江戸時代の人間なので、首をひねったものです。
イヤホンガイドのおかげでそう解説されたので、ナゾが解けました@
はじめは、時代物なら、登場人物ならぬ登場人形は、もっとその時代らしい格好であって欲しいし、そうじゃないとヘン!と思って違和感がぬぐえませんでした。
しかし考えてみたら、現代の芝居などでも、わざと現代の服装で演じたり、その時代のとおりでなくアレンジされたりします。
時代考証をしているとはいえ、後者もある意味、私たちの時代のファッションといえますよね。
それに江戸時代の人にしてれみれば、かえって自分たちと同じ格好の方が、時代劇を演じている人形であっても親しみが持ててよかったのかもしれません。
いまでは、人形が江戸時代の扮装、つまり着物なのもすごくいいと思っています。なんたってその美しさ!
すばらしい柄の着物の人形そのものが、もうすでに一枚の絵のようです。
というわけで、3度目ともなると、服装が時代に沿っていないのは、気にならなくなりました。
もっとも、大和時代のはずの人形に江戸時代の服装を着せるのに比べたら、戦国時代の方が違和感は大きくないかもしれません……いや、やっぱりヘンですね@
一方、女性の台詞を男性である太夫が話すのには、最初から違和感がありませんでした。
少しばかり甲高くしたしわがれ声で、女性が話しているとわかるイントネーション。意外に耳になじみ、とても味があると思いました。
太夫は、場面によって、一人で脚本も登場人物も全員、声音を変えて語る場合と、複数の太夫がそれぞれ役について掛け合いをする場合とがあります。
なので、声優のアテレコのように、人物ごとに太夫が決まっているわけではないところも、なかなか面白いと思いました。 -
座席への入口
舞台に向かって左サイドの扉です。
舞台の右手の手前は、「語り」の太夫と三味線弾きの位置で少し座席側にせり出しています。
太夫の声をよく聞きたい人、あるいは三味線が好きな人は、右サイドの座席を好むそうです。
なので人形が見たい私は、真ん中の列があいていなければ、左サイドの座席がいいです。
ただし、人形遣いの位置によっては、左サイドの座席でも人形が見えなくなることがあります。
糸を使ったあやつり人形とは違って、人形遣いが人形と一緒に堂々と舞台に上がっています。
しかも、黒子ならともかく、メインの人形遣いは、袴で正装し、顔を見せてさえいます。
なぜ人形遣いが顔を見せるかというと、やはり見事にあやつられた人形を見ていると、どんな人があやつっているのか知りたくなるのが人情です。
なので最初からお客様に向かって顔を見せちゃえ!ということらしいです。
最初は人形が見たくて、人形遣いが邪魔に思えたものですが、今やもう慣れたおかげで、気にならなくなりました@ -
公演チラシとチケット
チラシの人形は織田信長ならぬ尾田春永かと思ってしまいましたが、この顔つきの人形は、羽柴秀吉ならぬ真柴久吉か、あるいは明智光秀ならぬ武智光秀のどちらかでした。
であれば、たぶん明智光秀でしょう。
ちなみに織田信長は、もう少し赤ら顔の、つぶらな目!?をした人形でした@
まだ3回しか、それも時代物しか見ていない私が、文楽の傾向を決め付けるのは早いですが、ストーリーは、メインとなる事件を、絡め手で描いていて、特に歴史上有名な事件などは、事件の主役格の人物より、その周辺の人間模様を丁寧に描いていて、側面から事件を浮かび上がらせる手法が多いのかな、という気がしています。
そしてほとんど必ず、そういった周辺の人間の恋愛話が絡むのです。いや、かなり重点が置かれています。
なので、事件の主役の大人たちよりも、その息子や娘に焦点が当てられることが多いかもしれません。
あるいは主格の人物たちはあまり自由にいじくれないので、家臣やその家族の方に焦点を当てたくなるのかもしれません。
と分かってからは、だいぶ文楽の世界に気持ちの上で近付いた気がします。
でも、最初は心の中で「なんだこりゃーっ!」「なんだそりゃーっ!」の絶叫三昧でした。
初めて見た「妹背山婦女庭訓」は、あらすじを下調べをしたものの、家臣やその家族などやたらと登場人物とエピソードが多すぎて頭に入らず、とにかく一番簡単な説明で「蘇我入鹿を倒すまでの話」なのだな、と思って臨みました。
そうしたら、蘇我氏の横暴ぶりとか、反蘇我派の密談とか人集めとか、その暗殺グループの家族が不審に思ったり、といったようなエピソードを期待するじゃないですか。
(ちょっと忠臣蔵っぽい?)
私が見たのは後半3分の一くらいで、「道行恋苧環の段」というところからです。
なんとこの段は、町人の娘お三輪ちゃんが、自分の愛しい男にどうやら他の女の影あり、と気付き、それがどこぞの大きなお屋敷のお姫様らしいぞ、と突き止める話なのです。
なんじゃそらーっ!
大化の改新はどこにいった!?
確かにすべてが、蘇我入鹿を倒すことに結びついてはいました。
どうもその誕生に神がかったところがある蘇我入鹿は、ふつうの方法では殺害できず、3つのアイテムが必要なのです。
お三輪ちゃんの愛しい男は、実は藤原鎌足の息子でした。
そして3つめのアイテムは、「疑着の相のある女の生血」、つまり嫉妬に狂ったあげく魔性の顔つきになった女の生血。つまりそれがお三輪ちゃんなのです。
といっても、鎌足の息子がそのつもりで純粋な町娘にちょっかい出したわけではないはずです。
むしろそのお姫様こそが蘇我入鹿の妹で、最後には暗殺の手引きをさせるのですから、本気の忍ぶ恋だったのか、そっちを疑っちゃいますね。
もともと文楽は、江戸時代のベストセラー小説の芝居化みたいなようなものなので、まじめな歴史劇や事件を史実や歴史書のように真っ向から扱うのではなく、周辺の人間がどうだったか、いわば正規の歴史では語られない隠れたエピソードに焦点を当てたくなるのは分かります。
そこに、たくさんのパターンのラブストーリィが絡むのも。
いろんなカップリングを登場させる───それこそパロディのお楽しみというものでしょう。
だから今回の「絵本太閤記」の前半のクライマックスともいうべき「本能寺の段」でも、嵐の前の静けさのようなひとときに脇役のラブシーンが入っていても、やっぱりね、と思いました。
どのカップリングかというと、なんと森蘭丸と、信長の側室(といいつつ、モデルは正妻である斉藤道三の娘の濃姫)のおつきの腰元の、主君に隠れた忍ぶ恋なのです。
しかもここでもそうでしたが、文楽では、どちらかというと、男たちが公務とか主君への忠義で頭がいっぱいなのに対し、女性が恋にとても積極的なんですよね。
特にこの「絵本太閤記」の私が見た前半は、腰元であれ姫君であれ、女性の方から男性に言い寄っていました。
それが江戸時代当時の風潮か、下地の物語を書いた作者の願望か。
「あなたが好きだから一夜を共にしたい」と蘭丸にむかって迫ったこの腰元。
あるいは、「私達は幼い頃からのいいなずけなんだから、次の段階に進んでいいんじゃない?」とキスをせまった、明智光秀の息子の婚約者。
「私のこと、好きよね?」と相手の男に言わせた、高松城(本能寺の変のときに秀吉が攻めていた城)のお姫様。
しかし、彼女たちのせまり方は、さすが(?)江戸時代の女性がモデルです。
積極的なのだけれど奥ゆかしく、非常に清楚な色気があり、美しい模様の着物姿で男の胸元によりそう姿は、ビジュアル的に、そりゃぁもう美しかったです。
それに自分からせまるといっても、現代女性の感覚ではとうていまねできない奥ゆかしさです。男女平等や個人主義の考え方が当然のようにある私たちにはね。
文楽の世界の女性たち───少なくとも今のところ私が見た範囲では、恋の成就のためには積極的たけれど、「仕事と私とどっちが大事?」なんて口が裂けても言わず、いやそのようなことを考えるにも至らず、むしろ「お仕事や上司(主君)の方が大事よね。でもその合間にちょっとだけでもいいから私のことを考えて」という低姿勢ですから。
そして奥様ともなれば、「家庭のことは私に任せて、あなたは心置きなくワーカホリックになってていいのよ(たとえ主君と一緒に死ぬのも仕事(忠義)のためなら仕方がないわよね)」と送り出すのがふつう(?)ですから。
それでもまだまだ「なんじゃそらーっ!」の多い、文楽の世界。
でもイヤホンガイドの解説に助けられて、いろいろ置き換えて考えることで納得できることもあれば、時代が違うことを考えて納得できなくても受け入れざるをえなかったりしつつ、巧みな人形遣い、心の機微の丁寧な描き方と表現の仕方、太夫の美声と見事な言い回し、日本語の美しさ、和の情緒たっぷりな三味線、1つ1つが絵になる舞台全体───そんな文楽の良さそのものを、これからも堪能していきたいと思います。
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この旅行記へのコメント (2)
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- 義臣さん 2007/05/25 18:11:53
- 大阪で
- 私は大阪の文楽劇場で、
数年前に、大阪の友人に連れられて、やー。。判らなくても感激でした、
台詞。鳴り物。色彩。日本人のDNAを刺激されたようでした。
帰りに食堂の小母さん手作りの小物まで頂いて。
とても良い思い出でした。
歌舞伎は以前は大好きで、
勘九郎坊やの可愛い姿 勘三郎になった姿でテレビにでうと
「勘九郎坊やも 立派になって」、、なんて独り言を言ってます、
義臣
- まみさん からの返信 2007/05/27 21:33:35
- RE: 大阪で
- 義臣さん、こんにちは。書き込みありがとうございます。
義臣さんは文楽公演ですてきに思い出があるんですね。
「日本人のDNAを刺激された」とは、なるほど〜!と思いました。
外国かぶれの私ですが、こういう世界が分かる(気がする)のなら、日本人でいて良かったと思ったくらいですから。
分かるといっても、直感的な部分?
しかし、太夫の美声が分かったのは、ある程度、年齢をへたからかもしれません。
昔は絶叫にしか聞こえなかったオペラのソプラノ歌手の歌声が、いまは聞き惚れることができるようになったのですから。
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