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「オレ、自分を変えるために旅しています。」<br /><br /> 暗闇のなか、彼が静かに話し始めた。彼とは僕より12歳年下のJ君。彼とはサンクリストバルの宿で出会い、その場で意気投合した。たまたまお互い目指す方向も同じだったので、一緒に北上してユカタン半島を旅することになったのだ。今日はカンクンを経て、イスラ・ムヘーレスというリゾート島を訪れた。観光シーズンから外れていたためか、観光客は少なく、島の物売りたちもやる気が感じられない。でもその分、僕らはうまく値切りができて、シュノーケリングやBBQを思う存分楽しめた。夜は安宿に戻って夕食代わりにバナナとポテトチップを食べ、ビールで流し込む。外のレストランはこぞって高かったから夜は節約する。バカ話のネタも尽いたし、そろそろ寝ようかと電気を消して横になっていたところで、彼が切り出した。<br /><br /> 「自分を変えるための旅、といってもまだ数カ国しか旅していないですけど。」その前にも、バイトで貯めたお金でアジアやヨーロッパを何度か旅していて、今回はメキシコを1ヶ月間の予定で旅しているらしい。<br /><br /> 「へー、じゃ今回の旅で何か変わったかい?」僕は仰向けの体制のまま、彼のほうを見ずに聞いた。「いや、日本に帰ってからじゃないと、それ・・・ははっきりわからないから。でもきっと何かわかると思うし、僕自身、変われると思うんです。」<br /><br /> J君の口調はとてもはっきりとしていて、まるでそれを確信しているかのようだった。はて、遠い昔に何処かでこんなやり取りをした記憶がある。そのときの僕は聞き役ではなく、熱く語っていたのは僕自身だった。当時、大学生だった僕は、旅行中に出会った人と会話をしていて、旅する理由としてJ君と同じようなことを熱く語っていたのだ。まるで12歳年下のJ君は、12年前の自分のようであり、僕は過去の自分と話をしているような錯覚に陥った。<br /><br /> かつて大学生だった僕も自分探しのため様々な国を旅した。旅での出会い、経験が自分自身を大きく成長していると信じていた。いい意味での価値観の崩壊の連続で、とても刺激的だった。その後、大学を卒業し、普通の一般企業に就職。仕事に追われ、日本の社会常識を覚えるのに精一杯の毎日。社会人に成りたての僕は、かなりヘンテコで、打たれる杭のように上司・先輩の洗礼を浴びせられた。日本の社会には決まりきったルールがある。名刺の渡し方から電話の受け方、挨拶の仕方まで。数字至上の成果主義。本音と建前が入り乱れる交渉テクニック。年功序列の厳しい上下関係。凄まじいまでの管理社会。手取り足取り教えられ、やっと普通の常識人と認められた頃には、「日常」という名の病魔に骨の髄までどっぷり犯されていた。<br /><br /> 気がつくと僕は30歳を過ぎていた。「日常」をこれからも続けていくことは簡単だ。でも、もう一度だけ、昔感じたあの「非日常」を味わってみたい。「日常」のなかにも、ドキドキわくわくしていた「非日常」の記憶を忘れたことなど片時もない。悩んだ末、慣れ親しんだ「日常」を断ち切って会社を辞め、僕はここにいる。そしてその僕の横には、12年前の僕と同じようなことを語る12歳下の彼がいた。<br /><br /> 今後、彼は普通の「日常」に戻ってしまうのか?「非日常」を日本に持ち込むのか?それとも僕のようにいつか「日常」から「非日常」に戻っていくのか?先のことはわからない。だから彼とこの話を語り合うことは控えておいた。彼がこんな会話をしたことを覚えててくれれば、それでいい。彼もいつか何処かで思い出すだろう。その答えは彼だけが知っている。<br /><br />僕はずっと無言だったので彼が話題を変えた。<br /><br /> 「そういえば、わかさん。12歳も歳が離れているとは思えないですね。なんか同い歳の人と話している気がします。」<br />そりゃそうさ、精神的に学生時代の僕に戻っているんだもの。僕は調子に乗って彼のほうを見つめ、こう切り替えした。<br /><br /> 「そうかい、そりゃうれしいよ。そういえば明日行くトゥルムというビーチにはトップレスがめちゃめちゃいるって聞いたよ。どれだけのオッパイが見れるか楽しみだね。そうだ、オッパイ探検をして、どっちがたくさん見れるか競走しようよ!」<br /><br /> 「・・・・わかさん、前言撤回。あんたは僕より年下みたい。いい歳してオッパイ探検って恥ずかしくないの?」<br /><br /> 「だってさ。オッパイだよ、オッパイ!!日本じゃなかなか見れないよ。生で、しかも活きのいいのはさぁ」<br />旅している間は、若い大学時代のアホの僕のままだ。今している旅は自分を変えるための旅ではない。過去の自分に出会い、あのときの自分を取り戻すために旅をしている。<br /><br />「でね、オッパイのカウント方法はこうしよう・・・」  <br /><br /> この旅で僕は完全に出会った、12年前の過去の自分に。そして旅という「非日常」は自分の原点に違いないと確信した。 

過去の自分と出会う@イスラ・ムヘーレス

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2006/11/30 - 2006/11/30

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フーテンの若さん

フーテンの若さんさん

「オレ、自分を変えるために旅しています。」

 暗闇のなか、彼が静かに話し始めた。彼とは僕より12歳年下のJ君。彼とはサンクリストバルの宿で出会い、その場で意気投合した。たまたまお互い目指す方向も同じだったので、一緒に北上してユカタン半島を旅することになったのだ。今日はカンクンを経て、イスラ・ムヘーレスというリゾート島を訪れた。観光シーズンから外れていたためか、観光客は少なく、島の物売りたちもやる気が感じられない。でもその分、僕らはうまく値切りができて、シュノーケリングやBBQを思う存分楽しめた。夜は安宿に戻って夕食代わりにバナナとポテトチップを食べ、ビールで流し込む。外のレストランはこぞって高かったから夜は節約する。バカ話のネタも尽いたし、そろそろ寝ようかと電気を消して横になっていたところで、彼が切り出した。

 「自分を変えるための旅、といってもまだ数カ国しか旅していないですけど。」その前にも、バイトで貯めたお金でアジアやヨーロッパを何度か旅していて、今回はメキシコを1ヶ月間の予定で旅しているらしい。

 「へー、じゃ今回の旅で何か変わったかい?」僕は仰向けの体制のまま、彼のほうを見ずに聞いた。「いや、日本に帰ってからじゃないと、それ・・・ははっきりわからないから。でもきっと何かわかると思うし、僕自身、変われると思うんです。」

 J君の口調はとてもはっきりとしていて、まるでそれを確信しているかのようだった。はて、遠い昔に何処かでこんなやり取りをした記憶がある。そのときの僕は聞き役ではなく、熱く語っていたのは僕自身だった。当時、大学生だった僕は、旅行中に出会った人と会話をしていて、旅する理由としてJ君と同じようなことを熱く語っていたのだ。まるで12歳年下のJ君は、12年前の自分のようであり、僕は過去の自分と話をしているような錯覚に陥った。

 かつて大学生だった僕も自分探しのため様々な国を旅した。旅での出会い、経験が自分自身を大きく成長していると信じていた。いい意味での価値観の崩壊の連続で、とても刺激的だった。その後、大学を卒業し、普通の一般企業に就職。仕事に追われ、日本の社会常識を覚えるのに精一杯の毎日。社会人に成りたての僕は、かなりヘンテコで、打たれる杭のように上司・先輩の洗礼を浴びせられた。日本の社会には決まりきったルールがある。名刺の渡し方から電話の受け方、挨拶の仕方まで。数字至上の成果主義。本音と建前が入り乱れる交渉テクニック。年功序列の厳しい上下関係。凄まじいまでの管理社会。手取り足取り教えられ、やっと普通の常識人と認められた頃には、「日常」という名の病魔に骨の髄までどっぷり犯されていた。

 気がつくと僕は30歳を過ぎていた。「日常」をこれからも続けていくことは簡単だ。でも、もう一度だけ、昔感じたあの「非日常」を味わってみたい。「日常」のなかにも、ドキドキわくわくしていた「非日常」の記憶を忘れたことなど片時もない。悩んだ末、慣れ親しんだ「日常」を断ち切って会社を辞め、僕はここにいる。そしてその僕の横には、12年前の僕と同じようなことを語る12歳下の彼がいた。

 今後、彼は普通の「日常」に戻ってしまうのか?「非日常」を日本に持ち込むのか?それとも僕のようにいつか「日常」から「非日常」に戻っていくのか?先のことはわからない。だから彼とこの話を語り合うことは控えておいた。彼がこんな会話をしたことを覚えててくれれば、それでいい。彼もいつか何処かで思い出すだろう。その答えは彼だけが知っている。

僕はずっと無言だったので彼が話題を変えた。

 「そういえば、わかさん。12歳も歳が離れているとは思えないですね。なんか同い歳の人と話している気がします。」
そりゃそうさ、精神的に学生時代の僕に戻っているんだもの。僕は調子に乗って彼のほうを見つめ、こう切り替えした。

 「そうかい、そりゃうれしいよ。そういえば明日行くトゥルムというビーチにはトップレスがめちゃめちゃいるって聞いたよ。どれだけのオッパイが見れるか楽しみだね。そうだ、オッパイ探検をして、どっちがたくさん見れるか競走しようよ!」

 「・・・・わかさん、前言撤回。あんたは僕より年下みたい。いい歳してオッパイ探検って恥ずかしくないの?」

 「だってさ。オッパイだよ、オッパイ!!日本じゃなかなか見れないよ。生で、しかも活きのいいのはさぁ」
旅している間は、若い大学時代のアホの僕のままだ。今している旅は自分を変えるための旅ではない。過去の自分に出会い、あのときの自分を取り戻すために旅をしている。

「でね、オッパイのカウント方法はこうしよう・・・」  

 この旅で僕は完全に出会った、12年前の過去の自分に。そして旅という「非日常」は自分の原点に違いないと確信した。 

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