1999年から4年間、台南に住んでいた。彼の地を離れた後も台南へは数度行っているが、台南市の中心部（府城）を訪れたのは17年ぶり。当時を懐かしみながら街歩きと台南美食を楽しんだ。<br /><br />「府城」というのは、旧時代（清朝）に最高行政機関が所在していた場所のことで、台湾で府城といえば、台南のことを指す。より具体的には、現在の中西区、東区、南区、北区、安平区が概ねそれに該当する。<br /><br />1日目：<br />司法博物館、度小月で昼食、ハヤシ百貨店、台南測候所、台湾文学館、台南市美術館、孔廟、武徳殿、莉莉水果店、延平郡王祀、南大門、藍晒圖文創園區（Blueprint Cultural & Creative Park）、保安路で夕食、三越

我が愛しき府城（1）

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2020/07/07 - 2020/07/11

514位(同エリア2595件中)

エリア

台南(台湾)

台北から台南へは、新幹線（高速鉄道）、台湾鉄道、高速バスが利用できる。新幹線ができるまでは空路もあった。今回は台湾鉄道「プユマ号」。7時42分に南港を出発し、台南へは11時8分に到着。新幹線で台南へ行くのより時間がかかるが、時間的な差は1時間未満で乗り換えることなく直通で行ける（新幹線は電車かシャトルバス乗り換え）。ただ、1日の本数が限られているため、座席予約は平日分でも容易ではない。
台湾鉄道は遅れることで有名だけど、この日は時間通りに出発。
日本製のプユマ号
テーブルのある4人がけもある。
大きい荷物の保管場所

男性専用便器
和式トイレ
洋式トイレ
飲み物の自動販売機
座席間は十分にゆとりがあり、小柄な人なら足元に小さめのスーツケースを置くことが可能。実際、そうしている乗客は多かった。
リクライニングの角度
テーブルの大きさはこのくらい。スマホ充電設備はなかった。

始発駅である南港で5両目に乗車したのはたった6人。台北と板橋（新北市）でそれぞれ多くの乗客が乗り込み満席に。コロナウィルス対策のため、車内では乗客皆がマスク着用。
台湾北部を離れると、田園風景が広がる。
台湾鉄道台南駅は日本時代の1900年に設置され、現在も残る駅舎は1936年に完成した。訪れたときは改修工事が行われていた。駅の地下化が進められていて、2024年に完成予定。現在ある駅舎は1998年に政府により古跡指定されていて、今後も解体されずに残される。
駅前の景観

まずは荷物を預けるために、台南晶英酒店（(Silks Place Tainan）へ。タクシーで駅からちょうど100元だった。
ロビー、後方にチェックインカウンター。
奥に静かなロビーもある。チェックインだけ済ませ、荷物を預けた。客室が利用できるのは16時から。スタッフは皆親切丁寧な対応で、台北のマリオットよりずっと良い印象を持った。
まず向かったのはホテルから数分のところにある司法博物館。非常に見応えがあるが、入場は無料。ただし、コロナウィルス対策のため、実名と連絡先を登録した上での入場となる（2020年7月）。
これは日本時代の1914年に竣工したもので、台湾に3つあった地方裁判所のひとつ（他は台北と台中）。戦後も台南地方法院として使用されていたけれど、2001年に裁判所が安平区に移り、改修工事を経て2016年から一般公開されるようになった。
エントランス
非常に重厚な造りで、当時の三大建築物の一つと称されていた。
このように大切に維持保管されていることはすばらしい。
以前使用されていた机やタイプライターなども残されている。
建造物の全景。右側に鉄塔があったが、亀裂が見つかり、安全のため、1969年に取り壊された。
しかし、その塔の在りし頃の様子を見ることができる。
実は上から吊り下げられているものを、下に敷かれた鏡に映った状態で見る。
建物のどこを見ても、その美しさ、荘厳さを感じる。
法廷に飾られた法職者の衣装。
日本統治時代が偲ばれる。
過去の裁判事例が映像で紹介されていた。
撮影したくなる景観が多すぎる。
防空壕
90年以上の樹齢を持つガジュマル。ここだけに限らず、台南では至る所に老木が存在する。
牢獄
この細い牢獄に何人が閉じ込められていたのだろう。
一番奥に便器。
司法裁判所の前にあるのは、鳳凰木をモチーフにして建てられた台南市第二美術館。2019年1月にオープンしたばかりで、現代アートを展示する。
徒歩で台南を代表する美食の擔仔麵を食べに名店「度小月」中正路旗艦店へ行った。
初代洪芋頭は元々は漁業に従事していて、海が荒れる時期に食いつないでいくため、日本による統治が始まって間もない頃に、擔仔麵を天秤棒で担いで売り歩き始めた。その後、そのおいしさが知られるようになり、1946年に中正路に店舗を構え、1991年に現在ある創始店の位置に移動して、既に4代目となっている。創始店舗は台湾文学館の近くにあるけれど、以前のような素朴な感じは既にない。なお、度小月の分店は1999年に台北に進出し4店舗展開、澎湖にも1店ある。さらに、2013年に中国でも営業を開始し、北京、上海、香港などに出店している。
他の席は待つことになると言われ、擔仔麵料理台附設の席へ。庶民が食べていた擔仔麵だけれど、この店ではインテリアに凝っているほか、店員もおしゃれな制服を着ていて、高級なものを食べているような錯覚に陥る。自分が知る擔仔麵ではないような......。
これが擔仔麵。
肉圓。台湾全国にあるけれど、台南では揚げたものではなく、蒸したものが食される。
皮をめくると中に肉。

度小月では様々な台湾料理が提供されているから、大勢で訪れた場合は、皆で多種類食べてもいいかもしれない。参考までに、擔仔麵と肉圓だけでサービス料込みで163元。
空腹を満たしたところで、日本人が創業したハヤシ百貨店へ向かった。
創業者は山口出身の林方一で、1932年12月5日に開店させるも、その5日後に胆嚢炎で他界（49歳）。その後、38歳の妻が事業を継承した。最盛期には150名ほどの従業員がいて、女子社員寮もあった。
終戦後、政府が接収し、空軍や警察派出所などとして使用されたのち、1980年代以降は使用されずに寂れてしまっていた。その後、台南市が高青時尚股份有限公司に営業委託し、2014年6月に再オープン。各階のテーマを「台南好客廳」「台南好設計」「台南好品味」「台南好美味」「台南好文化」「台南好風景」とし、営業展開している。来客のほとんどが観光客のようだった。
1階から5階までが売り場。
ハヤシ百貨店は台湾で最初にエレベーターを敷設した建造物として知られる。日本時代のエレベーターは12人乗りだったが、現在のものは5人定員。1階から5階を直通で移動し、他の階には停まらない。
日本時代には庭園があった屋上。
奥の建物はエレベーターの機械室。第二次大戦中に受けた傷も屋上で見られる。
開店半年後、「末広社」という神社が完成した。現在は記念する碑があるだけ。ハヤシ百貨店の前にある通りは当時末広通りと呼ばれ、台南銀座とも呼ばれた華やかな場所だった。ハヤシ百貨店に思い出を持つお年寄りも多い。
屋上からは、斜向かいにある勧業銀行（1937年）を眺められる。今は土地銀行として使用されていて、観光施設にはなっていない。
5階の飲食店
4階に展示されている以前のエレベーターのドア。
和服を着た顧客が上り下りしたのであろう階段。
ハヤシ百貨店を後にし、旧勧業銀行へ。見事な柱。
さらに歩みを進め、1898年に建てられた台南測候所へ。
残念ながら、コロナウィルス対策で7月14日まで休館だった。同じ敷地に台南気象観測所がある。
台南測候所のすぐ近くにあるのが消防史料館（日本時代は合同庁舎、1930年建設）。
消防に関する史料が多く展示されている。
移動式消防ポンプ車（1964年製造）
窓から見えるのは湯徳章紀念公園。日本時代は大正公園と呼ばれ、台南で最初に造られた円形公園で、中央に第4代台湾総督児玉源太郎の銅像が置かれていた。

湯徳章：日本時代は警察官で、のちに日本へ留学し、台湾に戻って弁護士となった。228事件時の市民暴動の全責任を負わされ、この公園で銃殺処刑された。
日本時代の半鐘
歪な形をしている。
消防史料館の全貌
続けて、消防史料館の前にある国立台湾文学館へ。
1916年に建てられ、元は台南州庁だったところ。2003年10月17日に国立台湾文学館となった。
入館してすぐある階段を上っても、歴史的展示物はほとんどない。
小学生がここで課外学習をしていた。
文学館ではあるけれど、もう少し歴史的な展示も欲しいと感じた。
井伏鱒二、太宰治、吉行淳之介、遠藤周作などを弟子にもつ佐藤春夫の特別展示があった。佐藤春夫は1920年に台南を訪れ、のちに安平を舞台とした『女誠扇綺譚』を執筆した。読みたいと思いつつ、すでに長い時間が経ってしまっている。
旧台南州庁の近くにあるのが台南市美術館。元は日本時代の1931年に建てられた警察署で、戦後もそれが新営区に移る2010年までここに台南警察局が置かれていた。美術館となったのは2018年のことで、私が台南に住んでいた頃はまだ警察局がここにあり、中華民国居留の申請はここで行なっていた。
エントランスは警察局があったときのまま。
階段も以前のまま。
しかし、以前あった警察局の様子はまったくなくなっていた。なんとなく残念な気持ちになり、美術品を見ることなく去った。
台南市美術館の斜向かいにあるのが孔廟。
1665年に建造された台湾で最古の孔廟。別名「全台首学」。前方に見える石積みは門の跡。
もっとも重要な大成殿は改修中。
儒学が説かれた明倫堂
孔廟の隣に忠義小学校があり、その内部に武徳殿がある。武徳殿は日本武道を広めるための設けられた建物で、台湾全土にあるけれど、1936年に建てられた台南武徳殿が現存するものの中では最大。
孔廟の前にあるのが、1940年に建てられた愛国婦人会館。
雰囲気のある入り口。
スリッパに履き替え2階へ。
戦時中、台湾に在住する婦人方がここに集まり、決起したのだろうか。
畳のある部屋では台湾人観光客が寛いでいた。
愛国婦人会館の隣にあるのが有名な莉莉水果店。戦後間もない1947年に開業。
ここはその名の如く、果物を売る店。
でも、ここに来る人の多くのお目当てはマンゴーかき氷などのスイーツ。マンゴーは暑い夏が最盛期。台南に住んでいたとき、何度も来て食べた。値段は上がったけれど、懐かしい味だった。ホテルを出発してから、ずっと熱っていた体が、マンゴーかき氷を食べて、クールダウン！街歩きをしていたときは、台南は暑い夏になど来るべきではないと何度も思っていたものの、夏だからこそ食べられるものが多いことを忘れていた。
訪れる客は後を絶たない。
次に向かったのは、1875年創建の延平郡王祀。ここには明朝の義臣であった鄭成功、開台聖王が祀られている。浄瑠璃や歌舞伎などで登場する国姓爺こそその人物。台南にある名門校、成功大学の名の由来にもなっている。

延平郡王祀の庭園には、長さ8m、幅4m、高さ7m、重さ200tの鄭成功の石像が建っている。材質は泉州の花崗岩で、2008年に泉州市の鄭成功学術研究会が寄贈した。
鄭成功は1661年に大軍を集結させて、金門から台湾に向かい、オランダ人を駆逐した。それを記念するために造成されたのが金門島池。その名の通り金門島の形をしている。
日本時代はそれ以前からあった旧祀のなかに日本式の社を建設して、開山神社と改名し、引き続き鄭成功を祀った。当時の鳥居の名残がある。
訪れた時は自分以外誰もいなかった。
神輿
本殿
20数年前に訪れた時と変わらぬご尊顔。延平郡王は40歳にもならずして他界した。初めてこのお姿を拝見した時は延平郡王より若かったのに、いつの間にかその享年を超えてしまった。
延平郡王祀の隣には鄭成功文物館。
鄭成功の母は日本人、平戸藩士の娘である田川マツ。鄭成功は幼少期を平戸で過ごし、「福松」という日本名も持つ。
1725年建造の南大門。台南で最も保存状態がよい城門。
半円型内城にある入り口は「寧南門」。ここから府城内部に入る。
2階にも上がれるようになっている。
ここに兵士が立ち並び、府城の安全を守っていたのだろう。
小型の砲台が展示されていた。
ホテルの隣にある三越。
12時ごろホテルを出て、16時10分ごろ戻ってきた。この日は駅からホテルへ向かうときにタクシーを使った以外、すべて徒歩。広範囲を移動したわけではないけれど、酷暑（35度）の中を汗をだらだら流しながらよく歩いたものだ。
客室へ向かう廊下。
1030号室
ドアを開けて中を望む。預けておいた荷物は客室に届けられていた。
落ち着く色合い
クローゼットの大きさも十分。
すべてがゆったり目でいい。
リンゴとキウイが台湾の形をしたお皿に。
窓からの景色とプール
客室内のデコレート
再度散策に出る前にコーヒーを飲んだ。
太陽が沈み、多少涼しくなってきた18時40分ごろ。
ホテルのすぐ近くにある藍晒圖文創園區（Blueprint Cultural & Creative Park）
日本時代の古い建物をリノベーションして、現代アートとクリエイティブなショップが融合した空間。
ウォールアート
土日だといろいろなイベントがある模様。
小物雑貨が好きな人には楽しいエリアかもしれない。
何かに活用できそうなスポット。
Blue loves you always !
夕食を取るために保安路へ向かう際に見かけた美容院の子供用カット椅子。
やってきました、保安路。台南は牛肉スープも有名。
この日はお母さんと娘さんでやっていた。
牛肉スープと牛肉炒飯。炒飯はカレー味だった。好吃！
保安路にはおいしいものを食べさせてくれる店がたくさんある。牛肉炒飯は食べずに、違うところで他のものを食べられる余裕をお腹に残しておけばよかった。
保安路で最も有名な店。内臓はあまり得意ではないため、食べなかったけれど、いつ行っても長い列ができていた。
スイーツが食べたくなり、この店へ。
注文したのはこの店の一番人気メニュー。
杏仁豆腐、小豆、タロイモ、ハトムギなどが入ったもので、アーモンドで作られた液汁ともにいただく。おいしかった。食べている間、この店で売られているアーモンド・ドリンクを求めに来る地元の人が多くいた。
まだ20時にもなっていなかったから、三越新天地店に入ってみた。
こんなただ広いエントランスは初めて。まるでホテルか博物館のよう。
特に買いたいものはなかったから、地下2階のフードコートへ。うどんや豚カツ、カレー、ラーメン、洋菓子などを扱う日系店もあった。
ミスタードーナツも。
台湾のミスタードーナツとポケモンはなかよし。
安平で有名な豆花の店もあった。
せっかくだから、竹炭黒豆豆花を小豆とともに食べた。ほんの30分くらい前にスイーツを食べたのに、2回目のスイーツ。感動するほどおいしく感じたわけではないけれど、安平の有名店のを食べたことになった。
20時半ごろホテルに帰着。朝6時ごろ起きて、日中は炎天下歩き回ったから、けっこう疲れたけれど、1日目からとても充実した旅になった。

画像はホテルの客室から見えた夜景。

　　　　　　　　　　　　　　　　　（続）