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ロシア市民のお金に対する態度

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2001/11/01 - 2001/11/01

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JIC旅行センター

JIC旅行センターさん

 平均的日本人はあまりお金の貸し借りをしない。人にお金を貸さないことに決めている代わりに、自分も借りなくて済むように常日頃から貯えをしておくよう心がける。そして幼稚園の子どもにも、「蟻とキリギリス」を読んで聞かせる。しかし知人友人にお金を借りるのが恥でも、銀行や住宅金融公庫、或いはアイフルなどに融資を受けるのには抵抗がないらしい。

困っているロシアの友人には「返してくれないかもしれないから」と100ドル貸すのも渋る日本人サラリーマンが、「地球の緑化」を歌った植林事業に300ドルを寄付して、見たこともない山の一角のオーナーになったり、アルメニアに大地震と聞けば当然のように医薬品や食料品を被災地へ送ったりする。よう分からん。要するに「私はよい行いをした」という安っぽい満足感を買いたいのか。

 ロシア人の間では、金の貸し借りは当たり前だ。額が大きくなければ、返さないのも当たり前だ。私がロシアに来たころは、やっと出来た友達が「お金貸して」と頼んでくるのを「私は外国人だからタカラレテイルんだ」という卑屈な考え方しかできなかったが、それは違うということが、最近になってようやく確信できるようになってきた。明日の食べ物にも事欠く人が、いつでも日本へ帰れるだけの旅費を持っているであろう日本人にお金を借りようとするのは当たり前ではないか。

そして私がA氏に貸したお金が私の手元には戻ってこなかったとしても、そうやって苦境を切り抜けたA氏は友達のB君が困った時に、惜しまずに金をかしてやるであろう。まさに金は天下の回りものなのだ。


■ロシアの蟻がせっせと貯えるもの

 日本から持ってきた貯金が全て底をつき、帰りの飛行機代もない私は、銀行融資も武富士もないこの地でロシア人に金を借りる。返さない時もある。しかし誰も「返せ」と言ってこない。一年ほど前、1500ドルほど急に必要になった。どうしても必要で、主人(ロシア人)と私の住所録に名前が載っている知人には、親しさの度合に関わらず片っ端から電話した。

日本人は「えー、そんな大きな額!ないよ。」と驚いてみたり「お金の貸し借りはしないことに決めてるんです」と言ったりした。私がキリギリスに見えたのだろう。ロシア人は「お子さんが大病にでもなったの?」「日本のご両親に何かあったの?」とまずは心配し、それから「1500はないけどさ、200ならかき集められそうだから、あと1300は13人から100ドルずつ借りたら?」と現実的な助言をしてくれた。

ロシアの蟻は、1300ドル貯えておこうという努力はしていないが、困った時に即座に100ドル貸してくれるような友人が13人は揃っているように、日ごろからそれはそれは大変な「努力」をしているのだ。

 あの時日本人がお金を貸してくれなかった理由は、日本人の私には理解できる。現在の日本では「私が一生懸命働いてこつこつ貯めたお金、イコール、私のもの」という図式が成り立つからだ。「蟻が夏のあいだにせっせと貯えた食料は、秋に大洪水がやってきて残らず水浸しになりました。溺れ死んでしまった蟻もたくさんいました。キリギリスはというと、水のないところへとっとと避難して、どんちゃん騒ぎを続けましたとさ」という世界では、知人にお金を借りることよりも、「私のお金」という考え方に執着する方が「恥」らしい。


■働かざる者だって、食ってるじゃないか

 リョーシャは43歳になるが、ソ連時代から一度も働いたことがない。母子家庭だったが、高校のころお母さんが自殺し、それ以来ひとりきりだ。身体的には極めて健康だが働くのに向いてない、という極めてシンプルな理由で、働いていない。もう20年も、あらゆる友人のところに居候している。95年に私と出会った時は、とても大きくて快適なスクヴオット(早い話が空き家)に住んでいた。そこを追い出されてからは3人の友達の家に一年ずつ居候。もちろん食費やお小遣いはその友達が出す。そのかわりリョーシャはその友達の子どもに絵やギターを教えたりする。海外旅行をしたいとか、得意のギターでライヴをやりたいとかいった希望は彼にはない。

そして2年前に市内の庭付き一戸建てを無料で提供されてからはそこで菜園を耕し自給自足だ。自分の持ち物はない。毎日ギター片手に曲を作っては、本を読んでいる。もう20年以上そんな風だから、ありとあらゆる本を読み尽くして、彼は恐ろしく博学だ。ギターの方は、95年に初めて会った時からいつも同じ曲ばかり練習している・・・と思っていたら、昨年CDが出た。

いつだったか、「彼は働いていないのに、なぜ飢え死にしないのか。浮浪者にもならないどころか自分の好きなことばかりやっている。不公平だ。」という疑問が湧き、彼にお小遣いをあげている人たちに「どうしてリョーシャに働きに行けって言わないの?」と聞いてみた。答えは「だって、リョーシャだもん」だった。

 これと同じような理由で、私の主人は他人様のお金で何度も海外旅行をしている。パリやイタリアに一ヶ月以上いたのも、ベルリンに半年以上いたのも全て、「なあ、一緒にパリに行こうや。何?金がない?じゃあ出してやっから、歯ブラシだけ持って来い。」という非常にフレキシブルなものの考え方をする人が、この国にはたくさんいるからである。


■リサイクル

 ロシア人はごみを捨てる時でさえ、他の人のことを思い遣る。夏にロシアの公園などでビールを飲んだことのある方ならお気づきになったと思うが、薄汚れた手提げ袋を提げたおばあさんやおじいさんが、いつあなたのビール瓶が空になるかと待機している。こういったおばあさんたちが側にいなかったとしても、彼女たちは必ずやって来るから、飲み終えたビール瓶は見やすいところに置いて行ってあげる。5?6本集めればパンが買える。

いらなくなった服や靴を捨てる時も、生ごみと一緒くたにしないで、ごみ集積場の近くに汚れないように置いておくと、必ず誰かが拾っていく。ごみ置き場の前の木の枝に、ジャケットやコートが「ハンガーに掛けられて」捨てられているのも見たことがある。私自身いつも不要品は公園のベンチの上などにさりげなく置いていく。30分後には100%なくなっている。


■ロシアの蟻はマクロ経済に逆襲する

「そんなことやってるからロシアの経済はいつまで経ってもよくならないんだよ」と日本人が言いそうな事例にも事欠かない。電力のメーターを逆さに吊るせばメーターが回らなくなることは、すでにこの国の一般常識だ。「地下鉄のナントカ駅の左から2番目の改札がコインを入れなくても通れる」という類の情報があっと言う間に広まるのは、民衆の連帯の強さを現している。

偽の学生証を作ってあらゆる学割の恩恵にあずかっている人が多いのも、列車の運賃や美術館の入場料が「高い」と感じる人が多いということだろう。金持ちロシア人はそんなことやらない。学生証が文房具店や地下鉄のキオスクで堂々と売られているというのも素晴らしい。

さらに、あらゆる劇場やライヴハウス、コンサートホールはつてを伝って裏口から入場「しなければならない」と思い込んでいる人は多数いる。彼らにとって、何百ルーブルも払ってチケットを買うのは愚行きわまりないのだ。ということで、本当に見るに値するとペテルブルグのインテリがみなすコンサートや映画祭の前日には、「ねえ、あした、どうやって入るの?あそこ、知り合いいる?」といった電話が飛び交う。出演者や主催者、あるいはライヴハウスのオーナーなどに友人(やそのまた友人)が多ければ多いほど、この町の文化的行事を無料で楽しめる機会も多くなる。

K氏などは、この類の典型で、中国の京劇がやってきてアレクサンドリンスキイ劇場で公演をした折に、どうしても見たいのに当日の夕方になっても裏口入場できる見通しが立たない。が、アレクサンドリンスキイ劇場で昔の知り合いが「電気技師」として働いていたことを思い出し、開演10分前に正面玄関から入り、劇場ディレクターの部屋へ直行。関係者でごった返す騒がしい部屋で、「ちょっと電話を拝借」と言って内線で「電気技師のワーシャを呼んでくれ」と大声で繰り返したものの、あいにくワーシャは不在。

「うちの電気技師に何の用?」と闘く劇場の女ディレクターに、「ワーシャに頼んで中に入れてもらいたかった。どうしても京劇が見たかった。」と答えたK氏。彼を待っていたものは「だったら最初から私に頼みなさいよ。わたしが劇場のディレクターなんだからね。忙しいのに手間とらせないで!」という暖かいお言葉と招待券だった。


■最後に

 知人のナージャはお医者さん。夜勤だ急患だと、毎目それこそ蟻のように働いているが、お金がない。ロシアでは医療は無料だから、給料もすずめの涙。患者さんが時々払ってくれる「感謝の印」だけではやっていけないどころか、彼女はウズベキスタンからの難民で、ロシア政府の難民認定が遅れたために、もう10年も国籍がない。

二人の子どもには、ウズベキスタンの国籍もロシアの国籍もなく、最近長男が大学へ入るにあたって大きな障害になった。自分の住居がなく、だんなは無職で、稼ぎのほとんどをアパート代に取られていたナージャは、2年前にだんなが外で作った子どもも引き取った。だんなの愛人が育児を拒否したためだ。うちには一部屋しかなかったが、そんなことは関係ない。二人の子どもも、おしめを換えたり乳母車を押したり、ある日突然我が家にやってきた赤ちゃんをかわいがった。

そんなナージャに、この夏まともなマンションがプレゼントされた。自分名義の不動産が出来たということで、ロシア国籍も取れた。マンションをプレゼントしたのは、彼女の患者さんである。「命を救ってくれたお礼に」ではない。彼はこれから死ぬのである。死ぬことが確定している人が、死ぬ前に、お世話になった女医さんの苦境を察して、不動産屋へ足を運んだのである。あなたなら死ぬ前に、「あなたのお金」で何をしますか?

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