1987/09/07 - 1990/05/05
582位(同エリア978件中)
みどくつさん
僕はマラケシュでは、CTMホテルに泊まることにした。
これはキチ○イ広場と呼ばれるフナ広場に面した絶好の立地で、入口の横にカフェテラスがある。
僕はそのカフェテラスでフナ広場に集まっている大勢の人を眺めながら、モロッコの真っ青な空とカラッと乾いた空気を楽しんでいる。
もちろんこんなところで飲むものといったら、ビールしかないよね。
しかし、ここはモロッコでイスラム国、1988年のこの時期、フナ広場のカフェにはビールがおいてないのだ。
そこでコーヒーを飲んでいた。
「日本人の女の子が来ないかな~。それとも男の学生。どちらもからかうには最高だが…」
退屈して広場を眺めていると、日本人らしいほっそりした女の子が歩いているのを見つけた。
「オーイ。そこの日本人、こっちへ来ーい!」と叫ぶ。
女は僕を見て、素直に近づいてきた。
普通こんな言い方を日本ですれば、叱られるにちがいない。
女の子には当然無視されるだろう。
しかし、僕の経験では日本人旅行者は、旅行している国によって考え方も態度もコロッと変わってくるものなのだ(現地に適応してしまうってこと)。
だから、旅行者が「普通の人がなかなか来ないところ」と考えている場所では、変わった呼びかけ方を当然と受け止めてしまう。
僕が声をかけた女の子は、不思議そうな顔もせず、素直に僕の方に近づいてきた。
雰囲気はさすがにヨーロッパをうろうろしている女子大生とはちょっと違っている。
かなりモロッコになじんでいて、肩の力が抜けている。
はっきり言うとぼんやりしている。
「座らない?」と声をかけると、すっと腰かけた。
「一人で来たの?」と聞く。
「友達と一緒なの」と答えると、フナ広場の人込みに向かって手を振る。
なんだ友達がいるのか…、とがっかりしたが女の友達と一緒の雰囲気だからそれもいい。
予想した通りにちょっと小柄な女の子が人ごみの中から出現する。
こっちの方がちょっと色っぽい。
なかなかいいじゃないか。
しかしその小柄な女の子に続いて、よくいるタイプのちょっと小太りの日本女性が現れた。
さらにこの小太りの女の子の後ろからは、小柄な日本人の男が続いた。
おいおい、男が一緒なのか…。
でも、女3人、男1人のグループ旅行というのは、興味深いね。
このグループ構成は、初めて出会った。
これまでに、特にアンダルシアで、いろいろな日本人旅行者のみなさんに会ったんだけどね。
女3人男1人のこのグループは、ちょっと普通の友達の旅行とは違っていた。
まず女の子3人のファッションが全く違っている。
日本の女の子が友達と一緒に旅行する時は、相談せずとも同じような旅行ファッションになってしまう。
ところが、今日最初に会った女の子はヨーロッパ人がよく着ているゆったりしたハーレムパンツに民芸調のシャツだった。
次にやってきた色っぽい女の子がジーンズにタンクトップでノーブラだ。
最後の女はジーンズに普通のTシャツという典型的な「日本人卒業旅行者ファッション」だが、なんと革ジャンを着ている。
男のファッションはどうでもいいが、男はジーンズに半袖のプリントTシャツだった。
この男は、女を3人つれて旅行するほどの強烈な個性も男性的魅力もなさそうだ。
僕はこの状況を一瞬に見抜いた。
「いっしょにお茶でも飲まない?僕は今日ついたばかりなんだ。君たちはもうここは長いんでしょ?」と話しかける。
タンクトップ女は「いいよ。でも、他の店に行こうよ。私たちのいきつけの店があるから」といってさっさと歩き出した。
どうやらこのタンクトップ女が仕切っているような感じだね。
総勢5人で、フナ広場をちょっとわき道に入ったカフェに入る。
「みなさん一緒に旅行してるんですか?楽しいでしょうねー」と僕が話しかける。
すると「私たち一緒じゃないんです。みんな別々に旅行をしているんです」との答えが返った。
「じゃあ、マラケシュで会ったの?それともスペイン?僕はバルセロナに結構ながくいたんだよ」と話を進める。
「イスタンブール」と革ジャン女が答えた。
この女は口数が少なく、何となく不満そうな態度だ。
話をまとめると、どうやらこの4人は日本から飛行機でイスタンブールに入るまでは別々だったらしい。
イスタンブールの日本人宿(泊まっているのは日本人だけ)で4人が知り合った。
それから一緒にヨルダンへ飛んだ。
彼らはさらにヨルダンからエジプトに飛び、それからモロッコへとまた飛行機に乗った。
これにはちょっとびっくりしてしまった。
見かけはごく普通の日本人の女の子がヨルダンに行くなんて、その頃の僕にはかなりのショックだったんだ。
この時期はヨルダンという国はまだまだ日本人の旅行先ではなかったんだよ。
だって「地球の歩き方」も出てなかったはずだしね(いや、このあとヨルダンを通過したときの記憶では「地球の歩き方」は出てたかもしれない)。
「すごいな~。でも、ヨルダンに行って何か見るものあるの?」と、聞いてしまう。
「ペトラの遺跡がすごいの。谷底へ馬に乗って降りていくの」と説明をするのが、僕が声をかけたぼんやりした女の子だ。
僕はヨルダンに女の子が行ったというだけでびっくりしてしまったので、ペトラの遺跡が何なのか気にしていなかった。
このあと、ヨーロッパからアフリカへ旅をしたあと、エジプトからヨルダンへ行ったとき、ペトラの遺跡を見た。
自分では意識していなかったが、あらためて考えてみるとこの時の記憶が僕をヨルダンへ向かわせた理由なのかも知れないね。
だから旅に出たら、できるだけ多くの旅行者と話をしておくことが大切。
そこには、自分の旅を導く神の意思を見ることが出来るかもしれないからね。
彼らはイスタンブールで知り合ってからずっとヨルダン・エジプト・モロッコと同一行動をとっている。
ということはだね、今まで一人で旅行したことがない。
それに移動で全部飛行機を使っているわけだ。
つまり、「できるだけバスや列車や船を使う」という本物の旅行者の筋からは離れている。
その点では僕のほうが勝っている。
安心した!
さて、このカフェの支払になった時、店のおじさんが紙切れに値段をボールペンで走り書きして持ってくる。
するとこのグループの色っぽいタンクトップの女の子が「ね~、おじさん、安くしてよ!」と日本語で言う。
そして、他の女と一緒に「安くして!安くして!」とリズムを取りながら手をたたき出した。
同時に、おじさんに対してタンクトップからちらちらと胸を覗かせたりしている。
おじさんは仕方がないという素振りで肩をすくめると、ボールペンですっと値段を書き換えたよ。
これはすごいね(笑)♪
そのあと、ぼんやり女とタンクトップ女とCTMホテルの屋上からフナ広場を見下ろして、さらに旅の話をしたっけ。
「今日の日記には『ヨルダンに行った女の子に会った』と書いておくね」と言ったあと、僕は4人組と別れた。
夕食まで一緒に付き合うのが面倒だったからだ。
それに、ちょっと話すことに疲れた。
旅行の楽しみは「出会いの面白さ」なのだが、もっと大切なのは「まだ楽しいうちに別れる」ことだ。
この4人とは狭いジャフナ広場をうろついているのだからまた会うことになるだろうと思った。
もし会えないなら、それも神の定めたことだ。
僕はマラケシュに着いた当日だったし、まだジャフナ広場の大道芸人や屋台をみたりしたかったし、モロッコ流の買い物もしたかった。
一人になって広場へ進み出た。
モロッコの空はようやく暮れはじめようとしていた。
(後日談)
翌日の午後、広場を歩いていると、また4人組に出会った。
買い物をするというので、狭いメディナの道を縫って縦一列でうろうろしていると革ジャンの女の子と一緒に歩くことになった。
僕に「あの人たちはうるさくて‥‥」と愚痴をこぼした。
「一人で旅すればいいじゃない」とアドバイスをする。
「でも、ずっと一緒に来たんだし、もうそんなに時間も残ってないし‥‥」と言う。
こうなったら最悪だね。
僕の経験から言うと、2週間も2人で旅行すると必ず喧嘩が起きるものだ。
女性3人の場合は必ず1人が抜ける。
これは旅行ルートなどが多数決で決まるので少数派の1人がばかばかしくなるのだ。
この4人組の場合も、女性3人だけで旅行していたら、革ジャンの女の子はとっくに一人旅を始めていただろう。
個性のないアッシー君のような男が一人混じっていたために、彼が緩衝材になって対立が薄めらた。
それが理由で、ずるずると一緒に旅を続けてしまったみたいだ。
1人で旅に出るのが一番いいんだけどね。
こういった旅先で知り合った人と一緒に旅をしてしまうことで、旅行を失敗する例はまだ他にもいっぱいあるんだよなー(涙)。
【旅行哲学】旅は1人に限るね。
- 旅行の満足度
- 4.5
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この旅行記へのコメント (1)
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- あっぷるさん 2016/10/09 21:55:50
- 旅の醍醐味は・・
- みどくつさん
初めまして。
物語のように、さらりと読んでしましました。面白かったです。
旅の醍醐味は人との触れ合いもありますが、相手方の関係性を傍観したり、想像するのも楽しかったりしますね。
ちょっと上から目線(失礼・笑)の視点も、それほど嫌味を感じませんでした。きっと、旅の高いスキルと豊富な経験をお持ちなんでしょうね♪
そうそう、旅は一人に限ります。たまに仲間と行くのもまた良し。
あっぷる
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