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 雪の感触は非常に悪く、突風により表面の雪は凍結し(エビの尻尾が数センチ成長しているくらい)、その表面に足を乗せると氷は砕け15cmほど雪に埋もれるという感じです。ストックのスノーバケットも同様です。氷の抵抗を受けた後、深く潜り込んで行きます。この状態をラッセル歩行するのは結構な作業です。私たちの前のロシア人グループに感謝しながら歩き続けました(反面、ラッセル泥棒という表現もありますが…)。しかし、標高を稼げば雪面の状態はさらに悪くなることが予想されます。<br /><br /> ルートは雪面下にあるので目視できません。頂上に向けて直登するだけです。<br /><br /> 顔を上げると先行していたグループが徐々に隊列を乱しているのが分かります。元気のある人は直登。体力を温存する人はジグザグに歩いています。そして勾配がさらに上がっているのが分かります。10分位直登すると先行グループに追いつきました。それぞれに声をかけながらひたすら登ります。山では国籍は関係なく皆がみんな声をかけ合います。先ほどの日本語で話しかけてきたガイドさんも追い越しました。日本の冬山で鍛えてきたキックステップでゆっくりとゆっくりと確実に雪面にブーツを蹴り込みます。私のガイドさんも10m位先をゆっくりと登っています。<br /><br />「それにしても、こんな凍結している雪面をアイゼン無しで…登りは良いが、どうやって下るのだろう…」。少々と言うよりもかなり不安に思いながら登り続けました。<br /><br /> 休憩も随分ととっておりません。ガイドさんをよそに20秒位の立ち休憩をし、先ほど抜かしたロシア人グループを見下ろすと目測で50mは差が付いているでしょうか。一方で頂上方面を見てみるとさらに先行していたと思われる5人くらいのパーティーが100m位先でしょうか。割と近くに見えております。<br /><br />「ん?ガスが切れてきた?」<br /><br /> 気が付けば突風がかなり弱まっています。上空を見ると、なんと!!つい30分も前の天候とうって変わって青空がところどころに見え始めています。<br /><br /> なんということでしょう!どんどんガスが抜けて行くじゃありませんか!先行しているガイドさんも私の方を振り向き「頑張っているから、晴れました!」と上空を指さしながら大きな声で叫んでいます。<br /><br /> ここで一気に疲労感から解放されました。ガイドさんが登らずに待ってくれていたので、私は再度歩行を始め近づきます。「まだ頂上じゃないけど」とグローブから右手を出し私に向けました。「あともう少し頑張りましょう」と私もグローブから右手を出し、ガイドさんと強く握手しました。<br /><br />「ここで立ち休憩しましょう」<br /><br />「了解」<br /><br /> 辺りを改めて見渡すと、反対側にあるカリャーク火山には雲はかかっておりません。頂上から麓まで山の全貌が見え、上空もどんどんと青空が広がってきています。<br /><br /> 久しぶりに携帯を取り出し(と言うよりも登山が始まってから初めて写真を撮る余裕が出てきました)、その美しい景色を画像に収めました。<br /><br /> 風も弱まり、ガスは消え、青空と凍った雪面。雪山登山の醍醐味です!残り高低差にして200m位でしょうか、今回、カムチャツカに来て初めて良かったと本当に思いました。そして、あともう少し登れば…頂上付近がもう目の前に見えております。もうすぐ登頂です。<br /><br /> ガイドさんとは言葉もなく自然に二人とも頂上に向かい歩き始めました。それでもストックは確実に雪面を突きキックステップを慎重に蹴り込み歩き続けると、急登だったルートはずいぶんとなだらかになりました。<br /><br /> 数秒の立ち休憩を交えてピークを見ると、先を行くガイドさんがこちらに向かって手を振っています。後15m位です。その先には既に登頂している数名のグループが皆で握手をしているのが見えます。その足元には雪がありません。<br /><br />「辛かった。本当に辛かった。でも良く頑張った」私は残りの数メートルを自分に声を出しながら励ましました。ほとんど半泣き状態でした。

カムチャツカ・アヴァチャ山 登山記(5)

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2015/07/18 - 2015/07/22

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JIC旅行センター

JIC旅行センターさん

 雪の感触は非常に悪く、突風により表面の雪は凍結し(エビの尻尾が数センチ成長しているくらい)、その表面に足を乗せると氷は砕け15cmほど雪に埋もれるという感じです。ストックのスノーバケットも同様です。氷の抵抗を受けた後、深く潜り込んで行きます。この状態をラッセル歩行するのは結構な作業です。私たちの前のロシア人グループに感謝しながら歩き続けました(反面、ラッセル泥棒という表現もありますが…)。しかし、標高を稼げば雪面の状態はさらに悪くなることが予想されます。

 ルートは雪面下にあるので目視できません。頂上に向けて直登するだけです。

 顔を上げると先行していたグループが徐々に隊列を乱しているのが分かります。元気のある人は直登。体力を温存する人はジグザグに歩いています。そして勾配がさらに上がっているのが分かります。10分位直登すると先行グループに追いつきました。それぞれに声をかけながらひたすら登ります。山では国籍は関係なく皆がみんな声をかけ合います。先ほどの日本語で話しかけてきたガイドさんも追い越しました。日本の冬山で鍛えてきたキックステップでゆっくりとゆっくりと確実に雪面にブーツを蹴り込みます。私のガイドさんも10m位先をゆっくりと登っています。

「それにしても、こんな凍結している雪面をアイゼン無しで…登りは良いが、どうやって下るのだろう…」。少々と言うよりもかなり不安に思いながら登り続けました。

 休憩も随分ととっておりません。ガイドさんをよそに20秒位の立ち休憩をし、先ほど抜かしたロシア人グループを見下ろすと目測で50mは差が付いているでしょうか。一方で頂上方面を見てみるとさらに先行していたと思われる5人くらいのパーティーが100m位先でしょうか。割と近くに見えております。

「ん?ガスが切れてきた?」

 気が付けば突風がかなり弱まっています。上空を見ると、なんと!!つい30分も前の天候とうって変わって青空がところどころに見え始めています。

 なんということでしょう!どんどんガスが抜けて行くじゃありませんか!先行しているガイドさんも私の方を振り向き「頑張っているから、晴れました!」と上空を指さしながら大きな声で叫んでいます。

 ここで一気に疲労感から解放されました。ガイドさんが登らずに待ってくれていたので、私は再度歩行を始め近づきます。「まだ頂上じゃないけど」とグローブから右手を出し私に向けました。「あともう少し頑張りましょう」と私もグローブから右手を出し、ガイドさんと強く握手しました。

「ここで立ち休憩しましょう」

「了解」

 辺りを改めて見渡すと、反対側にあるカリャーク火山には雲はかかっておりません。頂上から麓まで山の全貌が見え、上空もどんどんと青空が広がってきています。

 久しぶりに携帯を取り出し(と言うよりも登山が始まってから初めて写真を撮る余裕が出てきました)、その美しい景色を画像に収めました。

 風も弱まり、ガスは消え、青空と凍った雪面。雪山登山の醍醐味です!残り高低差にして200m位でしょうか、今回、カムチャツカに来て初めて良かったと本当に思いました。そして、あともう少し登れば…頂上付近がもう目の前に見えております。もうすぐ登頂です。

 ガイドさんとは言葉もなく自然に二人とも頂上に向かい歩き始めました。それでもストックは確実に雪面を突きキックステップを慎重に蹴り込み歩き続けると、急登だったルートはずいぶんとなだらかになりました。

 数秒の立ち休憩を交えてピークを見ると、先を行くガイドさんがこちらに向かって手を振っています。後15m位です。その先には既に登頂している数名のグループが皆で握手をしているのが見えます。その足元には雪がありません。

「辛かった。本当に辛かった。でも良く頑張った」私は残りの数メートルを自分に声を出しながら励ましました。ほとんど半泣き状態でした。

  •  やってしまいました。<br /><br /> 12時23分。アヴァチャ山を登頂してしまいました。<br /><br /> 休憩を含めて約5時間半。<br /><br />「登頂しましたね!」<br /><br />「一言。本当に大変でした」<br /><br />「今も?」<br /><br />「今は全く!むしろ身体が軽い!」<br /><br />「ですよね」<br /><br />「すみません。登頂直後の私の写真をとってもらえます?」<br /><br /> ザックを下して携帯をガイドさんに手渡しました。<br /><br /> 撮ってもらった画像を直ぐに確認すると。<br /><br /> これまたスゴイ!!泣きそうな顔です!『辛かった。良く頑張った!』自分に言いました。<br /><br /> ガイドさんが「ここに座ってみてください」といいました。<br /><br /> 言われるままに腰を下ろすと、驚きました。なんて温かいのでしょうか!<br /><br />「活火山ですから、地熱が伝わり温かいんです。ここは雪も積もりませんよ。直ぐに溶けますから」<br /><br />「すごいですね。そして本当に温かい」<br /><br /> お尻から伝わる熱でそれまで冷え切っていた身体がどんどん温まるのが分かります。<br /><br />「カムチャツカは生きているんです」<br /><br /> 誰もいなかったら頬ずりするところでしたが、『グッ』と堪えたのは言うまでもありません。<br /><br /> そうこうしているうちに、先ほど抜かしたロシア人グループが、日本語であいさつしてくれたガイド山とともに続々と登頂してきます。ガイドさんは別として、他の登山者は疲れ切った表情の中でも充実感に溢れているのがよく分かります。みんが良く頑張ったんです!<br /><br /> 先に登頂して同じように山頂に座っていた女性2名が突然ロシア国歌を歌い始めました。それに合わせて登頂した皆が大合唱。<br /><br />『この国の人達は国歌を歌うんだ。すごい!そして羨ましい』心の中でひっそりと思いました。<br /><br /> 私を連れて来てくれたガイドさんはただただ微笑んでおりました。<br /><br />「身体も温まったし、そろそろ頂上散策にでかけましょう」<br /><br />「了解」<br /><br /> ザックとストックは放置してスタート。頂上の景色はというと…雪の無い数メートルのくぼ地を挟み真っ平らな雪面がどこまでも続いておりました。ガイドさん曰く、どこからガスが噴出しているか分からないので広く平らな頂上はルートが無いとのこと。しかし、外周のお鉢廻りまでとは言えませんが半周はできるようです。ただ、硫黄の有毒ガスがところどころで噴出しているので相当な気合いを込めなければなりません。<br /><br /> とりあえず歩いてみることにしました。アヴァチャ山のお鉢を5分位進んでみると…もうありました。有毒ガスの噴出口(日本の山でイメージしやすいのは、北アルプスの焼岳頂上直下にあるガス噴出口です)。もちろん、アヴァチャ山では防護柵や危険を示す標識などありません。そして、ガイドさんに導かれるまま近づいて噴出口を覗いてみました。感想はと言うと…ただ「黄色い」でした(正直焼岳のそれの方が迫力ありました)。<br /><br /> それよりもこのお鉢めぐりコースはとんでもなく痩せたルート(狭いルート)で、ここでは絶対に転べません。中途半端に雪が付着し、ところどころに岩石がごろつくところは登頂途中の凍った雪面よりも恐ろしく感じました。ガイドさんもかなり慎重に歩いています。<br /><br /> ガイドさんが振り返り「先週来た時はぜんぜん問題なかったのですが、これ以上、先に行くのは危険なので止めましょう!」と言いました。<br /><br />「帰りましょう!そして、下山しましょう!」と私。<br /><br /> 頂上の写真を数枚撮りザックを残置した場所へと慎重に速攻で戻りました。<br /><br /> 13時10分。<br /><br /> ザックを拾いストックを再び構え、登頂できた他の登山者やガイド山と別れを告げ、アヴァチャ山頂にまた来ます!と挨拶をして下山開始。<br /><br />(つづく)<br /><br />

     やってしまいました。

     12時23分。アヴァチャ山を登頂してしまいました。

     休憩を含めて約5時間半。

    「登頂しましたね!」

    「一言。本当に大変でした」

    「今も?」

    「今は全く!むしろ身体が軽い!」

    「ですよね」

    「すみません。登頂直後の私の写真をとってもらえます?」

     ザックを下して携帯をガイドさんに手渡しました。

     撮ってもらった画像を直ぐに確認すると。

     これまたスゴイ!!泣きそうな顔です!『辛かった。良く頑張った!』自分に言いました。

     ガイドさんが「ここに座ってみてください」といいました。

     言われるままに腰を下ろすと、驚きました。なんて温かいのでしょうか!

    「活火山ですから、地熱が伝わり温かいんです。ここは雪も積もりませんよ。直ぐに溶けますから」

    「すごいですね。そして本当に温かい」

     お尻から伝わる熱でそれまで冷え切っていた身体がどんどん温まるのが分かります。

    「カムチャツカは生きているんです」

     誰もいなかったら頬ずりするところでしたが、『グッ』と堪えたのは言うまでもありません。

     そうこうしているうちに、先ほど抜かしたロシア人グループが、日本語であいさつしてくれたガイド山とともに続々と登頂してきます。ガイドさんは別として、他の登山者は疲れ切った表情の中でも充実感に溢れているのがよく分かります。みんが良く頑張ったんです!

     先に登頂して同じように山頂に座っていた女性2名が突然ロシア国歌を歌い始めました。それに合わせて登頂した皆が大合唱。

    『この国の人達は国歌を歌うんだ。すごい!そして羨ましい』心の中でひっそりと思いました。

     私を連れて来てくれたガイドさんはただただ微笑んでおりました。

    「身体も温まったし、そろそろ頂上散策にでかけましょう」

    「了解」

     ザックとストックは放置してスタート。頂上の景色はというと…雪の無い数メートルのくぼ地を挟み真っ平らな雪面がどこまでも続いておりました。ガイドさん曰く、どこからガスが噴出しているか分からないので広く平らな頂上はルートが無いとのこと。しかし、外周のお鉢廻りまでとは言えませんが半周はできるようです。ただ、硫黄の有毒ガスがところどころで噴出しているので相当な気合いを込めなければなりません。

     とりあえず歩いてみることにしました。アヴァチャ山のお鉢を5分位進んでみると…もうありました。有毒ガスの噴出口(日本の山でイメージしやすいのは、北アルプスの焼岳頂上直下にあるガス噴出口です)。もちろん、アヴァチャ山では防護柵や危険を示す標識などありません。そして、ガイドさんに導かれるまま近づいて噴出口を覗いてみました。感想はと言うと…ただ「黄色い」でした(正直焼岳のそれの方が迫力ありました)。

     それよりもこのお鉢めぐりコースはとんでもなく痩せたルート(狭いルート)で、ここでは絶対に転べません。中途半端に雪が付着し、ところどころに岩石がごろつくところは登頂途中の凍った雪面よりも恐ろしく感じました。ガイドさんもかなり慎重に歩いています。

     ガイドさんが振り返り「先週来た時はぜんぜん問題なかったのですが、これ以上、先に行くのは危険なので止めましょう!」と言いました。

    「帰りましょう!そして、下山しましょう!」と私。

     頂上の写真を数枚撮りザックを残置した場所へと慎重に速攻で戻りました。

     13時10分。

     ザックを拾いストックを再び構え、登頂できた他の登山者やガイド山と別れを告げ、アヴァチャ山頂にまた来ます!と挨拶をして下山開始。

    (つづく)

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