2015/07/18 - 2015/07/22
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JIC旅行センターさん
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登山道は徐々に勾配を上げて行きます。足元は、富士登山経験者の方ならお分かりかもしれませんが、一歩足を出して踏み込むと5cm位下がってしまうあの感覚です。進んでいるにもかかわらず、少し下がってしまうあの煩わしい感覚の上に強烈な風。頂上がどんどん遠のいて行くような錯覚に見舞われます。そして、まだ一時間しか歩いていないのに、ガイドさんの歩行速度と私の歩行速度に若干の差がついてきました。2〜3m先を歩いていたガイドさんがいつの間にか5m位の差で歩いています。慌ててはいけません。急ぐと逆に体力を消耗してしまいます。10m位離れたらガイドさんに声をかけることにしました。ただ、声を出しても届くかどうか…。
風は一向に止む気配がありません。時計を見ると、休憩後すでに1時間が経っています。休憩する余裕もありません。ガイドさんからもゆっくりでもいいので歩き続けましょうと提案がありました。もちろんそれが現状では一番良い選択です。私も提案を受けました。
状態は悪くなる一方です。もの凄い勢いで風と共にガスが降りてきてレインウエアに付着する水滴が凍りつき、手で払うとポロポロと氷が落ちるくらいの状況です。眼鏡は曇り、視界は悪く、夏用のトレッキンググローブでは手がかじかんでしまいました。慌てて5本の指をストックを持ちながら動かしました。もちろん凍傷予防です。
そんな中、一歩一歩を確実に踏み出して標高を稼ぎながら頭の中に浮かんだのは、やはり厳冬期の八ヶ岳でした(私は厳冬期の八ヶ岳をホームグラウンドにしています)。
快晴のある2月。
八ヶ岳の主峰=赤岳の稜線に辿りついた時、一瞬でしたが突風で身体が数センチ浮きました。赤岳のピークまであと高低差で200m位の稜線でした。眼鏡をしていても目が開けられないほどの風。ヘルメットに付けていたゴーグルを直ぐさま眼鏡の上から装着。休んでいる暇もなく、ピークへと一歩を踏み出しました。途中、耐風姿勢を何度も何度も繰り返し取りながらピークへと向かいます。誰も登っていない稜線でピッケルのピックとアイゼンの12本の歯を駆使しながらやっとの思いで登り切ると、『赤岳』と刻まれた頂上標識には俗に言う「エビの尻尾」(空気中の水蒸気が岩や木切れに着氷しそれが成長したもの)が20cmは横向きに張り出していました。辺りは雲ひとつない真青な空と雪と岩。大きな感動だけだと思いましたが、どういう訳かそれと同じくらいの恐怖心もありました。冬山の素晴らしさは感動と恐怖が並列しているところにあると個人的には思っております。
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そんな記憶を辿り、風と格闘しながら歩いていると、少々平になった広場に気象観測用だと思いますが、小さな小屋が目の前に現れました。2030mポイントです。時計を見ると最後に休憩をとってから2時間が過ぎていました。そこでは、先行していたパーティーが休憩をとっていました。ガイドさんが休憩をしようと提案。突風の中なんとかタバコに火を付けてゆっくりと煙を吸い込みました。
「追いつきましたね」とガイドさんが小声で私に言いました。
「かなりゆっくりペースでしたけど…、休憩の数が少ないからじゃないでしょうか?」
「とても強いですよ」
「そんなことないですよ」と笑顔でガイドさんに返しました。
「これから先は雪上歩行です」
「そのようですね。頑張ります」
その時、休憩していたグループのガイドさんが近づいてきて「KON-NICHI-WA!NIPPON-JINDESUKA?」と日本語で訊いてきました(憧れていた果てしなくゴッツいロシア人山岳ガイドさんでした)。
「SOU DESU NIPPON-JIN DESU」
「ANATA-WA HAYAI DESU!GAMBA-GAMBA!」
突風にも負けない最高の笑顔でガイドさんは言いました。
「ARIGATOU WATASHI GAMBA-GAMBA!」
と私も笑顔で応えました。彼はにっこり微笑み、自分のパーティーへと戻ていきました。
どこの国の人もそうですが、どんなに辛くても山を登る人は皆さん同じように笑うんでしょうか。童心に帰っているからでしょうか。それとも自然の中にいるからでしょうか。本当に不思議です。
休憩をとっているロシア人グループ全員が立ち上がり、出発していきました。
「もう少し休憩しましょう」と私のガイドさん。
「了解。ではタバコをもう一本」
それにしても休んでいると体感温度がどんどん下がるのが分かります。困ったものです。
休憩終了後、いよいよ雪上歩行へと移ります。ガイドさんと私はガスの中見え隠れするロシア人グループの後を追うように歩き始めました。
(つづく)
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