シチリアだけに２週間： Villa romana del Casale.

2016/02/03 - 2016/02/03

カザーレ荘を見るだけのために、ピアッツァ・アルメリーナに一泊しました。

表紙写真：キューピッドたちの魚釣りの間。

エリア シチリア島(イタリア)

2月3日(水)、カザーレ荘に行くにあたり、ピアッツァ・アルメリーナの街から5km離れたvillaまで、冬はバスがなかった。タクシーは、アルメリーナの街に2台。そのうちの一台を、日本からメールで予約した。街からvillaまで定額制で、往復20 euro.　運転手Robertoが、往きの車内で「何時間必要？」と尋ねた。「Non lo so. とりあえず、２時間」後に迎えに来てもらうことに。

貸し自転車で行かず、タクシーを頼んでよかった。人っ子一人、道を歩いていないのは、想定内。でも、山あり谷ありの、起伏のある地形とは、地図を見ただけでは分からなかった。若者でなければ、ペダルをこぐのは辛そうだ。さて、切符売り場から敷地内に入ると、まずは浴室ボイラー(火炉)部の脇を通る。紀元後4世紀頃建てられたvilla は、テルメ併設の別荘なのだ。

ボイラー(火炉)部から続く、テルメエリアにある stanza delle frizioni (マッサージ室)。床モザイクでは、奴隷が主人の背中を擦り、もう一人の奴隷が香油の瓶を持つ。上の見取図No.10. 古代ローマ人は、一日のうち数時間をテルメで過ごし、時には一日中いることもあったという。ローマからシチリアに来て、島の真ん中、内陸部に別荘を建て、観光にも出かけず(笑)、別荘で温浴三昧をしていたのだろうか。

マッサージ室の隣、更衣室の床。別荘には63室があり、家人と25〜30名の招待客がいた。更衣室も複数ある。そこに描かれたモザイクから、混浴だったと推察されるらしい。

frigidario(冷浴室)。プールが隣接している。上の見取図No.９. 浴場の基本は、カルダリウム（高温浴室）、テピダリウム（微温浴室）、フリギダリウム（冷浴室）を中心に建設された。とても高度な建築技術…古代ローマ時代に、暖房装置があったとは。

frigidarioを真上から見た図。

edicola di Venere(ヴィーナスの祭壇)。浴場への入口。ここでヴィーナス像が発見されたことによる命名。四角の縁取りは、２本の組紐模様。

edicola di Venere. 一方、菱形模様の縁取りは、2色交互の破線模様。

それが組み合わされて、一枚の床モザイクに。古代ローマ人は、図形のセンスがあったのね…やっぱり、賢い。

sala biabsidata ２つの後陣(半円形の部分)を持つ広間は、温浴施設への通路。馬車競技のモザイクが描かれている。こちらは、転倒した馬車。上の見取図No.８.

sala biabsidata. ローマ市民には、パン(モザイクでは箱に入っている)の無料配布が行われた。ローマ市民権保有者の中でも都市在住者は、労働から解放され「パンとサーカス(馬車競技観戦)」を無償で受けられる特権階級だった。権利だけで義務がないのは、属州から搾取した莫大な富があったため。そして、市民を政治的無関心の状態にとどめるという目的もあった。

portico 玄関には、皇帝らしき人物が手に燭台を持ち、客を迎えているモザイク画。上の見取図No.３.

peristilio/peristyle/peristilium 柱廊 の床には、動物の顔の周りに月桂樹の葉のリースをあしらった1,500個のモザイク。上の見取図No.15.

虎。

カモシカ。

犬。

雄羊。

私用更衣室。中央に女主人、両端の奴隷は左が着替えを入れた衣装箱、右がマッサージ用品の入った袋と宝石を入れる箱を持っている。上の見取図No.13.

奥の間と台所(使用人の部屋)の床は、幾何学模様。

奥の間と台所の幾何学模様。

その中には、the Knot of Solomon (ソロモンの結び目)と呼ばれる模様も。

Rape of the Sabine サビーネ族の女性達誘拐の間。初代ローマ王・ロームルス(紀元前771-717年)は、男達だけでローマを建国、一代限りで国が絶えることを避けるべく、近隣国(ローマ近郊)のサビーネ族を祭りに招き、その場で未婚女性を略奪した。

こちらは、踊りの場面。

四季の間(cubiculum 寝室)・春。

四季の間・夏。

四季の間・秋。

四季の間・冬。

四季の間。

四季の間。

四季の間・全体。上の見取図No.21.

小狩猟の間(diaeta 食堂兼居間)。上の見取図No.23.　網を使った鹿狩り。

小狩猟の間・鷹と鳥もち(もち竿の先に塗りつけて鳥を直接くっつける)を使ったツグミ狩り。

小狩猟の間・猪に襲われた主人が友人の助けで救われた場面。出典は、アレクサンドロス(紀元前356-323年)の狩猟。

小狩猟の間・全体図。

キューピッドたちの魚釣りの間(cubiculum 寝室)。キューピッドは、ローマ神話の愛の神。

大狩猟の廊下・カモシカを食う豹。

大狩猟の廊下・捕獲した野生動物を檻に入れ、牛が引く荷車で運ぶ。

大狩猟の廊下・奴隷を鞭打つ官吏。奴隷一人の値段は、ライオン一頭の1/5だった。

大狩猟の廊下・野生動物はカルタゴ(現チュニス近郊)で荷車から船に積み込まれ、ローマに向かう。

大狩猟の廊下・象が船に積まれる場面は、エジプトのアレクサンドリア近郊の港の情景。象の上には、ヒトコブラクダもいる。

大狩猟の廊下・４人がかりでバッファローを引っ張っている。ローマに着くと、円形闘技場で見世物として人間と戦わされ、殺されることに。

大狩猟の廊下・ナイル河口の三角州のような湿地帯の場面。サイを捕えたlegionary(古代ローマの兵士)達は、手の込んだ細工のチュニックを着て、cingulum(赤い帯)をたすき掛けしている。

ビキニ姿の女性の間(cubiculum 寝室)。オリンピックに出場するため、五種競技を練習している。上段左から、走幅跳のためにhalte'res/halters(ダンベル)を持つ女性(手ぶらより遠くまで跳べ、着地も安定するらしい)、円盤投げ、リレーのバトンタッチ、下段右は球技、中央が優勝者(頭にバラの冠をのせ、椰子の葉を持つ)、左端が審判役で隣の女性に賞品を渡すところ。上の見取図No.38.

「ビキニ姿の女性の間」の向かい側には、「大狩猟の廊下」が続いている。この人物は、pannonian cap(ピルボックス帽)をかぶり、baculus(権威の象徴としての杖)を持っていて、皇帝あるいはこの館の主とも言われている。

大狩猟の廊下。捕獲した野生動物の運搬は、兵士の監視下に置かれた。右の兵士はsagum(明るい色に染めた長方形の布地)を身につけ、左の兵士の服には卍型の印がついている。卍は幸福のシンボル、魔除けだった。

大狩猟の廊下・虎に水晶玉を投げて気を引く場面と、gryps/griffin(鷲の頭とライオンの胴体を持つ伝説上の動物)。

音楽と演劇の寝室(当主の娘の部屋)。アプス型の寝室(円い張り出し部分)には、木の両側で２人の少女がバラの花輪を編み、枝に吊るす場面が描かれている。上の見取図No.34.

寝室の前室。子供の音楽と演劇のコンクール。上段は、cetra(竪琴)、水オルガン(水圧式)、フルート、tibia(オーボエのような楽器)による四重奏。その上には、冠と椰子の葉、賞金入りの袋が、各々２つずつ置かれた台がある。

半円形柱廊付きアトリウム(横臥食堂：古代ローマ人は寝そべって食事をした)。キューピッドたちが網を使って魚捕りをしている。

半円形柱廊付きアトリウム。釣り針などで魚釣りをするキューピッド。

アリオンの居間。紀元前７世紀、コリントス(アテネの西南約80km)の宮廷音楽家アリオンが、シチリアの音楽コンクールで優勝。帰りの船で、賞金に目がくらんだ船員達がアリオンを殺そうとした。アリオンは死ぬ前に琴を弾かせて欲しいと願い、弾いた後、海に身を投げた。琴の音に引かれて集まっていたイルカたちが、その背にアリオンを乗せてコリントスに連れ帰った。上の見取図No.32.

アリオンが被っているのは、フリジア帽(自由の象徴)。

アリオンの居間。海神トリトン(左)、ネレイス・海に棲む女神(中央)、hippocampusヒッポカムポス・半馬半魚の海馬(右上)も、琴を聞いている。

小さな競技場の前室。「子供の音楽と演劇のコンクール」の前室、ひいては当主の娘の寝室につながる部屋で、ここにも子供が描かれている。子供の馬車競技と四季の組み合わせ。

小さな競技場の前室・春。赤組はフラミンゴが引く荷車。

小さな競技場の前室・夏。白組はガチョウ。ガチョウの首輪は、麦の穂。

小さな競技場の前室・秋。青組は、葡萄の房を首輪にした孔雀。

小さな競技場の前室・冬。緑組は鳩が引き、勝利の証である椰子の葉を受け取っている。

エロスとパンの前室。エロスとパン両神の戦い。エロスはキューピッドの姿(理性)、牧神パン(野生)は山羊の足と角を持つ。人間の理性と野生の葛藤。パンの左に立つ髭の男性が審判。後ろのテーブルには、勝者に捧げられる椰子の葉、その下には賞金の入った袋がある。

子供たちの狩りと花の寝室。こちらは、花の寝室の部分。上段で、２人の少女がバラを摘み、籠に入れている。中段で、腰掛に座った少女がバラを編み、バラのリボンを木に掛けている。その横のもう一人の少女はバラを詰めた籠を運んでいる。下段は、バラ籠の天秤棒を担いだ少年。上の見取図No.36.

子供たちの狩りと花の寝室。狩りの部分(前室)。右の少年が投げ輪で鴨を捕り、左の少年が兎を矢で射止めたところ。

ポリュペモスの前室。ホメロスの「オデュッセイア伝説」(紀元前８世紀頃)の一場面。オデュッセイアが単眼の巨人・ポリュペモスに捕えられた時、彼は巨人にワインを勧め、酔って眠った巨人の目を潰し、逃げた。モザイクは、ワインを差し出す場面。上の見取図No.27.

愛の寝室(奥方の私室)。上の見取図No.28.

愛の寝室。中央には抱き合う恋人たち。

愛の寝室。六角形のモザイクは、四季を表す。こちらは春。手に花を持つ。

愛の寝室・夏。頭に麦の穂の冠。

愛の寝室・秋。葡萄の房の冠。

愛の寝室・冬。枝を持つ。四季は、絶え間ない時の流れを表す。

愛の寝室・ギリシャ劇場で使われる仮面が、月桂樹のリースの中に描かれている。仮面は、経年や容姿の変化を乗り越えた、不変の愛を表す。ロマンチック♪

果物の寝室(奥方の私室)。上の見取図No.29.

果物の寝室・桃。

果物の寝室・イチジク。結局、途中で時間が足りないと分かり、Robertoに電話して、お迎えの時刻を1時間あとにしてもらった。鑑賞時間３時間。