2014/07/28 - 2014/07/28
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montsaintmichelさん
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貴船は、緑深い谷沿いにある京都の観光名所のひとつであり、古来より京の水源のひとつとして水の神を祀る聖域と崇められてきました。貴船神社は、本宮と奥宮に水の神「タカオカミ」、結社に縁結びの神「磐長姫命(いわながひめのみこと)」を祀ります。本宮にお参りした後、奥宮へ、その帰りに結社の順で参拝する「三社詣」が古くからの習わしです。
地域名は「きぶね」と濁りますが、神社の方々は「水の神」であることから、濁らずに「きふね」と発せられます。貴船神社の創建は不詳ですが、伝説では今から1600年前の反正天皇の時代の創建だそうです。神武天皇の母に当たる玉依姫命(たまよりひめのみこと)が、黄色い船に乗って淀川から貴船川に入り、奥宮に降り立ち、祠に水神を祀ったのが始まりです。社名「貴船」の由来は、ひとつにはこの「黄船」に因む神話だそうです。
夏の風物詩の納涼「川床」や恋愛成就の神として知られ、カップルや恋人同士の聖地でもあり、和泉式部の歌碑などの浪漫の宝庫でもあります。しかし、その裏返しとなる胡乱な伝説の発祥地でもあります。昔から京の奥座敷とも呼ばれ、伝説の不思議な感覚と神秘性を持ち合わせた「ゾクゾク」させる避暑地でもありました。
鬼女と化し、裏切った恋人とその相手、その親類縁者を皆殺しにしたという「橋姫伝説」。その元となったのが奥宮での「丑の刻参り」です。また、貴船を舞台とした中将 定平と鬼国の姫との壮大な恋物語も伝えられるパワースポットでもあります。
平安京の御所から見て鬼門の方向に当たり、比叡山のように京都の霊的守護を担う場所のひとつとしても数えられており、魑魅魍魎の聖域とも言えます。
貴船周辺マップです。
http://kifunejinja.jp/access/kifunemap/index.html
- 旅行の満足度
- 5.0
- 同行者
- カップル・夫婦
- 交通手段
- 私鉄
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今回歩いた貴船のルートマップです。
ご参考にしてください。 -
貴船神社 本宮 二の鳥居
二の鳥居は貴船神社本宮の南入口に位置し、貴船口の大鳥居から数えて二つ目の鳥居です。1989年皇太子殿下の御成婚記念として再建されたものです。
鳥居を挟んで、右に樹齢600年の欅(けやき)、左に樹齢700年の杉の大木が聳えています。 -
欅(けやき)の古木
歴史の重みに耐え兼ね、鳥居の反対側に倒れ込むような弱々しいお姿を呈しています。
歴史を物語るように苔生した上にマネヅタを纏っています。 -
貴船神社 本宮 末社 白髭社
欅の大木に抱かれるように楚々と佇みます。
表現を変えれば、欅に押しつぶされそうになりながらも…となります。
時系列的には、前者の表現が正しいのでしょうね。
ご祭神は猿田彦命で、天孫降臨の際に道案内をした神です。
長寿のご利益があるそうです。 -
貴船神社 本宮 石段
両脇に丹塗の春日燈籠が整然と並べられた南参道の84段の石段が境内へと誘います。その上から覆い被さるように緑のアーチを描くのは、青もみじ。
貴船といえば、こうした厳かな光景を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。春日燈籠の寄進名には京都からは遠い市や町の名前が散見され、信仰の篤さを感じます。 -
貴船神社 本宮 神門
石段を登りきると提灯を張った白木造りの神門が快く迎えてくれます。提灯には十六八重菊の神紋が見られます。貴船神社は皇室所縁の神社で、1945年に制度が廃止されるまで官幣中社に列せられていたことを物語っています。
門の左脇には、樹齢400余年、高さ30mを超えるご神木の桂の大木が屹立しています。
神門の奥には、チラリと七夕笹飾りがその姿を覗かせています。 -
貴船神社 本宮 龍船閣
懸崖造になっており、船の中から山の景色を見ているような錯覚に浸れる展望台となっています。また、休憩所としても重宝しています。
垂らされた紅白の布には、二頭の勇ましい龍の絵が描かれています。
このように工夫を凝らして狭い境内を有効利用しているのが窺えます。 -
貴船神社 本宮 龍船閣
上から見るとこんな感じの何の変哲もない、平地に建てられた舞殿のように錯覚してしまいます。
上の写真のように下側から見上げる人は少ないそうですが、どんな状態で建てられているのかを知ったら驚くかも!
内部にはベンチが置かれ、七夕の短冊や結び文、絵馬への願い事を認める場所となっています。 -
貴船神社 本宮 龍船閣
ここから眺める景色は格別で、まるで船の中から見ているような珠玉の青もみじの景観に息を呑みます。
紅葉の季節に広がる錦絵を推して知るべしでしょう。 -
貴船神社 本宮
境内のあちこちには所狭しと七夕笹飾りが立てられています。
青笹に色とりどりの短冊や絵馬が吊るされた様は、まるで花が咲いたかのようです。
毎年7月1日〜8月15日までは、七夕笹飾りライトアップが催されています。
色とりどりの短冊が揺らめく笹飾りを幻想的に照らし、境内は 幽玄の世界に変貌します。 -
貴船神社 本宮
現在ではどの神社にも願文を神前に奉納できる「絵馬」がありますが、その「絵馬」の発祥の地が貴船神社です。躍動感溢れる白・黒馬のブロンズ像は、貴船神社が「絵馬の発祥地」であることを記念して建てられた由。平安の頃、貴船神社には馬が捧げられ、日照りの時には黒馬、長雨の時には白馬もしくは赤馬を献じ、それぞれ「雨乞い」と「雨止み」の祈願を込めたそうです。しかし、時には神の希望通りの馬が用意できない事もあり、生馬の代わりに「板立馬」という絵に描いた馬が奉納されたそうです。次第に絵馬の方が合理的だと言う訳で、絵馬を供えるのが主流になったそうです。 -
貴船神社 本宮 末社 牛一社
この小さな社は「牛一社」という末社。北門のすぐ左手にあります。
貴船の地には「牛鬼伝説」も遺されています。
「牛鬼」とは、頭が牛で胴体が鬼という、ギリシャ神話の怪物ミノタウロスのような姿、あるいは頭が鬼で胴体が牛、もしくは蜘蛛などと伝えられる奇々怪々な姿をした神です。
説明には、「ご祭神は、木花開耶姫命(このはなさくやひめのみこと)。牛鬼は、貴船明神が丑の年、丑の月、丑の日、丑の刻にご降臨の際お供した神」とあります。貴船神社には、この降臨に由来する伝承が訓話「口は災いの元」として遺されています。
太古、貴船山中腹の鏡岩に貴船明神が降臨した際、お供したのが鬼面の牛鬼こと仏国童子。ところが口が軽く神界の秘事を広めてしまう童子の振る舞いに怒った神が、童子の舌を八つ裂きにしました。舌は、よく使えば理を弁じ、和を結びます。しかし悪用すれば、秘密を漏らし、災いをもたらします。牛鬼たちの子孫は、祖先の犯した過ちを戒めるために「舌(ぜつ)」家と名乗り、貴船の社家筆頭として活躍した時代もあったそうです。貴船神社は、平安時代に上賀茂神社の摂社になりましたが、江戸時代、独立のために訴訟を起こしました。神社の由来など古典に博覧強記である童子の子孫は、上賀茂神社の神官を次々に論破したそうです。まさに「理を弁ず」舌家の面目躍如です。
現在でも、貴船には牛鬼の末裔の方々が住んでおられる由。 -
貴船神社 本宮 桂のご神木
樹齢400年の樹高30mの桂の木。通常、ご神木は杉などの常緑樹であり、落葉樹の桂がご神木になっているのはとても珍しいそうです。
根元からいくつもの枝が天に向かって伸び、上方で八方に広がっています。運気発祥の御神気が龍のごとく大地から立ち昇っている姿がめでたいことから、ご神木とされたそうです。
気生嶺・気生根とは、気の生み出す根源の場所を意味し、体内の気が萎える気枯れを神気に触れることにより再生させることができるそうです。これが「きふね」の名の由来のひとつでもあります。 -
貴船神社 本宮 桂のご神木
桂の葉は、ハート型をしています。故に、縁結びとも縁が深いようです。
こうして大地にしっかりと根付いたご神木からは、ただならぬ「気」のエネルギーが感じられます。古来貴船は、気生根・木生嶺とも書かれ、大地の「気」のエネルギーに満ちたパワースポットで、生きる気力を充填する聖地だったそうです。
確かに水と森と大地のエネルギーが感じられるスポットです。平安貴族も様々な悩みやストレスを抱え、神にすがる思いで貴船に詣で、疲れた心を癒やされて再び都に帰って行ったのでしょう。現代人も同じですね! -
貴船神社 本宮 石庭「天津磐境(あまついわさか)の庭」
古代人の祭場をイメージし、現代の作庭家 重森三玲氏により1965年にわずか2日で造られたものです。磐座や磐境の再現を全て貴船石(水成岩)を用いて船の形に石組されているのが特徴です。中央の椿の木は帆柱を表し、神様はこの木から降臨されます。
松尾大社にある重森三玲氏の作品については、次の旅行記を参照ください。
http://4travel.jp/travelogue/10893045 -
貴船神社 本宮 石庭「天津磐境の庭」
賀茂建角身命の娘 女神玉依姫が、浪花の津から「黄船」に乗って淀川、鴨川と遡り、貴船の地に辿り着いた伝承を表現しています。
船形を表している砂の色も独特です。 -
貴船神社 本宮
石庭の奥には、苔生した蹲踞が1基、軽やかな水音を響かせながら佇んでいます。 -
貴船神社 本宮
蹲踞の上面の形状が工夫されており、窪みの所から溢れた水が苔を伝って黒い玉石の上に滴り落ちます。 -
貴船神社 本宮
奥に鎮座するのは本坊でしょうか?
ここの屋根瓦には、官幣中社であった名残の十六八重菊の神紋が見られます。 -
貴船神社 本宮 拝殿
日本全国に約450社ある貴船神社の総本社です。
本宮の主祭神は、タカオカミという水を司る神です。オカミとは、龍神を言います。神話では、イザナギがイザナミの死の原因となった火の神 ヒノカグツチを斬り殺した時に流れた血から、同じ水の神であるクラオカミノカミやクラミツハと共に生まれたと伝えられています。平安京遷都以前から水の神として崇められ、特に料理や調理業、水を取扱う商売の方々から篤い信仰を集めています。 -
貴船神社 本宮 拝殿
内陣にはオレンジ色の優しい明かりが灯され、木漏れ日を浴びて輝く拝殿に神々しさと同時に温もりを伝えています。
本宮のご利益は「諸願成就」。つまり、あらゆる願い事を叶えてもらえるということですから、古の大宮人が加茂競馬の勝敗を祈り、平實重が蔵人昇任を、義経が源氏再興を絵馬に祈願したのも全て貴船神社だったというのも腑に落ちます。 -
貴船神社 本宮 拝殿
本殿と拝殿は、ご神座が本宮に遷されて950年という佳節の2007年に改築され、古の姿を今に蘇らせています。
神紋は本来の「左頭三つ巴」と上賀茂神社由来の「双葉葵」の2種類あるそうです。何故、2種類あるかと言うと、平安時代から1871年まで、貴船神社は上賀茂神社の第二摂社とされていたためだそうです。
拝殿の頂にあるのが賀茂神社由来の「双葉葵」です。しかし、その下の装飾品に施された神紋は、真中の葉が真っ直ぐに伸びた変形種となっています。
調べた所、ご神座に近くなるほど真中の葵が真っ直ぐに立ち、成長してくるそうです。 -
貴船神社 本宮 本殿
屋根の裾には丸い「左頭三つ巴」の神紋が見られます。これが元々の貴船神社の神紋です。祭神が水を司る神ということから、水の紋として「左頭三つ巴」を使用していると言われています。しかし、「三つ巴」の存在感は薄れているような気がします。
本殿の装飾品の神紋は、真中の葉が成長して「双葉葵」ではなく、「三葉葵」となってしまっています。確かに、真中の葉が拝殿の装飾品のものに比べて成長し、両脇の葉とほぼ同じ大きさになっています。 -
貴船神社 本宮 御神水
社殿前の石垣からこんこんと湧き出す御神水は、聖なる貴船山から山清水として湧き出した霊水です。
かつて3年以上汲み置きした水を水質検査したところ、雑菌の繁殖もなく、良質の水と判定されたという折り紙つきです。古来より茶人に珍重され、現在も全国から多くの人々が汲みに来られています。水質は弱アルカリ性。もちろん無料です。シーズンによっては行列もできるそうです。
お持ち帰り用にポリタンクも販売されています。 -
貴船神社 本宮 水占
貴船神社の名物のひとつに「水占斎庭(みずうらゆにわ)」と言う遊び心満載の「水占」があります。社務所で選んだおみくじを、傍らにある神泉に浮かべて吉凶を占います。水に浸すと占いの文章が徐々に現れるという雅な趣向です。
水を司る神を祀っている神社ならではのおみくじと言えます。
因みに、本来齋庭とは、「神に捧げる稲を育てる神聖で、触れてはならない田」を意味するそうです。 -
貴船神社 本宮 和泉式部「恋の道」の道標
貴船神社は「恋の宮」とも称されます。このことから、結社〜本宮〜奥宮を結ぶ道を「恋の道」とも呼んでいます。
こうした簡素で控えめな道標の演出が、乙女心をくすぐるのでしょう。
当方もこれから北参道を下り、「恋の道」を辿って奥宮まで足を運んでみたいと思います。
百人一首に登場する家人も、貴船神社をお参りしていたようです。その家人は、お参りを続けた結果、仲の悪くなった夫とも復縁したという伝説もあります。 そういうことから、往時も縁結びや復縁の神として衆目を集めていたようです。 -
貴船川の清流
所々に小さな堰が設けられており、水飛沫が上がってマイナスイオンを放っています。 -
相生(あいおい)の大杉
奥宮参道入り口の手前に聳え立つ「相生の大杉」。
ご神木の「相生の大杉」は、樹齢1000年を越え、しかもひとつの根から二本の大杉が生えているという非常に珍しい杉です。「相生」は「相老」にも通じ、「夫婦共に末長く生きる」という意味にもなります。
奥にある祠は、貴船神社の末社です。ひとつは、大国主命を祀る「私市社(さきいちしゃ)」。もうひとつは、少彦名命を祀る「林田社(はやしだしゃ)」です。 -
思ひ川
鳥居の先に小川が流れ、小さな橋が架かけられています。この小川は「思ひ川」と呼ばれています。
和泉式部は、夫 橋道貞の愛を取り戻そうと思い悩み、貴船詣を行っています。式部もここで身を清め、恋の成就を祈ったことでしょう。
往時は奥宮が本社で、参拝者はこの谷川で手を洗い、口をすすぎ、身を清める、禊ぎや物忌みの川だったそうです。禊ぎの川だった「おものいみ川」が式部の恋話と重なり、いつの頃からか「思い川」と呼ばれるようになったそうです。 -
つつみが岩
思い川の先にある高さ4.5m、質量43トンの大岩です。
貴船石特有の紫色を呈し、古代の火山灰堆積の模様を表した代表的な巨岩。2億数千年前に海底に噴出した玄武岩質の岩で、庭石として珍重されています。海底火山の活動によって流れ出した溶岩が海水で冷やされて凝固し、これがいくつも重なって枕状になる枕状溶岩となっています -
貴船神社 奥宮 参道
この辺りまで来ると観光客も疎らになり、厳粛な雰囲気が漂ってきます。
古来より京の水源としても重要な役割を果たしてきた地。そして龍穴、鉄輪、橋姫、牛鬼、滝夜叉姫などの伝説や定平の中将と鬼国の姫との壮大な恋物語など、貴船所縁の話は尽きません。
人を恨み、世を呪った橋姫や滝夜叉姫、鉄輪の女も、伝説の通りなら毎夜こんな山道を京都の街中から通っていたことになります。そういえば、「鉄輪の井戸」伝説の女は、呪いの儀式に通っている途中で力尽きて倒れたとも…。毎晩こんな大変な道のりを歩き続けていたら、無理もないことでしょう。しかし、凄まじい執念と言えます。その執念に驚かされると同時に、「彼女らは、一体どんな思いを抱きながら、この暗闇の山道を彷徨い続けたのだろうか?」などと少々センチメンタルな気分にとらわれたりもします。 -
貴船神社 奥宮 神門
参道の両側の杉並木は陽を遮り薄暗く、伝説を秘めた奥宮の神秘さを演出します。そしてこの丹塗の神門が浄域と俗界との結界となります。
古来より人々は、あらゆる願いを秘め、神にすがりつく思いでこの門を潜ったことでしょう。そして、湧き出す清水のようにポジティブ・エネルギーを充填し、もとの都や日常の生活へと戻っていったのでしょう。 -
貴船神社 奥宮 連理の杉
山から吹く風や澄んだ空気が、辺りに静けさを伝えています。門を潜ってすぐ左に、大物主命を祀る末社 日吉社とその上にご神木の「連理の杉」があります。
連理とは、木の枝や幹が他の木の枝と連なり、互いに木目が通じ合っている様を言い、「連理の契り」とは夫婦・男女の間の深い契りを意味しています。しかもこの木は「連理の杉」とありますが、実際は杉と楓が一体になったとても珍しいものです。
1924年、大正天皇の皇妃 貞明皇后が参拝の際、この木を称賛され、「大変珍しい木だから大切に」というお言葉を残されたそうです。 -
貴船神社 奥宮 拝殿
厳かで清浄な空気に包まれた、静謐な神域の光景です。
中央手前に見える大きな建物が拝殿です。一見、舞殿のようですが貴船神社では拝殿と呼んでいます。
貴船神社には「本宮」と「奥宮」、末社「結社」がありますが、元々はこの「奥宮」こそが本宮でした。しかし1046年に水害に遭い、1055年に現在の地に本宮を移したそうです。つまり、和泉式部や義経などが訪れたのは、この奥宮ということになります。 -
貴船神社 奥宮 拝殿
どことなくアニメチックな愛嬌のある狛犬です。
身に着けた鈴がアクセントになっています。
光ある所、影もあります。そして、「縁結び」があれば、「縁切り」もあります。縁結びの神として名高い貴船神社もその例に漏れず、古くからこうした「闇」の部分を抱えてきました。「諸願成就」を標榜する以上、逃れることができない宿命であり、時には人を鬼に変貌させる怖ろしい神ともなります。
そうです、かの「丑の刻参り」です。一般には、「丑の刻、神社の木に呪いの藁人形を釘で打ち付けて特定の相手を呪うまじない」として知られていますが、その発祥地がこの奥宮です。そして今でも、その儀式を行う人が絶えないとの噂も伝わっています。そこまで至らずとも、時々、絵馬に人の不幸を願うものが混ざっているそうです。決して裏返された絵馬を読むようなことはなされませんように! -
貴船神社 奥宮 拝殿
こちらの狛犬は、尻尾の上にトノサマバッタを載せています。
貴船明神が牛鬼を連れて降臨したのが「丑年の丑月の丑日の丑刻」。これがある伝承と結び付いたのが、今に伝わる「丑の刻参り」です。白装束に、口紅は濃く、頭の鉄輪に蝋燭を灯し、藁人形に五寸釘を打ち据える。
元は『平家物語』の「宇治の橋姫」に原型が見られます。恨みを抱く娘が貴船神社に籠もって鬼になる話で、これが謡曲「鉄輪」へ発展しました。両説話には、釘も藁人形も登場しないのですが、広く世に伝わる中で陰陽道の呪詛法などと混ざって身の毛もよだつ恐ろしい話に成長したのだそうです。
神社は恋愛成就の神として知られ、交通が不便で観光シーズン外、平日という条件にもかかわらず、境内には多くのカップルが祈りを捧げています。しかし、その傍らには、2人を恨む者が息を潜めて…。
宮司さん曰く、「大きな誤解です。ご降臨の伝承からも丑の刻参りとは心願成就の参拝方法。人を呪わば穴2つと申します。呪いは絶対におやめください」。 -
貴船神社 奥宮 社殿
ご祭神は、本宮と同じくタカオカミを祀っています。飛鳥時代、655年に社殿を造り替えたとも伝えられ、それ以前から存在したと見られています。2011年に150年ぶりに「附曳神事(ふびきしんじ)」が行われ、美しい一間社流造の姿を今に蘇らせています。
奥宮の扁額は鉄斎だそうです。
社殿の下には巨大な龍穴、つまり龍の棲む穴があるそうです。その龍穴は、神泉苑や八坂神社の下、瓜生石の下などにも通じていると伝えられています。奥宮の水が湧く場所(龍穴)の上に社殿を造るようご神託があったそうです。
文久年間(1861〜63年)、社殿工事の際に大工が誤ってノミを龍穴に落としたところ、にわかに空模様が変じて突風が起こり、落としたノミを空中へ吹き上げたという話も伝わっています。またその時、怒った龍が現れ、その大工は落命したとの話もあります。そんな伝説が遺されているほど、「決して侵したり、穢したりしてはいけない神聖な場所」だと考えられていたのでしょう。あるいは、元々は霊泉が湧き出しており、それが信仰の対象として祀られるようになったのが貴船神社の始まりだとする説もあります。いずれにせよ、創建年は不明確なものの、平安京遷都以前から信仰の対象として社が存在していたことが窺われます。平安京遷都により、水源の神 雨乞いの神としてさらに崇敬され、多くの僧徒や修行者によっても霊場と崇められ、貴船信仰が広められていったものと思われます。 -
貴船神社 奥宮 権地
社殿の新築・改築・遷座などで工事を行う際、仮の社殿を建てる場所のことを「権地」と言うそうです。社殿を龍穴から移動させる作業を「附曳神事」といいますが、2011年に行った際は、立ち会う人も皆、榊の葉をくわえ無言で作業が進められたそうです。 -
貴船神社 奥宮 船形石
奥宮 社殿の左手にある、縦約10m、横約3m、高さ1.5mの船形の石積みが、奥宮に伝わる神話の遺産「船形石」です。
神武天皇の母でもある女神 玉依姫(たまよりひめ)が、大阪湾から鴨川を遡ってこの貴船の地に着いた時、乗ってきた船(黄船)を人目に触れぬように小石で覆って隠したのがこの「船形石」です。古来、黄色は神聖な色とされ、この黄色い船「黄船」が貴船の語源のひとつとも言われています。 -
貴船神社 奥宮 船形石
航海する時、ここの小石を携行すれば海上安全が保たれると言われているのですが、勝手に持ち去ることはできませんのでご注意を!
貴船の名の由来は、万物のエネルギー「気」が生ずる根源を意味する「気生根」から来ているとの説もあります。ここから生じる「気」に触れて、元気も運気も満たされ、あらゆる願い事も叶うという、まさに「パワースポットの中のパワースポット」が貴船ということなのです。 -
奥宮を出て貴船川上流の清流を橋の上から暫し眺めます。
川の流れと共に心地よい冷たい川風が髪を揺らして行き過ぎます。
まさに天然クーラーそのものです! -
料理旅館の庭先に楚々と咲く桔梗の花の色彩が、涼感を誘います。
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貴船神社 結社(ゆいのやしろ)
三社詣のフィナーレを飾るのは、縁結びに霊験あらたかな末社「結社」です。
本宮と奥宮の中間に位置することから、中宮(なかみや)とも呼ばれます。ご祭神は、「恋を祈る神様=磐長姫命(いわながひめのみこと)」。
磐長姫は、「天孫降臨」神話にふられ役として登場する女神です。天照大神の命により、葦原中国を統治するため高天原から地上に降りた天孫 ニニギノカミは、大山祇神(おおやまつみ)の美しい娘 木花開耶姫(このはなさくやひめ)と出逢い、求婚します。大山祇神は、木花開耶姫とその姉 磐長姫を共に差し出します。しかし磐長姫は、妹に比べ器量が劣り、天孫は磐長姫を送り返して木花開耶姫とだけ結婚しました。大山祇神は次のように言います。「娘二人を一緒に差し上げたのは、磐長姫を妻にすれば天津神の御子の寿命は岩のように永遠となり、木花開耶姫を妻にすれば花が咲くように繁栄すると誓約を立てたからです。お判りいただけずに残念です。あなた方のお命は、花のように儚いものとなるでしょう」。それ以来、その子孫である天皇家や日本人の寿命も、神々に及ばない短いものになってしまったと言うことです。
さて、ふられた方の磐長姫はその後どうなったかというと、「縁結びの神として良縁を授けん」と、ここ貴船に鎮まったと伝えられています。その磐長姫を祀ったのが、「結社」です。 -
貴船神社 結社
室町時代末期の『御伽草子』には鞍馬にある鬼国の大王の娘と、都の中将の恋物語が「貴船の物語」として書かれています。
平安時代、定平の中将が内裏の「扇合わせ」で見た女将の絵姿に魅せられ、彼女を求めて鞍馬の岩穴から鬼国に至り、天女にも勝る美しい鬼の姫宮と出逢いました。しかし、それは叶わぬ恋であり、中将と契った鬼姫は、彼の身代わりになって鬼国大王の生贄に処され、13年の短い生涯を閉じました。処刑前、鬼姫は縹(はなだ)の紐をちぎって形見として中将に渡しました。その後、中将の叔母が姫を産みますが、左指を全く開かないために墓場に捨てられてしまいました。中将は女の子を拾い、育てることにしました。彼女の左手は固く握られたまま開くことがなかったのですが、13歳の春、ついに開いた手の中には鬼姫の形見の紐が握られていたのです。そして2人は夫婦となり、末永く幸せに暮らしたという。この恋物語が、「貴船の本地」となり、貴船は縁結びの聖地として知られるようになったそうです。しかし、ここに語られる恋愛成就の姿は、自らの命を絶って思いを遂げるという鬼の祈祷術そのものであり、橋姫伝説を彷彿とさせる情念の凄みが内在します。
この話の後日談があります。鬼達は節分の夜に2人を襲いますが、鞍馬の毘沙門の霊言で炒り豆を打って退け、さらに五節句を営んで鬼軍を追い払いました。その後、2人は仲睦まじく暮らし、やがて鬼姫は貴船の大明神、中将はまろうど神となって共に衆生を守ることになったということです。
貴船では命がけで恋を祈願する人もあり、願いが断たれた時には怨みを晴らす修羅場と化し、呪詛信仰の聖地として「鉄輪」に代表される丑の刻参りがまかり通る魔界に転じたのでしょう。しかし、本来、神の霊力は人を呪ったりするためのものではありません。人間が秘めている邪気、心の邪なる部分が狂気と共鳴した結果と言えないでしょうか? -
貴船神社 結社
縁結びのご利益をよく伝えているのが、かの平安時代を代表するプレイガール 和泉式部を巡る逸話です。
和泉守橘道貞というまじめな夫の妻として子を産んだ際、父親は誰だろうとの詮索が絶えなかったり、美貌と好色で名高い冷泉天皇の皇子と深い関係になり、夫から三行半を突き付けられて親からも勘当されたそうです。そして30歳を過ぎて再婚したのが、50歳を過ぎた藤原保昌です。
伝承によれば、式部は夫を深く愛していましたが、夫に愛人ができて夫婦に危機が訪れました。思い悩んだ式部は、貴船神社に参詣し、巫女に夫婦和合を依頼しました。巫女は、祈願の一環として式部に衣の前をはだけて陰部を晒すように命じました。その様子を陰で見ていた夫は、感動して一緒に連れ帰り、以後深い愛情を注いだということです。
一見、美談のようですが、ここには「縁結び」の裏に「縁切り」が必然的に伴っています。こうした、三角関係の縺れから怨念が湧きあがるのも必然なのかもしれません。 -
貴船神社 結社 天の磐船
これは「天の磐船」という珍しい石です。
この船形の天然石は、長さ3.3m、舳先の高さ1.5m、幅1m、質量6トンもあり、貴船の山奥より産出されて1996年に京都市在住の作庭家 久保篤三氏より奉納されたものです。
船は古くは唯一の交通機関であり、人と人、文化と文化の交流(結ぶ)ということから、奥宮の「船形石」伝説にもあるように、貴船では神様の乗り物として神聖視されています。 -
貴船神社 結社 天の磐船
こうしてじっくり観てみると、とても人の手で加工されたとは思えない形をしており、一説には宇宙人との関係を説く都市伝説もあるのだとか。 -
貴船神社 結社
境内に聳え立つ、樹齢400年という大きな桂のご神木です。 -
貴船神社 結社
大木の下には蛇口を配した切株がポツンと佇んでいます。
さすがに水の神様だけあり、蛇口をひねれば恋の泉が湧き出すという仕掛けなのでしょうか? -
貴船神社 結社 和泉式部の歌碑
「もの思えば 沢の蛍も わが身より あくがれ出ずる 魂(たま)かとぞ見る」。
恋しくて思いつめてここまで来ますと、貴船川に飛んでいる蛍のはかない光が、まるであの人を求める私の魂が彷徨っているかのように見えます。
平安時代中期、多くの浮名を流した歌人 和泉式部は、再婚した夫 藤原保昌の心が離れた折、このように川の蛍を詠みました。そして貴船神社詣のご利益で寄りを戻したと言われています。
この歌には貴船明神の返歌があります。
「奥山に たぎりて落つる 瀧の瀬の 玉ちるばかり ものな思ひそ」。
しぶきをあげて飛び散る奥山の滝の水玉のように、魂がぬけ出て飛び散り消えてゆくほど、そんなに深く考えてはなりません。 -
貴船神社 結社
かつては境内に生えているススキ等の細長い「草の葉」を神前に結び付けて祈願する習わしがあり、以前は神木の桂の木にも沢山結ばれていたそうです。
現在では植物保護のためにそうした行為は禁止され、その代わりにススキの絵が描かれた「結び文」に願文を書き、この「結び処」に結ぶことになっています。結び文は本宮にあります。
男女間の縁だけでなく、人と人、会社と会社、就職や進学などあらゆる縁を結んでくださる神です。
この後、七夕笹飾りライトアップまでは時間があるので散策を楽しみました。
この続きは④貴船<後編>でお届けします。
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