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サンクトペテルブルクの新名所として話題の新マリインスキー劇場で、現代最高のマエストロの一人ゲルギエフの指揮で、今年生誕200年を迎えるワーグナーの最高傑作「指環」4部作を観た。このホールは5月2日のゲルギエフの誕生日にこけら落としをしたばかり、5月24日から7月28日まで延々と続くWhite Night Festival、白夜祭の公演の中でもメインイヴェントと言っていいだろう。<br /><br />このフェスティヴァルはほとんどゲルギエフの独り舞台、新マリインスキー劇場、旧マリインスキー劇場、コンサートホールの3会場を使ってほぼ連日、彼が指揮台に登る。小生がサンクトペテルブルクを往復するようになって7年になるが、ほぼ毎年ゲルギエフはワーグナーのオペラを取り上げてきた。ロシアにおいてこれほどワーグナー、ブルックナー、ブラームスなどいわゆる重厚なドイツものを取り上げている指揮者は珍しい。ゲルギエフは今やウィーンフィル、ベルリンフィルを始め、ミュンヘン、ニューヨーク、ロンドンなど主要な音楽都市で引っ張りだこであるが、あえて一流とは言い難いマリインスキー劇場管弦楽団を率いてワーグナーの巨大なオペラの上演を続けてきた。これまでの彼の一連の活動は、この新マリインスキー劇場のオープンした白夜祭をターゲットにしてきたことは明白である。<br /><br />この7年間に彼の「指環」サイクルを2回、「オランダ人」を2回、パルシファルを聴いた(コンサート上演も含む)。小生のごとき俄かワグネリアンが彼のワーグナーを評論するのもおこがましいが、彼の演奏が年々充実してきていることは明らかだ。しばしばコンサート形式の上演を交じえており、歌手とオーケストラの演奏能力向上に効果を上げていると思う。あらゆることを彼の思うがままにできるこの劇場が彼の実験場になっており、その成果を毎年の白夜祭で披露している、と見るべきかもしれない。チケットは非常にリーズナブル、いや安価と言ってもいい。この値段で(2000〜10000円)でこのレヴェルの上演を見ることができるフェスティヴァルはここ以外には多くはないと思う。<br /><br />小生も今回の「指環」サイクルに備えて、あらかじめドイツ語の台本と日本語訳に目を通しておいた(オペラ対訳プロジェクトなるサイトをみつけた、これは活用する価値がある)。如何せんマリインスキーでは原語のドイツ語上演で字幕はロシア語であるので、予習が不可欠だ。その効果があって、色々な新発見があった。名前を見る限りほとんどがロシア系の歌手達であるが、ほぼ正確なドイツ語で、当然ながらすべて暗譜で歌っている。これだけでも素晴らしいことであるが、更にこの過密スケジュールの中でこの演奏レヴェルを維持していることは驚嘆に値する。これは長年に渡って密接な関係を築いている両者にのみ実現可能なものだと思う。<br /><br />演出は数年前に旧劇場で使用した物を転用している。巨人族の張りぼてを4体天井から吊り下げている。マリインスキー劇場でみるロシア物の絢爛豪華な演出に比べると物足りない。しかし、昨年観たベルリン国立歌劇場のワーグナーでさえかなり簡素化された演出であったことを思えば、これは世界的な傾向であるのであろうか。いずれにしても大きな減点ではない。なお新劇場プロジェクトが巨額であったことや、モダンな外観が周囲とマッチしない、など、議論好きなロシア人たちの多くの批判を耳にした。しかし、これは贅沢な批判であり、この劇場がこの町の文化に多大な貢献をするであろうことは疑いがない。劇場の内装などはむしろ質素で、一般市民のための劇場である、との印象を持った。羨ましい限りである。<br /><br />蛇足であるが、この「指環」に先立ち、旧劇場でゲルギエフ指揮の「アイーダ」を観た。ワーグナーと同じく生誕200年を迎えるヴェルディも彼の重要なレパートリーだ。しかしこのアイーダは少々重い。凱旋の場面のトランペットもリズムが甘く、物足りない。この曲は普段からカラヤンの録音を聞いていることが弊害かもしれない。これはロシア物の「ダッタン人の踊り」を本場で観た時にも感じたことであるが、カラヤンの演奏のリズム感とベルリンフィルの性能は比類がない。この点では、ゲルギエフの演奏に今後の深化を多いに期待している。

サンクトペテルブルク: 5月にオープンした新マリインスキー劇場で「指環」を観る

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2013/06/08 - 2013/06/15

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30

ハンク

ハンクさん

サンクトペテルブルクの新名所として話題の新マリインスキー劇場で、現代最高のマエストロの一人ゲルギエフの指揮で、今年生誕200年を迎えるワーグナーの最高傑作「指環」4部作を観た。このホールは5月2日のゲルギエフの誕生日にこけら落としをしたばかり、5月24日から7月28日まで延々と続くWhite Night Festival、白夜祭の公演の中でもメインイヴェントと言っていいだろう。

このフェスティヴァルはほとんどゲルギエフの独り舞台、新マリインスキー劇場、旧マリインスキー劇場、コンサートホールの3会場を使ってほぼ連日、彼が指揮台に登る。小生がサンクトペテルブルクを往復するようになって7年になるが、ほぼ毎年ゲルギエフはワーグナーのオペラを取り上げてきた。ロシアにおいてこれほどワーグナー、ブルックナー、ブラームスなどいわゆる重厚なドイツものを取り上げている指揮者は珍しい。ゲルギエフは今やウィーンフィル、ベルリンフィルを始め、ミュンヘン、ニューヨーク、ロンドンなど主要な音楽都市で引っ張りだこであるが、あえて一流とは言い難いマリインスキー劇場管弦楽団を率いてワーグナーの巨大なオペラの上演を続けてきた。これまでの彼の一連の活動は、この新マリインスキー劇場のオープンした白夜祭をターゲットにしてきたことは明白である。

この7年間に彼の「指環」サイクルを2回、「オランダ人」を2回、パルシファルを聴いた(コンサート上演も含む)。小生のごとき俄かワグネリアンが彼のワーグナーを評論するのもおこがましいが、彼の演奏が年々充実してきていることは明らかだ。しばしばコンサート形式の上演を交じえており、歌手とオーケストラの演奏能力向上に効果を上げていると思う。あらゆることを彼の思うがままにできるこの劇場が彼の実験場になっており、その成果を毎年の白夜祭で披露している、と見るべきかもしれない。チケットは非常にリーズナブル、いや安価と言ってもいい。この値段で(2000〜10000円)でこのレヴェルの上演を見ることができるフェスティヴァルはここ以外には多くはないと思う。

小生も今回の「指環」サイクルに備えて、あらかじめドイツ語の台本と日本語訳に目を通しておいた(オペラ対訳プロジェクトなるサイトをみつけた、これは活用する価値がある)。如何せんマリインスキーでは原語のドイツ語上演で字幕はロシア語であるので、予習が不可欠だ。その効果があって、色々な新発見があった。名前を見る限りほとんどがロシア系の歌手達であるが、ほぼ正確なドイツ語で、当然ながらすべて暗譜で歌っている。これだけでも素晴らしいことであるが、更にこの過密スケジュールの中でこの演奏レヴェルを維持していることは驚嘆に値する。これは長年に渡って密接な関係を築いている両者にのみ実現可能なものだと思う。

演出は数年前に旧劇場で使用した物を転用している。巨人族の張りぼてを4体天井から吊り下げている。マリインスキー劇場でみるロシア物の絢爛豪華な演出に比べると物足りない。しかし、昨年観たベルリン国立歌劇場のワーグナーでさえかなり簡素化された演出であったことを思えば、これは世界的な傾向であるのであろうか。いずれにしても大きな減点ではない。なお新劇場プロジェクトが巨額であったことや、モダンな外観が周囲とマッチしない、など、議論好きなロシア人たちの多くの批判を耳にした。しかし、これは贅沢な批判であり、この劇場がこの町の文化に多大な貢献をするであろうことは疑いがない。劇場の内装などはむしろ質素で、一般市民のための劇場である、との印象を持った。羨ましい限りである。

蛇足であるが、この「指環」に先立ち、旧劇場でゲルギエフ指揮の「アイーダ」を観た。ワーグナーと同じく生誕200年を迎えるヴェルディも彼の重要なレパートリーだ。しかしこのアイーダは少々重い。凱旋の場面のトランペットもリズムが甘く、物足りない。この曲は普段からカラヤンの録音を聞いていることが弊害かもしれない。これはロシア物の「ダッタン人の踊り」を本場で観た時にも感じたことであるが、カラヤンの演奏のリズム感とベルリンフィルの性能は比類がない。この点では、ゲルギエフの演奏に今後の深化を多いに期待している。

旅行の満足度
5.0
観光
5.0
ホテル
4.5
グルメ
4.5
ショッピング
4.5
交通
4.5
同行者
一人旅
一人あたり費用
30万円 - 50万円
交通手段
鉄道 タクシー 徒歩 飛行機
航空会社
ANA

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  • モダンな新マリインスキー劇場のファサード

    モダンな新マリインスキー劇場のファサード

  • 新マリインスキー劇場の入り口

    新マリインスキー劇場の入り口

  • 新マリインスキー劇場の入り口

    新マリインスキー劇場の入り口

  • 新マリインスキー劇場のロビー

    新マリインスキー劇場のロビー

  • シャンデリアはスワロフスキー、壁はメノウの原石が使われている

    シャンデリアはスワロフスキー、壁はメノウの原石が使われている

  • 一階フロアからのステージの眺め

    一階フロアからのステージの眺め

  • 一階ステージ近くから客席を眺める

    一階ステージ近くから客席を眺める

  • オーケストラピットは旧劇場やウィーン、ベルリンの劇場よりもかなり広い

    オーケストラピットは旧劇場やウィーン、ベルリンの劇場よりもかなり広い

  • 3階席からステージを眺める

    3階席からステージを眺める

  • 3階席からオーケストラピットを眺める

    3階席からオーケストラピットを眺める

  • 「ラインの黄金」終演後のカーテンコールの美の女神フライア

    「ラインの黄金」終演後のカーテンコールの美の女神フライア

  • 「ラインの黄金」終演後のカーテンコールの神々の長ヴォータン

    「ラインの黄金」終演後のカーテンコールの神々の長ヴォータン

  • 超人ゲルギエフとヴォータン、エールダ、フリッカ、アルベリッヒ

    超人ゲルギエフとヴォータン、エールダ、フリッカ、アルベリッヒ

  • 「ラインの黄金」終演後のカーテンコール

    「ラインの黄金」終演後のカーテンコール

  • オペラ衣装の展示

    オペラ衣装の展示

  • オペラ衣装の展示

    オペラ衣装の展示

  • スワロフスキーのクリスタル

    スワロフスキーのクリスタル

  • 指揮台のヴァルキューレのスコア

    指揮台のヴァルキューレのスコア

  • チューニングに余念のないハープ

    チューニングに余念のないハープ

  • 「ヴァルキューレ」のカーテンコール

    「ヴァルキューレ」のカーテンコール

  • 「ジークフリート」のカーテンコール全景

    「ジークフリート」のカーテンコール全景

  • 「ジークフリート」のカーテンコールのゲルギエフとジークフリート、ブリュンヒルデ

    「ジークフリート」のカーテンコールのゲルギエフとジークフリート、ブリュンヒルデ

  • 「神々の黄昏」のカーテンコール

    「神々の黄昏」のカーテンコール

  • 「神々の黄昏」のカーテンコールのゲルギエフとジークフリート、ブリュンヒルデなど

    「神々の黄昏」のカーテンコールのゲルギエフとジークフリート、ブリュンヒルデなど

  • 旧劇場と新劇場をつなぐ橋にかかるオープニングの看板

    旧劇場と新劇場をつなぐ橋にかかるオープニングの看板

  • 旧劇場の堂々たるファサード

    旧劇場の堂々たるファサード

  • 旧劇場の緞帳

    旧劇場の緞帳

  • 旧劇場の豪華絢爛な客席

    旧劇場の豪華絢爛な客席

  • 客席の王冠とステージ

    客席の王冠とステージ

  • 「アイーダ」のゲルギエフとアイーダ、アムネリスとラダメス

    「アイーダ」のゲルギエフとアイーダ、アムネリスとラダメス

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この旅行記へのコメント (3)

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  • tadさん 2013/07/10 00:28:14
    今読みました!すごい!!!
    この旅行記、気がつきませんでした。今読みました。すごい!!!まいった!!!うらやましい!!!ハンクさん、ハンクさんの旅行記、いつも羨ましかぎりだと思いながら読んでいますが、これは、まいった。

    私の憧れのゲルギエフ、こんなに入り浸ってみたりきいたりできるハンクさんが羨ましいです!!!

    ハンク

    ハンクさん からの返信 2013/07/13 10:59:40
    RE: 今読みました!すごい!!!
    tadさん

    ゲルギエフのファンの方に対して自慢げに旅行記を投稿して申し訳なく思います。今回の出張は本当にラッキーでした。それでももっとラッキーな人もいて、5月2日の新劇場のこけら落としのガラコンサート(ゲルギエフの誕生日)に招待されて、握手をしてきた同僚もいます。

    それではtadさんの旅行記も楽しみにしております。ハンク

    tad

    tadさん からの返信 2013/07/13 19:27:10
    RE: RE: 今読みました!すごい!!!
    申し訳ないなんてどんでもないです!拍手喝采のかわりに、そう書いたほうが
    私としては素直に伝わりそうな気がしたまでです。ただし、その招待されて握手してきた同僚とやらは、許せないレベルを超えていますね!うーーん。。。


    > tadさん
    >
    > ゲルギエフのファンの方に対して自慢げに旅行記を投稿して申し訳なく思います。今回の出張は本当にラッキーでした。それでももっとラッキーな人もいて、5月2日の新劇場のこけら落としのガラコンサート(ゲルギエフの誕生日)に招待されて、握手をしてきた同僚もいます。
    >
    > それではtadさんの旅行記も楽しみにしております。ハンク
    >

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