2012/06/07 - 2012/06/16
14547位(同エリア22966件中)
匿名希望さん
【2012年06月】
・羽田発〜ハノイでトランジット〜タイ
・ワットポー タイ トラディッショナル メディカル スクール入校
・Step2、Step3
・Step4、Step5
・復習
・修了試験合格
・プライベートツアーでタイガーテンプルと象の村
・おみやげ購入、タイ発〜ハノイでトランジット〜羽田
・羽田着
- 旅行の満足度
- 5.0
- 観光
- 5.0
- ホテル
- 3.0
- グルメ
- 3.0
- ショッピング
- 3.0
- 交通
- 3.0
- 同行者
- カップル・夫婦
- 一人あたり費用
- 10万円 - 15万円
- 交通手段
- 鉄道 高速・路線バス タクシー 徒歩
- 航空会社
- ベトナム航空
- 旅行の手配内容
- ツアー(添乗員同行なし)
PR
-
2012年6月7日、朝の5時過ぎに家を出て成田エクスプレスに乗車。
そのまま成田まで半分寝ながら成田空港に到着し、ベトナム航空のカウンターでチェックイン。ハノイ経由でバンコクまで約10時間の空の旅が始まった。
「タイでは英語がほとんど通じないらしい」「詐欺が多いらしい」という不安な噂を耳にしつつも「微笑みの国」というポジティブなイメージもあるタイ。
さらに今回、滞在目的への投資のために旅費をけちったため(良く言えば経費削減!)、希望していたホテルは取れず、目的地からかなり離れた場所への宿泊となった。
それらの諸情報が伝えられたのは出発の1週間前ですでにホテルの変更も効かず、英語に全く自信のない私たち二人にとっては、かなり覚悟のいる旅行となった。
ハノイでの数時間のトランジットを経て、ようやくバンコクのスワンナプーム国際空港に到着したのは現地時間で夕方の18時過ぎ。
幸い、けちった旅行会社でもホテルまでの送迎はつけてくれたので問題なくホテルまで送り届けてもらうことができた。
しかし、ホテルは先述したとおり、目的の場所からかなり離れた場所だったため、私たちの不安は消えなかった。 -
実は今回の目的は観光ではない。
私たち夫婦は元々「タイ古式マッサージ」を受けるのが大好きで日本では色々なタイ式マッサージのお店にいってはお気に入りのお店、セラピストを探していた。
けれど、ようやく見つけたお気に入りの店も閉店したり、経営が変わりセラピストが変わったりしてなかなか「これぞ!」という所が見つからなかった。
そこでふと「気に入るところがなければ自分達で覚えればいいじゃないか!」という発想が生まれ、マッサージの本などを購入して調べているうちに本場タイでタイ古式マッサージの講習が受けられることを知った。
「よし!本場で勉強しよう!!」思い立ったらすぐ行動がモットーの私たちはすぐにマッサージスクールの情報などを調べ、旅行会社に航空券とホテルの手配を頼むことにした。
マッサージスクールはいくつかあったが、やはり元祖タイ式マッサージといえばワット・ポースタイルだと思い、迷わずワット・ポーのマッサージスクールに決めた。
けれど、ワット・ポーのマッサージスクールはバンコクに2校あり、1校はワット・ポーの寺院そば(以前は寺院内にスクールがあったがそこが一般観光客を相手にするマッサージ店に改装され、スクールは寺院の外に置かれることになった)でやっているスクールで、もうひとつはワット・ポーからは少し離れたスクムビットというところでやっているようで、本校とスクムビット校と呼ばれていた。
どちらもワット・ポー直営なのでどちらでも同じ講習が受けられるのだが、スクムビット校のほうは日本語のテキストやDVDがあり、かつ日本語の講師もいるという。
本校は基本はタイ語で、英語のできる講師もいるが日本語のできる講師はいないというのが事前情報(カタコトの日本語ができる講師がいる場合もあるという情報もあった)だったため、タイ語どころか英語にも全く自信のない夫婦二人は非常に悩んだ。 -
「せっかくだから「本校」と呼ばれるところで受講してみたい。
けれど、英語がわからなかったらどうしよう。そのせいで卒業できなかったらどうしよう」
基本のコースは最短で1日7時間(内1時間はランチタイム)受講し、5日間で全工程を覚えて5日目に卒業試験があるというもので、仕事の合間に無理やり休みをとった私たちはあまり余裕のある日程が組めず、タイ滞在日数が正味6日間というギリギリの日程だった。
試験は何度でも挑戦できるが、1日1回のみのため万が一ストレート合格しなかった場合、残されたチャンスはたった1回しかない。
しかも実際にスクールで講習を受けた方のブログなど拝見すると、かなり覚えることがたくさんあり、忙しい毎日でストレート合格は毎日真剣に取り組まないと難しいということが書かれていたりしたため、二人でギリギリまで悩んだ。
基本コースで合格すればライセンスが発行されるが、そのライセンスは本校、スクムビット校ともに「ワット・ポー」から直接出されるものなのでライセンスに違いはない。
自分の心の中に「本校で取った!」という自己満足があるかないかの違いくらい。
だとしたら、安全パイで日本語で受講できるスクムビットにするべきか…でもやはり「本校」という響きは捨てがたい。せっかくならワット・ポーのお膝元で受講し、ライセンスを取りたいという気持ちも強かった。
サイトを見ても、本校のサイトはタイ語と英語、スクムビット校は日本語のサイト。
うーん…やはり日本語のほうが安心、か。
せっかくタイまで行って学ぶのに、語学の壁にぶつかりダメになったら意味がない。 -
結局、出発のギリギリまで夫婦で悩んだ。
そして、決めた。
「やっぱり本校にしよう!きっとなんとかなるさ、だってマイペンライだもの!」
「微笑みの国」、そして「マイペンライ」の国なんだもの。
一生懸命頑張れば、きっと言葉の壁なんてなんとかなる。
マッサージに必要なのは言葉じゃなく技術とハートだ!!
など無謀な決意とともに、本校での受講を決め出発したのが今回の経緯だった。
しかし、タイ語も英語も自信のない私たちはせめてワット・ポーに近い場所にホテルを取って、迷わず学校に通えるようにしたいという希望を旅行会社に伝えてあり、その旨、了解しましたとの返事をもらっていたにも関わらず、出発1週間前に届いた詳細を見ると、ワット・ポーの最寄り駅であるファランポーン駅の目の前のホテルを希望していたにも関わらず、決められたホテルはそこからはるか遠いペチャブリという駅の近く。
ぺチャブリって、どこ?駅名やホテルを調べて夫婦は愕然。
「ち、地下鉄(MTR)じゃないか…電車、乗り方わかるかな……」
英語の出来ない夫婦、不安倍増。
旅行会社と交渉するも「ホテル指定ができないのが安い理由だし規約にあるので変更は無理」の一点張り。
結局、旅行会社との交渉は諦め、現地について様子をみてから最悪の場合は旅行会社の手配したホテルをキャンセルし、自分たちで最初にあたりをつけていたバンコクセンターホテルに移ろうと話し合って強行することに。
最初の予定であれば、ファランポーン駅の目の前にあるホテルに宿泊し、そこから毎日タクシーでスクールまで通うつもりだったけれど、それができない以上、なんとかMTRを利用するか、最悪ホテルをチェンジするしかない。
夫婦の気持ちはしょっぱなからかなりブルーだった。 -
けれども、そこはやはりマイペンライの国!
ポジティブシンキングの嫁は「とりあえず指定されたホテルにチェックインしたら、そこからMTRに乗ってワットポーまで行ってみよう!」と提案。
夜に行ってもワット・ポーにもスクールにも入れないのに、と言うと「それでも翌朝、入校申し込みの日にいきなり迷って遅刻するよりは、事前に下調べしたほうが気持ちも楽でしょう」とのこと。
知らない国だし、詐欺も多いし、夜は危険ではないかとも思ったが、下調べをしておくのはいいアイデアだとも思い、嫁の提案どおり、英語のできない夫婦はなんとかカタコトの英語でチェックインをすませると、カタコトの英語で駅の場所を聞き、MTRで初めて「トークン」を購入し、使用してみることに。
乗ってみると、日本のMTRとなんら変わりない。
駅もファランポーンは終点のため迷うこともなく、第一段階は難なくクリアできた。 -
駅を出ると目の前が当初希望していたバンコクセンターホテルで、それを見ると再び気分はブルーに。
「最初からここであれば、MTRの分、楽ができたし近くてよかったのに」
そう思いつつも、とりあえずタクシーを捕まえてワット・ポーに行かなければならないためタクシーを捜すことに。
すると、ホテルの前にカタコトの日本語で「タクシーあるよー!どうぞー!」と呼び込みをしている男性が。
ホテルのまん前だし、ホテル専属のタクシーかな?と思い話を聞くが、メーターは使わず交渉した値段でしか行かないと言い張る。
事前の情報ではタイのタクシーにはメーターのあるものとないものがあり、メーターのあるタクシーでもメーターを使わず交渉してくるぼったくりタクシーも多いとあったので、嫁はさっさとその男性との交渉を切り上げ、通りに出て自分で拾うと言い出した。
しかしタイの運転手は英語ができない人も多いと書いてあったが、大丈夫だろうか。
今回はタクシーでただワット・ポーに行くだけではなく、ワット・ポーのマッサージスクールの場所までいき、降りずにそのままUターンしてこのファランポーンまで戻ってくるというのが夫婦のミッションだった。
それを英語のできない運転手に上手く伝えることができるのだろうか。 -
不安になりながらも、通りに出てタクシーを止める。
日本は手を上に挙げて合図するが、タイでは下に下げて軽く振ることでタクシーに乗りたいという意思を示すらしい。
タイへ行こう!と決めたのも、実際に来たのも急だったため、かなり知識が付け焼刃で心配だったが、そのやり方でタクシーは止まってくれた。
日本とは違い、乗車拒否ができるタイのタクシーの場合、最初に行きたい場所を相談し、OKであれば後ろに乗り込むことができるという情報を元に、前のドアを開け「ワット・ポーに行ってUターンして戻って来たい」という旨を伝える。
1台目はあっさり拒否、するとすぐに2台目のタクシーが並んでいて前のタクシーが去ったあとに滑り込んできた。
同じように話すと、今度の運転手は「200バーツ」と料金を提示してきた。
事前に調べた感じだと100バーツもあれば充分な距離のはずなのと、そのタクシーにはメーターがついていたため、嫁が「メーターを使用してほしい」と伝えるが運転手は「ノーミーター!」の一点張りだ。
嫁よりも英語のできない私にも、その内容はなんとか理解できた。
嫁は「じゃぁいい」とあっさりと引き下がる。
やはり不安が募る。
こんなことでは明日からのスクールもタクシーで通うなんて無理なんじゃないだろうか。たとえ可能だとしても、サイトにあったとおりぼったくられるの覚悟で乗るしかないんだろうか。
ちらりと、ホテル前の男性を見る。相変わらずカタコトの日本語で客引きをしていた。
もうそっちのほうが楽かもしれない。
明日からはともかく、とりあえず今日は飛行機でかなり疲れているし、明日のために早くホテルに戻って身体を休めたい。
そんな思いがちらりと胸をよぎった瞬間、嫁が笑顔で振り返った。
「OKだって!!」 -
見るとすでに3台目のタクシーが停車しており、老齢の運転手が頷いていた。
とりあえず慌てて後ろに乗り込む。
嫁がスクールの地図を出し、カタコトの英語で一生懸命に「ワットポーの近くにある、マッサージスクールまで行って、そのままここまで戻ってきたい」という旨を伝えているが、やはり英語のできない夫婦の英語は、母国語が英語ではない国の人には上手く伝わらない
。
仕方ないので諦めて「ワットポーまで行って、それからここに戻ってきてほしい」と伝えるとそれは伝わった様子だった。
走り始めたタクシーから見る景色。
初めての国。
初めてのタイ。
きらびやかな建物がいくつかあり、中華街のような場所を抜ける。
ここは一体どこなんだろう。
この運転手は、信頼に値できる人間なんだろうか。
このままひとけのない場所に連れて行かれて脅されたりしたらどうしよう。 -
そんな不安を抱きつつタクシーに揺られること約15分。
「ここがワットポーだ」
という運転手の言葉に顔を上げると、想像以上に広大な敷地が目の前にあった。
どこまでも続く白い壁。
一体どこが入り口なのか。
そしてどこまで続いているのか。
嫁は一生懸命にスクールの地図を見、ワットポーとの位置関係を調べていた。
運転手はそのままスッとタクシーを止める。
「あれ、ワットポーまで行ったらUターンしてほしいと伝えたのに伝わっていなかったのかな?それとも、もしかしたらやはり詐欺か…?」
観光地とはいえすでに閉園している寺院の周りにはひとけもない。
電気も少なく薄暗い通りだ。
すると運転手が嫁から借りた地図を手に車から降りた。
見るとガードマンのような男性がそこにはいた。
軍服のような格好をしているその男性に、運転手は地図をみせながらなにやらタイ語で聞いているようだった。
「場所を聞いてくれてるんだ!」
タイ語のわからない夫婦でも、雰囲気でそれは察することができた。
残念ながらそのガードマンらしき人物もスクールの場所まではわからないようだったが、地図をみながら今いる場所がここだと印をつけてくれた。
印の場所まで来れば、あとは歩いてスクールをみつけることができそうな距離だ。
私たちは感謝して、その彼にお礼の気持ちでチップを渡そうとした。
最初はかたくなに拒んだ男性だったが、嫁が「本当に助かった、心からの感謝の気持ちです」とカタコトの英語で伝え、覚えたての「コップンカァ」と両手をあわせると、強面の顔をにっこりと笑顔で崩し、ようやくそれを受け取ってくれた。
その後、運転手は予定通りUターンしてファランポーン駅の前まで戻ってくれた。
私たちはわざわざ人に聞いてまで教えてくれた彼に感謝し、チップも少し多めの金額を渡してタクシーをあとにした。 -
「やっぱりなんとかなりそうだね。ホテルは変えずに、明日頑張ってみようか」
嫁の言葉に頷きつつ、MTRに乗る。
今度は終点というわけにはいかないので、降りる駅をきちんと聞き分けなければいけない。
緊張して駅の数を数え、目的の駅で下車。
私たちのホテルがあるペチャブリ駅周辺は学校や会社が多いのか、レストランやファーストフード店などがほとんどみつからない。
仕方なく、ホテルの下のコンビニで夕食を購入しホテルの部屋に戻った。
じっとりとしたタイの熱気で染み出した汗と、不安で吹き出した冷や汗。
両方をシャワーで流すとさっぱりした気分になり、ようやく元気が出てきた。
「なんとかなる、かな?」
「うん、きっと大丈夫だよ。マイペンライだもの!」
良く言えばポジティブ、一歩間違えると能天気で無謀な嫁。
しかし、こういう時には意外と頼りになる。
きっと嫁の言うとおり、なんとかなるだろう。
いや、なんとかならなくても嫁ならばなんとかしてくれるだろう。
初のタイ訪問で、初日からなかなかハードなミッションをクリアしたと思う。
明日からも上手く行けばいい。
そう思いながら1日目は疲れとともに泥のように眠り込んだ。 -
タイ滞在2日目。
今日は朝からワット・ポーのマッサージスクールに入学申し込みに行かなければならない。
今日手続きができなければ、1日あるはずの余裕もなくなり、一発合格を余儀なくされてしまう。なんとしても今日から入学したい。
そのために、ホテルの朝食もパスして早めの時間のMTRに乗る。
そして昨夜降りたファランポーン駅で下車し、地上に出る。
相変わらずカタコトで「タクシーあるよ」の男性が誘いをかけるが、今回はサクッと無視して通りの先まで歩いていく。
片側四車線もあるタイの道路。
車もバスもトゥクトゥクもバイクも、かなり高度な運転技術を持って縫うように走っていく。
そんな中、タクシーを止めるのもなかなか一苦労だ。
現地の人でさえ、乗車拒否されたりしているのをみると「昨日はたまたまラッキーな運転手に当たっただけで、今日は止められないのではないか」という不安がよぎる。 -
やはり1台目、2台目とメーターを交渉すると断られてしまった。
昨夜とは違い、今日はどうしても入学手続きをするために8時半にはスクールに到着して手続きをしなければならない。
けれど、車の多さは昨夜の比ではないし、スクールの場所さえまだわからないままだ。
ぐずぐずしていたら間に合わなくなってしまう。
夫婦を焦りという魔物が襲う。
魔物は「もう言い値で行っちゃってもいいじゃん、一回くらいなら。どうせそう高い金額じゃないんだし」と告げてくる。
確かに、日本でタクシーを使用することを基準に考えると驚くほど安い。
下手すると同じ距離を走るのでもMTRより安い場合もあるほどだ。
どうしようか…「タクシーあるよ」の男性に頼むべきか。
迷い始めたその時、止まったタクシーがすんなりOKしてくれた。
大喜びで乗り込む夫婦。
「ワットポーまで」と言いつつ、昨夜の地図を見せる。
しかしその場所がわからないと若い彼は首をかしげてカタコトの英語で言った。
「僕は英語が読めない」 -
そうか!!
ようやく、夫婦は根本的なミスを犯していたことに気づいた。
地図は、英語で書いてあったのだ。
でもタイでは当然、母国語はタイ語。
英語は話せても読めないということも多々あるかもしれない。
しまった!タイ語の地図にするべきだった!!
私たちは衝撃の事実に愕然としたが、ショックを受けている暇はない。
とりあえずワットポーまで行ってもらい、近くにいったら昨夜の場所まで口頭で誘導することにしてなんとか昨夜、ガードマンらしき男性のいた場所まで到着した。
タクシーを降り、印をつけてもらった場所がここだから…と地図を読む。
と同時に、日本で読んで来たブログにあった「目印」を探した。
セブンイレブンとコダック。
その間にある細い路地の先に、スクールの受付があるらしい…。
なんとかセブンイレブンは見つけたが、細い路地が多すぎてどれが当たりだかわからない。
とりあえず1本の路地を入ると、嫁が急に駆け出し先にいた男性に話しかけていた。
なんとスクールの場所を教えてもらうことができたのだ。
あとで聞くと、嫁はその人を含め何名かが同じTシャツを着て建物に入っていくのをみかけたそうだ。
きっとスタッフなど、関係者に違いないと思って話しかけたらビンゴだったという。
やはり嫁の能天気で無鉄砲なところは、時には役にたつこともあるようだ。
(なんて書くとあとでしこたま怒られそうだが…)
ようやくスクールの事務所にたどり着き、入学したい旨を伝えて願書のようなものを受け取り、それに記入していく。
英語のできない夫婦は、英語で記載してある書類の意味がわからず時々スタッフの人にカタコトの英語とボディランゲージを駆使して意味を聞き、ようやくそれを書き終え、お金を払って晴れて、当日からの入学が認められた。 -
スクールのバッグやテキストなど一式をもらい、2Fの部屋に案内されてそこでDVDを見ながら待つ事に。
そこにはもう一人男性がいて、彼も日本人だった。
彼が本校を選んだ理由は、スクムビット校は日本人がほとんどらしく、彼はせっかくなら色んな国の人と交流をしながら勉強したいと思ったと話してくれた。
どうやら彼はタイが好きで何度も訪れており、タイ語も少しできるようだった。
「ラッキー!」と思ったのは、私だけではなかっただろう。
隣にいる嫁も、あからさまにホッとした顔をして色々と話を聞いていた。
やがて講師らしき人が来ると、日本語で挨拶をし、お祈りをしたあとに簡単にスクールの説明をしてくれた。
まさか受講するのは私たち3人だけ?と思っていると、説明のあと隣の部屋に誘導され、そこにいくと7人の女性がいた。
どうやらタイの国籍を持つ人達のようだった。
最初の説明だけ、日本人は日本語で受けられてその後の受講は他の国の人達と一緒になるようで、早速、その場で簡単なマッサージの説明が始まった。 -
「タ、タイ語だね……」
「う、うん……」
講師はタイ語を話す人で、時折簡単な英語も混じるが、説明のほとんどがタイ語だった。
でもありがたいことに、事前情報にはなかった「日本語のテキスト」があったのと、英語のできるタイ人女性、少しだけ日本語のできるタイ人女性がいたこと、タイ語が少し解る日本人男性がいたことで、クラスメイトにフォローされながらなんとかついていくことができた。
そう、私たちにはクラスメイトができたのだ。
これから5日間、一緒に頑張っていく仲間。
職場の人間関係とは違う、みんな同じ「生徒」という立場で学んでいくクラスメイトという存在はとても懐かしく、暖かく感じられた。 -
「やっぱなんとかなりそうじゃん?」
ランチの時、嫁がにんまりと笑って言った。
ランチはスクールの食堂で食べた。
スクールの屋上にあり、吹き抜けのテラスのようになっている。
すぐそばにはチャオプラヤ川が流れ、川の向こうにはワット・アルンが見える。
風が吹きぬけ、暑い国なのにとてもすがすがしい。
食事は学食価格なのかとても安く、ワンディッシュから選べる。
とても手ごろだしタイ料理も堪能できるので私たちはスクールに通っている間、毎日この学食を利用していたが、辛いものが苦手な嫁は毎回「Is this dish spicy?」と聞いて、辛くないといわれたものをチョイスしていた。
しかしタイの人には辛くなくても嫁には辛いものだったことも多く、3回に2回は「辛い〜!無理〜!」と言って料理を前に白旗をあげていた。
タイの料理は辛い、が、とても美味い。
熱い国ならではの工夫がされているように思う。
私はかなりタイ料理は気に入って毎日、それなりに美味しくいただいていた。 -
午後から再びマッサージの講習がはじまり、二人一組になってマッサージの練習を行う。
マッサージの講習は5段階あり、1を初日に2と3段階を2日目。4と5段階を3日目にやって4日目は1から5までの段階を通してやり、5日目に卒業試験という流れだ。
しかし1日目にして、私たちはブログにあった「必死に復習しなければ一発合格は無理」「落とされる人もいる」という言葉を痛感することになる。
とにかく覚えることが多い。
単に手順を覚えるだけでも多くて大変なのに、さらにその時の体勢や押し方、指の形まで様々に変わっていく。
その全てには当然、きちんとした根拠と理由があり、それを覚えれば納得はするのだが、やはり覚えることが多すぎる。
初日の授業が終わった後は、体力的にも精神的にもかなり消耗してしまっていた。
「マイペンライ」の嫁の顔からも笑顔がなくなっている。
これはまずい……なんとかテンションをあげていかなければ。 -
そこでホテルに戻る前にある提案をした。
実は私たちの荷物はとても少なく、手荷物で機内に持ち込めるサイズをそれぞれ持ってきただけだ。
捨てて帰るつもりの使い倒した下着やシャツを数枚、多少の洗面具のみといっても過言ではないくらいで、現地で調達できるものは安く現地で調達しようというのがいつもの旅行のコンセプトでもあるので、今回もそのつもりだった。
それでランチの時に、何度もタイを訪れているクラスメイトの男性に聞いたショッピングセンターに寄って買い物をして、何か美味いものでも食べてホテルに帰ろうと話したのだ。
嫁は大賛成で、早速、ワット・ポー周辺にたくさんいるタクシーに声をかけてまわった。
しかしどのタクシーもメーターは使わないと言い張る。
何台目かのタクシーにくいさがって理由を聞いたところ、どうやらワット・ポーのような有名な観光地には縄張り、ではないけれど暗黙のルールのようなものがありどのタクシーもだいたい同じような言い値をつけるようになっているようだった。
観光客狙いのトゥクトゥクからもしつこく声をかけられる。
そのショッピングセンター「マーブンクローン」までタクシーなら250バーツ、トゥクトゥクなら150バーツというのがその辺りの相場のようだった。
「少しワット・ポーから離れよう」と歩きだしたが、やはり大通りにでてもメーターを使用するというタクシーはいなかった。 -
が、メーターは使えないが200バーツでならOKというタクシーが捕まり、私はもう仕方がないかなと思った。
普通のタクシーを拾うためには観光地から離れなければならない。
けれどもこのあたりはどこまでいっても観光地のような感じなので、どこまで歩けばいいのか見当も付かない。
ただでさえ初日の気疲れと体力をつかったことで疲れているのに、これ以上メータータクシーを求めて彷徨うのは無駄だと思われた。
なのでそのタクシーで手を打とうかと嫁に言われたとき、頷いていた。
すると驚くことに嫁はさらにそのタクシーと交渉し、150バーツまで値下げさせてしまったのだった。
元々、日本でも交渉ごとはわりと上手な嫁であった。
家電などを買う場合も、引越しのときも、大きな金額が動くときは嫁の交渉術がかなり役にたった。
その能力を、まさか初めて訪れた、しかも言葉もろくに伝わらない国でやってみせるとは!恐るべし、嫁!!
タクシーに乗り込み、マーブンクローンまで連れて行ってもらう。
かなり距離があり、また渋滞していたこともあり、もしかしたらメーターのほうが高くついたかもしれないと思えたので、嫁も了承の上でチップを多めに渡してタクシーを降りた。 -
マーブンクローンは巨大なショッピングセンターだった。
衣類、履物、携帯電話やデジカメなどありとあらゆるものがあり、シネコンもあるとにかく大きなショッピングセンター。
そこで私は当面の下着やシャツを購入。
嫁もTシャツを何枚かと安いサンダルを購入して、ようやく夕食を食べることに。
いくつかのレストランがあり、何を食べようかみてまわったが妙に「SUMO(すもう)」という名前のレストランが気になり、結局そこにした。
日本食レストランかと思ったが、和食のほかにもイタリアンや普通のステーキなどもあり、かなりバリエーションに富んでいたからだ。 -
そこで腹を満たしつつ、帰りの経路を考えた。
タクシーを使うことを第一に考えたが、ちょうどラッシュの時間帯であることもあり、夫婦ともに「タクシーは避けたい」という方向だ。
だとすれば電車を利用するしかない。
マーブンクローンの最寄駅は私たちの利用したことがないBTSで、ホテルの最寄り駅に行くためには途中でMTRに乗り換えなければならない。できるのか?表示が読めるのか?
不安はあった。
しかし路線図はわりと簡素で、東京都内の路線図を見慣れている私たちにしてみれば「なんとかなるかも」という感じで、チャレンジしてみることにした。
最寄り駅からひとつ先の「サイアム(Siam)」という駅であれば、乗り換え一回だけでホテルの駅までたどり着けることがわかり、少しだけ夜の街を歩く。
繁華街でもある賑やかなこの辺りの地域を歩いていると、日本の東京あたりとあまり変わらない気がした。
けれども、BTSで「アソーク(Asok)」まで行き、同じ構内でMTRのスクンビット駅でスクンビット線に乗り換えてペッチャブリで下車。
ペッチャブリで降りるともうそこは市街地からは少し離れた郊外の雰囲気で、街頭も少なく薄暗い、そして地面にはあちこち地割れのあとや隆起のあとがあり、洪水でここも被害にあったんだなとまざまざと思い起こされる。
たしか王宮のほうまで冠水していたはずだ。
よくよく見ると確かに市街地にもまだその爪あとを見ることがあるが、けれども、もし洪水があったことを知らなければ、普通に綺麗な街としてみていただろうほどにバンコクは復興していて、美しい街並みと活気を取り戻していた。
タイの人は強くたくましい。
微笑みの国で微笑みながら「マイペンライ」と口ずさんで頑張っているのだろう。
日本も津波で大きな被害を負ったことを思い出さずにはいられなかった。
しかしのんびり感傷に浸っている時間はない。
ホテルに戻り、シャワーを浴びると時計と眠い目をこすりながら今日の復習をした。
お互いにモデルになりながらマッサージをしあう。
本来ならばマッサージを受け、うっとりしつつうつらうつらするのが幸せなのだが、今はそうはいかない。
相手のマッサージを受けつつ、自分も手順を確認する。そして次に自分がやるときに、相手は手順をきちんと確認し、間違っていれば指摘をしなければならない。
優雅で心地よいタイマッサージとはかけはなれた、修行のような時間だった。
さらに明日の心配もしなければならない。
明日の朝はタクシーがつかまるだろうか。
そして帰りのタクシーはどうしたらいいだろうか。
そのひとつを解決したのは嫁だった。
「そういえば本校からファランポーンまでのバスがあるはず!」
事前にネットで拾った情報なので確実かどうかわからないし、金額も不明だけれどというがとりあえず探してみる価値はある。
朝にチャレンジして失敗するわけにはいかないので、翌日の帰りにバスにチャレンジすることにしてその日は第一段階の復習を終え、ようやく眠りに入った。 -
スクール2日目はだいぶ余裕が出てきて、BTMからタクシーを捕まえるところまではかなりスムーズに行った。
しかしタクシーが下してくれた場所が今まで下りたところと違う場所だったので、私たちはプチ迷子になってしまった。
とりあえずこの白い壁は間違いなくワット・ポーだから、この壁にそってどちらかに歩いていけば、いつもの場所に出るはずだ、と地図を見ながら話しているとトゥクトゥクの男性が話しかけてきた。
トゥクトゥクは詐欺が多い、特にワット・ポー近辺でトゥクトゥク詐欺が横行しているので注意するようにと事前の情報で得ていたので「No Thankyou」と無視することにして地図をみていたら、トゥクトゥクから離れて男性が近づいてきた。
なんだ、強引に客引きをするつもりか、と身構えたがそうではなく……その男性は私たちが下げているワット・ポーマッサージスクールのカバンを見て、スクールはあっちだとわざわざ教えに来てくれたのだった。
なんて親切なんだ!!
嫁もかなり感激していた。
詐欺にあわないよう、ぼったくられないようにと心を固くしていたが、初日のタクシーしかり、今回のトゥクトゥクの男性しかりで、観光客をカモろうという悪い人間ばかりではないのだなということがしみじみと実感できた。
その男性のおかげで、私たちは無駄なくスクールに最短距離でたどり着くことができた。 -
2日目の講習もスピードは早く、覚えるので精一杯だった。
クラスメイトの日本人男性から「カオサンあたりで飲まないか?」と誘われたが、私たち二人ともが「それどころじゃない」と断ってしまった。
彼はのんびりした滞在日程なのであまり一発合格にこだわりはなさそうだが、私たちはそうはいかない。一日しか余裕がないのだ。
しかも私にはちょっとした願望があって、できれば一発合格して翌日の1日はどうしてもいってみたいところがあった。
2日目の講習を終え、初日に提出できなかった写真(ライセンスに添付するため、印画紙でないとダメで、日本から持参した写真は使えなかったため)を近くのコダックで撮影してから、バス停を探した。
嫁情報によると1番と23番と52番がファランポーンの駅にいくらしい。
バス停を探しながら歩き、ようやくターティアン(船着場)の近くにその番号のバス停を見つけた。 -
バスは日本のバスとは違い、かなり荒い運転だった。
急発進、急加速の中でお金を払い、ポールにしがみつくようにして立つ。席があいたらさっさと座らないと本当に危険なくらい、荒い。
さらにきちんと停留所に止まるとは限らず、渋滞具合によっては停留所から離れて止まったり、スピードダウンするだけで完全停止しないことも多い。
下手すると4車線の真ん中車線で下され、車の間をぬって歩道に上がらなければいけないこともある。
ちなみに私たちが知る限り、タイの横断歩道には歩行者用の信号機がなかった。
車用の信号を見ながら、横断歩道を渡る。
しかし必ず反対車線の信号と比例しているわけじゃないので横断歩道の真ん中、車道の真ん中で取り残されてしまうこともある。
私たちは「みんなで渡れば怖くない」理論で、ある程度の人数が集まってから現地の人がわたるタイミングにあわせて渡っていた。
そんなバスの中でふとわいた疑問……「降りる時はどうするんだろう?」。
日本のバスのようにブザーがあるわけではなかった。
止まったとき、バスの中で料金を徴収している人がバス停の名前らしきものをいう時もあったが、言わないときもあった。
ちゃんと聞き取れるだろうか。
しかしその不安はすぐに払拭される。
見慣れたチャイナタウンを抜けてしばらく走った後、料金を徴収した女性乗務員が「ファランポーン!」と言いながらドアを指してくれたのだ。
なるほど。料金を払うとき「どこまで」と言っておけば教えてくれるようだ。
ホッとしてバスから降りる。 -
バス停は駅から少し離れた路地にあったため駅まで少し迷ったが、無事に見慣れた駅に到着し、そこで見つけたカフェに魅かれて休憩がてら入ってみることに。
タイでは珍しくシアトル系カフェのようなカフェメニューが多く、久々にスタバな気分を味わいつつアイスキャラメルラテなどを飲みつつ、早めの夕食を取った。
なかなか美味しかったし、ソファの席でのんびりすることができるカフェでホッと一息、息抜きをすることができた。
なんでも上手くいっているとはいえ、やはりずっと緊張を強いられているようで疲れがたまってきていた。
ホテルでもカタコトの英語、タクシーでもカタコトの英語で交渉、ショップでは英語すら通じないこともあったりする。
同時に、タイ語とカタコトの英語、わずかな日本語で進む授業についていかなければならないことと、どうしても一発で合格したいという焦りに似た気持ちが、疲労に拍車をかけていた。
その日は、復習は軽くおさえるだけにして早めに休むことにした。 -
スクール3日目、この日は休日で渋滞もないためちょっと贅沢をしてMTBではなくホテルからタクシーでスクールまで行ってみようということになった。
タイの渋滞は本当にハンパなく、そんな時にメータータクシーに乗るといくらかかるか想像も付かないのだが、基本的にタクシーの金額が安いため休日で空いている時間だと、下手をするとBTMを使っていくよりも安上がりになる場合がありそうだと思ったためだ。
時間が読めないのが少し不安要素だったが、いつもより少し早めにモーニングを食べてタクシーを捕まえいつものように「ワット・ポーまで」「メーターを使ってください」を伝えて乗り込んだ。
思ったとおり、道路はかなり空いていてクーラーの効いた車内はかなり快適だ。
いつもはBTMで見られない市内の景色も色々見ることができ、現在王宮や以前の王宮で今は博物館になっている建物など写真を撮りながらプチ観光気分で楽しめた。
スクールのそばまでつけてもらって、105バーツ。
いつもBTM+タクシーを利用して通ってくる金額とほぼ同額だ。
暑い朝からのんびりと涼しいタクシーで通学できるとはかなりリッチで優雅な気分だ。朝から蒸し暑い中を歩くとやる気もそがれてしまうが、これならば朝から快適で勉強も頑張ろうという気分になる。
ただしこれも今日と明日だけ。
平日になると朝のラッシュはハンパなく、金額も時間も想定できないほどになるだろう。
つかの間のセレブ気分を味わい、私たちは3日目の講習に望んだ。 -
スクール3日目を終了し、とりあえず夫婦の選択したベーシックコースの全ての手順を習ったことになる。
明日は1から5までの手順を通しで何度か繰り返し、徹底的に手順とその時の体勢、指や手の使い方を覚える。そしていよいよ明後日は終了認定試験だ。
嫁はすでにカタコトの英語でクラスメイトの女性たちと打ち解け、昼休みなども色々な話をしたりして打ち解けている。 -
私は喫煙者で、もう一人の日本人男性も喫煙者のためいつも休み時間は二人で屋上にタバコを吸いに行っていた。
彼はタイがとても好きだという。
食事も、文化も、雰囲気も、全てが好きだそうだ。
私は最初にその話を聞いたときはあまり共感はできなかった。
というのも、やはり日本人は詐欺にあいやすいという情報や、カタコトしか英語が話せないのに対し、相手もほとんど英語を解さないためコミュニケーションが取りにくい、そして何より暑いというのがネックだったからだ。
しかしスクール3日目を終え、実質タイ滞在4日目が終わる頃には「そんなに嫌ではないな」と思うようになっていた。
コミュニケーションのほうは相変わらずなので嫁任せな部分が多いが、それでもこちらが話そうという意思をみせれば、相手もなんとか理解しようと努力してくれることが多かったし、詐欺にあうというがそれも自分の心構えをしっかりしておけば大丈夫だろうと思えてきた。何より暑いのは苦手だが、それでも心地よい風は吹くし、料理も暑い国ならではの辛さが好みだった。
ホテルでも、トイレットペーパーがなかったりティッシュペーパーが切れていたりとトラブルがあったり、ランドリーの出し方がわからなかったり(ジーンズとフェイスタオルを洗いたかったが、ランドリー表にはジーンズやフェイスタオルの項目がなかった)で、何度もフロントに相談をした。
フロントには英語ができる男性が一人いて、私たちのカタコトの英語を一生懸命理解しようとしてくれ、トラブルや困ったことに真剣に対応してくれた。 -
夜、ほとんどの銀行が閉まっている中で「どうしても両替に行かなければならない」というトラブルが発生したときも、夜でも両替ができるところを教えてくれ、さらにタクシーを止めて運転手に説明をしてくれた。帰りのためにとホテルカードを持たせてくれて見送ってくれたおかげで無事に両替を済ませ、戻ることができた。
その両替の際も、タクシーの運転手が近くまではわかったが店はわからないと言った。煩雑な繁華街の中で下されても困るので夫婦はどうしようかと不安になったが、運転手が屋台の女性に聞いてくれて、屋台の女性は指を差しながら教えてくれた。
タクシーに料金を払い、降りてから女性の指差す方向をみたがいかんせん彼女はタイ語しか解さないようで、私たちにはうまく通じなかった。
それをみて彼女は店を他の人間に任せると、ついておいでとジェスチャーで示し、露天が立ち並ぶ複雑な小道を案内してくれた。
こんなところで詐欺にあうのでは…ぼったくられるのでは…。
かなり不安になりながらも夜の繁華街の細い路地を付いていくと、外国人たちが並んでいる人気のある両替所がそこにあった。
レートはかなりよく、私たちはとても驚いた。
彼女にお礼をとチップを差し出すと、彼女はとんでもないといって絶対に受け取らずニコニコと手を振って行ってしまった。
おかげで夫婦は無事に両替をすることができ(しかもかなりよいレートで)、もらったホテルカードのおかげで無事にホテルに戻ることができた。
実際にタイへ来る前は「詐欺が多い」「英語は全くといっていいほど通じない」「タクシーではぼられる」等、ネガティブなイメージしかなかったタイだったが、この頃には能天気嫁が口にする「マイペンライ」な気分が少し理解できた気がしていた。 -
4日目、もうすっかり馴れたルートでスクールに向かい、最後の練習に励む。
手順は一応覚えたはずだが、やはりところどころ抜けてしまったりして何度か注意され、焦りの気持ちが広がった。
明日、合格できなかったらどうしよう。
再テストでも合格できなければ??
嫁もさすがにブルーな気分のようだった。
食欲もあまりないようで、両替がてらファランポーンの駅にあるKFCで軽く夕食を済ませ、早めにホテルに戻って勉強することにしたのだが…ここでも衝撃を受けることに。
「い、いつも頼んでるバーガーなのに、辛い……!」
さすがタイ!世界的チェーン店であるにも関わらずオリジナルの味付けとは…!
面白いなとは思ったが、味は写真に撮ることも出来ず心の中にメモだけ残した。
ホテルに戻り、最終確認を何度か行う。
テストの内容は簡単にしか説明されていなかった。
すなわち、決められた時間内に決められた手順できちんと施術を終わらせること。口頭での何問かの質問に答えること。このふたつだけだ。
手順への不安もさることながら、口頭での試験というのがとても不安だった。
タイ語オンリーということはさすがにないだろうが、英語での質問だったらどうしよう。最悪の場合、質問された内容すらわからないという事態にもなりかねない。
嫁は手順が覚えられないと頭を抱えていたし、私は質問が英語だったらどうしようとそのことに頭を悩ませながらの一夜となった。 -
5日目、いよいよテスト当日。
とはいえ、特に朝から変わった様子もなく、毎朝講習が始まる前にやるお祈りをやり、講習がはじまった。テストは午後からと伝えられ、それまでの時間は最終チェックに費やすようだった。
私たち夫婦は別々のクラスメイトとペアを組み、それぞれ練習をした。
その日は日本のテレビ局が取材に来ていて、何となく落ち着かない雰囲気が一部あったが、それも一瞬で、すぐに集中し、ひとつひとつの手順を思い出していく。
ランチタイムの時も、いまひとつ気持ちが晴れない。
いつもならチャオプラヤ川の流れを見、ワット・アルンを眺めてはすがすがしい気持ちになれるのに、どうにも気持ちが焦りと不安でいっぱいになっているようだった。
食後のタバコを吸って講習を受けた部屋に戻ると、嫁がクラスメイトの女性達とワイワイと楽しそうに話をしていた。
どうやらここまできたらやるしかないと腹をくくったようだ。
さすが能天気嫁。「マイペンライ」の気質をすでに身につけてしまったようだ。
カタコトの英語と、少しだけ覚えたタイ語、日本語のミックスで、通じているのだか通じていないのだかわからない会話だったがそれでも楽しそうに笑う彼女達をみていると思わず「青春」という言葉が浮かんでくるようで笑えてしまった。
やがて講師が来て、数名の名を呼んだ。
呼ばれたのは私たち夫婦と、もう一人の日本人男性、そしてアユタヤから来たという女性の4名だった。
「テストだから別の部屋へ」
そう言われた。
他のクラスメイトは?と見ると、みんなが頑張れと応援して手を振ってくれていた。
あとで嫁に話を聞いたところ、どうやらタイ国籍の人は実技講習だけでなく座学講習もあって、同じベーシックコースでもさらに5日間追加されるということだった。
つまり同じクラスメイトでも国籍によって、外国籍の人間は実技だけでOKという特典がついているようだ(アユタヤの女性は外国籍だった)。
別室には私たち4人のほかに、さらに4人の男女がいた。
合計8名でのテストとなるようだった。
狭い部屋に2人の試験官がいて、名前を読み上げペアをつくり施術するマットを指定していく。
事前に嫁が「ペアになったら間違えたらこっそり教えてね」と言っていたが、その目論見は早くも崩れ去ったようだ。嫁が多少、青ざめているように見える。
頑張れ…心でエールを送るしかなかった。 -
試験は2人1ペアで行われ、1から5までの施術を60分で終えるようにと指示された。
手順を間違わないことと、時間を守ること。早すぎても遅すぎてもいけないといわれる。
私は練習の時からペースが遅すぎるといわれていたので少し焦った。
私と嫁は別々のペアだったが、どちらも最初は受け手のほうだったので少しだけ気持ちに余裕ができた。
相手の施術を受けながら、自分の頭の中で反芻していく。
と、突然のトラブル発生。
なんと、ものすごい音量で「おなら」の音が響き渡ったのだ。
思わず手を止めてしまう生徒たち。
私も何事かと思い、そちらを見る。
真ん中のマットで施術していたカップルの、受け手をやっていた男性がぶっ放したようだった(実は彼は午前中の練習中にも盛大なものを2発かました前科がある)。
笑いたかったがそこは神聖な試験の真っ最中。
みんな笑いを堪えていた。しかしその肩がプルプルと揺れている人は多かった。
そうしていると60分という時間は長いようであっという間だった。
施術が終わると施術者一人ひとりが呼ばれてタイ語や英語でいくつか質問をされていた。
どうやらこれが口頭の試験のようだ。
内容を聞こうと思ったが、あまり聞こえなかった。 -
その後、すぐに交代のコールがかかる。
私は最初のポジションについた。
ちらりと2つ隣の嫁をみると、嫁もキリッとした表情でポジションについていた。
「スタート」の声と共に最初の手順からゆっくり確実に押さえていく。
マッサージで押す場所はもちろん、その力のかけ方、押す場所によって自分の身体を浮かすか、座って押すのか、指の方向や手のむきなど細かい指示があったのをひとつひとつ思い出しながらゆっくり、焦らずにやっていこうと思う。
試験官の厳しい視線を受けながら、それでも確実にひとつひとつを思い出しながらやっていると、ふと隣でワタワタとしたあわただしい気配を感じた。
カンニングと思われては嫌なので極力、他を見ないようにしていたがどうにも騒々しいし、周りの生徒もクスクスと小さな笑いを漏らしていたのでチラリと隣のを確認してみた。
そこでは、本来であれば足を絡めて相手の太ももを押すストレッチをする場面で、彼は四苦八苦し、ジタバタと暴れながらなんと相手の女性に四の字固めをきめていたのだ!
「ぶっ!」
思わず私の口からも笑いが漏れる。
見かねた試験官が彼の元へ行き、足を修正する。
本来なら口を出してはいけないのだろうが、このままでは受け手の彼女がギブアップしてしまうだろう。
私は心を乱されないようにと平静を装いながら施術を続けたが、困ったことに真剣になればなるほど、みごとな四の字固めが思い出されて口元がムズムズしてしまった。
隣の彼はその後も手順を忘れたり、飛ばしたりしては何度か試験官に注意されていた。
施術が終わった順に試験官に呼ばれ、口頭試問を受ける。
嫁のほうが私より先だったので何気なく嫁の様子を見ていると、どうやら「施術してはいけない場合」や「禁忌事項」などを確認されているようだった。
私の順番の時、試験官から「日本語でOK」と言われてホッとする。
なんとかいくつかの質問に答えて、終了した。 -
ようやく試験が終わったあと、しばらく休憩と言い渡されホッと息をついた。
緊張から開放されて放心状態の嫁が不安そうな顔で座り込んでいる。
「ダメかも…一回、手順間違っちゃった」
嫁のポジションは一番端だったので試験官もよく立っていたし、他の人のカンニングもできない位置だったので余計に緊張してしまったとこぼしていた。
休憩の時間は好きに過ごしてよかったのだが、嫁はクラスメイトの元に戻る気力もないようで(もっとも、その間、クラスメイトたちは真剣に講習をやっていたのだが)、その部屋に残ったままでいた。
私は日本人の彼といつものようにタバコを吸いに行き、先ほどのハプニングについてようやく存分に笑いあった。 -
休憩から戻ると渋い顔で試験官が戻ってきた。
手に持っているのはライセンスのはいった紙の束のようだ。
あそこに自分のものがあれば、合格だ……。
しかし、どうも試験官の渋い表情が気にかかる。
簡単に受かるものではないと聞いた。
一クラスに必ず1人は落ちると書いてあるブログもあった。
受講者は8名、何人受かっているのだろう……。
「合格者の名前を、呼びます」
緊張の一瞬。
誰もが、その試験官に注目していた。
第一声は、日本人男性の名前だった。
おめでとう!と言いつつも、次は自分だろうかとドキドキした。
しかし呼ばれたのは違う人、四の字固めの男性のパートナーを勤めていた女性の名前だった。
日本人は日本人で呼ばれるのかと思ったので、もしかしてダメだったのか?と不安になりかけたとき、妻の名前が呼ばれた!次いで自分の名前も!!
「やったーーーー!!」
妻は大喜びで「Thankyou!」と「コップンカァ」を繰り返していた。 -
受講者8名のうち、合格者7名。
落第したのは、あの四の字固めの男性だった。
やっぱり……という感は否めなかった。
ほとんど手順を覚えていないのは明らかだったからだ。
しかし彼は落第を言い渡され、また明日来るようにといわれると試験官に「明日の朝の便で帰国するから明日はもう来られないのだ!」と泣かんばかりに食い下がっていた。
「でも合格にすることはできない。明日来れないのなら仕方ない」
試験官は最初はそう言っていたが、何度も食い下がる彼と、明日帰国しなければならないという状況にぎゅっと眉を寄せていた。
「少し待っていなさい。他の人は休憩してよし」
そういうと、試験官は私たちに渡すはずだっただろうライセンスの束とともに別室(講師たの部屋の方向)に消えていった。
「どうなるんだろうね?」
妻がいうが、どうなるもこうなるも、不合格は不合格だろう。
どういう理由があるにせよ、ギリギリの日程で来たのは試験を甘く見ていたとしか思えないし、その日程でしか取れなかったのであればもっと努力をすべきだったのではないかと思った。 -
ふとみるとクラスメイトたちもちょうど休憩時間に入っていたようだった。
それを見て妻は試験の小部屋から駆け出し、クラスメイト達の元に走っていった。
そして一番、よく面倒を見てくれた女性講師に飛びつき「合格した!!」と報告していた。
突然飛びつかれた講師は目を白黒させて驚いていたが状況を察し、おめでとう!と嫁を抱きしめていた。その後、他の講師やクラスメイトたちにも報告し「合格したからもう来ないのね」とクラスメイトに寂しそうに言われて涙ぐんで一緒に泣いたりしていた。
たった5日間、しかも言葉もろくに通じてない相手なのに、それだけ感情移入して仲良くなれるという嫁の才能はすごいと心底思った。
どの講師もクラスメイトもニコニコしながら心からおめでとうを伝えてくれた。
泣いてしまったクラスメイトも泣き笑いの顔で嫁とハグしていた。 -
そうこうしているうちに、再び小部屋に呼ばれ一時、クラスメイト達とは別れることに。
小部屋では「明日帰国しなければならない」と食い下がった四の字固め男性が講師をモデルに最初からやり直していたところだった。
そして彼の終了を待ってから「不本意ながら……」と彼の合格が告げられた。
「本来ならありえないこと」「この合格はあくまでも形だけのもので、自分達で今後もきちんと練習を怠らずワザを磨いていくこと」「ワットポーの名に恥じないよう鍛錬をしていくこと」など前置きがあって、一人ひとりの名が呼ばれライセンスが授与された。
それはさながら卒業式のようだった。
ライセンスを受け取る時、写真を撮り、そして最後に全員で写真を撮った。
どの人も満足そうな笑顔を浮かべていたが、ひときわ輝いていたのがあの四の字固め男性だったのがどうにも違和感があって今でもすっきりしない出来事として思い出に残っている。 -
ライセンスの授与が終わったとき、すでに小部屋の外の教室は片付けられほとんどの生徒がいなかった。
授業が16時までで、夕方から激しいスコールが降ることも多いのでだいたい生徒はさっさと帰ってしまう。
「最後にみんなと写真撮りたかったけど、もうみんな帰っちゃったよね」と嫁が言ったその時「おーい!」と呼ばれてみるとクラスメイト達が教室の端に固まって残っていた。
私たちを待っていてくれたのだった。
嫁は大喜びでその輪の中に飛び込んで行き、再び涙ぐみながらハグの嵐。
私ともう一人の日本人男性も苦笑しながらその輪に入り、そして写真撮影を行った。
写真を撮った後、嫁はバッグからあるものを出し、講師やクラスメイト一人ひとりに手渡していた。
それは昨夜、最後の復習をしなければならない時間を割いて二人で折った折鶴だ。
日本から折り紙を持参していた私たちは、折鶴を講師とクラスメイトの人数分折ってそれに嫁が名前とメアド、そして「Thankyou」「コップンカァ」(タイ語で)と羽のところに書いていた。
それを一人ひとりに渡し、羽の開き方を教えて「メールしてね」「元気でね」「日本に来ることがあれば連絡してね」と声を詰まらせながら言っていた。
(ちなみにこの「折り紙」は海外旅行の時、特にルームサービスへのチップなどと一緒においておくと喜ばれますので、海外へ行くときは持参するようにしています) -
本当にこれで最後なんだね。
と、みんなに別れを継げたあと嫁は、タバコを吸いに屋上へ向かう私について食堂のあるテラスで言った。
またタイに来ることもあるかもしれないし、スクールへ来ることもできる(ライセンス取得者はその後何度でもスクールへきて自主トレすることが可能)。
けれども、もう同じクラス、同じクラスメイトたちと勉強することはできないんだねととても寂しそうだった。
しかししんみりしている時間はない。
今日合格できたなら、明日行きたいところがあった。
そのために念のためツアーを予約し、日本語のガイドも手配してあったので、そのための両替に行かなければならない。かつ、お土産も買ってしまいたい。
というわけで、感傷にひたる暇もなく私たちはプラトゥーナム市場に行くことにした。
スクールに別れを告げ、とりあえず交渉タクシーしかいないワット・ポー近辺ではなく一度BTSでチットロム駅まで行き、そこからタクシーを拾って市場に行くことにした。
プラトゥーナム市場はものすごい人で「市場!」な雰囲気がモリモリだった。
しかし色々なお店を覗いているとわかってきたのが、どちらかというと小売店というより卸売り店が多く、そういう市場だということ。
Tシャツ1枚ほしくても、5枚セットだったり10枚セットだったりすることが多々あった。
また気に入ったものがあっても、あまりにお店が多いのでとりあず一回りしてからまた来ようと思っていたら、夕方の閉店が早くすでに閉まっていたりしてがっかりすることもあった。
結局、市場の中ではこれというものは見つからず、近くのショッピングセンターの中で家族への土産を探し、両替も済ませた。
毎回両替はレートを見てチェックするのだが、今回は何度か両替したがどこでもわりとよい選択をしていたと思う。
両替所はたくさんあるが店によってだいぶレートや手数料が違ったりするので、面倒でも近くの両替所をいくつかリサーチしてから決めるのがよいと思われる。
合格してホッとして気が抜けたことと、買い物でだいぶ疲れてしまったこともあり、今回はショッピングセンターの中でマクドナルドをテイクアウトして、タクシーを拾いホテルまで戻った。
部屋でマックを食べながら、明日のためのリサーチをするため嫁がPCを叩いている。
明日は、以前テレビで観て行ってみたいと思っていた「タイガーテンプル」へ行く予定になっている。
当初、スクールでライセンスを取ることしか考えてなかったため、観光する余裕などないと思っていたので予定には入れていなかった。
けれどタイで数日過ごすうちにふと思い出し、もし1日余裕ができたらそこへ行ってみたいと嫁に告げたところ、すぐにツアーを探してくれた。
しかし実際には合格できればいけるが、不合格だった場合は翌日が再テストになるため参加できなくなってしまう。
前日キャンセルでもOKなツアーで、かつ日本語のガイドが付くもの、ということになるとなかなか難しいようだ。
しかも「タイガーテンプル」はわりと有名だと思っていたが、あまりそれだけをメインにしたツアーがなく、他のいくつかの観光地と組み合わせたツアーばかりが出てくるのだ。
私は海外旅行をしても、一般的な観光地をまわるツアーなどがあまり好きではなく、自分の行きたいところに行きたいだけいたいタイプなので、他のツアー客と一緒にあちこちせわしなくまわって、必要ないみやげ物屋などで時間を取られるのが嫌いだ。
そのことを理解している嫁は、そこでまたしても交渉術を発揮し「前日キャンセルOK」「日本語ガイド付き」「タイガーテンプルのみでOK」「プライベートツアー」を探し、日本語ガイドとプライベートツアーでこの金額なら安い!と思える金額でツアーを予約してくれていた。
そしてホテルに戻ってからリコンファームをし、無事にライセンスが取れたので明日のツアーをヨロシクと伝えてくれた。
嫁がブログを見ていて、タイガーテンプルに一度遊びに行ってそのまま虜になってしまい、そこで働いている日本人女性のブログがあるよと教えてくれた。
私が以前みたテレビでも、確かそのような経緯の日本人を紹介する番組だったような気がするので、同じ人かもしれない。
そのブログで嫁は、トラとの散歩、写真を撮る、以外の特別プログラムがいくつかあることも知り、さらに詳しく調べて「トラとねこじゃらしで遊ぶ」「トラのシャンプー」「トラの赤ちゃんと遊ぶ」というプログラムをみつけ、時間などを事前にリサーチしておいてくれた。
日本ではサファリパークなどでもかなり近くで見ることは出来るが、厚いガラスの壁に阻まれているか、鉄の檻越しのバスツアーなどがメインだ。
たまに赤ちゃんと写真を撮るというのもあるが、すでに決まった場所に座り、そこにそっと赤ちゃんを置かれて「はいポーズ」ですぐに終了というものばかり。
トラの赤ちゃんと自由に遊ぶ、というプログラムなどは一度もみかけたことがなかった。
「すっごく楽しみになってきた!!」
試験というプレッシャーから開放された嫁は、疲れた顔をしながらも満面の笑みで嬉しそうに明日の準備をし、床についた。 -
タイ滞在6日の朝、ホテルのロビーで待っていると女性が一人現れた。
カタコトの日本語で話す彼女が、どうやら今回のガイドのようだ。
簡単に挨拶をして、今回行きたい場所の確認などを行う。
事前に調べたところによるとタイガーテンプルは開園している時間が非常に短い。
さらに園内はかなり広く、プログラムの時間もやりたいことを全部盛り込むと時間に全く余裕がなくなるため、きちんとリサーチしてスタッフにも聞いてもらうことなどをガイドに説明した。
ガイドは了承し、タイガーテンプルのほかに行きたい場所はないか、あればプライベートツアーなのでいける場所なら連れて行くといってくれたが、とりあえず私たち夫婦の頭には「トラの赤ちゃんと遊ぶ」ことしかなかったので、タイガーテンプルの時間をみて考えるとだけ伝えた。
さすがプライベートツアーというべきか、車はピカピカのセンチュリー。乗り心地も最高だ。
プチセレブな気分だねぇ、と嫁は嬉しそうに窓にへばりついてあちこちを眺めている。
市内を抜けるまで、ガイドは色々な建物について話をしてくれた。
日本語がとても上手で、留学経験があるのかと聞くと日本には来た事がないという。
タイにまだ日本企業がほとんど入っていなかった頃、日本語を教える大学もバンコク市内に1校しかなかった時に「これからは日本が来る!」と思い、日本語を専攻して日本語の勉強をしたそうだ。
そのため、日本企業がたくさんタイに工場を持つようになった頃には立派な日本語のガイドとして就職できたという。
「先見の明がある人だなぁ。頭が良いのだろうな」
と感心していた、このガイドに後に裏切られることになるのだが……それはもう少しあとの話。
とりあえず先にタイガーテンプルでの話に戻すことにする。 -
ホテルを出て途中でトイレ休憩を挟み約2時間半、ようやくタイガーテンプルに到着した。
12時半ごろだったが、ちょうど開園したばかりのようだった。
入園料を払うときにガイドに参加したいプログラムを再度伝え、スタッフに場所と時間を確認してもらった。
中に入るとまるで森林の中を歩いているようで、想像していた動物園のような雰囲気とは全く違う。かなり広く、丘陵があり、足場も悪い。
サンダルなどは噛まれる可能性があるからと事前に調べていたのでしっかりと靴を履いてきたが、正解だったと思う。
それから突然、荒涼とした丘のような岩場のような場所に出た。
そこにスタッフらしき人がいてツアーの参加はそこに頼むようだ。
よし、ガイドの出番!頼んだぜ、ガイドさん!
と思いきや…スタッフはなんと英語を話す人だった!
ボランティアという文字が見える。どうやらボランティアでタイガーテンプルのスタッフとしてお手伝いしている外国人のようだった。
タイ語も多少はわかるのかもしれないが終始英語だった。
そして、衝撃の事実が発覚。
私たちのガイドは、日本語は話せるが英語が話せなかったのだ……!
すみませんと謝るガイド。
とりあえず嫁がブロークンな英語を単語の羅列と得意のボディーランゲージを駆使して披露し、ボランティアのスタッフに赤ちゃんとの交流プログラムに参加したい旨を伝える。
参加したいツアーは二つで、赤ちゃんトラにミルクをあげるものと、赤ちゃんトラのシャンプー&ねこじゃらしで遊ぶツアー。
ねこじゃらしってなんていうの…としばし悩んだ嫁だが「play with a babytiger!」と伝えると通じたらしい。後はミルク、とか何とか単語を繋いで4枚のチケットをゲット。
ちゃんと2プログラム参加の権利がもらえたらしい。
さらにスタッフは「急いで」と促す。どうやらプログラムの開始時間が迫っているようだった。
しかしガイドに頼るつもり満々でいた私たちは、全てが英語での説明であるタイガーテンプルで自力でそれを聞き取り、広大な敷地のどこへ行けばいいのかを理解しなければならないはめになった。 -
とりあえず出発するグループについていくと、トラと散歩ができるらしく一列になり並びながら歩き、途中で綱を持ってトラと散歩することができ、さらにそれをスタッフが写真に撮ってくれるサービスがあった。
これは特に別料金はいらなくて、入場料に含まれるサービスのようだった。
本来なら一人1回ほんの数メートル歩くだけなのだが、全ての参加者が参加し終わった後、ぶらぶらと歩きながら気軽にスタッフに質問を投げていた嫁が気に入られたのか、再びトラの綱を渡され、戸惑いながらも散歩を続けることが出来た。ラッキーな出来事に満面の笑みを浮かべる嫁。 -
そうして付いた場所は、トラたちがたくさん寝そべっている岩場でたくさんの人が集まっていた。
そこでも英語の説明があり、どうやらトラと写真を撮るための場所らしい。
写真を撮るための注意事項などが延々と語られ、その後、ようやく鎖でつながれたトラにスタッフと一緒に近づき写真を撮るというものなのだが、嫁が「ねぇ時間がおかしいよ」と私に言った。
「ここで写真撮ると、さっき予約したプログラムに間に合わないんだけど。場所、ここじゃないんじゃないかな?」
ガイドに尋ねるとタイ語でなにやらスタッフに確認しにいってくれたが、はっきりとはわからない感じだった。
プログラム参加のチケットを見せながら「この場所はどこですか?」と聞くと、さらに奥だと教えてくれ、しかも時間が迫っているから急いでといわれる。
慌てて飛び出す私たち。
タイガーテンプルはタイのお寺なので、当然タイ語だと思っていたが、主要言語は英語だったとは盲点だった。そしてガイドが英語を全く解さない人だったことも…。
これでは何のためにわざわざ日本語のガイドを雇ったのかわからない。 -
とにかく慌てて指定された場所に行くと、ぎりぎりセーフだったようだ。
頑丈なゲートがあり、そこで参加しないガイドとは一旦お別れ。
ゲートの中にはスタッフと、プログラムに参加する外国人観光客数名だけが入った。
入ると靴を脱いで裾をまくるように指示される。
どうやら最初はトラのシャンプーからのようだった。
トラは3匹いて、12名の参加者は4人ずつのグループに分けられる。
私たちは英語圏のカップルと同じグループだった。
最初に彼らがシャンプーにチャレンジするが、彼女のほうが怖がってすぐにリタイア。
次に私がシャンプーをする。嫁がバシバシと写真を撮っていた。
そして嫁。
さすが、我が家の猫3匹で慣れているのか怖がる様子もなく余裕の笑みでワシワシと恐れることなくシャンプーにいそしんでいた。
それを見ていたカップルの女性からは「It is not afraid?」と聞かれ、嫁は猫みたいで可愛いと答えていたようだった。 -
その後、シャンプーを終えた私たちははだしのまま、狭い通路を案内された。
出た場所は、高い壁に囲まれていて、上からは観光客の人達が見下ろしていた。
動物園の、熊の檻の中に入っているような気分だ……。
その壁の下には水場があり、私たちはその中へと案内された。
ぬめる足元に気をつけながらザブザブと水に入ると、長い物干し竿の先に袋などをつけたものを渡される。これが猫じゃらしならぬ「トラじゃらし」のようだ。
そして入ってきたトラは……お、大きい!
「トラの赤ちゃん」どころではない。両足で立てば人間の高さを超えるほど大きいように見える。
そのトラたちをガラガラと物干し竿を振ってひきつけ、猫じゃらしと同じ要領で遊んであげるというのが趣旨だった。
ゲスト一人に対し、スタッフが必ず一人付く。勝手な行動はもちろんNGで、やめるときや水からあがる場合はスタッフと一緒に行動するのが決まりのようだ。
しかし物干し竿は長く、先についたおもちゃも重たくてかなり体力が必要だった。
トラがじゃれて飛びついてくるとサッと上にあげて取らせないようにするのだが、かなり重いため動きが遅くなりとられてしまう人も何人かいた。
ビショビショになりながらも水の中に飛び込んでくるトラをじゃらして遊ぶのはめったにできる経験ではなく、とても楽しかった。 -
その体験が終わると足などを洗って靴を履いて解散となった。
私たちはガイドの待つ場所まで行くと、ちょうどそこで赤ちゃんトラと記念撮影会をやっていた。
無料だったのでせっかくなのでと参加する。
と、突然「そういえば赤ちゃんトラとミルクは?」と嫁が思い出し、ガイドに訪ねるがやはり英語がよくわからないらしく、嫁が再びブロークンな単語の羅列英語でスタッフに尋ねると、どうやら先ほど入った立ち入り禁止区域のような柵の向こうのエリアだったらしい。
シャワーやトラじゃらしが終わった後、全員うながされてそこを出たが本来ならばチケットを提示して、同じエリア内にある別の場所へ移動しなければならなかったそうだ。
気づいた時点で予約の時間を15分オーバーしている。
せっかく赤ちゃんトラと遊べるのに時間が短くなるのはもったいない!
私たちは慌てて駆け出し柵のところからスタッフを呼び、事情を話して再び入れてもらい、今度は別の場所へ案内された。
動物園の動物がいる檻のような建物があり、その中に入るようにといわれる。 -
中に入ると、4人の観光客と小さな子トラが3匹。
本当に自由に触れ合っていいらしく、床に寝転んで遊んだり触りまくったり抱きまくったりしてもいいという自由度の高さに驚いた。
日本のサファリパークなどでは、せいぜい一瞬赤ちゃんを抱っこして写真を一枚撮ったらハイ終り、だ。
それが檻の中を自由に遊ぶ赤ちゃんに好きなだけ触れ合っていいという。
こんなチャンスはめったにない!
遅れたぶんを取り返すかのようにゴロゴロしながら遊びまくる嫁。
何故か嫁はトラの赤ちゃんになつかれ(?)何度も甘噛みをされたりしていた。嫌われてるのかな?と心配した嫁がスタッフに聞くと「遊ぼうと誘っています」と言われて、ホッとした様子だった。
しかしいくら赤ちゃんとは言え、やはりトラはトラ。
甘噛みといえども結構痛かったらしく、嫁は嬉しそうで痛そうな、なんとも言えない表情を浮かべていた。
そしていよいよミルクタイム!
1組に1匹の赤ちゃんトラを渡され、それぞれトラを抱きかかえながらミルクを飲ませてあげるという、これはもう絶対日本では経験できない体験をさせてもらった。
最初は私がミルクをあげる。大人しくゴクゴクと飲んでくれた。
半分ほど飲ませたところで嫁にタッチ。
我が家の猫の扱いで慣れている嫁は上手にトラの赤ちゃんを抱っこ…したかと思ったとたん、再び「遊ぼう!」の要求が始まったらしく、ジタバタと暴れミルクはそっちのけで嫁の服を引っ張ったり抱きついて身体に上ったりとやんちゃな姿を見せ始めた。
「ひぃぃ、爪が、痛いですよーー」
嫁の情けない声にスタッフが変わってミルクを与えようとするも拒否し、さらに嫁の胸元に飛びついてくる。
「おなかがいっぱいなのでしょうね」
苦笑しながらスタッフが言って、嫁は泣く泣くミルクを諦め、子トラと遊ぶことにしたようだ。 -
やがて時間が来て、子トラたちとはお別れ。
能天気無鉄砲嫁も、このときは少し寂しそうだった。
ガイドの元に戻るとガイドが「そろそろ出ましょう」と言った。
どうやら閉園時間のようだった。
開園が12時半頃、そして閉園が15時過ぎ。
開園している時間がとても短い(早朝も特別なプログラムがあり早朝開園もあるようだが)のがタイガーテンプルの難点だが、調べてみるとトラたちが暑さであまり活発にならない時間のみ開園していると理由を書いているサイトもあり、やはり野生であることを実感させられた。
広大な敷地内を歩いて入り口まで戻る。
途中に様々な動物が放し飼いになっていた。
これは日本に戻ってから調べてわかったことだが、このようなプログラムがあることを知らない人がとても多いようで、日本で「タイガーテンプルってどうですか?」という質問に対して「つながれたトラと写真を撮るだけで、スタッフも常時くっついているし自由度がなくぼったくりだと思った」とか「日本のサファリパークで見るのとあまり変わらない、行くだけ無駄」という意見も多々見られて驚いた。
確かに、私たちも事前に調べていかなければそういうプログラムがあることはわからなかったし、もし現地で解ったとしても時間的に全部に参加するのは難しかったかもしれない。
やはり事前にある程度調べていくというのはとても大切だと思った。
思いつきでタイガーテンプルに行きたいと言った私の希望通りのツアーを探して交渉してくれた上に、きちんとプログラムのことも調べてくれて参加できるよう手配してくれた嫁には大感謝だ。でなければ、なんの事前情報もなく行って、あの広大な敷地をただ歩き回り、大きなトラとの散歩をしつながれたトラの背中に回ってそっと手を置いただけの写真しか撮れずに帰ってくることになっただろう。
ガイドがほとんど役にたたなかったことは不慮の事故のようなもので仕方ない。
あとは充分に満足できた。本当にタイガーテンプルでは素晴らしい体験が出来たと思う。 -
タイガーテンプルから出た後、少し遅めのランチをしながらその後どうしようかと考えることにした。
特に希望はなく、他に行きたい場所もなかった。
強いて言えばアユタヤの遺跡が見たかったが、場所が遠く時間もなくて無理だとわかっていたのでまた来る機会があれば次にしようと嫁とは話していた。
あとは「戦場にかける橋」などで有名なところや水上マーケットなどを紹介されたが、正直どちらも興味はあまりない。
そこで「カンチャナブリの象使いの村に行って見ないか?」と提案される。
私は別に象にも興味はなかった。
が、嫁いわく「カゴとかなしで象に直乗りできるならそんなとこはほとんどないから貴重な体験になるよ!象使いの村とかなんかRPGみたいでワクワクするし、行ってみたい!」とのこと。
プライベートツアーなので最初の料金のみであとは行きたいところへ行ってくれる。
象使いの村に行って、実際はイマイチならば何もせずに帰ればいいだけだしと思い、寄り道がてらその象使いの村に行くことになった。 -
象使いの村は観光地のようなところを想像していたが、本当に閑散とした村だった。
嫁の求めていた「RPGのような村」という表現がぴったりのところだ。
そこで象に乗って川や森をトレッキングするツアーと、川で象と水浴びをするツアーの二つがあると言われる。料金はトレッキングが600バーツ、水浴びは1000バーツだ。
他のところのツアーならば大体500バーツが相場と聞いていたのでちょっと高いかなと思って迷うが、嫁は他のツアーはカゴにのって案内されるだけで象に乗ったという実感は薄いが、直乗りできるとこはほとんどないから二度とできない体験と思ったら安いよ、という。そういうものか。
その嫁は濡れるのは嫌だからとトレッキングを選択。私もそうしようと思っていたが嫁から「同じじゃつまらないし象のシャワーなんて絶対体験できないからやったらいいよ!」と強く勧められ、押し切られるような形で象と水浴びのツアーを選択。
すると村の人から「全部服は脱いだほうがいい」といわれ、さらにパンツを借りることになった。このときに、すでに嫌な予感はしていたのだが……。
半裸になり準備をすると、まずは嫁がカゴのついた象に乗車(?)する、そのあとで何もつけていない象がやってきて、象つかいが先にその背に乗り私に後ろに乗るように合図した。
半裸の男性と半裸で象タンデム。
その手の趣味はないのだが、象の背は意外と揺れるし、しかもかなり急勾配な坂を下ったりもするので落とされないよう必死に象使いにしがみつくしかなかった。
先を歩いている妻も、一応きちんとした椅子のようなものがあるにも関わらずやはり急勾配の坂ではかなり不安定らしく「安全バー!安全バーを下さい!」とわけのわからないことを叫んでいた。
やがて川べりに到着。
ゆるやかに流れている(ように見える)クウェー川の川べりに嫁の象は立ち止まり、その横を抜けて私の乗った象は躊躇することなく川に入っていく。
川に入っていくと意外とその流れが速いことに気づく。 -
落ちたら大変だなぁ。しっかりつかまっていようと思ったとき、象使いが私の後ろに移動し合図を始めた。とたんに降りかかるシャワー!!
嫁はおおはしゃぎでカメラを構えていた。
結構な勢いで頭からバケツの水をかけられるような感覚が何度が続く。
もう充分!!と思ったら、象使いが前に移動するようにと指示しているようだった。
前?もっと前?
少しずつ移動していくと、ついに象のクビの辺りへ。
そして彼が何か言ったが聞き取れず振り返ろうとした瞬間!象が頭を下げ、私は頭から川にドボーン!!
濁流にもまれながらも必死に立ち上がり、激しい川の流れに逆らいながら慌てて象使いの差し出す棒に捕まった。
流されないようパンツを握っている私を見て嫁が腹を抱えて笑い転げているのが見える。
しかしそうしないとパンツさえ流されていきそうな勢いなのだ。
さらに象使いは再度そこへ乗るようにと指示する。
今度こそ落とされるものかとしっかり足で挟み込むが、やはり頭からドボーン!!
何度それが繰り返されただろう。
私は知っている数少ない単語の中から必死に言葉を探し「enough!enough!」と繰り返しながら、さらに二度ほど落とされた後、今度は象の背に引っ張り上げられた。
象の背に立ち上がり、楽しそうな象使いと一緒にツーショット写真を撮る。
嫁が笑い転げながら撮ってくれた。
その後、私は息を切らしながら象の背に座り込み、ようやくその水責めから開放されて村に戻ることが出来た。
嫁はそのあと優雅に森の中をトレッキングして戻ってきたとのことだ。
水浸しになった私をみて笑い転げる嫁を見て軽い殺意を抱くが、そんな気力もないほどに疲れ果ててしまった。
まぁ確かにめったにできない体験ができたのだろう。
帰国後に調べると水の中に入ってくツアーはあるが、私のように水をかけられたりましてや川に落とされたりするようなツアーは見つからなかったので。
ヘトヘトになって、ホテルに戻る。
途中で「明日はどうしますか?」とガイドから聞かれる。
明日は最終日で、夜の便で出るため昼間のわずかな時間しか取れない。
あまり土産を買っていなかったので、日本にいる家族のために何か買おうかと思っている旨を伝えると、ガイドは有名な宝石工場に案内するといった。
ただツアーではなく個人的にガイドとして案内するだけなので日本語ガイド代として1000バーツくれればいいよという。
確かにタイは宝石が有名だし、知らないところでぼったくりに合うのも嫌だしと、夫婦で相談して個人的にガイドを頼むことにしてその日は終了。
タイガーテンプルと象使いの村でヘトヘトに疲れてタイ、最後の夜は更けていった。 -
翌朝、チェックアウトしたあとホテルに荷物を預け、ガイドと待ち合わせた場所へ向かう
。とりあえずガイド代を支払い、タクシーで「GEMS GLLERY」という工場まで向かった。
かなり高級な、ハイソな感じのする工場で、入り口から圧倒される。
私たちに買えるようなものがあるのだろうか……。
確かに有名なところらしく観光バスのようなものも来ていて、観光客らしき人ばかりだ。
ウエルカムドリンクや休憩スペースで無料でドリンクを飲むこともできる。
それだけのサービスがあるということは、それなりの値段がするに違いない。
まずはタイの宝石生産量や工場の特徴などをまとめたDVDをシアタールームで鑑賞させられたあと、宝石を研磨したり形作ったりしている工場を見て周り、最後にそれらが販売されている店内へと案内された。
その辺りでガイドは「私は休憩ルームでお待ちしております」と言って消え、代わりに専属のスタッフが付いてまわることになった。
やはり宝石はピンキリで色々なものがあり、デザインも豊富だった。
しかしせっかくなのでここでしか買えない何かタイらしいお土産がほしいと思っていた私たちは、綺麗な宝石にはあまり興味を示さずタイの民芸品のようなものや象をモチーフにしたアクセがほしいなどと専属のスタッフに相談をし、それらを見せてもらった。
宝石店に来たのにきらびやかな宝石には見向きもしない私たちは「良くない客」だったに違いない。
結局、私たちは象をモチーフにしたタイらしいアクセサリーに魅力を感じ、宝石ではなくそれをふたつ購入した。
その後、タイシルクなども見たが「洗濯が大変だから」という嫁の一言で却下。
結局、そのアクセサリー二つで買い物は終了した。
休憩室にいくと、ソファで休んでいるガイドを発見。
私たちの姿を見ると「ここではドリンクもらえますから、ちょっと電話してくるので休んでてください」と去っていった。
私はソファに座り、ブロークン英語の嫁がドリンクを取りに行ってくれた。
そして一息ついたあと、ガイドも戻りホテルまでタクシーで戻ってお別れ。
「これだったらガイド、いらなかったんじゃない?」
という私に、嫁も同意していた。 -
しかし宝石店の場所とか知らなかったし案内してもらったと思えばいいか、とその場は何とか自分を納得させたが、後ほど衝撃の事実が発覚。
なんと「GEMS GLLERY」は完全に観光客向けの工場で日本語のサイトもあり、そこには「送迎無料、日本語で送迎可能」と書いてあるではありませんか!!
それを知ったとき、二人とも思わず絶句……。
タイは微笑みの国。
マイペンライの国。
親切な人が多くて、陽気で楽しい。
詐欺は多いけど自分が気をつけていれば大丈夫。
そう思っていたのに最後の最後にやられた感が残り悔しい気持ちだ。
あのガイドこそが私たちが遇ってしまった唯一の詐欺でぼったくりだった。
タイガーテンプルでは全く役に立たず、GEMS GLLERYでは送迎があるにも関わらずそのことを言わずタクシーを使い、さらに日本語のできるスタッフもいるにも関わらずそのことを言わず、いざ買い物の場面になると自分はちゃっかり休憩していて不在。
オマエは一体何のために来たんだーーーー!! -
今回の旅で私たちが学んだことは、ワットポースタイルのタイマッサージと、人を見る目を養おうということだ。
それも最終日になって。
初タイでは初日から良い人に出会い、良いホテルマンに出会い、良い学校、良い講師、良いクラスメイトと人に恵まれていたから気を抜きすぎてしまったのかもしれない。
反省すると共に、次への教訓にしたいと思う。
次にどこかでガイドを頼む時は、日本語と現地語だけでなくできれば英語も話せる人を探そう。 -
初めてのタイ。
最初は不安でいっぱいだった。
英語も話せない、もちろんタイ語など「ありがとう」を覚えるのが精一杯だ。
そんな中でスクールに通い、授業を受け、テストを受けて、ライセンスを取得する。
同時に日々の生活も送り、毎日ご飯を食べて、電車やタクシーで移動をする。
必要ならば両替をし、何かしらの交渉ごともしなければならない。
(この交渉ごとで一番大変だったのは、スクールで私の書いた入学申込書の文字が汚くて読み間違われ、自分の名前の綴りが間違っていることに気づいた時だった。
領収書をもらって何気に名前を見るとたった1文字、アルファベットが違っているだけで別人の名前になってしまっていた。
私はその領収書を持って事務局に行き、間違えていることを伝えてわかったと言ってもらったような気がしたが、それでも終了証の名前などを書き換えてもらえるかどうか不安だったので、再度嫁が確認しにいってくれた。
やはり終了証の名前などは訂正されておらず、嫁がきちんと確認してくれたおかげでギリギリのところで訂正が間に合い、正しい綴りでのライセンスがもらえたという出来事があった)
最初は緊張と不安ばかりが強かったが、何故かタイでの時間を過ごせば過ごすだけ、嫁のいう「マイペンライ」な気持ちになれるようになってきた。
なんとかなるさ。気楽に行こう。
そんな雰囲気にさせる国。
そして実際、ほとどのことはなんとかなった。 -
詐欺が横行している。日本人は狙われやすい。
そういう面は確かにあると思う。
でもそれは自分自身でそういうことがあるということを勉強し、理解しておけばある程度は防げるし、大きな被害にはならないはずだ。
そういうことを気にして不安になったり緊張したりするよりも、タイという国では気楽に楽しめばいいのだと私は思う。
タイ語がわからなくたって、英語が話せなくたって、なんとかなる。
どうしても困ったときは、どうしても困っていることを必死に伝えればわかってくれる人はいる。
どの国にも言えることだが、観光客を騙そうとする人間ばかりではないのだ。
むしろ自分の国を好きになってもらいたいと言える人がたくさんいる国だ。
たった一週間足らずいただけの国だから、私に偉そうにタイを語る資格はない。
けれど、不安でいっぱいだった私が帰国した今思うことは「楽しかった」「何かを得た気がする」ということだ。
得たものは、文章にするのはとても難しい。
気概と言うか、気質というか。
今まで私が苦手だった人との積極的な交流や、交渉ごと、外国に行くという行為などへの苦手意識が薄まった感じがする。
そして、なんだか解らないが「タイにはまた行きたい」と思わせる何かがあった。
観光などほとんどしていないにも関わらずそう思うのだから、きっとタイの観光地を巡り、色々な歴史を知ったり、貴重なものを見たり、聞いたり、体験したりする人にはもっとその思いは強く残るのではないかと思う。
胡散臭いキャッチフレーズだと思っていたが、今ならそうは思わない。
「微笑みの国、タイ」
私たちは、きっとまた訪れるだろう。
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この旅行記へのコメント (10)
-
- papagenaさん 2012/08/08 00:12:22
- タイガーテンプルに行くときの服装
- 9月にタイガーテンプルに行く予定をしています。
オプションには全部参加するつもりで計画中です。
6月にいかれたときは、観光客は多かったですか?
トラとの水遊びの時には裸足になるんですね?
私は水に入るならと思い、クロックスのようなサンダルでいくつもりだったのですが、やはり書いておられるようにスニーカーみたいなのの方がいいのでしょうか?
写真で見るとズボン濡れたままですが、すぐ乾く綿パンとかの方がいいですか?
ぶしつけな質問ばかりで申し訳ありませんが、ご教授よろしくお願いします。
Cubと添い寝!うらやましい!!
- 匿名希望さん からの返信 2012/08/08 20:11:01
- RE: タイガーテンプルに行くときの服装
- papagena様。
旅行記へのご質問投稿ありがとうございました。
フォートラベルのシステムメンテナンスのため、旅行記や掲示板での返信が不可能になってしまったため、お返事が遅くなり申し訳ありません。
ご質問の件ですが、まず観光客の数です。
私達が参加したのは平日でしたがそこそこの数がいました。
しかしほとんどの人は有料プログラムには参加せず、無料のトラとの散歩とその先にいた大きなトラ(鎖でつながれている)との撮影会のみに参加していました。
有料プログラムが行われるエリアには無料で赤ちゃんトラ(ふれあい体験のよりはちょっと大きく鎖につながれています)との写真撮影ができるところもありましたが、そこにはあまり人がいなかったので観光で来ている人の多くはあまり園内を把握していないような感じがしました。
有料プログラムは特に参加者数の上限を決めているので、全くトラに触れることが出来ないということは絶対にないです。
ただトラの猫じゃらしの場合はポジショニングが大切です。
トラのシャンプーをした後に移動するのですが、その時、集団の真ん中あたりにいるとよいと思います。
先頭から順に壁に沿って並んでいきますが、中央付近のほうがよくトラが飛び込んできて楽しめると思います。
クロックスの件ですが、一応、サイト等にはサンダルなどはトラが噛んだりする場合があり危ないのでと記載がありますが、結局全てが自己責任なので、サンダルだからといって参加を咎められることはないと思います。
確か私達が参加した時もクロックスの外国人がいたように思います。
実際、トラのシャンプーなどで濡れたりしますのでクロックスのようなもののほうが楽だなとは思いました。
ただ、敷地内が荒涼とした丘陵なので歩きづらいです。
またシャンプー以外、猫じゃらしの時は裸足になりますし、赤ちゃんトラ部屋では靴を脱いで入りますので、その辺りを考慮して靴がいいかクロックスがいいか考えてみて下さい。
服は赤い色や、ひらひらした服は避けたほうが良いそうです。
(トラがじゃれてくる可能性があるようです)
また、お寺なのでショートパンツの類はNGということになっています。
なので長いパンツになりますが、はっきりいって濡れます。
シャンプーでも猫じゃらしでも濡れます。
ひざ上までまくりあげていてもびっしょりになりました。
なので乾きやすい素材のものがよいと思います。
長々と申し訳ありません。
何か有りましたらまたお気軽にお訊ねください。
よい旅になりますよう、願っています
- papagenaさん からの返信 2012/08/08 20:19:17
- RE: タイガーテンプルに行くときの服装
- 早速お返事を頂き、ありがとうございました。
4トラベルで知り合った方からタイガーテンプルのことを教えて頂き、計画を立てているので大方のことは教えて頂いたりしていたのですが、やはり直近の情報が欲しかったのでメールをしました。
私は普段はスカート派でスポーティな服装を持っていないので、準備をするのにとても参考になりました。
ありがとうございました。
- 匿名希望さん からの返信 2012/08/09 00:24:49
- RE: RE: タイガーテンプルに行くときの服装
- 虎好きであればきっと満足出来ると思います。
楽しんできてくださいね♪
- papagenaさん からの返信 2012/08/15 02:41:05
- RE: タイガーテンプルに行くときの服装
- 何度も質問ばかりで申し訳ないのですが、タイガーテンプルに行かれたとき、パスポートは携帯されましたか?
その他、クレジットカードのような貴重品はどのようにされました?
ぶしつけな質問ばかりで、本当に失礼なことと思います。
もしよければ教えてください。
- 匿名希望さん からの返信 2012/08/16 02:25:08
- RE: RE: タイガーテンプルに行くときの服装
- パスポートは不要ですので、
念のためコピーだけサイフに入れて持って行きました。
クレジットカードや余分な現金などの貴重品は、
ホテルの部屋の金庫に保管して、
持って行きませんでした。
1日タイガーテンプル三昧の予定だったので、
その為の費用と、あと帰りに象の村によって多少遊ぶ程度、
途中の食事やドリンク代ぐらいの現金を持って行きました。
ただ、タイガーテンプルは入場時はカバンなども持ち込めますが、
有料プログラムはカメラ以外は持ち込み禁止でした。
カメラもスタッフに渡して撮ってもらう事になります。
(時々間違って違う人を撮っていたりするのでご注意を^^;)
私たちはガイドを頼んでいたので、有料プログラムの時は、
カバンやウエストポーチはガイドさんに見ていてもらいました。
もし、お一人で行くのであれば、
最悪首から下げられるサイフなどにして、
服の中に入れられるようにするなどの工夫がいるかも知れません。
多分、トラがじゃれてくるのを防止する為と思います。
もしかしたらスタッフでも預かりをしてくれるかもしませんが、
そこまで確認しませんでした。曖昧で申し訳ありません。
また、何かお力になれることがあれば、
ご遠慮なくお聞きください。
- papagenaさん からの返信 2012/10/16 11:20:17
- タイガーテンプル,最高でした
- 以前、いろいろ質問をしたpapagenaです。
行ってきました!タイガーテンプル!!
9/14金曜日に行ったのですが、モーニングプログラムからほぼ1日滞在しました。
ただ、匿名希望さんが行かれたときよりも人が多くて(ガイドさんもビックリしていましたが、大型バス2台で団体が入ってきていました。)午後の部のCubFeedingが出来ませんでした。
モーニングプログラムでは全部したので、満足して帰ってきましたが、やっぱり心残りがあるので、もう一度平日に行こうと思っています。
タイガーテンプルの次の日はワットポー・マッサージスクール・スクンピット校でマッサージとハーバルボールなるものを受けました。
初体験でしたが、体が軽くなって気持ちよかったです。
ハーバルボールは熱くて、悲鳴ものでしたが (^ ^;;
タイガーテンプルとマッサージとウィークエンド・マーケットで時間を使い果たし、なんと王宮に行けませんでした。
なので、今度は王宮にもいくつもりです。
いろいろ、教えてくださりありがとうございました。
papagena
- 匿名希望さん からの返信 2012/10/29 01:53:13
- RE: タイガーテンプル,最高でした
- papagenaさん、こんにちは。
タイガーテンプルの午後の部ができなかったのは残念でしたね。
私たちはモーニングプログラムに参加できていないので、
こんど行けたらモーニングの方に行きたいなぁと考えています。
-
- Window-sideさん 2012/08/04 11:17:51
- 象と水浴びのツアー
- 匿名希望さん、はじめまして。
こんにちは、足跡から参りました。
出だしから大変おもしろい旅行記ですね!ネガティブな事前情報にも
関わらずポジティブな「微笑みの国」をイメージされての訪タイ☆
内容が充実しすぎていて、どこにコメントしようかすごく迷いました。
マッサージ講習、バンコクの路線バス(何かとドキドキですよね!)、
トラとの戯れなどなど、、最初から最後まで旅行記を見て大爆笑
してしまったわけですが。
特に「象」との水遊び、、カンチャナブリにこんなのがあったんですね!
シャワーどころか完全にご入浴ですねぇ!!いやいや、これには
びっくりです。。
水を飲み込んでしまってお腹痛くならなかったですか(笑)?
もちろん救命具なんてNo needというこのスタンスもすごいです。
すごく楽しい旅行記でした☆
by Window-side
- 匿名希望さん からの返信 2012/08/04 13:11:26
- RE: 象と水浴びのツアー
- Window-sideさん、こんにちは。
感想いただきありがとうございました。
楽しく読んでいただけたのであれば幸いです。
初めてのタイ王国訪問で、
マッサージ講習を受けるということで、
1日1日をこなすのに緊張の連続でした。
妻の行動力にすっかり助けてもらいました。
受講の後半で、一発合格出来るかも?との淡い期待で、
そういえばタイガーテンプルはタイだったかな?と思い出し、
プライベートツアーを申し込んだのですが、
いろいろ口コミを探してみると、
タイガーテンプルの本当の魅力(オプション)を知らず、
誤解されている方が多いのかなぁ、と思いました。
象の村は時間があったのでよってみた、というつもりだったのですが、
思いがけずハードな象のロディオを十二分に堪能しました(させられました)
別な象に載っていた妻の年配の担当の方いわく、
私の乗った象を担当していた若い男性について、
「彼は今日はとても機嫌が良い」
とのことで、通常そこまではしない、大サービスを受けていたようです。
川の流れが早く、後半は川に落とされた後、
疲れて象の元へたどり着くのも苦労し、気を抜けば流される、と
真剣に思いました。
また、たっぷり川の水を飲んだ後、そういえばこれって思いっきり生水では?
と思いましたが、お腹を壊すこともなく無事帰国しました。
タイガーテンプルにしても、象の村にしても、
一歩間違えば命の危険があってもおかしくない体験でしたが、
必要最低限の安全策と選択肢は確保されて自分で決めることができました。
日本とは違い、自分のやりたいことを、
自分の責任の範囲ですることが出来る、
というのはとても貴重な体験でした。
近代的なビル群と、下町の混在、
一歩町を離れると自然の中で一体となって生きている人々、
それらが混在して、エネルギーにあふれているタイ王国を見て、
昭和初期の高度成長期前後の日本ってこんな雰囲気だったのかもなぁ、と
想像してしまいました。
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