2010/05 - 2010/05
462位(同エリア2714件中)
molmさん
恥ずかしながら、京都に長年住んでいながらも最近まで知らずにいた
「知る人ぞ知る」御粽司(おんちまきし)をご案内します。
屋号の名は「川端道喜(かわばたどうき)」。
創業は室町時代の1503年で、現在は十六代目が継承されています。
創業は餅屋から始まったそうですが、創業者:渡辺進の婿養子として
継承したのが初代:道喜で、戦国時代に入ると朝廷が財政難に陥った
状況を慮って、朝廷に毎日餅や粽を献上していました。
その餅などは「お朝物」と呼ばれ、後に「朝餉」の儀として形式化し、
明治天皇が東京に移られるまで続いたそうです。
その名残として、京都御所の正門「建礼門」の東隣に別名「道喜門」と
呼ばれる勝手口のような門が残っております。
川端道喜の名は、婿養子となった中村五郎左衛門が藍染川の「川端」に
住み、剃髪入道して「道喜」を名乗ったことが由来となっております。
初代:道喜こと五郎左衛門は、二代目に譲った後は武野紹鴎の門下で
茶道を学び、同門下生の千利休や、利休の後継者:古田織部との親交を
深め、彼らへも道喜の菓子は贈られていたことで、レベルアップ
していったとか。
その伝統を今でも受け継ぐ川端道喜の名物は「道喜粽」で、吉野葛の
持ち味が生かされた「水仙粽」と、漉し餡を練り込んだ「羊羹粽」が
ございます。
その製法は現在でも殆ど変えておらず、手間ひま掛けた逸品のため
高額になってしまいますが、裏千家の新年大茶会への納品も含め
歴史に裏打ちされた味を後世に残すため勤しまれています。
尚、裏千家新年大茶会には「御菱葩(おんひしはなびら)」という、
いわゆる「花びら餅」が提供され、一般では頂くことができないものの、
年末に試餅として注文することが可能です。
しかし、注文開始は例年12/1とされていますが、開始初日ですら確実に
入手できるとは限りません。
粽を含め作業に取り掛かれる職人が2名しかおらず(数を揃えれば良い
レベルの問題ではない)、こうなりゃ運やタイミングに大きく左右される
ことを想定に入れた方が宜しいでしょう。
尚、粽類も販売していない月がございますので、ご注意を。
また作業中は電話を受けられないことが多いそうです。
少しばかりですが、水仙粽入手から頂いた経緯をご紹介します。
ご参考までに京都新聞の記事をリンク致します。
http://4travel.jp/dynamic/jump.php?url=http://www.kyoto-np.co.jp/kp/rensai/wagashi/w-16.html
御粽司 川端道喜
京都市左京区下鴨南野々神町2-12
9:30〜17:30 水曜定休
完全予約制
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-
まずは現地へ赴き、予約致します。
場所は下鴨本通と北山通の交差点南西角にありますが、
外観だけでは何の店か(若しくは店なのかどうか)すら
わからないかもしれません。
事前に入手困難なことを想定していたので、礼節を重視
して「売ってください」という姿勢で臨みました。
断っておきますが、お店の方は驚くほど腰が低い方で、
横柄な態度をとることは決してございません。
歴史と品格に裏打ちされた粽などを守り続けることは
想像以上に困難を極めることでしょうから。 -
ショーケースの写りが悪いのはご勘弁くださいませ。
店内に入り声を掛けると職人さんが出て来られました。
私が伺ったのは注文日の1週間前で、水仙粽を希望した
ものの、既に予約が一杯だと言われる状況。
粽だと端午の節句を過ぎれば大丈夫だろうと高を括って
いましたが、当時に注文できなかった分がこの時になって
殺到したとのこと。
しかも最近は良質の笹が入手し辛くなっているそうで、
お断りしている大きな要因の一つだとか。
職人さんの話によると、川端道喜で使用される笹は
京都・花背産で良質の若竹の上部3分の1から更に良い
葉を選び抜かれているため、1本の若竹から5枚取れれば
上出来だそうです。
仮に笹の葉が良質であっても、破れていれば採用できず。
原価は1枚50円で、水仙粽に使用できるのはその半分
なんだとか。
後程ご紹介しますが、1つの水仙粽には5枚の笹の葉が
使用されており、契約している業者以外から分けてもらう
こともあるそうです。 -
水仙粽が売り切れなのは想定外でしたが、こういう店は
電話予約よりも直接赴き、話をさせてもらった方が良い
という判断は正しかったと思われます。
実際に、「電話のお客様は全てお断りしておりますし、
水仙粽1つなら何とかなるかもしれません」と言われ、
重き伝統のある店は如何にコミュニケーションをとるか
大切だと痛感しました。
今回は、羊羹粽なら用意できる(笹の葉が少なくて済む)
とのことなので、羊羹粽で予約し、可能ならば水仙粽に
切り替えてもらい、受取は島屋京都店になりました。
恐ろしいほど都合の良い解釈ですが、自分は客として
認められたと感じていますし、実際に友人の結婚祝と
して渡す旨を申し上げたら、ご理解頂けたのでしょう。
当方も「普段の手土産なら他の所でもいいのですが、
今回は結婚祝に渡すので、川端道喜さんのような特別な
店ならではの物を用意したいんです」と真実ではあるが
ヨイショしすぎかなと思う自分がいたほどです。 -
受取当日に島屋京都店の地下にある銘菓百選コーナー
へ伺いました。
こちらに掲げられている店はどれも由緒ある所ばかりで
サンプルが所狭しと並んでいます。
川端道喜の菓子もここで予約できるかは不明です。
店員さんから予約した粽を受け取り、中身を見てみると
何と水仙粽が入っておりました。
店員さんからも相当薦められた代物で、如何に貴重かと
再認識致しました。
ハッキリ言って、価格面(5本3,900円)を含め自分の
ためには購入しないでしょうし、それだけ手土産として特別だと感じております。
因みに、支払いは引換時に行いますが、本店ではカード
払いが不可なものの、島屋では可能です。 -
こちらが川端道喜の紙袋です。
お店側にとって、注文を受けることは喜ばしいのですが
それよりも対応できるかのプレッシャーの方が大きいの
かもしれません。 -
中袋を取り出しました。
中袋の注意書きには
冷蔵庫にお入れしますと固くなり風味を損ないます。
常温のなるべく涼しい場所にお置きいただき二日以内に
お召し上がりください。
と明記してあります。 -
こちらが水仙粽5本分です。
1本毎に固く巻いてあり、更に上の部分を5本束ねて
縛ってあり、こちらを解くのに時間がかかりました。
ただ、縛る手間を考えると、安易なことを申し上げる
べきではありませんね。
私も頂いたことがないので、今回は恐れ入りながら
友人に1本持ち帰る了承をもらいました。 -
こちらが家に持ち帰った1本です。
水仙粽1本につき、笹の葉を5枚使用しており、相当
しっかりと巻かれています。
職人が2人しかいないこともあり、100本巻くのに4時間
以上かかるそうです。 -
笹の葉を1枚ずつ剥いで、やっと出てきました。
こちらの吉野葛自体にも笹の香りが伝わっており、
固められた葛の長さはおよそ15cmです。
光の当たり具合でグレー色になっておりますが、実際は
肉眼で見るともっと白いですよ。
口にしたら、適度にプルンとした食感に仄かな甘さ。
通常の粽は蒸して作るのだが、川端道喜の粽は時間を
かけじっくりと熱湯でゆがいて作るそうです。 -
こちらが1本の水仙粽に使われる笹の葉です。
これだけの材料集めや工程を考慮すると決して高価とは
いえないレベルで、むしろ高い安いの次元ではないかも
しれません。
実際、販売価格の半分程度が笹の葉の材料代で占められて
おり、そこから吉野葛代や、葉の洗浄(1枚ずつ束子で
洗うそうです)・葛をお湯から長時間煮焚く手間を含める
と殆ど儲けは出ていませんね。
安易な注文すべきではない逸品なので、こちらをアップ
しようか迷いましたが、京都にはこんな奥深い菓子が
あることを紹介できればと思い作成しました。 -
後日お礼に伺いましたら、先方のご好意で葛湯を
頂きました。
大きさを示すために500円玉を置いてみました。 -
お椀に葛粉を移してみました。
とにかく粒子が細かくサラサラしています。
さすが水仙粽に使うのと同じ吉野葛だけあります。 -
湯を加えてみたら、吸水性が高く、少し混ぜた
だけでとろみがつき、しかも均等でした。
砂糖は入っておりませんが、仄かな甘味を感じ
これが葛の甘味なんだと感じましたよ。
後日お礼の手紙を送らせて頂きました。 -
さて日を改めて御菱葩(おんひしはなびら)の予約へ
伺いました。
御菱葩は「はなびら餅」を指し、12/1より予約受付が
開始され、受取は12/27〜29から選択可能。
参考ページ
http://kyoto-wagasi.com/review/kawabata_doki_hanabira.html
花びら餅とは、牛蒡と白味噌餡とピンク色の餅を
餅もしくは求肥で包んだ和菓子で、600年にわたり
宮中のおせち料理の一つと考えられてきました。
宮中に菓子を納めていた川端道喜が元祖です。
明治時代に裏千家家元十一世玄々斎が初釜の時に
使うことを許可され、新年の裏千家大茶会(招待客は
知事・市長・商工会議所会頭などVIPクラス)での
お菓子として使われるようになり、全国の和菓子屋
でも作られるようになりました。
そういう文化があってか、京都では正月に雑煮と
見立てて、花びら餅を頂く習慣があります。
本来、茶会に出すお菓子は一般販売しない習慣が
あるため、「試餅(こころみのもち)」の名で試作品
という建前により販売されています。 -
御菱葩を受け取りに行きました。
中が柔らかいので揺れないようお気をつけください
と言われます。
熨斗紙に包まれた状態で頂きます。
今回は3個入りの箱。 -
箱を開けたら1個ずつビニール袋に入っております。
箱は横が大体13.5cmです。 -
原材料のシールです。
餅・砂糖・白味噌・牛蒡とシンプルで、賞味期限は
当日限り。
製法は江戸時代以降、今のスタイルになってから
殆どかえていないとか。 -
こちらが御菱葩試餅です。
1個の大きさが横約12cm、求肥は使用していない
のに柔らかく、餅には肌理細かさが伺えます。
写真を上手く撮れず申し訳ないですが、少しピンク色
なのは内側に色つき餅で二重構造になっており、中に
白味噌餡と牛蒡が入っております。
世間で売られている花びら餅は牛蒡が飛び出している
のですが、川端道喜製は完全に中に入っています。 -
切ってみると白味噌餡が少しずつ流れ出し、餅皮と
調和し上品な味わいです。
製法は当時と殆ど変えておらず、味以外にも歴史を
感じさせられる逸品でした。
京都には伝統を守り続ける店が多く、川端道喜も
その1つに相当します。
自らも古き良き一品の重み・作り手の思いなどを
受け止めるべききっかけとなりました。
ご覧頂き、ありがとうございました。
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この旅行記へのコメント (7)
-
- Reinheitsgebotさん 2020/11/05 14:06:00
- 川端道喜……1979年でした
- こんにちは。川端道喜を検索していてこちらの旅行記にたどり着きました。
一度だけ川端道喜を訪れたのは1979年7月、祇園祭直後のことでした。当時は、上賀茂神社の社家町の奥でひっそりと店を構えていましたが、雰囲気は“らしい”ものと感じた記憶です。
その後、大原から北山へと移っていたことは後で知りました。
またいつか道喜の粽を口にできるでしょうか……最後に京都を訪れたのは2016年3月でした。
https://ssl.4travel.jp/tcs/t/editalbum/edit/11658236/
-
- くまちゃんさん 2017/02/28 22:47:11
- 取材力ハンパない!
- こんばんは!
そうなんです。自由研究という大義名分で(笑)
この夏、次女はアイスクリームの研究、長女はダリケーさんのカカオキットでチョコの研究という、ただ食べられるというだけの不純な動機…
それにしてもmolmさんの取材力には脱帽です。
molmさんのクチコミで5店評価のところを見ながら、ふたたびの京都旅の妄想を膨らませて、楽しんでいるところ
- くまちゃんさん からの返信 2017/02/28 22:49:09
- Re: 取材力ハンパない!
- 5店じゃない、5点です~
- molmさん からの返信 2017/02/28 23:19:06
- 当時は作成に情熱が籠ってたもんで
- くまちゃん様、川端道喜は京都の菓子屋の中でも歴史が
深い店です。
同年代だと水田玉雲堂の唐板でしょうか。
店について調べたのは、記事・文献に加え、直接店の方から
仕入れたネタもございます。
私はライターでも観光・飲食関係者でもない素人ですが、迷惑が
掛からない程度(と勝手に思っている)に会話し、その中から
頂いたのも結構あります。
純粋に店や商品を褒め(嘯いても見破られるもんです)、相手から
話しやすい雰囲気に持って行くよう気をつけています。
天皇家や宮内庁から「御」の称号を頂いた店は、レベルを落とすと
廃業の危機に瀕するから、プレッシャーは相当なものです。
桂離宮に献上していた「かつらあめ」は14代目が体力の問題で
引退され、後継に手を挙げた非営利団体があったものの、同じ
レベルを維持できるか疑わしいので、廃業を選んだそうです。
そのため高い安いとか、まずい旨いなんて二の次ですし、水仙粽や
御菱葩、かつらあめなどは相応の伝統を守るべく手間をかけ続け、
それ故コストがかかってしまうんです。
何れも本当に美味でしたし、一生のうちでも何度も口にできる
ものではございませんね。
もう歴史を食べてる感覚ですよ。
廃業した「かつらあめ」は常連客だったmolm
- くまちゃんさん からの返信 2017/02/28 23:34:14
- RE: 当時は作成に情熱が籠ってたもんで
- だから京都はやめられない‼
唐板というのも興味津々。
-
- 前日光さん 2013/12/15 22:16:43
- 先日はお世話になりました!
- 川端道喜のブログに奈良コミュのコメントを書くのは如何なものかと迷いましたが、私、この川端道喜について、むか〜し、中学生か高校生の頃、何かのガイドブックで知りまして、その時から気になっていたお店だったのです。
「花びら餅」の存在も、川端道喜さんのお店についての案内を読んでいるうちに知りましたし、後々、花びら餅がメジャー化して、ちょっとした和菓子屋さんでも入手できるようになって口にすることもできましたが、もちろん川端道喜さんのとは雲泥の差があるのだろうなと思っております。
粽も相当に手間暇をかけているようですが、私はその昔に見た「花びら餅」の美しい形状を忘れることができません。
うっすらと内側からピンクの羽二重餅の色がにじみ、柔らかそうなその質感は和菓子の究極のように、その時の私には感じられました。
で、このmolmさんのブログに投票してみましたところ、大昔に投票していたらしく「投票済み」と出て参りました。
やはり「川端道喜」へのインパクトはかなりのものだったのでしょうね。
私は出雲と奈良好きの文学オタクですが、和菓子も大好きなんです(お酒も好きなくせにね(笑)!)
こんな私ですが、今後ともよろしくお願いいたします。
前日光
- molmさん からの返信 2013/12/15 23:32:56
- RE: こちらこそ!
- 前日光さん、こちらこそ奈良では楽しませてもらいました。
川端道喜の奥深さは私自身も最近まで存じておりませんでしたし、今でも
大半の京都市民は知らなかったりします。
本文にもあるように、茶会用の菓子である御菱葩(おんひしはなびら)は本来
一般販売しませんが、試し餅として毎年販売しております。
これがまぁ予約が大変で12/1に連絡し、年末に取りに行かねばなりません。
もし前日光さんが入手されるとなると、12/1に電話予約し、当日は店まで
自ら足を運ばれることになるでしょう。
食したのは2010年の一度きりですが、内部のピンク色が美しく、中の味噌餡が
トロトロになっておりました。
1個1,500円する代物ですが、素晴らしい体験だったと自負しております。
粽も含め原材料の入手から完成するまで行程が大変です。
品質を落とせないので、職人さんたちは至って地味な生活をされ、毎日が
緊張の連続だと思われます。
お機会があれば是非とともに、予約から入手までお店に対する配慮をお願い
したい次第です。
和菓子もお酒も好きで全く問題ないと思うmolm
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