2010/05/08 - 2010/05/08
350位(同エリア768件中)
がりさん
大磯にはひとつ、気になることがあった。
その答えを求めて、山を下りたあと足は自然と海岸へと向かった。
大磯の西部にある、茫漠としたうら寂れた海岸…。
はたしてこの海岸にそれはあるのだろうか?
きっかけは僕のもとに届いた一通の不思議なメールだった。
そこにはこう書かれていたのだ。
「大磯の海岸に廃屋はありますか?」と。
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大磯と平塚にまたがる湘南平に到着しました。
家族連れやカップルの姿がありますが、それほど混んでなくてほのぼのとした場所です。
テレビ塔はTVKのですね。 -
ここに来たのは何年ぶりだろう。
テレビ塔に上ると、今も変わらずたくさんの落書きがありました。
ここはカップルの聖地なんです。 -
ここからは相模湾を望むことができます。
湘南でも屈指のビュースポット! -
落書きの多くはカップルによるものですが、なかには誰かの携帯番号を書いてたり特定の党への投票を呼び掛けるメッセージがあったりと、変な落書きも目に付きます。
気付いたのは、落書きのほとんどがここ1〜2年に書かれた新しいものであること。
定期的に除去作業が行われてるのかな? -
一面にかけられた南京錠。
南京錠の数だけ愛がある。 -
ひとつひとつ見ていくと面白いですね。
なんか知ってるカップルのを見つけちゃいそうだな(笑)。 -
こうして見ると大磯がいかに海と山が近接した町であるかがわかります。
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あの山が高麗山かな〜。
この尾根を歩いてきたんだね。 -
こちらは海とは反対の北側の風景。
ここは夜景も綺麗かもしれないね。 -
自分の足で登って来たのでより清々しさを感じます〜。
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自動販売機で買った飲み物で喉を潤しながら散策。
ほんとに今日は夏を感じる暑さです。
つつじの鮮やかなピンクが目に入る。 -
テレビ塔とは別に展望台があったので上ってみました。
ですが、こっちは風がすごく強い!
カメラが吹き飛ばされそうです。 -
ここからは相模湾を180°見渡せます。
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小田原方面の風景。
真鶴半島がぼんやり見えますね。 -
ひゃ〜、風が強すぎ!
そろそろ山を下りることにしよう。 -
今度は大磯駅方面へまっすぐに下れる道を行きました。
こっちの道は比較的歩きやすくて安全。
でもあまり知られていないのか、誰とも擦れ違いませんでした。 -
そのうち舗装された道に辿り着き、住宅地になりました。
途中に善兵衛池というのがあった。 -
この辺は海岸近くと違ってあきらかに高級な雰囲気の住宅地です。
創造力あふれるユニークな外観の家もあって、どんな人が住んでるだろうと考える。
そういえば、村上春樹は今もこの辺に住んでるのだろうか? -
どこか軽井沢の別荘地を思わせるような住宅地です。
同じ避暑地としての涼やかさがあります。 -
道に迷ってしまい、住宅地を適当に歩いてたら林の中の道に入りました。
すると、道の真ん中で2匹の黒い蝶が優雅に舞っていました。
さらに近くに白い蝶も1匹。
蝶の動きが速すぎて写真には撮れなかったけれど、すごく優美な舞でした。
なんて美しい光景だろう…。
道に迷ったおかげで蝶に巡り会えたことを喜びながら、神奈川にもこんな美しさがあるんだなぁと感激しました。 -
林の中の道の先には林の中の池がありました。
どうやらここで行き止まりみたい。 -
再び道を引き返し、まだ蝶が舞ってるのを観察してから、今度はなぜかまた山道のようなところへ。
今日も地図を持ってないのでとにかく勘で歩く。
途中、若い女性1人と擦れ違う。
この道がどこに続くかわからないけど、女性が1人で歩けるんだから変な道ではないだろう。 -
その予想通り、山道を抜けると神社に出ました。
御嶽神社、というようです。 -
垣根の道を抜けると、そこは線路沿いでした。
線路を越えれば、大磯の中心部です。
勘だけで道を抜けだせるとすごく嬉しい! -
東海道の宿場町でもあった大磯。
ほとんど面影は残ってませんが、風情あるお店も。 -
国道沿いの菓子屋「船橋屋織江」。
村上春樹がこの店の柿の種の美味しさを本に書いてたので、どんなものなのか買ってくことにしたのです。
しかし店に入り陳列を見ると、「柿の種」のケースがからっぽ!!
「柿の種は売り切れちゃったんですよ〜」
えぇ、柿の種だけ売り切れるとはこれもハルキ効果か?
「柿の種は月曜に新しく入りますよ〜」
いや、また月曜に大磯まで来るわけにはいかないんですけど…(笑)。
でも店の女性もその子供らしい利発そうな男の子も感じが良かったので何か買ってくことに。
オススメを聞くと、「花吹雪」というピーナッツの入ったせんべいが名物と言うのでそれを買いました。
これも香ばしくて美味です〜。 -
大磯には現在の文学者だけでなく、過去にも文学者が住んでいました。
たずねたのは地福寺。 -
ここにあるのが島崎藤村の墓です。
島崎藤村は晩年の2年間を大磯で過ごしたのです。 -
なんとも地味で質素な墓です。
藤村は簡素を信条としていたんだそうです。
そう考えると、どんな巨大な墓よりも美しいような気もしますよね。 -
寺を出て、国道を歩いていきます。
途中で見つけた湘南発祥の地の碑。 -
日本三大俳諧道場のひとつ、鴫立庵です。
車が走り抜ける国道沿いにあるのですが、ここだけ違う空気が漂っています。
西行の詠んだ歌、「心なき身にもあはれは知られけり鴫立沢の秋の夕暮」。
沢の水音が辺りに響く…。 -
住宅地の一角にはこんな建物が残されてました。
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かつて島崎藤村が住んでいた家です。
藤村は「静の草屋」と呼び、亡くなるまでの2年間を過ごしました。 -
ここは無料で見学させてくれます。
ここもまた簡素な家だなぁ。 -
藤村がこの家で亡くなったのは昭和18年8月。
妻の静子に書き上げた原稿を読んでもらってる最中に倒れ、その後息を引き取った。 -
藤村は意識を失う間際、最後に庭を見ながらこう呟いた。
「涼しい風だね」
気持ち良さそうに涼風を感じているようだった、という。
今日の強くなりはじめた風を感じながら、その夏の日の風を想像した。 -
ところでここで初めて知ったのですが、島崎藤村の本名は「春樹」というんだそうです。
ということは、この大磯には時代のまったく異なる、しかしともにその時代を代表する2人の「春樹」という作家が住んでいたことになる。
島崎春樹と村上春樹。
文学者がこの大磯に惹き付けられる理由はどこにあるんだろう。
もしかしたら、山にも近く海にも近い独特の立地がその理由のひとつかもしれない。 -
大磯で書くということ…。
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国道に今も残る松並木。
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国道を気持ち良さそうに自転車で走って行く青年がいました。
それを見ながら、この東海道を自転車でどこまでも旅するのもいいなぁ、とか思いました。
実現するしないは別として、そんなことを思い描きたい。 -
旧吉田茂邸の入り口。
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空が曇りに変わる中、県立公園だという大磯城山公園に着きました。
ちらほらと散歩に訪れる人が見られます。 -
この公園は昔はお城で、やがて三井財閥の別荘になったという。
茶室などがあるほか、秋は紅葉も美しいらしい。 -
三井別荘時代の唯一の遺構だという蔵がありました。
入口は施錠されてて入れません。 -
城山公園の展望台から見る相模湾の海。
曇ってしまったので随分と海の色も変わった感じ。
今日はあとはあの海辺へ行くだけだ。 -
テトラポットを飛び越えて、辿り着いたのは「こゆるぎの浜」という海岸でした。
大磯の西部に長くつづく海岸です。 -
ここは同じ大磯の海岸でも朝行った北浜海岸とはまるで趣が違います。
北浜海岸が明るく湘南らしい雰囲気なのに対して、このこゆるぎの浜は茫漠としたうら寂れた雰囲気でまるで日本海の海岸のような趣です。
荒い波の音しか聞こえない、暗く沈んだ海岸…。
この海岸へ来たのにはひとつ、気になることがあったからです。
きっかけは一通のメールでした。
はたしてこの海岸にそれはあるだろうか? -
僕は何年も前の冬にこの海岸を訪れたことがありました。
その頃すでに幼いながらも、近場に遊びに行っては旅行記を作ってネットに載せる、ということをしていました。
もちろん稚拙な旅行記だったのでほとんど見に来る人はいなくて、自己満足という感じでしたが。
この大磯の海岸を訪れたときも、帰ってからすぐに旅行記を作ってネット上にアップしました。
すると、しばらくしてからその旅行記を見たという人から不意に一通のメールが届いたのです。
ほんとに不意に、でした。 -
僕の旅行記を見た人からメールが届くなんていうのはすごく珍しいことだったので、嬉しくてそのメールはしっかり覚えてます。
しかしその内容は実に不思議なものでした。
大磯の旅行記を見たというその人は「ふたつ質問があります」と書いていました。
まずひとつめの質問は「旅行記に書かれている太平洋岸自転車道というのはどういう道ですか」というものでした。
そこで僕は「海に沿った西湘バイパス沿いにつづく自転車専用道路です」とそんな答えを書きました。
奇妙なのは次のふたつめの質問でした。 -
ふたつめの質問はこうでした。
「大磯の海岸に廃屋はありますか?」
その質問の理由もなく、ただそれだけ。
大磯の海岸に廃屋??
僕は海岸の風景を思い出しましたが、廃屋は記憶にありませんでした。
そこで「廃屋はなかったと思います。ただすべてを見たわけではないので、はっきりとはわかりません」と返事しました。
その後、お礼のメールでも来るかなと待ってましたが、なにも来ませんでした。
それですべては終わり、僕もすぐにこのことは忘れていきました。 -
何年か経ってから、ふとそのメールのことを思い出しました。
その人はなぜ、大磯の海岸で廃屋を探していたのだろう?
奇妙なのは、僕は旅行記に「廃屋」なんていう言葉を一言も書いていないことでした。
ただ「人がほとんどいない寂しい海岸だった」とその程度のことを書いていただけなのです。
それなのになぜ、廃屋の話が唐突に出てきたのか。
もし大磯の海岸に廃屋があったなら、その人はそこで何をしたかったのだろう?
そして、そもそも大磯の海岸に本当に廃屋はないのか。
いつかもう一度確かめに行きたい、と思いながらもなかなか行けませんでした。 -
その大磯の海岸というのが、このこゆるぎの浜でした。
今日、大磯を再訪した理由のひとつが、この海岸に廃屋があるのかないのか確かめたい、ということでした。
はたしてこの海岸に廃屋はあるだろうか? -
海岸には釣り人や犬の散歩をする人が数人いるだけであの冬と同じ暗く沈んだ雰囲気でした。
スニーカーでは歩きづらくて、歩いても歩いても周りの風景が変わらず、いつまでも前に進まないような感覚になる海岸です。
風の強さが不穏な空気を運んできます。 -
そんな海岸で廃屋を探しました。
しかし管理小屋らしき建物や倉庫はありましたが、廃屋と呼べる建物は見当たりません。
雰囲気としては廃屋の一軒くらいあっても不思議ではない感じですが、やはりそれはありませんでした。 -
海岸の端から端まで歩くとなんと1時間もかかりました。
その1時間、ほとんど同じ場所で足を動かしていただけのような感覚です。
それくらい景色に変化のない海岸なのです。
そして結局、廃屋はありませんでした。 -
その人がなぜ、この海岸に廃屋を求めていたのか、もちろん理由はいくらでも思い付けます。
その人は映画を撮っていて、海岸の廃屋というロケーションが欲しかったのかもしれない。
その人は廃墟マニアで、各地の海岸の廃屋を周っていたのかもしれない。
そういうことにして片付けることもできます。
ただやはり、なぜそのメールを僕に送ってきたのか、という謎は残されたままです。 -
気が付けば、照ヶ崎海岸まで歩いてきていました。
ここは日本初の海水浴場でした。 -
海岸の上空を鳥が飛んでいます。
5月から飛来するというアオバトかな?
いや、よく見れば違いました。 -
強い風が吹き付けて、肌寒く感じるほどでした。
メールの謎に導かれてここへ来たけれど、結局謎は解けなかった。
でもそれでいいのかもしれない。
謎は謎のままとっておこう。
謎からはじまる旅もあるのだから。
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この旅行記へのコメント (4)
-
- ゆういちろうさん 2010/05/24 21:51:20
- 謎・・・
- がりさん、こんばんは〜。
今回もとても魅力的なショートトリップでしたね。
読み終わった後に何かもやもやした物が残る感覚は
ヨーロッパの映画を見た後と同じものでした。
それにしてもそのメールは本当に不思議。
その方は空想で大磯の旅をしていたのかな??
自転車に乗って進む湘南の海岸。
しかしその海は明るいのだろうか?暗いのだろうか?
海岸に廃屋があると、暗くて寂しいイメージになる…?
そんな事を考えながら旅行記を読ませていただきました。
そして島崎藤村の最期(?)の言葉。
自然の事象に喜びを感じ、感謝をし、
心穏やかに最期を迎えられるなんて
とても素晴らしく、羨ましい事と思いました。
ゆういちろう
- がりさん からの返信 2010/05/25 23:56:18
- RE: 謎・・・
- ゆういちろうさん、こんばんは!
> 今回もとても魅力的なショートトリップでしたね。
> 読み終わった後に何かもやもやした物が残る感覚は
> ヨーロッパの映画を見た後と同じものでした。
大磯は近いのに行く機会がない場所で、新たな発見がたくさんありました。
というか、湘南の海自体ほとんど行かないんですけどね。
最寄駅から江ノ島までは電車で20分もかからないのですが、最近は全然行かないなぁ。
よく人に「一応、湘南です」と言うと、いいね〜海に近くて〜とか言われるのですが、そのたびに戸惑いますね。
もう何年も湘南の海、見てないんですけど…って感じで(笑)。
だからこの大磯ショートトリップで久々に湘南の海を見れました。
> それにしてもそのメールは本当に不思議。
> その方は空想で大磯の旅をしていたのかな??
謎のメールでしたね。
旅行記には冬の海岸の写真を1枚載せてたので、もしかしたらそこから廃屋というインスピレーションが生まれたのかもしれません。
その人がなぜ海岸の廃屋を探していたのか謎ですが、確かに廃墟ってすごく魅力的ですよね。
長く重い時間が閉じ込められた、朽ち果てた建物…。
そこに不思議な美しさを感じる瞬間がありますね。
軍艦島も興味あるのですが、建物の中は見学できないんですよねぇ。
> そして島崎藤村の最期(?)の言葉。
> 自然の事象に喜びを感じ、感謝をし、
> 心穏やかに最期を迎えられるなんて
> とても素晴らしく、羨ましい事と思いました。
美しい終わり方ですよね〜。
その風は海から吹いてきた風なのか、山から吹いてきた風なのか…。
どちらにしても、大磯で最期を迎えたからこそ、感じることのできた風なんでしょうね。
-
- 三昧さん 2010/05/23 13:12:22
- いい感じの旅行記ですね
- がりさん、はじめまして こんにちは!
タイトルに興味を持って、もませてもらいました。
ミステリー的で、途中 昔昔の思い出のテレビ塔も登場してきたりで、楽しませてもらいました。
幻の廃屋が見つからなかった事が、旅行記の完成度を盛り立てていますね。
黒鯛釣師。
- がりさん からの返信 2010/05/24 00:27:34
- RE: いい感じの旅行記ですね
- 黒鯛釣師さん、はじめまして!
旅行記を読んで頂き、ありがとうございます〜。
> ミステリー的で、途中 昔昔の思い出のテレビ塔も登場してきたりで、楽しませてもらいました。
こんなにミステリー調の旅行記にするつもりはなかったのですが、自然となっちゃいました。
この海岸が、ミステリー小説にでも出てきそうな独特の雰囲気だからかなぁ。
湘南の海岸では珍しい、寂しさに包まれた所です。
大磯は陽と陰がある町だと思いますね。
湘南平のテレビ塔での思い出ということは、たぶん素敵な甘い思い出なんじゃないでしょうか?(笑)
湘南平は気持ちのいいところですよね!
普段は湘南の海は綺麗だとは思わないのですが、ここから見る湘南の海だけは確かに綺麗です。
> 幻の廃屋が見つからなかった事が、旅行記の完成度を盛り立てていますね。
廃屋を見つけていたら味気ない気持ちになってしまったかもしれないので、それでよかったのかもしれません。
でも随分と前の出来事なので、もしかしたらその頃には廃屋は実在した…ということもありえるかも…。
この海岸に廃屋があったらいかにも絵になりそうなので。
もう少し早く行っていたら見つけられてたかもしれませんが、今となっては幻ですね。
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