<br />1962年1月29日（月）<br /><br /><br />「日本では君の帰りを待っている！」<br /><br />昨日伺ったＭさんの言葉が心に残り、今日は特に日本が恋しい。<br /><br />望郷、家族を思う心は、ここにいる限りひとときも途絶えることはない。<br /><br />四六時中心の底に、滔々と音をたて、あるいは音をひそめて、流れ続けている。<br /><br />ただそれを表に出しても満たされない心が残るので、あえて閉じ込めている。<br /><br />その底流が、ほとんど我慢が出来ない限界にまで高まることがある。<br /><br /><br />フランス国鉄から電話連絡があり、久々に私の担当窓口である総務部を訪問する。<br /><br />交流電化は、東海道新幹線になくてはならない技術である。<br /><br />この技術は、フランスで発掘され育てられた。<br /><br />日本はその技術を学ぼうと調査団を派遣し、フランスは前向きに受け入れた。<br /><br />日本を大切な顧客と理解し、大商談を期待したのだが、日本はフランスから機関車や技術を買うことなしに、自分の力で作り上げてしまった。<br /><br />これは信頼を裏切る行為として、フランスは日本を悪者と考える。<br /><br />昨年の夏私がパリに着いたころ、フランス国鉄の対応が最悪だったのも、そのためなのだ。<br /><br /><br />私はさっそくこの事態を日本に知らせ、総裁が来られた時も解決策を強くお願いした。<br /><br />そして日本は早急に段取りを整えて、昨年の晩秋フランス国鉄の副総裁をチーフとする大デレゲーションを、日本に招待することに成功する。<br /><br />今日の呼び出しは、その結果を私に知らせようとしてくれたのだ。<br /><br />まず出会った総務部長は、私にニコニコしながら握手してくれ、今までとは１８０度違う温かい態度に、私は戸惑うほどだった。<br /><br />両国鉄間に流れていた冷たい空気が一掃されたことを感じ、思わず万歳を叫ぶところだった。<br /><br /><br />夜はパリ滞在中のＭさんに誘われ、簡単な食事を済ませた後に、フォリー・ベルジェールのショーを見る。<br /><br />帰宅したのは午前１時、久々に夜の門衛ミュノスさんと握手を交わし、たばこ一本で立ち話を楽しむ。<br />

1962年のパリだより【763】日仏両国鉄間の信頼関係が戻る

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1962/01/29 - 1962/01/29

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#その他

ソフィさん

1962年1月29日（月）

「日本では君の帰りを待っている！」

昨日伺ったＭさんの言葉が心に残り、今日は特に日本が恋しい。

望郷、家族を思う心は、ここにいる限りひとときも途絶えることはない。

四六時中心の底に、滔々と音をたて、あるいは音をひそめて、流れ続けている。

ただそれを表に出しても満たされない心が残るので、あえて閉じ込めている。

その底流が、ほとんど我慢が出来ない限界にまで高まることがある。

フランス国鉄から電話連絡があり、久々に私の担当窓口である総務部を訪問する。

交流電化は、東海道新幹線になくてはならない技術である。

この技術は、フランスで発掘され育てられた。

日本はその技術を学ぼうと調査団を派遣し、フランスは前向きに受け入れた。

日本を大切な顧客と理解し、大商談を期待したのだが、日本はフランスから機関車や技術を買うことなしに、自分の力で作り上げてしまった。

これは信頼を裏切る行為として、フランスは日本を悪者と考える。

昨年の夏私がパリに着いたころ、フランス国鉄の対応が最悪だったのも、そのためなのだ。

私はさっそくこの事態を日本に知らせ、総裁が来られた時も解決策を強くお願いした。

そして日本は早急に段取りを整えて、昨年の晩秋フランス国鉄の副総裁をチーフとする大デレゲーションを、日本に招待することに成功する。

今日の呼び出しは、その結果を私に知らせようとしてくれたのだ。

まず出会った総務部長は、私にニコニコしながら握手してくれ、今までとは１８０度違う温かい態度に、私は戸惑うほどだった。

両国鉄間に流れていた冷たい空気が一掃されたことを感じ、思わず万歳を叫ぶところだった。

夜はパリ滞在中のＭさんに誘われ、簡単な食事を済ませた後に、フォリー・ベルジェールのショーを見る。

帰宅したのは午前１時、久々に夜の門衛ミュノスさんと握手を交わし、たばこ一本で立ち話を楽しむ。