2007/08/22 - 2007/08/22
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フーテンの若さんさん
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タメル地区にある日本食レストラン「ちゃちゃかふぇ」。
僕は、頼んだ和風ハンバーグセットが出来上がるのを待っていた。時間は午前11時半過ぎ。ランチには少し早いが、昼を抜いたのですでにお腹ペコペコなのだ。まだ僕以外にはお客さんは誰もいない。マンガでも読もうと手を伸ばしたとき、「こんにちわ」と大きな挨拶とともに店内に誰かしら入って来た。
席は他にも空いているに、その人は僕の隣席に座ろうとしていた。よっこいっしょと、元気な掛け声はするけれど、姿はいっこうに見えてこない。座高の高いカウンターの木椅子にお尻が届かないようだ。見兼ねて、椅子を引いて座るのを手伝ってあげた。
ようやく見えた隣の姿の正体は、小柄なおばさんであった。
「いやー、助かったわ。この歳になると、椅子に座ることすら一苦労なのよ」
おばさんといっても、見た感じうちの母と同じくらいで60歳半ばぐらい。ネパールでは、こうしたご年配の日本人旅行者とよく出会う。熟年層世代で山登りが流行っていると聞くから、日本以外の山にも登りたくなって、海外トレッキングに初挑戦てな感じだろうか。ネパールは、なにせ世界最高峰のヒマラヤ山脈でトレッキングができる国だ。山好きにはたまらないのだろう。おばさんもそんなうちの一人なのかもしれない。
「今日は何頼もうかしら。やっぱりいつものアレかしら?」
独り言が多いのもこの世代の特徴だ。
「あら、それはハンバーグ?美味しい??」
と早速、僕は話しかけられた。この世代の方は、初対面でも溶け込むように会話をしてくる。僕は人見知りが激しく、同じ日本人旅行者と出会っても話しかけるのは大の不得意で、会話の糸口を簡単には見つけることができないでいる。そんなことを意にも介さないおばさんの性格を少し羨ましく思った。そして、いつの間にか僕は、このおばさんのペースに乗ってしまっていた
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「最初はね、もうほんっとにイヤだったんですよ。食事は不衛生だし、道は埃だらけ、雨水は溜まるし、ゴミの臭いが充満しているし、停電はしょっちゅうじゃないですか」
息子ほど年齢が離れた僕にも、きちんとした敬語を使う丁寧なおばさんであった。もう3ヶ月もネパールに滞在しているのだという。
おばさんはパック旅行以外で旅をするのは、今回が初めての経験らしい。個人旅行で汚い路地裏や不衛生なレストランだとかに入ってみて、大きなカルチャーショックを受けたようだ。
「それで生野菜に当たっちゃってからは、もう何も食べれなくなって。当時と比べたら7キロも痩せちゃったんですよ」
体調を壊してからは大変だった。慣れない土地で、言葉もまったく通じない(おばさんは英語がまったく喋れない)。もう帰ろうかと思い悩んでいたところ、周りにいた多くの人が助けてくれたのだという。ホテルのネパール人や、同じホテルに泊まっていた西洋人、日本食レストランで知り合った同じ年配の旅行者たち。彼らが親身になって助けてくれた甲斐があって、おばさんはすっかり復調したのだという。
「それでね。体も戻ったし、天気もよくなりそうだから、いよいよ山に登ろうかと思いまして」
ポカラからシェルパを連れてトレッキングへ行く。更にはインドまで足を伸ばした後、戻ってきて更に本格的なヒマラヤトレッキングをする計画なのだという。
「やっと旅が面白くなり始めたのね。先日、日本にいる娘にお金ないから送金してって連絡までしちゃった」
マシンガンのように旅の話は止まらない。食事を取る手もさっぱり進まず、話すことに夢中。でもおばさんの顔はとても嬉しそうであった。そんなおばさんを見ていたら、とても話を遮る気にはなれない。
村に住むネパール人の結婚式に参加したときのこと、山羊の生贄を祭る寺を見に行ったときのこと、ブータン国境まで遊びに行ったときのこと。気が付くと、すでに14時前になっていた。僕は2時間以上も、おばさんとの会話に夢中になっていたことになる(一方的に話を聞いていただけですが)。一つ気になったことがあったので、最後に僕の方から始めて質問してみた。「旦那さんは日本に置いてきているのか」という質問だ。
「うちの夫はもう死んでしまいました。5年前にね。夫がいたときはね、一切、外に出れなかったんですよ。でも、もう5年も経ったことですし、そろそろ私も自由に外に出ていいかなと思って、今回思いきってネパールまで出てみたんですよ。そしたらこんなふうに楽しくって楽しくって、仕方がないじゃないですか。見るもの、聞くもの、会うもの、全てが新鮮ですし、感動するしでね。日本に閉じこもっていては、こんな経験は絶対に出来ないですわよねー」
そして、しみじみ感情を込めて、こう締めくくった。
「やっぱり旅っていいわよね〜。いろいろあったけど来てよかったわ」
おばさんの目はキラキラ輝いていた。
このとき、僕は思った。旅するのに年齢は一切関係ないのだ。旅での感動は、幾つになったって出来る。そして、旅をしている人は歳を取らないのではないかと思うぐらいみな若々しいままでいられる。
確かに、旅っていいものですよね〜。
僕もそう同意の返事をした。こんなおばさんに偶然出会えるのもまた旅の醍醐味の一つ。だから旅ってやっぱ面白いのだ。 -
「ちゃちゃかふぇ」のおばさんにぜひにと一番強く薦められたのが、このバクダプル。古都の街で、映画「リトル・ブッダ」が撮影された場所でもある。
石畳のバザールを抜け、タチュバル広場まで歩く。そこからさらに奥に入り、迷路のような複雑な路地を越えていくと、まるで時間が止まったように、中世の町そのままのたたずまいが残っていた。 -
なぜかここを訪れる観光客は多くない。だから、この街の人たちは、カトマンズほど観光客慣れしておらず、親しみやすかった。家の前で働いているおばちゃんは何かしら話しかけてくるし、路地で遊ぶ子供たちは僕のカメラに興味があって離れられない。
地元の人たちとのやりとりが、ただひたすら楽しい。言葉の意味こそよくわからねど、身振り手振りでのコミュニケーションもまた面白い。彼らは何かを伝えようと必死だった。おそらく数百年も前から、変わっていないであろうこの街の人たちの姿。大人も子供も純真そのものだ。やっぱりアジアはいい。ここに住む人たちも世界遺産だ。
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