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 翌朝6時に起き、支度をした。今日はいよいよ念願の象牙塔を見に行くのだ。古い版の『地球の歩き方』で写真を見、その威圧感のある姿に心打たれ、いつか見たいと思い続け数年が経った。そして、今日その日が来たのだ。<br /> ホテル近くのロータリーで客待ちをしていたバイクタクシーに声をかけた。昨日同様、象牙塔の写真を見せ、ここへ行きたいと伝えた。サングラスをかけたずんぐりした体型の男は頷き、5万ドンだと言った。値段を聞いた瞬間に直感した。「この男も銀塔へ連れて行こうとしている」と。昨日の運転手の言い値と全く同じなのだ。結局、銀塔の前で値段交渉をやり直すことになるのだ。<br /> クイニョン市街は、既に通勤時間帯入ったようで、交通量は多かった。バイクは順調に走り、トゥイフォックの街を過ぎると、交通量はかなり減った。そこから約15分走るとあの銀塔が見えた。予想通り男はスピードを緩め、路肩に停まった。<br /> 「あれだろ?」<br /> 僕は思わず苦笑いをした。もう、違うって。おそらく、ここの人たちにすると、チャンパの遺跡とは一番近くにある銀塔を指すのだろう。再び象牙塔のコピー写真を見せ、「ほら、一、二、三、三つ塔があるでしょ?」<br /> 「あれもあるじゃねーか、三つ」<br />形が全然違うだろ(苦笑)。僕は、紙の余白に地図を書いて説明した。<br /> 「バギっていうところ...」<br /> 「バギ?」<br /> 「バジー?」<br /> 「バジ!」<br /> 「そう、そこを左折して、フフォン?」<br /> 「フフォン?」<br /> 「...というところがあるから、そこを右折するんだよ」<br /> 地図が読めないと言われるベトナム人に地図を書いて説明したが、どうやらわかってくれたようだ。<br /> 「で、いくら?」<br /> 「うーん、遠いからな。××ドン」<br /> 「えっ?」<br /> 「往復だろ? だから××ドン」<br /> 何と言っているのか全くわからない。昨日もそうだったが、この地方の数字の発音は全く聞き取れない。紙に書かせると「8万ドン」と書いた。往復で80キロはあるだろうから、そんなところだろう。昨日のバイクタクシーもここまでで5万ドンだった。どうやらクイニョンのタクシーの運賃は固定相場のようだ。ベトナムでは珍しいが、いいことだ。バイクはUターンし、バジからフフォンへ向った。道路は空いていて、夏の風を浴びて、爽快な気分になった。ドライバーは他のバイクを抜いたり抜かれたりするたびに道を聞いている。そして、誰もが「真っ直ぐ行って右だ」みたいなことをジェスチャー交じりにしゃべっていた。道端の道標はフフォンまで30キロとなっていた。かなり時間がかかりそうだ。 <br /> 有料道路の入り口で料金所のおばちゃんにまた尋ねていた。おばちゃんは、引き返してどうのこうのと言っている。ひょっとして間違えたか? 今度は隣の男に確認すると、「真っ直ぐ行って右」と言っている。延々走り続けて、ここで引き返すとなると精神的にかなりこたえる。バイクは男の言ったとおり、真っ直ぐ走り出した。山があって水田が広がり、風景はほとんど変わらない。この地域は、ベトナムでも最も貧しいところと言われているが、この広大な水田地帯を見ていると、とても信じられない。<br /> 1時間以上は走っただろうか。一瞬だが、右手の彼方に象牙塔が見えた。この方向で間違いないようだ。安堵のため息が不安の塊を吐き出したような気がした。<br /> 小さな街に着いた。どうやらここがフフォンらしい。ドライバーは右折する場所を何人もの人に尋ねている。右折した道は乗用車が1台通れる程度の幅しかないダートだった。途中で2度目の給油をした。「すまんが1万ドン出してくれ」というので出してやったら、おつりはちゃっかり自分の懐に入れていた。時計を見たら8時を過ぎている。既に1時間半以上走ったことになる。ニャチャンへ戻る12時のバスに間に合うだろうか。

忘れ去られた歴史への旅 チャンパ王国の遺跡を訪ねて?  田園の中の廃墟−象牙塔

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2002/09/20 - 2002/10/05

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ハイペリオン

ハイペリオンさん

 翌朝6時に起き、支度をした。今日はいよいよ念願の象牙塔を見に行くのだ。古い版の『地球の歩き方』で写真を見、その威圧感のある姿に心打たれ、いつか見たいと思い続け数年が経った。そして、今日その日が来たのだ。
 ホテル近くのロータリーで客待ちをしていたバイクタクシーに声をかけた。昨日同様、象牙塔の写真を見せ、ここへ行きたいと伝えた。サングラスをかけたずんぐりした体型の男は頷き、5万ドンだと言った。値段を聞いた瞬間に直感した。「この男も銀塔へ連れて行こうとしている」と。昨日の運転手の言い値と全く同じなのだ。結局、銀塔の前で値段交渉をやり直すことになるのだ。
 クイニョン市街は、既に通勤時間帯入ったようで、交通量は多かった。バイクは順調に走り、トゥイフォックの街を過ぎると、交通量はかなり減った。そこから約15分走るとあの銀塔が見えた。予想通り男はスピードを緩め、路肩に停まった。
 「あれだろ?」
 僕は思わず苦笑いをした。もう、違うって。おそらく、ここの人たちにすると、チャンパの遺跡とは一番近くにある銀塔を指すのだろう。再び象牙塔のコピー写真を見せ、「ほら、一、二、三、三つ塔があるでしょ?」
 「あれもあるじゃねーか、三つ」
形が全然違うだろ(苦笑)。僕は、紙の余白に地図を書いて説明した。
 「バギっていうところ...」
 「バギ?」
 「バジー?」
 「バジ!」
 「そう、そこを左折して、フフォン?」
 「フフォン?」
 「...というところがあるから、そこを右折するんだよ」
 地図が読めないと言われるベトナム人に地図を書いて説明したが、どうやらわかってくれたようだ。
 「で、いくら?」
 「うーん、遠いからな。××ドン」
 「えっ?」
 「往復だろ? だから××ドン」
 何と言っているのか全くわからない。昨日もそうだったが、この地方の数字の発音は全く聞き取れない。紙に書かせると「8万ドン」と書いた。往復で80キロはあるだろうから、そんなところだろう。昨日のバイクタクシーもここまでで5万ドンだった。どうやらクイニョンのタクシーの運賃は固定相場のようだ。ベトナムでは珍しいが、いいことだ。バイクはUターンし、バジからフフォンへ向った。道路は空いていて、夏の風を浴びて、爽快な気分になった。ドライバーは他のバイクを抜いたり抜かれたりするたびに道を聞いている。そして、誰もが「真っ直ぐ行って右だ」みたいなことをジェスチャー交じりにしゃべっていた。道端の道標はフフォンまで30キロとなっていた。かなり時間がかかりそうだ。 
 有料道路の入り口で料金所のおばちゃんにまた尋ねていた。おばちゃんは、引き返してどうのこうのと言っている。ひょっとして間違えたか? 今度は隣の男に確認すると、「真っ直ぐ行って右」と言っている。延々走り続けて、ここで引き返すとなると精神的にかなりこたえる。バイクは男の言ったとおり、真っ直ぐ走り出した。山があって水田が広がり、風景はほとんど変わらない。この地域は、ベトナムでも最も貧しいところと言われているが、この広大な水田地帯を見ていると、とても信じられない。
 1時間以上は走っただろうか。一瞬だが、右手の彼方に象牙塔が見えた。この方向で間違いないようだ。安堵のため息が不安の塊を吐き出したような気がした。
 小さな街に着いた。どうやらここがフフォンらしい。ドライバーは右折する場所を何人もの人に尋ねている。右折した道は乗用車が1台通れる程度の幅しかないダートだった。途中で2度目の給油をした。「すまんが1万ドン出してくれ」というので出してやったら、おつりはちゃっかり自分の懐に入れていた。時計を見たら8時を過ぎている。既に1時間半以上走ったことになる。ニャチャンへ戻る12時のバスに間に合うだろうか。

同行者
一人旅
一人あたり費用
10万円 - 15万円
航空会社
キャセイパシフィック航空
  •  フフォンから10キロだというのに、かなり走っている気がする。狭い道だが、車や人の往来が多く、車が通るたびに埃が舞い上がり、人々は顔をしかめ、バイクタクシーのドライバーは一旦停止してやり過ごしていた。<br /> 小さな村をいくつか過ぎ、坂を上り、また下った。いい加減乗っているのが嫌になってきた頃だった。木立が切れ眺望が広がった。そして、巨大な3つの塔がゆっくりと田園地帯の中にシルエットとなって姿を現した。<br /> 象牙塔だ。その巨大な姿は、周囲の風景と完全に一線を画した雰囲気を醸し出していて、そこだけがまるで異空間のようだった。ついに来た。何年間も思い続けていたこの塔に。<br /> 道路を右折し、あぜ道を走り、象牙塔に近づいていく。興奮を抑えきれず、飛び降りて走り出したい気分だ。<br /> バイクを降りて塔への歩を進めた。近づくにつれ、その巨大さに圧倒されてしまう。周囲では農民たちが、辺鄙な田舎の村にやってきた僕を物珍しそうに見ていた。軽く会釈すると、彼らは照れたように微笑んだ。<br /> 塔から一匹の野良犬がとぼとぼとやってきて、僕の脇をすり抜けて行った。塔の周囲に金網を張り巡らせる作業を若者一人がやっていた。やっと修復の準備が始まったようだ。

     フフォンから10キロだというのに、かなり走っている気がする。狭い道だが、車や人の往来が多く、車が通るたびに埃が舞い上がり、人々は顔をしかめ、バイクタクシーのドライバーは一旦停止してやり過ごしていた。
     小さな村をいくつか過ぎ、坂を上り、また下った。いい加減乗っているのが嫌になってきた頃だった。木立が切れ眺望が広がった。そして、巨大な3つの塔がゆっくりと田園地帯の中にシルエットとなって姿を現した。
     象牙塔だ。その巨大な姿は、周囲の風景と完全に一線を画した雰囲気を醸し出していて、そこだけがまるで異空間のようだった。ついに来た。何年間も思い続けていたこの塔に。
     道路を右折し、あぜ道を走り、象牙塔に近づいていく。興奮を抑えきれず、飛び降りて走り出したい気分だ。
     バイクを降りて塔への歩を進めた。近づくにつれ、その巨大さに圧倒されてしまう。周囲では農民たちが、辺鄙な田舎の村にやってきた僕を物珍しそうに見ていた。軽く会釈すると、彼らは照れたように微笑んだ。
     塔から一匹の野良犬がとぼとぼとやってきて、僕の脇をすり抜けて行った。塔の周囲に金網を張り巡らせる作業を若者一人がやっていた。やっと修復の準備が始まったようだ。

  •  3つの塔は東に向いて建ち、朝の光を浴びて鮮やかにその姿を浮かび上がらせていた。青空とのコントラストが美しい。塔の屋蓋に草が生い茂っているのは、今まで見た島と同じだ。しかし、形は全く異なっている。屋蓋に尖塔はなく、4層の頂上には蓮の玉座が乗っている。開口部から中を覗いたが、内部はがらんどうだった。<br /> 3つの塔は、真ん中が最も高いのだが、3つそれぞれに形が異なっている。正面の前房は消失しており、往時の完全な姿を想像するのは不可能だ。建立されたのは13世紀頃とのことだが、この時代は隣国クメール王国(現在のカンボジア)との関係が緊密な時代で、装飾様式にもクメール様式が採り入れられている。<br /> 広々とした田園地帯の中に立つ姿は実に見事だが、ここを訪れる地元の人は全くいないようだ。塔の周囲に生い茂る雑草をみるとそれがよくわかる。集落からそれほど離れているわけではないし、登るのが困難な丘の上に建っているわけではないのに。祠堂の中に神様が安置されていないからだろうか。がらんどうの建物だけだと有り難味も何も感じないのだろう。外観は立派のひと言だが、誰も寄り付かず廃墟となってしまった今では、風の中に佇む空虚な存在感しか生み出せなくなってしまっているようだ。

     3つの塔は東に向いて建ち、朝の光を浴びて鮮やかにその姿を浮かび上がらせていた。青空とのコントラストが美しい。塔の屋蓋に草が生い茂っているのは、今まで見た島と同じだ。しかし、形は全く異なっている。屋蓋に尖塔はなく、4層の頂上には蓮の玉座が乗っている。開口部から中を覗いたが、内部はがらんどうだった。
     3つの塔は、真ん中が最も高いのだが、3つそれぞれに形が異なっている。正面の前房は消失しており、往時の完全な姿を想像するのは不可能だ。建立されたのは13世紀頃とのことだが、この時代は隣国クメール王国(現在のカンボジア)との関係が緊密な時代で、装飾様式にもクメール様式が採り入れられている。
     広々とした田園地帯の中に立つ姿は実に見事だが、ここを訪れる地元の人は全くいないようだ。塔の周囲に生い茂る雑草をみるとそれがよくわかる。集落からそれほど離れているわけではないし、登るのが困難な丘の上に建っているわけではないのに。祠堂の中に神様が安置されていないからだろうか。がらんどうの建物だけだと有り難味も何も感じないのだろう。外観は立派のひと言だが、誰も寄り付かず廃墟となってしまった今では、風の中に佇む空虚な存在感しか生み出せなくなってしまっているようだ。

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