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KAUBEさん
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もんくの多い旅びと
●不便な変則バスルート
バスは屈斜路湖畔から美幌峠を経由して美幌駅まで行っていて、阿寒湖発美幌行きとその逆コース。所要5時間の長距離路線である(赤線)。そして、それしかない。
ふつうは、
・摩周駅⇔摩周湖
・摩周駅⇔阿寒湖
・摩周駅⇔屈斜路湖和琴
・川湯温泉駅⇔屈斜路湖
というように、湖と最寄の町や駅とをそれぞれ往復するルートで路線バスを走らせるのが常識的だと思うけど、なぜかそういうのはない。
バスはみんな摩周湖の展望台や硫黄山などでのんびり停まって「観光」出来るようになっていて、ガイドさんを乗せているから、路線バスと観光バスの中間みたいなものだ。
だから、素直にその決められルートに乗ればむしろ便利なのだが、いったんルートに逆らったりしようものなら、1日2本、夏の最盛期でも4本しかないのだから、乗り継ぎを考えるだけでややこしくて頭痛がしてくるし、その不便さ、無駄な待ち時間の多さにうんざりしてしまう。
ぼくの場合、1日目に摩周駅(弟子屈町)から徒歩5、6分の摩周温泉バス停から乗り、摩周湖を見て、屈斜路湖畔の和琴まで行った。
その日はこのバスルートの一部に素直に乗っかったから、別に不便はなかった。
第一日
摩周温泉13時20分〜13時40分摩周第一展望台(25分停車)14時05分〜14時25分
硫黄山(25分停車)14時50分〜川湯温泉〜屈斜路湖畔砂湯〜15時40分和琴
問題は次の日。
ぼくは阿寒湖に宿を予約していた。
屈斜路湖畔から阿寒湖へは、どう考えても湖畔の和琴から摩周温泉に出るのが近い。
だが、そんなバスはない。
実はあるのだけれど、早朝と夕方に1本ずつあるだけで、せっかくお天気がいいのに、ゆっくり朝の散歩ぐらいしたいから7時20分発のバスなんかで去ってしまいたくないし、次のは17時15分発だから、摩周温泉から阿寒湖への最終バスに間に合わない。
とすると、もう昨日来たバスで戻るしかないのである。
でもあれに乗ると昨日の逆コーだから、昨日「観光」させられた硫黄山と摩周湖展望台でもう一度「観光」しなければならない。
それを嫌って、ぼくは途中、川湯の温泉街で下り、川湯温泉駅と温泉街の間を往復しているバスで駅に出て、列車で摩周駅に出た。
あ、こういう方法はあるな…
ところが、摩周温泉バス停で待っていると、やって来たバスはさっき和琴から乗ったのと同じやつ。
ガイドさんも運転手も乗客も、みんなで「やあやあ、また会いましたね」と歓迎してくれた。なにが「やあやあ」だ。
つまりこうなったら、硫黄山と摩周湖は二度ずつ「観光」する以外に方法がない。
それがいやなら、初めから順路に従ってまず阿寒湖か屈斜路湖から旅を始めればよいわけで、一番最初に摩周湖を見てしまったぼくがいけなかった、というわけだ。
最初に摩周湖行って何が悪い。
結論。
摩周、阿寒、屈斜路の3湖を巡るのなら、ルートを決めるのはあんたじゃなくバス会社なんだよ、逆らうとやっかいなことになりますよ、てこと。
ちなみに、もう一つややこしいのは摩周駅・摩周湖・摩周温泉・弟子屈温泉などの名称。
町名はあくまで弟子屈町で、駅も昔は弟子屈だった。
温泉のほうも弟子屈温泉といったが、今は摩周温泉。
といっても摩周温泉も摩周駅も摩周湖畔にあるわけではない。あくまで摩周湖に一番近いですよ、ということ。
ガイドブックによっては摩周温泉は弟子屈温泉と、近隣の鐺別温泉の総称、となっているのもあって、つまり弟子屈温泉の名もまだ生きていることになる。
摩周温泉バスターミナルも、阿寒バスの時刻表では「摩周温泉バスターミナル」となっているが、付近の案内所で配布している時刻表には 「弟子屈バスターミナル」となっていて、遠来の乗客にはまぎらわしい。
要するにもともとは、湖の名前でしかなかったものを、駅や温泉の名前を変えてまで、多分観光的に利用しようとしたことからややこしくなったのだと思う。
結論。
元のまま、湖は摩周湖、駅も温泉もバスターミナルも町名と同じ弟子屈、だったらわかりやすいのに、とぼくは思うんだけど。
第二日
和琴10時35分〜11時15分川湯温泉11時20分〜11時30分川湯温泉駅11時42分〜(JR)〜11時57分摩周駅・摩周温泉12時45分〜13時35分阿寒湖
ちなみに、この和琴10時35分のバスは、
〜11時20分硫黄山11時40分〜12時00分摩周第一展望台12時25分〜12時45分摩周温泉、というわけで、ぼくに再会したのである。
押し付けがましいバスルートと、このややこしい地名表記、
なんとかしてほしい。
●摩周湖から屈斜路湖へ
摩周湖は霧で見えないことが多いと聞いていたが、
この日は上の写真の通り。
ただ、強風に小雪混じりでこの秋一番の冷え込み。
バスの停車時間中、ただ震えてた。
この写真でも、湖面が強風で波立っているのが見える。
硫黄山はJRの車窓からもよく見える活火山。
山腹が白い噴気で煙っていたり、硫黄の黄色い結晶が地面を覆っていたりして、まあおもしろくないこともない。
火山国日本では、きわめて珍しい、ということはないけれど。
川湯温泉を過ぎて少し行くと屈斜路湖畔に出る。
この三つの湖では一番大きくて、仁伏というところで湖畔に出てから、湖の南端の和琴まで結構距離がある。
途中砂湯というところでまた15分ほど観光停車。
風は相変わらず強いし、ちらちらと白いものも舞っている。
摩周湖ですでに冷え切った体はもう外に出るのを拒否して、バスの中でひたすら発車を待つ。
湖畔に宿を予約していた。
バス停から近いみたいだし、まあこのへんでいいか、みたいな感じで選んだだけだけど、これがいけなかった。
北海道では暖房だけはホッカホカだと聞いていたが、ここは玄関を入ってもヒエヒエで、部屋に入ってもやっぱりヒエヒエ。内臓まで冷え切ってたどり着いたこっちとしては、到着時間まで知らせてあるのに、客の顔を見てからストーブに火をつける主人を呪い殺してやりたかった。
せめてまず風呂に、と思ったら、脱衣場がまたまったくの暖房なしのヒエヒエ。
ガタガタ震える手で衣服を脱いで湯に突進。
温泉だけはどうにか本物で、助かったけど。
ちなみにこの宿、食事もだめ。
品数のわりには誠意を感じない。
主人は腰だけは低かったが、おばはんのほうは応対も愛想なし。
といって、そんなにすごく値切ったわけでもなくて、1泊2食つきで税込み、ぼくが払った金額、8,925円。
こんなの北海道では高いほう。
いや、酒とか、飲んでないよ、ぼく下戸だから。メシと泊まりだけ。
でも、翌朝は風も止んで快晴。
宿をチェックアウトしてから10時半のバスまで和琴半島を一周して、秋の自然を満喫。頭の上でコココココ…と音がするので見上げると、キツツキが2羽、幹を叩いているところだった。あんな見事な乾いた音がするなんて、全然知らなかった。宿は寒かったけど、まあキツツキちゃんに免じて許すか、という気になった。
●屈斜路湖から阿寒湖へ
そんなわけでその日は快晴。10月末の北海道はもう初冬という感じだけど、紅葉は見ごろ。前述のように、屈斜路湖からバス、列車、またバスと乗り継いで阿寒湖へ。
阿寒湖畔に予約しておいた民宿は、昨日の宿とは違って全館(というほど大きくはないが)暖かくて快適、宿の人も親切。ご飯も「毎日のお惣菜」的な感じで素朴だが、そうそう、これでいい。旅の宿は基本的に自分の日常レベルを下回らなければいい。山があって、湖があって、木々が紅葉していて、キツツキやキタキツネやエゾジカなんて動物たちに会えて…、ぼくはそれで十分。1泊2食付き5,500円。
付近で土木工事をやっていて、その職人さんたちが七、八人泊まっていた。夕食の席でみんなで一つのテーブルを囲んでビールを飲んでいたから、これは騒々しいことになる、なんて思ってしまった。
(そう、ぼくは宴会の騒動とか酔っ払いとかを毛虫のように嫌ってるんで)
が、ビールは食前の一杯だけで、みんなとてもお行儀がよく、食べ終わると食器なんか集めたりして片付けの手伝いまでしてた。ヘンなこと考えてごめんなさい。
風呂に入ったら、ちょうどその人たちとまた会っちゃって、でも、ぼくはもうさっきのことがあったから、狭い浴室だけどいっしょに入った。
そしたらまた彼らが気を使ってくれて、「ここ入れますよ」とか、狭い湯船に場所あけてくれたりして、とても親切。
ここには2泊したけど、ずっと彼らはそんな調子だった。
旅行者の団体でなくてよかったんだ、と思った。
個人旅行者にとって一番迷惑なのはたいてい団体旅行者。
阿寒湖の商店街の一軒のお土産屋の店先で、見世物台みたいな丸い台の上に、キツネが鎖でつながれているのを見た。
ぼくはそのショッキングな光景に立ちすくみながら、そのキツネをまじまじと見た。
人間の欲の犠牲になったこの「客寄せキツネ」は、当然ぼくに
も不信の目を向けながら、台の上で悲しそうにくるくる回った。
後で聞いた話だが、このキツネが毛皮にされそうになっているのを、ここの主人が救ったのだという。
だから恩返しせえってか。
湖畔にボッケとかいう、熱泥がぶくぶく噴出しているところがある。散歩がてら行ってみたら、そのぶくぶくはともかく、木々の合い間から湖面が見えて気分のいいところだった。
そしてそこでもぼくはキタキツネを見た。そいつはぼくが歩いて行く方向に、道の真ん中に寝そべっていて、ぼくはゆっくり、静かにアプローチを試みたが、あと30メートルぐらいだったかな、やつはいきなり立ち上がり、太い尻尾をなびかせて林の中に消えた。ぼくはさっき商店街で見たキツネのことをまた思った。
それからエゾジカに会った。エゾジカのほうはぼくを全然恐れる気配がなく、3メートルぐらいまで近づいても悠然と草を食べていた。ほの暗い林の中だったけど、ぼくはフラッシュをオフにして、そっと写真を撮った。
摩周湖から屈斜路湖、阿寒湖と、まあありきたりの観光コースを回ってみて、ぼくには何か一つ物足りないような印象が残った。
それは多分、あそこには観光客目当ての「生活者」以外に、土地の生活の臭いがないせいではなかろうか。山も、湖も、森も、そういう風景はとても好きだけど、そこに人の生活臭みたいなものがある風景に、ぼくはより強く惹かれるのかもしれない。
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