1970/08 - 1970/08
15517位(同エリア16398件中)
片瀬貴文さん
ようやく見つけた気に入ったマンションは、エッフェル塔からあまり遠くない15区のフォンダリー街にあり、3ヶ月契約の短期貸し。
この地区では珍しい新築の2LDKで、家賃月額10万円。
私の海外手当てが36万円なので、十分やってゆける。
海外手当額は日本に居たときの給料の10倍。
最初家内に一月の生活費として7万円渡したところ、彼女は目を丸くして驚いたものだ。
食料品に限れば、日本より安いくらいだから、驚くのも当然である。
ただし来客が多いので経費はかかり、あまり贅沢は出来ない。
来客数は、ピークで一ヶ月50人を超えた。
見つけたマンションは、パリでは珍しく、地下駐車場つきなのも便利だ。
ただし部屋が駐車場自動扉に近く、昼夜を問わず、「ギーッ」という開閉音がやかましい。
この辺りが、短期貸しになっている原因と見る。
この街は商店と住居が入りまじってほどほどに賑わい、下町の温かさを残しながらも、どこか気品が漂う。
事務所の辺りと比べれば、生活の匂いが強く、子供の多いのが目立つ。
そんな雰囲気が気に入った。
近くにメトロ6号線が走り、最寄り駅エミール・ゾラまで歩いて数分。
6号線はパリ環状線の南半分を形成し(環状線の北半分は2号線)、いわゆるメトロ・アエリエンヌ(空中メトロ)、すなわち高架鉄道である。
古めかしいトラスの鉄げた高架橋を、ゴトゴト音を立てながら、ゆっくり通り抜ける緑色の電車は、パリのイメージにぴったり。
何より気に入ったのは、朝日の差し込む、芝生の綺麗なリビング・ダイニング。
私の一番好きな朝食時の家族団欒に、すてきな雰囲気を提供してくれた。
夜は家族サービスが十分できない私にとって、朝食は一日中で一番落ち着く心豊かな時間だっだ。
パリ名物、焼き立ての香ばしいバゲットに、香り豊かなカフェ・オー・レを楽しみながら、家族揃っての会話が弾む。
中庭の芝生のみずみずしい緑に朝の光が映え、充実したひとときである。
部屋は2階なので、街の空気が身近に伝わって来る。
筋向かいにパン屋があって、町が寝静まっている夜中に焼かれたパンの、香ばしい香りが、早朝の街に漂う。
空が明るくなり始めた頃には、客が焼き立てのバゲットを脇に抱え、次々に満ち足りた表情で表を通り過ぎる。
心躍る、嬉しい一日の始まりである。
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