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スイスにはまずレマン湖畔のローザンヌという街に入った。パリのうだるような暑さとはうって変わってのすがすがしい気候が嬉しい。湖に面した美しい公園で、対岸のアルプスを眺めながら散歩などをして2日間を過ごした。<br /><br />3日目の朝ローザンヌを発ち、ヴィスプで登山列車に乗り換えてアルプスの麓のツェルマットという村に向かった。登山列車が走り出して間もなく、アルプス最高峰モンテ・ロザの白い頂が見えてきた。さらに進むと名峰マッターホルンが正面に姿を現した。もうそれだけで気持ちが高ぶってきた。“かかり”気味である。<br /><br />正午前にはツェルマットに到着し、ホステルに荷物を置いて早速出かけることにした。だが半日しかないため、その日はメトロ(山を登る列車なのだが地下を走るためメトロ)でスネガという2300m地点の高原に向かう。メトロから出た瞬間、思わず息を飲んだ。<br /><br />正面にはマッターホルンが悠然と聳え立ち、その左側にアルプスの山々が連なる。周りには緑の草が生い広がり、すぐ下には小さな湖が見える。まさに絵に描いたようなこれぞ景色。。。ただ、左側に連なる白い山々の手前に1つ山があり、それが邪魔で奥の山々の全貌が見えない。よし、明日はあの手前の山に登ろうと決めて、その日はさらに300m程上の高台まで登ってから下山した。<br /><br />次の朝早くホステルを出て、ゴルナーグラードという3130mの展望台(前日邪魔だった山の頂上)を目指す。そこまで実は登山列車で行けるのだが、山は自分の足で登らないと山じゃない!途中のリッフェルアルプという2220m地点まで列車で行き、そこから登り始めた。列車で登っても見える景色は同じかもしれないが、自分の足で登った方が美しく見えるという俺なりのこだわりだ。(登山列車の料金が高すぎて乗れないという理由もあるが)<br /><br />初めのうちは高原のゆるやかな斜面をハイキング。もう十分に景色は素晴らしいし、いい気分だ。だが緑の草がなくなり、乾いた土と岩だけになってきた頃から斜面もきつくなり、息も荒くなってきた。辛い。苦しい。いつも山に登るたびに思うことだが、どうして自分がこんなことをしているのか分からなくなる。ただの試練のように思えてくる。ちょっとマゾっ気も感じる。。。<br /><br />とにかく、頑張って登り続けた。一歩一歩足を前に出していく。近くに見える何らかの目印を目標に置き、それに向かって登る。目標に辿り着いたら、次の目標を置く。その繰り返しだ。<br /><br />俺はあまり休憩を取らない。取ってもあまりじっくりと辺りを見ない。もう十分に凄い景色になっているのは分かっている。だけど本当にじっくり景色を眺めるのは、頂上に着いたときに取っておこう。これも最後の喜びを増すための俺のこだわりその2だ。<br /><br />そして、ようやく頂上が見えてきた。気のせいか足が軽くなる。後もう少しだ。そして、そして、ついに、登頂!!そこからの眺めは、、、とても言葉に表すことなんてできない。ただ、ただ、本当に素晴らしい。不意に涙が出てきた。ちょっと恥ずかしいけど。まだ一度も海外に行ったことのない俺の母親の一生の夢がアルプスに行くことだからだろうか。とにかく俺はしばらくの間アルプスの大パノラマに見入っていた。なんとも言えない充実感があった。<br /><br />と、ここまでは良かった。ゴルナーグラードは登山列車でも登れるため、観光客で溢れている。確かに景色は素晴らしいのだが、人が多すぎる。「こいつら楽してこんな凄い景色を見やがって・・・」という気持ちも多少はあった。(せこい?)しかも南側に見える山々は一面氷河に覆われて真っ白なのだが、ゴルナーグラードは白くない。<br /><br />やっぱりアルプスは白くないと!(と勝手に決め付けていた)この南側の谷を降りれば氷河までは行けそうだ。帰りはそのまま谷を回って下りてこられるだろう。よし、行ってみるか。一歩氷河を踏めれば満足だ。そうして俺は谷を下り始めた。<br /><br />途中何度か岩場などもあったが、トレッキングコースとしての道もあったし、時にはすれ違う人もいた。谷底に着いたらもう目の前にはモンテ・ロザの北側にあたり、氷河が広がっている。少しだけ氷河の上を歩いてみた。足元には氷河から溶け出た水が所々に流れを作り、氷の上を滑り吹く風は冷たく、まるで別世界に来たようだった。<br /><br />そして俺は特に何の目的もなく頂上の方向に歩き出した。氷河は5000m近くの頂上まで続いているのだが、もちろん頂上まで登れるはずがない。何の準備もしていない。それどころかストックも持たず、靴も普通のスニーカーの俺には、氷の上を歩くだけでもままならない。<br /><br />氷河というのは巨大な氷の板のようになっているのかと思っていたのだが、実はいくつもの氷の岩が集まっているような状態だった。それぞれの氷の岩はくっついたり、間に溝(クレバス)があったり。かなり幅の広い溝もある。溝の深さは想像もつかないが、滑り落ちたらまず助からないだろう。だが、俺はぐんぐんと進んでいった。時には助走を付けて溝を飛び越えたりもした。何度か滑ってヒヤリとした。<br /><br />気付くと辺りはすっかり氷河に囲まれていた。恐くなった。帰れなくなったらどうしよう。溝に落ちたらどうしよう。だが、何故だが分からないが、それでも俺は頂上に向かって進み続けた。何かに取り憑かれたかのように。。。<br /><br />あ、期待させてしまっているかもしれないけど、実はこの話にはオチはありません。なのでもうこの辺で止めておこう。結局しばらく進んだ後、こりゃ無理だろうという急斜面が現れたので引き返した。帰りも同じように滑りそうになりながら溝を飛び越え飛び越え帰ったのだが、その度にまじで泣きそうだった。しかもそのまま谷を回って下りることはできず、一度ゴルナーグラード近くまでまた登らなければならなかった。<br /><br />冗談抜きできつかった。さらに途中で日が暮れてしまい、なんとか行きに列車を降りたリッフェルアルプで下りの最終にギリギリ乗れたという状態だった。あそこで急斜面が現れてくれなかったらどうなっていたんだろう。<br /><br />帰ってから宿のおっさんに話したら怒られた。そりゃそうだ。それにしてもあの状況で俺をさらに頂上へ進ませたものは何だったのだろう。それが雪山の魔力というものか?なんとなくだが、険しい状況下で山を攻める男達の気持ちが少し分かったような気がした。<br />

雪山の魔力

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2003/08 - 2003/08

127位(同エリア172件中)

2

1

captainkoji

captainkojiさん

スイスにはまずレマン湖畔のローザンヌという街に入った。パリのうだるような暑さとはうって変わってのすがすがしい気候が嬉しい。湖に面した美しい公園で、対岸のアルプスを眺めながら散歩などをして2日間を過ごした。

3日目の朝ローザンヌを発ち、ヴィスプで登山列車に乗り換えてアルプスの麓のツェルマットという村に向かった。登山列車が走り出して間もなく、アルプス最高峰モンテ・ロザの白い頂が見えてきた。さらに進むと名峰マッターホルンが正面に姿を現した。もうそれだけで気持ちが高ぶってきた。“かかり”気味である。

正午前にはツェルマットに到着し、ホステルに荷物を置いて早速出かけることにした。だが半日しかないため、その日はメトロ(山を登る列車なのだが地下を走るためメトロ)でスネガという2300m地点の高原に向かう。メトロから出た瞬間、思わず息を飲んだ。

正面にはマッターホルンが悠然と聳え立ち、その左側にアルプスの山々が連なる。周りには緑の草が生い広がり、すぐ下には小さな湖が見える。まさに絵に描いたようなこれぞ景色。。。ただ、左側に連なる白い山々の手前に1つ山があり、それが邪魔で奥の山々の全貌が見えない。よし、明日はあの手前の山に登ろうと決めて、その日はさらに300m程上の高台まで登ってから下山した。

次の朝早くホステルを出て、ゴルナーグラードという3130mの展望台(前日邪魔だった山の頂上)を目指す。そこまで実は登山列車で行けるのだが、山は自分の足で登らないと山じゃない!途中のリッフェルアルプという2220m地点まで列車で行き、そこから登り始めた。列車で登っても見える景色は同じかもしれないが、自分の足で登った方が美しく見えるという俺なりのこだわりだ。(登山列車の料金が高すぎて乗れないという理由もあるが)

初めのうちは高原のゆるやかな斜面をハイキング。もう十分に景色は素晴らしいし、いい気分だ。だが緑の草がなくなり、乾いた土と岩だけになってきた頃から斜面もきつくなり、息も荒くなってきた。辛い。苦しい。いつも山に登るたびに思うことだが、どうして自分がこんなことをしているのか分からなくなる。ただの試練のように思えてくる。ちょっとマゾっ気も感じる。。。

とにかく、頑張って登り続けた。一歩一歩足を前に出していく。近くに見える何らかの目印を目標に置き、それに向かって登る。目標に辿り着いたら、次の目標を置く。その繰り返しだ。

俺はあまり休憩を取らない。取ってもあまりじっくりと辺りを見ない。もう十分に凄い景色になっているのは分かっている。だけど本当にじっくり景色を眺めるのは、頂上に着いたときに取っておこう。これも最後の喜びを増すための俺のこだわりその2だ。

そして、ようやく頂上が見えてきた。気のせいか足が軽くなる。後もう少しだ。そして、そして、ついに、登頂!!そこからの眺めは、、、とても言葉に表すことなんてできない。ただ、ただ、本当に素晴らしい。不意に涙が出てきた。ちょっと恥ずかしいけど。まだ一度も海外に行ったことのない俺の母親の一生の夢がアルプスに行くことだからだろうか。とにかく俺はしばらくの間アルプスの大パノラマに見入っていた。なんとも言えない充実感があった。

と、ここまでは良かった。ゴルナーグラードは登山列車でも登れるため、観光客で溢れている。確かに景色は素晴らしいのだが、人が多すぎる。「こいつら楽してこんな凄い景色を見やがって・・・」という気持ちも多少はあった。(せこい?)しかも南側に見える山々は一面氷河に覆われて真っ白なのだが、ゴルナーグラードは白くない。

やっぱりアルプスは白くないと!(と勝手に決め付けていた)この南側の谷を降りれば氷河までは行けそうだ。帰りはそのまま谷を回って下りてこられるだろう。よし、行ってみるか。一歩氷河を踏めれば満足だ。そうして俺は谷を下り始めた。

途中何度か岩場などもあったが、トレッキングコースとしての道もあったし、時にはすれ違う人もいた。谷底に着いたらもう目の前にはモンテ・ロザの北側にあたり、氷河が広がっている。少しだけ氷河の上を歩いてみた。足元には氷河から溶け出た水が所々に流れを作り、氷の上を滑り吹く風は冷たく、まるで別世界に来たようだった。

そして俺は特に何の目的もなく頂上の方向に歩き出した。氷河は5000m近くの頂上まで続いているのだが、もちろん頂上まで登れるはずがない。何の準備もしていない。それどころかストックも持たず、靴も普通のスニーカーの俺には、氷の上を歩くだけでもままならない。

氷河というのは巨大な氷の板のようになっているのかと思っていたのだが、実はいくつもの氷の岩が集まっているような状態だった。それぞれの氷の岩はくっついたり、間に溝(クレバス)があったり。かなり幅の広い溝もある。溝の深さは想像もつかないが、滑り落ちたらまず助からないだろう。だが、俺はぐんぐんと進んでいった。時には助走を付けて溝を飛び越えたりもした。何度か滑ってヒヤリとした。

気付くと辺りはすっかり氷河に囲まれていた。恐くなった。帰れなくなったらどうしよう。溝に落ちたらどうしよう。だが、何故だが分からないが、それでも俺は頂上に向かって進み続けた。何かに取り憑かれたかのように。。。

あ、期待させてしまっているかもしれないけど、実はこの話にはオチはありません。なのでもうこの辺で止めておこう。結局しばらく進んだ後、こりゃ無理だろうという急斜面が現れたので引き返した。帰りも同じように滑りそうになりながら溝を飛び越え飛び越え帰ったのだが、その度にまじで泣きそうだった。しかもそのまま谷を回って下りることはできず、一度ゴルナーグラード近くまでまた登らなければならなかった。

冗談抜きできつかった。さらに途中で日が暮れてしまい、なんとか行きに列車を降りたリッフェルアルプで下りの最終にギリギリ乗れたという状態だった。あそこで急斜面が現れてくれなかったらどうなっていたんだろう。

帰ってから宿のおっさんに話したら怒られた。そりゃそうだ。それにしてもあの状況で俺をさらに頂上へ進ませたものは何だったのだろう。それが雪山の魔力というものか?なんとなくだが、険しい状況下で山を攻める男達の気持ちが少し分かったような気がした。

  • これが恐怖のクレパス!

    これが恐怖のクレパス!

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この旅行記へのコメント (2)

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  • とらいもんさん 2005/07/06 08:43:37
    負けました!
    CAPTAINKOJI様へ
    凄いことをやりましたね!驚いております。
    氷河を歩いたなんて!私は昨年と先月26日、ゴルナーグラートからツエルマットまで歩いただけです。またリッフエルアルプから上ったなんて!尊敬いたします。これからも頑張ってください。
    朝日に輝くマッターホルンに涙した爺さんより

    captainkoji

    captainkojiさん からの返信 2005/07/12 21:43:35
    RE: 負けました!
    凄いというか、今となって考えれば馬鹿だったなという感じです。
    この後南米エクアドルで本格的な雪山登山にチャレンジし、本当の山を辛さと素晴らしさを知ることとなります。良かったらまた是非読んでください。その話は随分と後になってしまうと思いますが。。。

    マッターホルン、確かに涙ものですね!

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