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波の音を聞きながら眠り、鶯の声で目覚める幸せ<br /><br /> 3月下旬、確定申告が終わった骨休めの滞在先として、<br />私たちは熊本県天草にある「五足のくつ」という<br />宿を選びました。<br /> この宿も、テレビや雑誌に頻繁に取り上げられる<br />「憧れの宿」のひとつです。<br /><br />   さて、私たちが福岡空港から天草エアラインに乗り継いで<br />天草空港に到着したのは朝の10時。<br />チェックインまではまだ時間があるため、まずはこの土地の地のものを食べてみたいと思い、<br />宿に電話をしてお薦めのすし屋がないか尋ねました。<br /><br />   ところが、この町ではすし屋は12時から開店する店が多いらしく、<br />当初紹介されたお店では開店までの時間を持て余します。<br />天気も悪かったため、他で時間をつぶす適当なところもなく<br />とにかく11時から開店してさえすればいいということでみつけてもらったすし屋。<br />    市販のフレンチドレッシング様の液体がたっぷりかかったあんきもとうにに絶句したのを皮切りに、<br />およそ寿司とは呼べない代物が…。<br />   私たちは思いました。<br />おそらくこの寿司屋のご主人は、本当においしい寿司を食べたことがないに違いない。<br />   自分自身が料理を好きで寿司屋の主人になったのではなく、<br />おそらく親が寿司屋をやっていたとか何か、<br />職業としての寿司職人を選んだに違いない、<br />だから彼は自分の作る料理を愛さないのだと。<br /><br />   そんな思いで到着した宿「五足のくつ」。<br />ここの料理がもしも食材にだけ頼った凡庸なものなら、<br />天草と言う土地の惨憺たる印象が私たちに強く残ってしまうところです。<br />    結論は、◎。<br />料理を愛さない料理人に愕然としていた私たちにとって救世主のような、この宿の料理人は<br />まさに「料理を愛してやまない」人でした。<br />    天草の名産である車えびから始まって、<br />海からの贈り物が一つ一つ丁寧に料理されて並びます。<br />採れたての魚がまっとうな料理人の手にかかっておいしくないわけがありません。<br />    更に言えば、<br />生でしか味わえない、わかめの見事なシャキシャキ感。<br />大根、茗荷、青じそをミックスした、<br />極め細やかに一手間かけた刺身のつま。<br />皿に盛るものは隅々まで心をこめた料理の数々。<br /><br />    しかも最後に驚いたのは<br />「食事」と書かれた献立でした。<br />「食事  唐墨と大根パスタ」<br />  和のコースなのに最後はパスタで締めるのね<br />と思っていた私たちの目の前に提供された器には、<br />どう見てもパスタらしいものは見当たりません。<br />不思議に思って尋ねると<br />「大根を細く切ってパスタに見立てたものです。」<br /><br />    実は、この宿に宿泊する直前、<br />私たちは44歳の夫婦である、<br />食材の好き嫌いはなくおいしいものは大好きだが<br />若いころとは違って量はあまり食べられないので少なめに、<br />ついでに言うと現在主人が「炭水化物を少なめにする」ダイエット中である…<br />旨のメールを入れておいたのです。<br />   「もしかして、これって炭水化物ダイエット中だとお伝えしたからですか?」<br />と、当の私たちがびっくり。<br /><br />    1泊2食付の日本の宿では、<br />多くの場合食事が豪華絢爛になる傾向があります。<br />    もちろんたまの旅行では目にも豪華に、<br />満腹になるまで食べたいという宿泊客側のニーズもあるでしょう。<br />    料理をする側にとってもコースにはコースの組み立てがあり、<br />また一組のお客にだけ他と全く違う流れの料理を用意するのは大変です。<br />ですから、これまで数々の宿に料理はとにかく少なめでとお願いしてきましたが、<br />「いえいえ、どうぞご遠慮なく残していただいて結構ですから」という言葉が返ってくるのが常です。<br />    でも、料理を愛する者は<br />おいしいものを食べ残こすのが身を切られるように辛いのです。<br />そして、こんなに手をかけてくださった料理人の方に申し訳ないと、<br />ついつい頑張って食べる結果、<br />旅行から帰ったときには胃が疲れて体調を崩す始末です。<br />それを、きちんと量の加減に応じてくださる、行き届いた心配り。<br /><br />   なお1泊目の夕食後に量はいかがと尋ねられ、<br />2泊目の夕食の量は過不足なく申し分なかったのはもちろんのこと、<br />3泊の食事のうち一度も似たような料理が出ず、特に最後の夜の料理が素晴らしかったのは特筆すべきことだと思います。<br />   ちなみに料理長は<br />岩本さんとおっしゃる大阪の「美々卯」で修行した33歳の若手料理人とのこと。<br />海の食材の素晴らしさはさることながら、<br />上品で深みのある出汁の出来映えはそういうことかと納得し、<br />私たちはこの天草でも素晴らしい、心から料理を愛する料理人に出会えたと実感しました。<br /><br />    もちろん料理ばかりでなく、<br />宿のスタッフも皆さん心を込めて宿泊客のお世話をしてくださいます。<br />    初めての宿泊客なのに、しっかりと顔を覚えて、こちらから名乗らなくても名前で呼びかけてくれるスタッフ。<br />まだ一見客に過ぎない私たちに対して、そのホスピタリティは<br />小樽の「蔵群」にも匹敵するものです。<br />   海の見える露天風呂のあるお部屋。<br />   適度な堅さで寝心地のいい寝具。<br />   上がってからじっくりと温まってくる源泉の湯。<br />   窓を開け放すと、聞こえてくる波の音とうぐいすの声。<br /><br />    宿選びには、非日常空間の行き届いたインテリアセンスと、痒いところに手が届くホスピタリティを重視し、<br />温泉と食事には過度な期待をしないことにしている私たちには思いがけなく、<br />全てのバランスのとれたいい宿と感じられました。<br /><br />    最後にひとつ大事件が…。<br />夕食に供された最高のくちこ(こちらではばちこというそうですが)、<br />後でゆっくりお酒のつまみにと思って持ち帰り、<br />暖房で痛まないようにと部屋の縁側に置いておいたのですが、<br />翌朝おきがけの酒のつまみにと見たら、なくなっていました。<br />鳶か烏か野鳥に盗まれたに違いありません。<br />     茫然自失…悔しい…。<br />    ということで表紙の写真は、この幻と消えたばちこ炙り。<br />

思う壺Barマダムの「五足のくつ」…ワインとグラスとソムリエナイフ、それから2~3日分の本を抱えて宿に篭りっきり

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2005/03/23 - 2005/03/26

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miu

miuさん

波の音を聞きながら眠り、鶯の声で目覚める幸せ

3月下旬、確定申告が終わった骨休めの滞在先として、
私たちは熊本県天草にある「五足のくつ」という
宿を選びました。
この宿も、テレビや雑誌に頻繁に取り上げられる
「憧れの宿」のひとつです。

さて、私たちが福岡空港から天草エアラインに乗り継いで
天草空港に到着したのは朝の10時。
チェックインまではまだ時間があるため、まずはこの土地の地のものを食べてみたいと思い、
宿に電話をしてお薦めのすし屋がないか尋ねました。

ところが、この町ではすし屋は12時から開店する店が多いらしく、
当初紹介されたお店では開店までの時間を持て余します。
天気も悪かったため、他で時間をつぶす適当なところもなく
とにかく11時から開店してさえすればいいということでみつけてもらったすし屋。
市販のフレンチドレッシング様の液体がたっぷりかかったあんきもとうにに絶句したのを皮切りに、
およそ寿司とは呼べない代物が…。
私たちは思いました。
おそらくこの寿司屋のご主人は、本当においしい寿司を食べたことがないに違いない。
自分自身が料理を好きで寿司屋の主人になったのではなく、
おそらく親が寿司屋をやっていたとか何か、
職業としての寿司職人を選んだに違いない、
だから彼は自分の作る料理を愛さないのだと。

そんな思いで到着した宿「五足のくつ」。
ここの料理がもしも食材にだけ頼った凡庸なものなら、
天草と言う土地の惨憺たる印象が私たちに強く残ってしまうところです。
結論は、◎。
料理を愛さない料理人に愕然としていた私たちにとって救世主のような、この宿の料理人は
まさに「料理を愛してやまない」人でした。
天草の名産である車えびから始まって、
海からの贈り物が一つ一つ丁寧に料理されて並びます。
採れたての魚がまっとうな料理人の手にかかっておいしくないわけがありません。
更に言えば、
生でしか味わえない、わかめの見事なシャキシャキ感。
大根、茗荷、青じそをミックスした、
極め細やかに一手間かけた刺身のつま。
皿に盛るものは隅々まで心をこめた料理の数々。

しかも最後に驚いたのは
「食事」と書かれた献立でした。
「食事  唐墨と大根パスタ」
和のコースなのに最後はパスタで締めるのね
と思っていた私たちの目の前に提供された器には、
どう見てもパスタらしいものは見当たりません。
不思議に思って尋ねると
「大根を細く切ってパスタに見立てたものです。」

実は、この宿に宿泊する直前、
私たちは44歳の夫婦である、
食材の好き嫌いはなくおいしいものは大好きだが
若いころとは違って量はあまり食べられないので少なめに、
ついでに言うと現在主人が「炭水化物を少なめにする」ダイエット中である…
旨のメールを入れておいたのです。
「もしかして、これって炭水化物ダイエット中だとお伝えしたからですか?」
と、当の私たちがびっくり。

1泊2食付の日本の宿では、
多くの場合食事が豪華絢爛になる傾向があります。
もちろんたまの旅行では目にも豪華に、
満腹になるまで食べたいという宿泊客側のニーズもあるでしょう。
料理をする側にとってもコースにはコースの組み立てがあり、
また一組のお客にだけ他と全く違う流れの料理を用意するのは大変です。
ですから、これまで数々の宿に料理はとにかく少なめでとお願いしてきましたが、
「いえいえ、どうぞご遠慮なく残していただいて結構ですから」という言葉が返ってくるのが常です。
でも、料理を愛する者は
おいしいものを食べ残こすのが身を切られるように辛いのです。
そして、こんなに手をかけてくださった料理人の方に申し訳ないと、
ついつい頑張って食べる結果、
旅行から帰ったときには胃が疲れて体調を崩す始末です。
それを、きちんと量の加減に応じてくださる、行き届いた心配り。

  なお1泊目の夕食後に量はいかがと尋ねられ、
2泊目の夕食の量は過不足なく申し分なかったのはもちろんのこと、
3泊の食事のうち一度も似たような料理が出ず、特に最後の夜の料理が素晴らしかったのは特筆すべきことだと思います。
  ちなみに料理長は
岩本さんとおっしゃる大阪の「美々卯」で修行した33歳の若手料理人とのこと。
海の食材の素晴らしさはさることながら、
上品で深みのある出汁の出来映えはそういうことかと納得し、
私たちはこの天草でも素晴らしい、心から料理を愛する料理人に出会えたと実感しました。

もちろん料理ばかりでなく、
宿のスタッフも皆さん心を込めて宿泊客のお世話をしてくださいます。
初めての宿泊客なのに、しっかりと顔を覚えて、こちらから名乗らなくても名前で呼びかけてくれるスタッフ。
まだ一見客に過ぎない私たちに対して、そのホスピタリティは
小樽の「蔵群」にも匹敵するものです。
海の見える露天風呂のあるお部屋。
適度な堅さで寝心地のいい寝具。
上がってからじっくりと温まってくる源泉の湯。
窓を開け放すと、聞こえてくる波の音とうぐいすの声。

宿選びには、非日常空間の行き届いたインテリアセンスと、痒いところに手が届くホスピタリティを重視し、
温泉と食事には過度な期待をしないことにしている私たちには思いがけなく、
全てのバランスのとれたいい宿と感じられました。

最後にひとつ大事件が…。
夕食に供された最高のくちこ(こちらではばちこというそうですが)、
後でゆっくりお酒のつまみにと思って持ち帰り、
暖房で痛まないようにと部屋の縁側に置いておいたのですが、
翌朝おきがけの酒のつまみにと見たら、なくなっていました。
鳶か烏か野鳥に盗まれたに違いありません。
茫然自失…悔しい…。
  ということで表紙の写真は、この幻と消えたばちこ炙り。

PR

  •  天草エアラインのプロペラ機。<br /><br /> 搭乗当日の2005年3月23日はちょうど運行5周年記念日でした。<br />日本国内でプロペラ機に乗ったのは初めてです。

     天草エアラインのプロペラ機。

     搭乗当日の2005年3月23日はちょうど運行5周年記念日でした。
    日本国内でプロペラ機に乗ったのは初めてです。

  •  泊まったのは「五足のくつ」の離れA−5のお部屋。<br /> リビングと寝室が分かれていて、リビングと部屋つきの露天風呂からは東シナ海の夕陽が見えます。<br /><br /> 宿の詳細はこちら。 <br />http://www.rikyu5.jp/

     泊まったのは「五足のくつ」の離れA−5のお部屋。
     リビングと寝室が分かれていて、リビングと部屋つきの露天風呂からは東シナ海の夕陽が見えます。

     宿の詳細はこちら。 
    http://www.rikyu5.jp/

  •  これが東シナ海に沈む夕陽。

     これが東シナ海に沈む夕陽。

  •  部屋つき露天風呂につながるパウダールームのステンドグラスは「波に浜千鳥」。<br />レトロですてきです。

     部屋つき露天風呂につながるパウダールームのステンドグラスは「波に浜千鳥」。
    レトロですてきです。

  •  ヴィッラ・コレジオと名づけられたパブリックスペースの扉もステンドグラス。<br /> この建物には、ライブラリーとバーがあります。<br /><br /> ライブラリーにはvaioのパソコンが置かれていて自由に通信できます。<br />ちなみに携帯電話はドコモ・ボーダフォンともにほとんど入りませんでした。<br /><br /><br /><br />  宿にこだわるコミュニティ「本物の高級宿を楽しむ」を立ち上げました。<br />よろしかったら、情報交換しましょう。<br /><br />http://4travel.jp/community/main/10000186/<br />

     ヴィッラ・コレジオと名づけられたパブリックスペースの扉もステンドグラス。
     この建物には、ライブラリーとバーがあります。

     ライブラリーにはvaioのパソコンが置かれていて自由に通信できます。
    ちなみに携帯電話はドコモ・ボーダフォンともにほとんど入りませんでした。



    宿にこだわるコミュニティ「本物の高級宿を楽しむ」を立ち上げました。
    よろしかったら、情報交換しましょう。

    http://4travel.jp/community/main/10000186/

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この旅行記へのコメント (4)

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  • 犬のおまわりさんさん 2007/09/30 00:20:28
    miuさん はじめまして、犬のおまわりさんです。
    「五足のくつ」に宿泊された方を探していたら
    たどりつきました。
    1票入れさせていただきました。

    来年、予約がとれたので、行って来ようと思います。
    天草も行った事がないので、
    これから、リサーチです。

    やはり素敵な御宿のようですね。
    miuさん が行かれた時期と接遇が変わっていないといいな
    私は2連泊だけですが、
    どちらかでも
    朝日が見れれば・・・と

    では、
    また、おじゃましまーす。
    wanwan(^。^)y-.。o○

    miu

    miuさん からの返信 2007/09/30 08:49:27
    RE: miuさん はじめまして、犬のおまわりさんです。
     とても気持ちのいい宿でしたよ。
    私たちが行ったときにはまだ最新のヴィラはできていなかったですが、古いヴィラもそれぞれに風情があってよかったです。

     旅行記にも書きましたが、料理長さんの心配りがとても行き届いていて、しかもどの料理も、関西で丁寧に修行をされたことがわかる味わいでした。
     離島の宿では、なかなかいい料理人を採用できないと、別の宿のご主人から聞いたこともありますので(来てさえくれれば、正直、腕にはかまっていられないほどの求人難とか。)この宿は恵まれていると思いました。
     その後、料理人が変わったとか言う噂も変わっていないと言う噂もあります。ぜひ、犬のおまわりさんも積極的に味や量の好みや希望を伝えて確かめてみてくださいね。

     天草航空を使われるのでしたら、ボンバルディア機が安全に運航されることをお祈りしていますね。
  • V7さん 2005/03/30 17:35:12
    キャッチがコピーライターの才を感じさせるなー
    ベタほめの旅行記やね。
    「5足のくつ」に行ってみたい衝動にかられる名文でした。

    ばちこと日本酒のフレーズは涎がでそうなリアリティと
    悔しさが十分に伝わってきました。

    さらに過去の旅行記をみると、淡島とシドニーがかぶってました。
    ボクは2月にそちらを訪問したので、、、

    miu

    miuさん からの返信 2005/03/30 18:37:30
    RE: キャッチがコピーライターの才を感じさせるなー
    えっ!
    V7さん、以前からこのHPをご存知で会員登録されていたんですか?

    ぜひ、V7さんの旅行記も拝見したいものですワ♪

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