NO9　イリーガルな葉っぱにラリル・オレ(*^_^*)

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バンコックの非日常な日々は私の気分をハイにさせる連続だった。
アフガニスタンで肝炎を患い現地での入院生活を余儀なくされたというヒッピー風情の＜Ｂちゃん＞が、仏教寺を放蕩な暮らしぶりから追い出され、この旅社＜旅籠＞に転がり込んで来た通称＜お寺さん＞を伴って私の部屋にやって来た。　良質なガンチャ＜ハッシシ＞がインド帰りの旅仲間から入手できたと云いながら、私の部屋で一服しましょうと云う。

ガンチャは勿論、タイでもイリーガル＜非合法＞な麻薬である。当時、麻薬の国際的なサプライヤーというな位置づけに在ったタイ国は、汚名を返上すべく、取り締まりを強化していた上に、密告制度も設けて検挙に躍起になっていた。
私の滞在していた旅社のはす向かいのマレーシアホテルはヒッピーツーリストの間で世界的に知られたホテルだったが、しばしば警察の一斉取り締まりの対象のホテルにもなっていた。　

現地人からは絶対に買わない方がいいですよと云いながら、Bちゃんが私に、このガンチャは凄く良質ですからと紙巻き状に加工した一本を差し出した。　大麻の類は初めて、というわけでは無かった。好奇心からモロッコでは茶店で相席になったモロッコ人からテーブルの下で現金数ドルと葉っぱのままの大麻草の束を交換した。スペインでは私の行商の師匠であるパキスタン人がハッシシやヘロ○ンの密売人も兼ねていて、回し飲みのように、行商仲間と仕事がはねた後に一服したりもした。しかし初めて煙草を吸った時のような目のまわるような気持ちの悪さの感覚だけが残り、いい気分には少しもなれず、それっきりだった。肺に深くため込むと、特にいけなかった。

そんなことを問わず語りに彼等に話していると、Bちゃんは　兎に角、一服だけでも試してくださいと薦める。インド、ネパール帰りの＜お寺さん＞は両手で拳を作ってその両の拳を合わせた間からガンチャを挟みながら不思議な吸い方を仕始めた。カトマンズでは現地の人達はそんな吸い方をして大麻煙草を吸うらしい。私も意味もなく真似してみた。ベッドサイドのラジオからはビートルズのスローなバラード、＜here there& every where＞が流れてきた。ビートルズは葉っぱとフィットするんだよなと＜お寺さん＞が独り言の様につぶやく。肺まで深く吸い込んでしばらく吐き出さない状態を何度か続けていれば、良くなってきますよとBちゃんが云う。目を閉じると尚更良くなるとも云った。　Bちゃん、肝炎は大丈夫なん？まだ２１歳なんだろ？と思わず尋ねた。　Ｂちゃんはちょっと困ったような表情を浮かべ苦笑いをするばかりだった。


数度、深く肺まで吸い込み瞳を閉じた。やがて気持ちの悪さが気分の良さに変わっていったのは、ベッドサイドのラジオからはビートルズが相変わらず流れていた。
ベッドに横たわり気持ちの悪さを押さえていた私の中で逆転現象が起きたのがハッキリと判った。何とも言えぬ至福感のようなものが私の脳細胞の一つ一つにに染み渡るような気分になっていく。身体はとても軽い感じになり、ベッドに横たわりながらも室内を自在に浮遊するが如く彷徨う事が出来るような感覚にさえなった。喩えればとてつもなく紐の長いブランコに乗って緩やかに揺れているような感覚だった。僅か一本を吸い終えた後も、そんな状態が一時間以上も私の心身を支配した。更に私は、次々とラジオから流れるビートルズを大声で放歌して他の二人を呆れさせてしまったらしい。ガンチャは羞恥心というものを欠如させてしまうのかもしれなかった。こんなに効いてしまう人も珍しいなと＜お寺さん＞が笑った。