2004/07/02 - 2004/07/11
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金魚のじいちゃんさん
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四十五年ぶりにひと目惚れをした。といっても、とっくに還暦過ぎの身だ。相手は女性ではなく景色である。スイスも素敵だ、パリもパッとしてるし、なんといってもベネチアがベストだなんて、自分なりにランク付けをしていたけれど、すべてノックアウト。一目でほれ込んだのが、スコットランドだった。
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写真説明・ネス湖です。
今回、かみさんの選んだ英国旅行のスケジュールには、湖水地方やコッツウォルズを楽しんで、ロンドンを散策するツアーだが、その前半にスコットランド周遊が組み込まれていた。
アバディーンからインバネス、ネス湖を経てグラスゴー、エジンバラを回るコースである。ピーターラビットやシェークスピアに会う前の気晴らしのつもりで、たいした期待ももたずにツアーバスに乗り、アバディーンを出発してインバネスにむかった。
七月という、英国にとっての最良の季節にもかかわらず、傘を差したり畳んだりしながら、夕刻にネス湖に近いホテルに入った。 -
翌日は、ネス湖を観光した後、ハイランド(山間部)を横断してグラスゴーからエジンバラに向かうコースだ。
貸切りのツアーバスは自由席なので、見晴らしの良い前方の席に座るには、早めに乗車する必要があるが、今日はビューポイントもないし、途中は通過するだけだからと、ゆっくりと乗り込んだ。
まずネス湖だが、想像していた通りの雰囲気が漂っていた。日の射さない泣きそうな空。モノトーンの対岸の山と湖面。そして廃墟の古城。架空の恐竜を、観光の目玉にした知恵ものに脱帽である。
バスはネス湖の右岸に沿ってハイランドの中央部に入っていった。
アバディーンから感じていたのだが、窓から見る風景が、なんともいえず柔らかいのだ。牧草なのか雑草なのかわからないが、荒れ野に近い草原に、米粒みたいな羊が群れている。要所々々にはスレート石を積み重ねた仕切りが設けられて放牧の家畜たちを囲い込んでいる。しばらくするとバスは林に入り、手を伸ばせばさわれるほど張り出した枝をかすめてゆく。この繰り返しが、延々と続く。 -
取り立てて印象に残る建物や樹木があるわけではない。行けども、走れども緑一色。ただそれだけのことなのだが、すごく気持ちがいい。締め切った窓ガラスをすり抜けて、車内に緑の色素と香りが入り込んでくるようである。
大昔には緑が色として認知されていなかった、ということを聞いたことがあるが、なるほどと納得できるほど、濃い緑、浅い緑、黄色っぽい緑、青っぽい緑。見渡す限りみんな緑だ。そのうえ、ただ緑というだけではなく、木々も、山の稜線も全てが丸みを帯びていて、角張ったところがない。やさしいのだ。
以前どこかで見た風景。そんなビジャビュー(既視感)に包まれて、私は窓から目が離せなくなっていた。全てがビューポイントであり、一箇所として見過ごしてよいところはなかった。
思い出した。そう、私が子供のころ過ごした田舎に似ているのだ。草原と田んぼ、スレート石の仕切りとあぜ道。道具建ては異なるが舞台はおなじである。
そりゃあ、家並みもなく歩く人も見当たらない荒涼とした車窓の風光と、私の記憶にある田舎とは、違うといえば違うけれど、この風景が持っている「やさしさ」は、まったくおなじだった。私は、半世紀以上もの昔にタイムトリップしていた。 -
このツアーを引率する女性添乗員は、プロである。アバディーンで買ったというスコットランド民謡のCDを車内に流し続けているのだ。
蛍の光、庭の千草、夕空晴れて。みな本歌はスコットランド民謡である。そこはかとなく哀愁を帯びたメロディーは、センチメンタルな日本人、少なくとも私の琴線をはげしく揺さぶる。そういえば、高橋真理子の名曲「五番街のマリー」は、有名なスコットランド民謡「ロッホ・ローランド」のパクリというほどよく似ている。
この、ハイランド地方のありふれた風景が、幼い日の記憶と同期化され、哀愁を帯びたバグパイプの音色で増幅されるのだからたまらない。年寄りの涙腺は、簡単に機能不全に陥った。
映画「ロブ・ロイ」の舞台にもなった、悲劇のグランコーや、雲が切れ、すっきりとして陽光を反射しているローモンド湖を経由してエジンバラの近郊、リビングストンのホテルのついたのは夕刻遅くだった。
(写真はロッホ・ローモンド「ローモンド湖」) -
夕食後、ホテルのバーで、バーテンさんに「Are You British?」と何気なく聞いたら即座に「ノー!アイム スコッツ」と大声が返ってきた。「とんでもない、イングランド人じゃないぜ。おいらは生粋のスコットランド人だ」という、気迫が感じられた。
「Sorry」と、謝ったのはもちろんだ。反省の印に二杯目は、ビールをシングルモルトウィスキーのグレンフィディックに変更した。
カウンターの奥の棚には、英国のユニオンジャック旗ではなく、セント・アンドリュース旗というスコットランドの国旗が飾られてあった。
そして私の胸にも、先ほど売店で買い求めたばかりの青地に白十字をクロスさせたバッチが。
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