駅からル・ボリューまでは徒歩で5、6分といったところだろうか。
レストランは長期滞在型ホテルのような外観の建物の1階に入...
続きを読むっている。
南西の二面が窓になっているせいか、レストラン内はとても明るい。
客はまだ、我々だけのようだった。
ランチはビジネス・ランチ590baht、エグゼクティブ・ランチ890bahtの2種類で、悩んだ挙句、エグゼクティブ・ランチにした。
前菜、メイン、いずれもプリフィックスである。
我々はよほどの高級店でないかぎり、シェアして食べることを信条としているので、前菜にエビのクロケット・ブルーブランソースとブイヤベース・ガーリックトーストとルイユ添えを、メインにタルタルステーキ、リングイネ・蟹のサフランソース仕立て、デセールにサヴァラン、チョコムースのシャルロッテを頼んだ。
そして、ワインは相方がブルゴーニュのシャブリ、僕はローヌの赤を注文した。
ほどなくして、出てきたパンは焼き立てでなかなか美味しかった。
皮目が香ばしく、中はほどよくしっとりしている。
これは期待が持てそうだ。
ローヌの赤をひと口、すすりこんでみる。悪くはない。
しかし、ワインはグラスで700bahtを軽く超え、日本と変わらないか、それ以上。
日本ではこの価格帯ならもう少しクオリティのよいワインがいただける。
そう考えると、こんなものかな、とも思う。
お得感を期待するのなら、タイではワインはのまないほうがいい。
(わかっていても、ワインを飲みたくなってしまうんですけどね)。
前菜が運ばれてくる。
僕の前にエビのクロケット・ブルーブランソース、相方にはブイヤベース・ガーリックトーストとルイユ添えが置かれる。
エビのクロケットはよくあるような、ベシャメル・ソースの中にエビを入れたようなものではなく(つまりカニクリームコロッケのようなものとも違って)、スープ・ド・ポワソン(ブイヤべースのスープ)に濃度を加え、クロケットに仕立てている。
クロケットを半分に切り、半分をそのまま、半分はブルーブランソースを付けて食べてみた。
クロケットの中のエビとサフランの風味が鼻に抜ける。
衣の香ばしさも手伝って、まずまずの出来だ。
相方のブイヤベースをシェアしてもらい、ひと口飲んでみた。
エビのうま味は確かに感じられるが、少しトマトが強く前に出ている。
魚はスズキが使われていた。
ここまで読んでいただければおわかりの通り、このふた皿にはブイヤベースのスープが使われている。
プリフィックスのメニューで、こうした構成は普通はあり得ないし、またあってはならない。
二つの料理のベースには、どうみても同じスープ・ド・ポワソンが使われている。
お店側からすれば材料費の節約のつもりだろうが、客側からすればあってはならない手抜きである。
シェフはきっとそんなことはたいしたことではないと思っているのだろう。
しかし、そうではない。
ある客が、トマトを使った料理が苦手だから、クロケットを頼んだのに、トマトを使ってあるスープ・ド・ポアソンが中に入っているとしたらどう思うだろう?
もうひとつ、驚くべきことがあとで判明する。
メインが出てくる。
牛のタルタルステーキ、と蒸したスズキのラタトゥーユ・ソースが運ばれてくる。
さっそくナイフを入れた。
タルタルステーキはよく叩いてあり、ねっとりとした舌触りはよいが、もう少しうま味がほしい。
蒸したスズキのラタトゥーユ・ソース。これについては相方も僕もまったく気づかず、またトマト・ベースだね、などと言って食べ始めた。
注文したのはリングイネ・蟹のサフランソース仕立てである。
まったく間抜けな話だが、どこにリングイネ(パスタ)が使ってあるのだろう、そんなことを考えながら食べ続けた。
蒸したスズキのラタトゥーユ・ソースはビジネス・ランチ590bahtのメニューで、エグゼクティブ・ランチ890bahtのメニューにはない。
フロアスタッフの女性は3人で、かろうじて英語ができる女性は1人にすぎない。あとの2名はまったく話せず、ワン、ツー、スリーもおぼつかない感じだった。
これでオーダーと違うものが出された、と抗議すればおおごとになる。
いまの気分を台無しにしたくなかった。だから、僕はこの事実を黙って飲み込んだ。
デセールのサヴァラン、チョコムースのシャルロッテをきれいに平らげ、チェックをお願いした。
4,000bahtを軽く超えている。
サービス料と外税が付いていた。
日本円に換算して、10,000円超といったところだろう。
この料理、構成、サービスのレベルで判断するなら、CPはかなり悪いといってよいだろう。
東京のフレンチのほうが、よほどCPはよい。
シェフのHervé Frerard氏はフランス人であるようだ。
フランスの三ツ星レストランでも、修業したことがあるという。
日本人は「フランスの三ツ星レストランで修業」に弱い。
日本の有名フレンチのシェフの多くが、箔をつけるために「三ツ星修業」を肩書きにしているが、どのクラスまで上り詰めたのかが実は重要なのだ。
いわゆる総料理長(シェフ・ド・キュイジーヌ)なら文句なくすごいが、それに次ぐスー・シェフでも、大変な実力の持ち主だといえる。
だが、多くの料理人は日本料理店でいう追いまわしにあたるコミと呼ばれる下働き止まりで、三ツ星レストランで修業を看板にするケースがほとんどなのである。
コミでさえ、2、3年の就業期間を要するのだから、20代で三ツ星修業を肩書きにしているようなら、はなはだ怪しいといえるだろう。
シェフのHervé Frerard氏がきちんと三ツ星レストランで、修業をされたのなら、もう少し細部に目配せのある、繊細な気配りがあってもよさそうなのだが…。
少し厳しすぎるといわれるかもしれないが、これでもずいぶん手加減しているつもりだ。
食べることは主観が支配する世界である。僕が絶対であるはずがない。
だが、サービスや価格については、ある程度客観的な批評が可能だと考えている。
参考になればと思う。
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投稿日:2011/11/17