横浜に残るヴォーリズ建築を訪ねて ー 慶應義塾基督教青年会館（YMCAチャペル）

2012/03/17 - 2012/03/17

明治末から昭和初期にかけて滋賀県近江八幡を中心にして、さらには日本各地で西洋建築を建てたW.M.ヴォーリズ（1880～1964）は現在知られているだけでも100棟余りの住宅、教会、学校、商業施設（デパート）等を建設しています。中には老朽化のために取り壊されたものも多いです。

これまで横浜にはヴォーリズが携わった建築は横浜共立学園本校舎のみと考えられてきましたが、実はもう一つあったのです。それは慶應大学日吉校舎内にある「基督教青年会館」(通称、日吉チャペル又は慶應大学YMCA会館とも）です。

1937年(昭和12）に慶應大学YMCA・OBの寄付で建設され、大学に寄贈されました。戦争中は海軍によって外国のラジオ放送の傍受等のために使用されましたが、戦後一時アメリカ軍の接収があり、現在は大学YMCAが使用しています。

これまでどうしてヴォーリズが建てたということが解からなかったのか不思議でしたが、最近一粒社ボーリーズ建築事務所から設計図が出て来て、ようやくこの疑問が解けたそうです。そこでこの日一日だけの一般公開があるとの案内をいただき、早速見学に出掛けた訳です。

エリア 港北・長津田・青葉(神奈川)

見学する前に少々時間の余裕があったので、日吉キャンパス内を歩いてみました。

正門からまっすぐ歩いて行くと、２つの建物が左右に挟んで中庭があり、その一つがこの建物で、第１校舎です。1934年（昭和９）に完成し、当初は大学予科の校舎として使われていました。戦時中は海軍に、戦後はしばらくアメリカ軍に接収されていました。

この建物も同じ第１校舎の南側ですが、この校舎は現在は慶應義塾高等学校の校舎として使われています。

中庭を挟んだ、もう一つの建物は第２校舎で、完成当時は大学予科の校舎として使われていました。

「基督教青年会館」は広大な日吉校舎の隅の方にあり、なかなか分かりずらい静かな一角にあります。正門から歩いて10分位のところに、平屋の小さな十字架のある建物(チャペル）が見えてきます。

この会館は1898年（明治31）に創設された慶應義塾基督教青年会の創設者の一人、里見純吉(元大丸社長)らの寄付で建設されました。協力者には、小林喜一(元ライオン社長）、五十嵐丈夫（元白洋舎社長）、横浜礼吉（元御木本真珠店取締役）、西野徳之助(元白木屋呉服店社長）の名前が挙げられています。

先に述べたようにOBたちの募金活動が行われて、建設されたのは1937年(昭和12）です。その後すぐ慶應義塾に寄付されました。

戦時中は慶應高校(当時は予科）の校舎が海軍に接収され、戦後はアメリカ軍が使用していたために、この教会堂もアメリカ軍がチャペルとして使っていました。

接収解除後は慶應義塾に返還され、YMCAが使用し、現在に至っています。

尖塔の十字架が夕方の空に浮かび上がり、美しい姿を見せています。

会堂の中に入ってみました。中はそんなに大きくはありません。ヴォーリズが建てた教会の中では一番小さいかもしれません。

会堂正面を撮ってみました。建物は平屋ですが、設形図によると、地下室も書かれていています。しかし、実際は造られなかったようです。

天井部分を見上げると、屋根の作りがむき出しのままです。

会堂は60人収容できるそうですが、ここに置かれている椅子にご注目ください。相当古いですね。

これらの椅子は東京都港区六本木にある国際文化会館で使用していたものを何らかの理由で譲り受けたそうです。元来は1955年(昭和30）の会館新築にあわせて、食堂用の椅子として作られました。作者は長大作で、製造は天童木工です。

柔らかな照明が心地よいですね。

これは日曜日の礼拝等に使われる説教壇です。かなり古そうです。

かなり古いオルガンも置かれています。

鍵盤の上の方に“HAMAMATSU”と書かれた文字が見えます。

会堂正面に設置されている、十字架がデザインされた窓です。

ヴォーリズの建てた建築はそこにいるとどれもほっとするようなものばかりで、落ち着いた空間を有することが特徴かもしれません。小生は長い時間詳細に見ていたので、少々疲れましたが、しかし、癒しの空間と言っても良いようなこの教会でしばし安らぎの時を持つことが出来ました。