2025/06/12 - 2025/06/16
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おくぅーんさん
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それは、ある日の父のひと言がきっかけだった。
「温泉に行きたいなぁ」――その何気ないつぶやきを、子供の私たちは聞き逃さなかった。
そういえば昔、父と母がよく旅行に出かけては、楽しそうに話していたっけ。
あれから気がつけば、いつの間にか10年以上の歳月が過ぎていた。その間にはコロナ禍もあり、思うように遠出ができない時期が長く続いていた。
そのうちに、ふたりとも少しずつ体力が落ちていって、「旅行に行こう」という気持ちも、どこかに置き去りにされたように見えていた。
それでも――あのひと言がすべてを教えてくれた。
行きたい気持ちは、今もちゃんと残っていたんだなと。「まだ父母が元気に歩けるうちに、どこかに連れて行ってあげたいな」
そんな思いが芽生えて、今回の旅行を計画することにした。
旅行の計画を立てながら思ったのは、「せっかくなら、みんなが行きたい場所にしよう」ということ。それならやっぱり、前から家族で話していた“東北”しかないな、と思った。
とはいえ、「東北」とひとくちに言っても、その範囲は広い。
車で移動することを考えると、山形あたりが現実的なラインかもしれない……。
そんなことを考えていたとき、ふと「銀山温泉」のことを思い出した。
前に一度行ったことがあったけれど、あのとき見逃してしまった“夕暮れの景色”が、ずっと心に引っかかっていた。今度こそはリベンジという気持ちも込めて、一泊目は銀山温泉に泊まることに決めた。せっかくなら「日本秘湯を守る会」の会員宿である能登屋旅館に泊まりたかったけれど、残念ながら予約は取れず……。
そこで、別の宿を探すことにした。
最終的に予約が取れたのは、「昭和館」。
正直なところ、銀山温泉で泊まれるなら、どこでもいいか……と思った瞬間もあった。
だけど――やっぱり、“源泉かけ流しの風呂”だけは、どうしても譲れなかった。
- 旅行の満足度
- 5.0
- 観光
- 5.0
- ホテル
- 5.0
- グルメ
- 5.0
- ショッピング
- 5.0
- 交通
- 3.0
- 同行者
- 家族旅行
- 交通手段
- 自家用車
- 旅行の手配内容
- 個別手配
-
【一日目】
自宅を出発する予定は朝5時半。
……のはずだったのだが、何せ“レジェンド世代”は朝にめっぽう強い。
予定の時間を待ちきれず、気づけば5時には我々を乗せた車がすでに走り出していた。
最初の目的地は上杉神社。
そのすぐ隣にある駐車場の近くには特産品売り場があり、同じフロアに食事処もあった。ちょうどお昼時に到着したこともあって、そこでランチをとることに。
場所は米沢市。となれば、やっぱり食べたいのは名物の米沢牛。すでに口の中は“牛モード”全開だった。
……が、まさかの展開。お目当てのレストラン、まさかの定休日。えっ、今日って木曜?うそでしょ?リサーチ不足発覚!!
「ちゃんと調べてから来いよ……」と、自分をちょっと責めつつも、「まぁ、こういうこともあるよね」と気持ちを切り替える。
事前にいくつか別の候補も考えてはいたけれど、今からそこに車で行く?いや、ここで時間をロスするのももったいない。というわけで、すぐ隣にあったラーメン屋さんでお昼をとることにした。
山形といえば、実はラーメンが有名。あまり期待せずに入店したわけだけど、スープはやさしい味付けで、意外にもかなり美味しかった。 -
腹ごなしを終えて、「上杉神社」へと向かった。
上杉神社といえば、上杉謙信を祀る神社として有名だが、私は初めて訪れる場所。どこに何があるのかさっぱりわからず、周囲をゆっくり見渡しながら歩を進めていた。
ところが父はというと、いつものごとく先頭に立ち、猪突猛進の勢いでズンズン進んでいくものだから、他のメンバーはついていくのがやっと。
さすがに様子がおかしいと思って勇に聞いてみたら、なんと「前にも来たことがある」とのこと。それなら最初にそう言ってよ!と思わず突っ込みたくなる展開だった。
にしても、本当にいろんなところ行っているんだね。すごいわ、勇。
神社ではお参りと御朱印をゲット、そして上杉鷹山先生の銅像を拝見して、観光気分は上々。ただ。敷地内にある“稽照殿”という資料館的な建物には入らなかった。興味も時間も余裕がなかった上、拝観料が必要と知って、つい足が止まってしまった。 -
上杉神社をあとにして、次に向かったのは「東光酒造」。お酒の買い出しが目的だ。
神社からすぐ近くにあったので、あっという間に現地に到着。移動が楽だと、それだけでちょっと気分もいい。 -
この酒造店も初めて訪れる場所で、入口で少しまごついていると、父がまたもや先頭をきってスタスタと歩き始めた。
しかたなくそのあとをついていくと、迷うことなく目的のお酒販売コーナーに到着。なぜそんなにスムーズなんだ……と不思議に思って勇に聞いてみると、なんと「ここ、一回来たことあるよ」とのこと。えー、そうだったの? -
あれこれとコースを練って決めた今回の旅だったけれど、気がつけば以前、父が作った“東北プラン”と行き先がそっくり。
まさかこんなところでも行先がかぶるとは。 -
そしていよいよ、「銀山温泉」へ向かうことに。
旅館街には駐車場がないため、少し離れた専用の駐車場に車を停める必要があった。午後3時過ぎに到着すると、そこにはすでに旅館の若い従業員がスタンバイ。イケメンでテキパキと荷物を車に積み込み、迎えの車で温泉街へと向かう。
その丁寧かつスムーズな対応に、なんとも言えない心地よさを感じた。
宿泊先の「昭和館」は、温泉街のちょうど中心に位置しており、部屋からは銀山川を見下ろすことができる絶好のロケーション。まさに、銀山温泉の雰囲気を存分に味わえる宿だった。
そしてまたもや父がサラッと一言。「前にこの隣の旅館に泊まったことあるよ」
……え、それも初耳!
今回の行き先、実は以前に父が立てた“東北プラン”と不思議と重なっていたようで、偶然というには出来すぎた一致に、ちょっと驚いた。 -
チェックインを済ませたあと、温泉街をぶらりと歩きながら、ちょっとしたテイクアウトを楽しむことにした。
立ち寄ったのは、“野川とうふや”。そこで買ったのは名物の「生揚げ」と「とうふ」。 -
せっかくなので、川沿いにある足湯に浸かりながらいただくことに。
湯の温もりに足をほぐされながら頬張る生揚げやとうふは、香ばしくて、とても美味しかった。 -
少しお腹を満たしたあとに、銀山温泉のいちばん奥にある滝を見に行くことにした。温泉街の風情ある通りを進んでいくと、だんだんと川の流れが激しくなり、耳に届く水音も力強さを増してくる。
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そして目の前に現れたのが、勢いよく岩肌を流れ落ちる滝。轟々と音を立てながら流れ落ちる水は、まさに自然のエネルギーを感じさせる迫力で、しばらくその場に立ち尽くして見入ってしまった。温泉街のしっとりとした風情とはまた違った、力強い自然の一面に触れられた、印象的なひとときだった。
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ひととおり日中の銀山温泉街を歩いて回ったあとは、宿に戻って温泉でひと息つくことにした。館内には、いつでも利用できる男女別の内風呂と、6階と高いところにある「天空風呂」と呼ばれる展望風呂の二種類がある。どちらも源泉かけ流しで、湯はとろりとした肌触り。まるで湯そのものに包まれているような、やさしい温もりが心地よかった。
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とはいえ、最初に湯船に足を入れたときは、その熱さにちょっと驚いてしまった。脇には水の蛇口が設けられていて、好みの温度に調整できるようになったいた。そうした心づかいからも、温泉文化の奥深さが感じられる。
でも正直なところ、できれば最初からちょうどいい温度に調整されていてくれたら……なんて思ってしまったのも本音だった。 -
温泉でじっくり体を温め、お腹がいい具合に空いてきたところで、いよいよ楽しみにしていた夕食の時間。運ばれてきた料理はどれも丁寧に盛り付けられた小鉢や器に少しずつ。
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最初のうちはテンポよく箸が進んでいたものの、次第にお腹が満たされてきて、終盤には「もう食べられないかも」と思うほどの満腹感に包まれていた。気づけば、心も体もすっかり幸せで満たされていた。
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夕食を終えたあとは、やっぱり銀山温泉の夜景を見に行くしかあるまい。旅館の従業員によれば、今日の宿泊客の数は最盛期のほんの百分の一ほどだとか。やはり人が最も集まるのは冬らしく、その時期には予約があっという間に埋まってしまうらしい。
人が多いと、写真を撮っていてもそれが美しい景色をおさめているのか、それとも人混みを撮影しているのか、だんだんわからなくなってくるものだ。その点、今夜は静けさに包まれた銀山温泉の夜を、ゆっくりと堪能できそうだ。 -
今日は一日を通して天候に恵まれ、夜になっても寒すぎず暑すぎず、肌に当たる風がちょうど心地よいくらいの気温だった。そんな理想的なコンディションの中で見る銀山温泉の夜景は、本当に格別。
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川沿いにぼんやりと灯るガス灯の明かりが、水面に映ってゆらゆら揺れ、まるで時間がゆっくりと流れているかのようだった。
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さらに、人通りも少なかったおかげで、周囲を気にすることなく好きな場所から写真を撮ることができたのも嬉しかった。
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それにしても、大正ロマン漂う街並みのノスタルジックな雰囲気には、どこか懐かしさがあって心がじんわりと温かくなる。現実を忘れて、しばし夢の中を歩いているようなひとときだった。
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銀山温泉の幻想的な夜景をたっぷり堪能したあとは、名残惜しさを感じつつ旅館へと戻り、心地よい疲れとともに布団に身を沈めた。気がつけば、そのままぐっすりと眠りに落ちていた。
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【二日目】
昨日は、はるばる遠い山形まで車を走らせて来たこともあり、今朝はゆっくり寝ているつもりだった。ところが、東の空が明るくなるのが思いのほか早くて、その光に誘われるように体が自然と反応し、気づけば朝5時には目が覚めていた。せっかくなので、そのまま寝床を抜け出した。 -
この日は、銀山温泉の奥にある山あいの地、延沢銀山遺跡を散歩がてら訪れることにした。
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延沢銀山は、かつて島根の石見銀山、兵庫の生野銀山と並び「日本三大銀山」と称されるほどの繁栄を誇ったという。
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実際に足を運んでみると、そこはひんやりとした静寂に包まれた場所で、黒ずんだ岩肌の間を縫うように設けられた橋を進みながら、遠い昔のにぎわいや人々の営みに思いをはせることができた。
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銀山温泉を朝から散策してお腹がほどよく空いたころ、ちょうど朝食の時間がやってきた。
朝食は体にやさしいヘルシーな献立で、量もちょうどよく、朝にはぴったりの内容だった。なかでも嬉しかったのは、一人分ずつ小さな釜で炊かれたごはん。ふたを開けると、つやつやとした炊きたてのごはんがふんわりと湯気を立てていて、それだけでもう食欲がそそられる。
昨日、車で山形を走ってきたときに車窓から広がる田園風景を見て「ここも立派な米どころだな」と思っていたが、実際に口にしてみて、その想像が間違っていなかったことを実感した。まさに噛むほどに旨みが広がる、美味しいごはんだった。 -
なかでも嬉しかったのは、一人分ずつ小さな釜で炊かれたごはん。ふたを開けると、つやつやとした炊きたてのごはんがふんわりと湯気を立てていて、それだけでもう食欲がそそられる。
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昨日、車で山形を走ってきたときに車窓から広がる田園風景を見て「ここも立派な米どころだな」と思っていたが、実際に口にしてみて、その想像が間違っていなかったことを実感した。まさに噛むほどに旨みが広がる、美味しいごはんだった。
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朝食を終えたあとは、チェックアウトの時間ぎりぎりまで温泉に浸かり、心も体もすっかりほぐれた状態で銀山温泉をあとにした。
穏やかに流れる時間と、静かな景色の中で過ごしたひとときは、しっかりと記憶に刻まれた。こうして余韻を残して次の目的地へ向かうのも、旅の楽しみのひとつなのだと感じた。 -
そして次の目的地へ向かう途中、山形駅に立ち寄って記念スタンプをゲット。ついでにお土産も購入することにした。
土産は道の駅などでもいろいろ見てきたけれど、やっぱり駅構内の売店のほうが品揃えも豊富で、どこか洗練された感じがする。そんな予感は的中し、気づけば両手いっぱいにお土産を抱えるほどの大量買いに。まさに「見ると欲しくなる」の典型だった。 -
山形駅をあとにし、次に向かったのは、すぐ近くにあるとされる「男山酒造」。
事前にネットで調べた情報によると、山形駅から徒歩圏内にある大規模な酒蔵で、見学施設も充実していそうだった。これは楽しみだ、と期待に胸をふくらませながら車を走らせていたのだが――
ナビの案内に従ってたどり着いた先にあったのは、昔ながらの風情を残した、こぢんまりとした酒造店。
あれ? ネットで見た、あの立派な建物も広々とした敷地も……ない。どこにもない。
不思議に思って、もう一度スマホで「男山酒造」と検索し直してみると――
なんと、一番上に出てきたのは「北海道・旭川」にある男山酒造だった。まさかの同姓同名の思い違い。完全に勘違いしていたのは、自分だけだった。 -
すっかり都会的でモダンな酒蔵をイメージしていた自分に対して、同行者たちはあまり驚く様子もなく、むしろ穏やかに受け入れているようだった。このちょっとした悔しさと、ひとり空回りした気持ちは、そっと胸の奥にしまっておこうと思う。
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男山酒造では、案内された事務所の一角で試飲をさせてもらうことができた。
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どれも丁寧に造られた味わいで、せっかく美味しいお酒をいただいたのだから、手ぶらで帰るわけにもいかない。
気に入った数本を選んで購入し、満足とほろ酔い気分を胸に、酒造店をあとにした。 -
そうこうしているうちに、ちょうどお昼時となり、すぐ近くにある「手打ち蕎麦 庄司屋」へ足を運ぶことにした。
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山形県といえばラーメンの印象が強いが、実はそばの名産地としても知られている。その噂に違わず、このお店でいただいた手打ちそばは、コシのあるしっかりとした歯ごたえで、噛むほどに蕎麦の香りが広がる美味しさだった。
地元の水と風土に育まれた味わいに、思わず箸が止まらなくなった。 -
山形の蕎麦でお腹を満たし、ひと休みしたあとは、いよいよ次の宿泊先「大黒屋」へ向けて出発。山形から福島への移動となるのだが、どちらも面積の広い県だけに、車での移動にはおよそ3時間弱もかかるようだ。それでも、心配していた天気は幸いにも曇り空で、かえって穏やかなドライブ日和。気持ちを切り替えて、のんびりと道中を楽しむことにした。
道すがら目に入ってきたのは、一面に広がる田んぼの風景。そして、あちこちに見られたサクランボ畑。サクランボ狩りができることを知らせる旗も立っていて、「一度やってみたいな」と思わずつぶやいてしまう。さらに目を引いたのは、ビニールハウスの中に広がるスイカ畑。こんなにたくさんのスイカが育てられている光景は、これまでに見たことがなく、新鮮な驚きだった。
やっぱり、いろんな土地を旅していると、目的地に着くまでの道中でも新しい発見がある。何気ない景色の中にも「はじめて」がたくさん詰まっていて、それが旅の醍醐味だなと、改めて感じた。
そして、曲がりくねった道の先にひっそりと佇む、まさに“秘湯の宿”という趣きの大黒屋に到着。当初は午後4時半ごろの到着を予定していたものの、レジェンド世代ならではの“早め早め”の行動が功を奏し、1時間も早く到着することができた。さすが旅慣れた動きで、思わず「えらい!」と言いたくなるほど。
旅館の第一印象としては、外観がとても新しく、最近リニューアルされたのかなと思うほどきれいで好印象だった。そして、まわりの景色もまた印象的で、木々に囲まれた中にぽつんと建つ一軒家のような佇まい。ここを拠点に観光地を巡るというよりは、静かな自然に包まれながら、ただひたすら温泉に浸かって心身を癒す——そんな過ごし方が似合う場所だと感じた。 -
それからチェックインを済ませて部屋に案内されると、すでに寝具が整えられており、畳の上には低めのベッドが設置されていた。畳の上に布団というのも風情があって悪くないのだが、この年になるとやはりベッドのほうが体にも優しく、なにより布団の上げ下ろしのためにスタッフが部屋に出入りする手間もない。そうした点もあって、最近はなるべくベッドのある部屋を選ぶようにしている。
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窓の外を眺めると、視界に入るのは森の木々ばかり。まわりに人工物は見当たらず、まさに自然を満喫できる場所だということを、あらためて実感した。
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部屋に入ってひと息ついたあとは、さっそく温泉へ。まあ、他にやることもないしね。お風呂は大きく分けて二種類あり、ひとつは男女別の内風呂とそれから続く露天風呂、もうひとつは時間ごとに男女が入れ替わる「大岩風呂」と「櫻の湯」。この中で特に有名で人気があるのが「大岩風呂」だ。まずは、その有名な大岩風呂に行くことにした。ただしこの大岩風呂、アクセスが少々大変で、本館からかなり歩いた先にあり、さらに100段ほどの階段を下らねばならない。
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それから阿武隈川にかかる小さな橋を渡らなばならないが、その手間をかけてでも行く価値は十分にある。
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風呂は圧巻の広さで、浴槽の深さはなんと1.2メートル。肩までしっかりと湯に浸かることができ、全身が包まれるような心地よさに自然と力が抜けていく。そして何より感動したのは、その絶妙な湯加減。ぬるすぎず熱すぎず、いつまでも浸かっていたくなるような至福の温かさだった。
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尚、隣の櫻の湯も泉質や湯加減は同等だった。
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温泉でしっかりお腹を空かせたあとは、いよいよ楽しみな夕食タイム。料理は小鉢中心で、一品ずつ少しずつ出てくるスタイルだったので、最初のうちは「これならそんなに量はないかな」と思っていた。ところが、あとからあとから料理が運ばれてきて、気づけばテーブルは賑やかに。
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夕食の終盤には、もうお腹がパンパンで、「これ以上はもう水も入りません!」というくらいの満腹状態に。久々にこんなに食べたなあと、思わず笑ってしまった。
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夕食のあとは、満腹のお腹を少しでも落ち着かせようと、「恵比寿の湯」へ足を運ぶことにした。ここは部屋から近く、階段を使わずに行けるので、食後の身体にはちょうどいい距離感。このお風呂は、先に入った「大岩風呂」とはまた違った趣があり、泉質もやややわらかく感じられた。
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内風呂の奥には露天風呂がつながっており、そこから眺める自然の風景がまた見事で、しんと静まりかえった森の空気とともに、心まで洗われるような気持ちになった。日常の喧騒をすっかり忘れ、湯けむりに包まれながらゆっくりとくつろぐ時間――これぞ温泉宿の醍醐味だと、しみじみ実感できるひとときだった。
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【三日目】
日頃の習慣とは恐ろしいもので、せっかくの温泉旅行だから朝はゆっくり寝ていよう…と思っていたのに、結局はいつものように日の出とともに目が覚めてしまった。周囲に観光地がないのはわかっていたけれど、せっかくなので旅館の外を散歩してみることに。
旅館を出て、少し横道にそれて坂道を下りてみると、その先には阿武隈川が流れていた。さらにその上流には滝があり、想像以上の水の勢いに思わず足を止めて見入ってしまうほど。朝の静けさの中に響く水音が、なんとも清々しい気分にさせてくれた。 -
坂道の先には登山道もあり、まだ早朝だというのに、すでに何人かの登山者が黙々と山へと入っていく姿が見えた。この温泉に来る前は知らなかったのだが、このあたり一帯にはいくつも登山ルートがあるらしく、自然を楽しむには格好の場所だったようだ。
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昨晩あれだけたっぷり夕食をいただいたというのに、もう朝ごはんの時間。正直、それほどお腹が空いているわけでもなかったのだが、とりあえず食堂へ。ところが不思議なもので、温泉宿の朝ごはんはなぜかスルスルと箸が進み、普段はしないごはんのおかわりまでしてしまった。旅先の魔法というやつだろうか。
朝食のあとは、チェックアウトまでの時間ぎりぎりだったが再び温泉へ。湯の温度はそれほど高くないはずなのに、じんわりと体の芯まで温まって、湯上がりにはいつまでもポカポカが続く。心も体もゆるりとほぐれていく、まさに至福のひとときだった。 -
それでは、豊かな自然に囲まれ、温泉が自慢の宿・大黒屋に別れを告げて、次の目的地へと出発することにしましょう。
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旅館・大黒屋を後にしてしばらくすると、空からぽつぽつと雨が降り始めた。天気の変化は想定内で、あらかじめ晴れ用と雨用、二通りのプランを立てていたので、ここは迷わず“雨パターン”に切り替えることにした。
向かう先は「源三窟」。その昔、源氏の武将が身を潜めていたとされる洞窟で、歴史的にも興味深い場所だ。屋内の見学がメインなら、雨でも心配はないし、むしろ洞窟の雰囲気がしっとりとして、いい味を出してくれるかもしれない――そんな期待も抱きながら車を走らせた。 -
源三窟は、その洞窟に入る前に施設のおじさんがその歴史や背景などをすらすらとわかりやすく解説してくれたのでとても助かった。
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意外にも見ごたえのあった源三窟の見学を終えたあとは、すぐ近くにある「こばや食堂」でランチをとることにした。店に入ったのはちょうどお昼前だったので、まだ客もまばらで、スムーズに席に着くことができた。このあたりの名物は「スープ入り焼きそば」。今まで一度も食べたことがなかったので、迷わずそれを注文してみた。
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運ばれてきた料理は、見た目こそ完全にラーメンそのもの。しかし、ひと口食べてみると、麺もスープも確かに焼きそばだったので、不思議な感覚。最初は「これはアリなのか…?」と半信半疑だったが、食べ進めるうちにだんだんとクセになってくる。ちょっとクセのある味だけど、なんだか忘れられない不思議な美味しさだった。
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こばや食堂にてお腹を満たせたあとは、いよいよ最後の宿泊地の栃木県の湯西川温泉に向けて出発。途中に道の駅で休憩をしつつも、旅館平の高房に到着したのが午後3時少し前だった。
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チェックインを済ませたあと、部屋に通されたがいつでも入れる風呂付の豪華な部屋で贅沢な気分になれそうだった。
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とはいえ、まずは貸切露天風呂と、時間帯で男女が入れ替わる大露天風呂へ直行。
どちらの湯も湯加減がちょうどよく、肌にとろりとまとわりつくようなしっとり感があって、まさに“美人の湯”という名にふさわしい気持ちよさだった。それにしても不思議だったのは、浴槽に温度調整用の蛇口が見当たらなかったこと。どうやら、目に見えない場所でしっかり温度管理されたお湯が、常に一定の温度で注がれているらしい。そんな見えないところにまで心配りがされていることに、静かに感動した。 -
そしていよいよ、今回の旅館めぐりの最後となる夕食の時間がやってきた。毎晩、夕食のたびにお腹がはちきれそうになるほど食べてきたせいか、そろそろ胃のほうも少しずつ鍛えられてきたのでは…などと思いながら席に着く。
この日の宿「平の高房」の夕食も、見た目には一品一品の量は控えめなのだが、とにかく品数が多い。次から次へとお皿が並べられ、嬉しい悲鳴をあげたくなるような豪華さだった。なかでも今夜は特別感があり、囲炉裏でじっくり焼かれたアユ、豆乳鍋に入ったやわらかな豚肉、そして地元特産の和牛など、メインディッシュになりそうなものがいくつも登場。これでもか、これでもかと、立て続けにご馳走が攻めてくるような勢いだった。 -
それでも不思議なもので、気づけばどれも美味しくいただいていて、結局は残さず完食。満腹感とともに「美味しかった…」という満足感に包まれながら、旅の締めくくりにふさわしい夕食となった。
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【四日目】
いよいよ旅の最終日の朝。朝方まで雨が降り続き、久しぶりに外出せず布団の中でゆったり過ごした。とはいえ、朝風呂は欠かせない。「平の高房」の温泉はとろみのある湯が心地よく、体の力がふっと抜けていくような癒しのひとときだった。そのあとは名残惜しさを感じながら朝食へ。優しい味わいの料理が並び、ついごはんをおかわり。温泉宿の朝を締めくくる、穏やかで満ち足りた時間となった。 -
朝食のあとは、ロビーでコーヒーのサービスがあり、一息つくことに。その頃には雨もすっかり上がり、明るくなった外の景色を眺めながら、ゆったりとしたひとときを楽しむことができた。
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その後は、チェックアウトぎりぎりまで温泉に浸かり、贅沢で幸せな時間を満喫。満足感で心が満たされた。さすがにこの時間帯になると男湯は貸し切り状態で、静かな湯の中でゆっくりと旅の余韻にひたることができた。
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いよいよチェックアウトの時間。ここ栃木県を後にして、次の目的地・福島県の喜多方へと出発する。
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平の高房を出発したときには晴れていたのだが、道中の山道に入ると突然の土砂降りと濃い霧に見舞われ、一時はどうなることかとハラハラした。けれども、目的地の喜多方ラーメン「赤レンガ」に着く頃には雨もすっかり上がり、結果的には天候にも恵まれた旅だったように思う。喜多方ラーメンの老麺会には多くの加盟店があり、どこに行くべきか正直迷ったが、中心部から少し離れた場所にある「赤レンガ」は、広い駐車場を備えていて、車で移動する私たちにはぴったりの店。そうした利便性もあって、今回はこの店を選ぶことにした。
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喜多方にはラーメン店がひしめき合っているが、その分どの店も一定以上のレベルの味を提供してくれるという安心感がある。今回の選択も、間違いではなかったと感じている。
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ラーメンでしっかりお腹を満たしたあとは、今回いくつか巡ってきた酒蔵めぐりの締めくくりとして、父ご用達の「会津ほまれ」へ向かった。昔からこの酒を愛飲していたという父の話を思い出しながら、どんな場所なのだろうと期待を膨らませての訪問だ。
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の酒蔵は、ただ酒を売っているだけではない。風格のある立派な母屋や、手入れの行き届いた美しい庭園が開放されていて、訪れるだけでも十分楽しめる。まるで歴史ある和の文化にふれるひとつの観光地のようだ。さらに、タイミングが合えば実際の酒造りの現場まで見学できるというから驚きである。
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そんな趣のある空間で、試飲をしながらゆったりと過ごしていると、自然と気分も上がってくる。最初は「見るだけ」と思っていたのに、気づけば試飲コーナーで「これは香りがいい」「こっちは飲みやすい」と言いながら、買う予定のなかったお酒にもどんどん手が伸びていく。心がほぐれ、財布のひももゆるむ――そんな魔法のような空間が、そこにはあった。
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会津ほまれで満足いくまで酒を買い込んだあとは、今回の旅の最後の寄り道、「中田観音」へ向かった。この観音堂には「抱きつき柱」と呼ばれる柱があり、それに抱きついて「丈夫で長く働けますように」と願い、いざというときには「長患いせず、三日、五日、一週間、長くても十日で旅立てますように」と念じると、その思いが叶うと言い伝えられている。つまり、いわゆる“ピンピンコロリ”の祈願所だ。
年を重ねるごとに、この願いこそが一番切実で現実的なものになっていくのだなと、しみじみ感じながら柱を抱きしめた。 -
さてさて、これにて3泊4日の東北旅行も無事に終了〜!
振り返ってみると、あっという間だったけど、中身はぎっしり。どの瞬間も濃くて、心に残ることばかりだった。
とにかく、大きなトラブルもなく、みんな元気に旅を楽しめたのが何より。
こうして元気なうちに、またひとつ、思い出が増えたことに感謝したい気持ちでいっぱいです。
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