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90年代モスクワ行列事情 そしてパンを求めて並ぶ

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1991/01/01 - 1991/01/01

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JIC旅行センター

JIC旅行センターさん

 とにかく、思い出して昔と違うのは今のロシアにはすでに行列はないという事実だ。思えば私が留学すると言い出した1991年当時

「食料品屋では行列しているそうだ。食べるものがないんじゃないか」

と周りの人間に心配された。果たしてロシアに実際行ってみると行列はあった。そして現地での授業で

「Кто последний?」

“誰が最後ですか”

という言葉を生活必須用語として習った。行列に並ぶとき誰ともなしにそう言って声をかけると

「私だ」

と誰かが答える。その後ろに並ぶ、誰かがやってきて同じ事を聞く、

「私だ」

と答える。よく並んだのはパン屋。今のようにそこらへんのスーパーでささっと買って済ますというものでなく、とにかく並ぶ、待つ、待つ、自分の順が来る、買う。という具合で、ゆうに2時間はかかる(行列に並んだ時間を全部加算すると、留学で滞在した10か月のうち、一体どれくらいになるのだろうか、考えると不安になった)。ロシアの店には昼休みがあって、 13:30 か 14:00 にならないと午後は開かないので、とにかくその30分前には店の前に並ぶ。時には並ぶ、待つ、待つ、時間になっても店は開かない、もうちょっと待ってみる、でも店は開かない、しょうがなしに手ぶらで帰る、という日もあった。

 ある日、いつものようにパン屋の前で並んでいると、12月の寒い日のことで吹雪き始めて、どんどん足先から冷えてきた。近くにいたおばさんが、

「あんたどこから来たの?」
「日本からです」
「何しにここに来たの?」
「ロシア語を勉強しに」

私とおばさんの会話を聞いた、他のおばさんたちが口々に会話に入り込んできて、彼女らが言うには、なぜこんなモノのない時代にこの国にわざわざ来たのか、ロシア語なんて日本でもできるだろうに、という要旨だったが、日本にはパンはちゃんと売っているのか、と聞くおばさんもいた。足先の冷たさとともに情けない気分になった。そんなことをしているうちに店が開いて少しずつ行列が店の中に吸い込まれていく。ところが白いエプロンをつけた店のおばさんがでてきて

「今日はパンは終わりました。店を閉めます」。

結局吹雪きの中並んだ時間は、1時間であったか2時間であったか、すでに10年前のことで記憶はない、ただあの時の足先の冷え冷えした感じと、さらに情けない気持ちになったことだけははっきりと覚えている。

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