2017年の雪山風景 - 絶景の北アルプス唐松岳

2017/03/17 - 2017/03/18

一般登山者が登ることのできる日本の雪山で、絶景度第1位は恐らく唐松岳。登山をやらない人は知らない山だと思いますが、北アルプスの白馬岳のやや南に位置し、山頂からは白馬岳方面だけでなく立山や剣岳、五竜岳、そして黒部の多くの山々から果ては槍・穂高連峰まで多くの名山の白き峰々を見渡すことのできる山です。その絶景は、きっと多くの人の想像を超えたものでしょう。

注意: 雪山登山は危険を伴います。十分な経験、体力があっても、状況により遭難する可能性があります。この旅行記を参考に雪山行をされる場合は、十分な準備をした上で自己責任でお願いします。

エリア 八方尾根・岩岳(長野)

• 交通手段: 高速・路線バス 徒歩

最初に絶景度を少しお見せすることにしました。これは山頂からの風景ではなく登山途中の眺めですが、ちょうど朝日が当たってピンク色に染まった白馬三山です。

これは八方尾根を登り終えて稜線に出たところから見た立山と剣岳。いずれにしてもとてつもない強風にあおられているので、写真に写らない苦労がありますが。

さて、旅行記です。雪山シーズンに行きたいとずっと思いながらもタイミングが合わずにいた唐松岳。通年営業の八方池山荘に泊まれば、公共交通機関利用の人でもご来光を見ながら雪に覆われた北アルプスの絶景が楽しめます。
いつものように予想天気図や高層天気図を天気予報と併用し、晴れ＆強風を確信した3月の17日の金曜宿泊、18日の土曜に山頂アタックという予定で臨みました。
バスタ新宿を朝一番の7：35に出発する高速バスで白馬八方に向かいます。新宿と白馬八方の往復は8,520円。意外だったのは、信濃大町あたりまではほとんど雪がなかったこと。今年はだいぶ雪が降った印象がありますが、それは北関東などの話ですね。長野県中部というか、北アルプスの南部にあたる常念山脈あたりは結構雪が少なかったようです。

それはともかく、この日は八方池山荘に泊まるだけの予定なので、八方に着いたらバスを降りて昼食取って白馬の町を横切ってゴンドラ・リフトに向かいます。白馬八方では町にも雪がありましたが、時期的に結構暖かくなってきていてどんどん溶けていました。
山荘まではゴンドラとリフト2つを乗り継いで行きます。往復で2,900円。ゲレンデの横を登山してもいいのですが、無駄な苦労をする気もないしスキーヤーの邪魔になるのも嫌なので素直にゴンドラを利用。標高1,930メートルの山荘まで楽に上がります。
白馬八方尾根スキー場はさすがにちゃんと雪がありました。平日なので空いていましたが。

振り返ると、新潟県の頚城山塊の山々が見えます。山頂にちょっと雲がかかっているプリン型の山が妙高山でしょうか。高山植物の宝庫で湿原もある地帯なので、今年の初夏にテント泊で行ってみたいと思っている所です。

無事に八方池山荘に到着です。チェックインしてモンベルカードを提示。通常は1泊2食付きで9,800円ですが、カードの割引で500円引きになります。なお、翌朝は夜明け前に出発しようと思っていたので、朝食はお弁当に切り替えてもらいました。夜のうちに受け取ることができるため、出発前に腹ごしらえすることが可能です。
この日は無理せず、八方池まで1時間程度のハイキングをしました。が、ガスがかかっていて白馬三山は見えず。適当に体慣らしをして雪の感触を確かめるだけに終わりました。

八方池山荘 宿・ホテル

山荘に戻ると、同室になった30代の男性がいらしたのでいろいろ情報交換しました。冬のテント泊とか夏の沢登りの話とかを聞くことができて興味深かったです。
そして夕食。八方池山荘の夕食はバイキング形式なので、食欲に合わせて結構食べられます。

しかし、夜は掟破りの大吹雪＆猛烈な風。山荘が揺れているかと思うほど。今回の山行前には高層天気図を相当丹念に読んで晴れを確信していたのですが、流石に不安になる。さらに、同部屋の方が教えてくれた上空の雲の様子を予想できるサイトによると、翌朝は6時くらいには結構雲が出ているとの予報。ここまで来たらジタバタしても始まらないですけどね。幸い、吹雪は未明には止みました。

翌朝は5時に出発です。4時半に出発された方も数名いました。いざ出発してみると雲はあまり出ていませんが、予想通り風がもの凄い。体感的に優に風速15メートルを越え、時には20メートル台だったと思います。積雪期の北アルプスは初めてなので、これまでの経験がなければビビッていたと思います。しかし、八ヶ岳でも谷川岳でもこの程度の風は経験済み。心を強く持って行きます。
徐々に明るくなってきて、八方池の手前から白馬三山を見ると一部に雲がかかっているもののだんだんと晴れていく感じ。

自分の天気図分析が勝利したと確信し、歩みを進めます。唐松岳登山は、八方尾根と呼ばれる大きな尾根の直登一本道です。積雪期は登山道もほとんどの木々も雪の下に隠れてしまうので、道を行くよりも雪の上に道を作るイメージです。
下の樺と言われる樹林帯のあたりで日の出となりました。

すると、ピンクに染まる白馬三山。夏に来た時はガスに隠れていましたが、ついに、しかも最高の舞台で絶景を見せてくれました。

手前から白馬鑓ヶ岳、杓子岳、白馬岳。機会が無く、私はまだこれらの山々には登頂していません。高山植物の綺麗な時期に行きたいと思っています。

拡大。こっちに積雪期に登るのは私の技量では不可能。

左に目を転じると五竜岳。相変わらずゴツくて男性的な山容。

白馬岳、五竜岳ともに日本百名山の一角です。今回登る唐松岳は300名山指定を受けています。

五竜岳の山頂付近拡大。ザ・アルペン。

五竜岳の奥にある後立山連峰の盟主、鹿島槍ヶ岳はこの時点では雲に隠れていました。

ここで4：30に出発した3名の登山者に追いつきましたが、男性2名のパーティは強風に加え体調もよくないということで撤退をされる模様。女性ソロの方が一緒に行こうというので、ここからは二人で登りました。この方、結構頻繁に山に来られているようで、かなりの健脚だし冬の唐松岳も経験ありということで、ルートのアドバイスをいただきながら登りました。写真はその女性登山者です。

前夜が吹雪だったのでトレースは消えてルートがわかりにくいところがあり、膝上、深いところは腿までラッセルの急斜面の難所もありました。この20～30分くらいの難所は結構やっかいで、一気に体力を使って筋肉疲労が出ました。まあこれも雪山の醍醐味です。
上の樺と言われるところを過ぎ、難所も切り抜けると風が通り抜けるコルに出ました。相変わらずの強風に煽られますが、白馬三山方面が美しい。雲は完全に取れました。

白馬から唐松に至る切れ落ちた難所のルート、不帰ノ嶮。ここを冬に行く人はいるのだろうか。

さらに少しのぼると、丸山というケルンのある場所に出ます。

ここまで来ると目指す唐松岳山頂も視界に入ります。一番左の山です。

五竜と、相変わらず雲に隠れた鹿島槍。

さらにこの道を登る。左に五竜岳。正面に唐松岳の稜線に至る丘。

右の谷にはシュカブラが形成されていました。

そして、ついに八方尾根を登り切って稜線に出ました。すると、唐松岳だけでなく、黒部川の向こうの立山連峰の山々も目に飛び込んできます。まさに勝利の瞬間。正面には目指す唐松岳。

唐松岳 自然・景勝地

立山と剣岳。

稜線から見た五竜岳。
一緒に登っていた女性は、あまりの風の強さとトレースがない状態が不安だったのか、山頂は諦めようと提案されました。しかし、私は強気。あと20分程度の道ですから、切り開く覚悟はできていました。

結局、女性も決断して2人で登頂を目指します。右側は雪庇ができているので避けるのですが、左側も雪が安定しない。風が強いので石や岩が露出している所も多く、アイゼンをひっかけて転ばないように気をつけながらルートを探します。山頂直下は前夜の吹雪で積もった柔らかい雪がアイスバーンの上に乗っていて不安定で、さらにかなりの急斜面でトラバースしながら高度を上げるのも困難。アイスバーンに届くようにピッケルを刺し、アイゼンを蹴り込みながら直登で進みました。

そんな中、ちょっと気を抜いてアイゼンの蹴り込みが弱かったら何と2メートルほど滑落。滑落のスピードがゆっくりだったので、焦らずに体を雪面にくっつけて体重を分散しながらピッケルとアイゼンで体を止めて登りなおします。
そして、山頂手前で両足だけで体を支えられるくらいの足場が作れるようになったらピッケルを抜いて立ち上がり、ついに登頂です。結果的にちょうど8時の登頂で、3時間というかなり速いペースでした。強風で必死だったので、逆にバリバリ登ることができたのかも。
ここからは山頂からの大絶景。まずは振り返ると、太陽の下に登ってきた道が。

北には不帰ノ嶮の向こうに白馬の山々。

黒部川の向こうの毛勝山など。その奥には日本海。

視点を少しずらすと剣岳、立山など立山連峰の山々。

さらに南には五竜岳の奥に針ノ木岳、そして水晶岳など黒部の山々。

Google photoのサービスでパノラマ化された写真です。このような絶景が360度広がっています。

取りあえず五竜岳をバックに自撮りをしておく。

山頂標識と私のピッケル。背景は立山、剣岳。

ここからは、山頂から見える名山のポートレイトです。まずは黒部湖の向こうに、岩と氷の殿堂、剣岳。

山頂部分拡大。ギザギザ。

その奥に連なる3,000メートル峰、立山。

山頂部分拡大。剣岳よりは女性的かも。

立山連峰の南部、黒部の名峰、薬師岳。カールが大きくてゆったりした山容は女性的だと思います。

後立山連峰の稜線越しに見える槍ヶ岳。稜線右端のちょっと突き出ているのが針ノ木岳。

槍ヶ岳拡大。

そして五竜岳。

山頂部分を再び。

不帰ノ嶮越しに白馬岳方面。

同じく白馬岳方面。

最後にピッケルと山頂標識のパノラマ写真。

十分に堪能して下山します。まだ他の登山者は現れず、我々2人だけでこの絶景を占有できました。まずは風を避けて行動食とお茶を取るために唐松岳頂上山荘に向かいました。

休憩をしつつ、剣岳や五竜岳、もちろん唐松岳の稜線からこの日最後の写真を撮りましたが、山頂からのものと似たようなショットなのでここでは省略。
さて、下山ですが、下山開始して30分くらいすると急に風が止んで気温が上がりました。

そんな中、シュカブラや不思議な雪の造形を見ながら下りていきます。

スノーシューかワカンで踏み固められたところが残って、あとは風で雪が飛ばされたんでしょうかね。とても不思議です。

下山中に見ると、ついに鹿島槍ヶ岳も姿を見せてくれました。

鹿島槍ヶ岳拡大。双耳峰で格好いい。

八方池の辺りまで戻ってきて、もう一度白馬三山方面を展望。

ゴンドラが動き始めるとバックカントリーの人や登山者が大量に登り始め、早朝に私たちがつけたトレースをたどって無風の中唐松岳に登って行きました。混雑前に凛とした空気の中で景色を楽しむことができ、前夜泊した甲斐がありました。10時過ぎには八方池山荘に戻り、アイゼンなどの装備を外してゴンドラで下山です。白馬の里から見た白馬三山。

まずは麓の温泉でさっぱりします。いつもの八方の湯。そして、昼食を取ってビールを飲み、お土産を買って帰ります。早朝登山の戦闘モードから解放され、すっかりバケーションモード。

八方の湯 温泉

昼食とビールは、八方の湯の斜向かいにあるLion Cafeでハンバーガー。ラーメンやトンカツではなく、バーガーが食べたい気分だったので。この後、この時期恒例のお土産である信州ナチュラルビールと信州のウイスキーを買って、3時の高速バスで帰りました。
積雪期の唐松岳、一般ヤマノボラーが経験できる最高の雪山風景ではないでしょうか。何だかんだ言っても北アルプスなので、風も含めて楽ではないし危険もあります。全ての人にお勧めはできません。しかし、他の雪山で経験を積んで技術を磨き、クラックを回避したり耐風姿勢をマスターしたりアイゼン・ピッケルワークを普通にこなせるようになれば、挑戦する価値はあるでしょう。

この旅行記へのコメント （3）

• ラムロールちゃんさん 2017/04/05 08:29:43

  絶景！！

  icyfireさん、おはようございます
  
  すごい！
  読み物として楽しめてしまいました！
  最近、沢木耕太郎さんの「凍」を読んだんですが、
  そういう山岳読み物の落ち着いて読めるバージョンという感じで。
  
  あ、でも、大吹雪とか滑落とかはドキドキしました(*_*;
  太腿までのラッセルが醍醐味と言える方しか登ってはいけない場所ですね…。
  
  あれ、シュカブラっていうんですか。
  色が違ったら、砂漠みたい。
  なんか奇妙な光景も、面白いです。
  
  …私はいよいよ、ネパール行ってきます。
  山は、ミニミニトレッキング（いや、ハイキングか）だけですけどね〜v(^o^)
  
  ラムロール
  

  icyfireさん からの返信 2017/04/05 12:50:12

  RE: 絶景！！

  ラムロールさん、早速の投票とコメントありがとうございます。
  私は、この冬は結局海外旅行せずに雪山にばかり行っていました。ラムロールさんはネパールということで、インド以上に濃い怪しさが満載の旅行記を期待しております。ガンガー沐浴を超える体験ができるといいですね(←いいことなのか？)。
  
  「凍」は私も読みましたよ。レベルが全然違いますが。そう言えば、山野井さんご夫妻は東京都西部の奥多摩にお住まいで、この2月に山登りした時に偶然お家を発見しました。残念ながら、ご本人にもばったりというストーリーにはならなかったですけど。
  
  山岳関係の本も結構お読みになるようなので、実際に山旅に挑戦したくなったらお声をかけてください。友人のTちゃんという強いサポートが既にいらっしゃるので必要ないかもしれませんが。
  ではでは。
  
  icyfire
  

  ラムロールちゃんさん からの返信 2017/04/05 12:59:38

  RE: RE: 絶景！！

  > そう言えば、山野井さんご夫妻は東京都西部の奥多摩にお住まいで、この2月に山登りした時に偶然お家を発見しました。
  
  えっ、すごい！！
  ばったりならもっと良かったですね〜
  
  > 実際に山旅に挑戦したくなったらお声をかけてください。
  
  わあ、ありがとうございます☆
  実際に山旅に…
  
  残念ながら、そんなことは200％ありませんが(-_-;)
  ある日突然変異が起こって、私の体力と気力が1000倍(←100倍では無理です）にならない限りは…
  本当に、雪山を楽しめる方って、もう、それだけで尊敬してしまうワタクシであります<(_ _)>
  
  ラムロール